色々あった日野さんの演奏が終わった
その間俺の横には がいて
日野さんの演奏中ずっと片手をあごに当て考え込んでいた

一体何事だと思えば

「ふぅん、演奏者がいないと駄目なんだ」


「・・・・・・もしかして」


「誰も言わなかったしなぁ。駄目なんて」


悪気もなく彼女は言う
横顔からは焦りの色さえ見えず
ちょっとしたミスをしましたレベルにしか捕らえていないように見える
いや、彼女のことだ本当にそう思っているのだろう
常識を逸脱した彼女の行動に慣れてはいるものの
まさかコンクールまでも・・・・・・だめだ怒る気力がない


「・・・・・・俺は言ったぞ」


「月森言ったっけ?」


きょっとんとした顔を俺に向けるな
どうしてコイツはこうなんだ




第一セクション 

   欠場 






あの日ようやく先輩の音が聞けると思った
けど先輩は舞台に立つことはなかった


やっぱり先輩は歌いたくない理由でもあるんだろうか
そんなことを思いながら見慣れた三つ編みを見つけた


先輩」


「羊君、久しぶり」


先輩はなぜだか手に一杯のクローバーを持っていた

「コンクールのときにあいました」


「そういえば、羊君知ってた?公園にロールクレープの新作で綿菓子入り抹茶金時が発売したらしい」


たわいもない話を一歩的に進めていくと先輩は急に僕のほうを向いて

「君はわたがしにも似ているね」


「そうですか?僕は先輩のほうが綿菓子っぽいと思ってます」


「私が?そりゃいい」

そういって先輩は自分の腕に噛み付いた。


「・・・何を」


「嘘つき。まったく味がしない」


こうして先輩のペースになる。
先輩はぶつぶつとどうすれば人間を非常食にできるか途方もなく大きな夢を喋っている


「ねぇ羊君 何を思ったの?」


「え」


「羊君の音はう〜んとこうぼふぁぁって感じに・・・うん、言葉にするには難しい・・・音?」

そこから先輩は黙り込んで空を眺めていた
夕方の空は先輩を綺麗に色づかせて綺麗だと思った。
そして先輩はやっぱり綿菓子だ。

舐めたら 消える
甘い味を残して 
胸一杯の異物感を残して

それはなんだかとてもとても?
なんだか分からないけど僕は先輩を空から離したくなった


「僕は先輩の音を聞きたかったです」


「あ〜私も歌えると思ったんだけど人生色々なことがあるよね」


へらりとお決まりの笑顔で笑う。
その顔からはさっきみたいなものはまったくなくてほっとした。


でも先輩はなぜだか焦り始めて
徐々に顔が変化していく・・・面白い
ずっと見ていても飽きない
もっと見ていようと思ったけど

「おっと月森が来る頃だ。じゃぁね羊君」


・・・・・・僕は思う
月森先輩は邪魔だと。






2008.6.1