桜咲きゆくなかで俺は出会った。出会ってしまった。学生生活での最大の壁に。
そう、彼女こと に。
「あ〜月森ィ。よっす」
「よっすじゃない君は。いつもいつも、いろといった場所に居ないんだ!!」
初めての授業のときたまたま偶然、隣の席に座ったのが彼女だった。
何の因果かそれ以来、何かあるたびに俺に話が来る。
今でもあの始まりに帰ってやり直したいと願うほど彼女は酷い。
授業は平気に遅れてくるは、集まれといったのにどこかへいなくなるは、音楽科も大概個性が強い集まりだが
彼女ほどの人物は見たことがない。
放っておけばおくだけどこかへ行ってしまう。
ここ二年の付き合いで分かったことは、どうやら意図してとやっていないらしい。
もの凄い厄介な事実だ。怒りたくとも怒れないとはこのことだ。
音楽への思いはむしろ熱いほうだろう。
こんな話がある。ある日珍しく教室にいる彼女に訳を聞けば、どうやら一日たつのを忘れて練習室にいたらしい。
その後、授業中にぶっ倒れた。・・・・・・それ以来俺は帰りを共にすることになる。
学園の校門までだが、それのせいでますます俺はこいつの世話係になっていった。
なぜ俺がこんなにも他人を面倒見なくてはいけない。
「さぁ?私に聞いても分からないよ。気休めに腐れ縁ってやつかな」
「・・・お前に答えを求めた俺が馬鹿だった」
少しの沈黙が流れた。気まずさなんてものはない。こいつがどこぞにいかないように歩調をそろえた歩き方も
もう慣れたものだ。
「私はね。月森ィ」
どこを見ているか分からない目で急に話をふる。これもこいつ独自な話かただろう。
「きっと月森がとんでもなくお人よしなんだと思うんだ」
へらりと本心から笑っているのか分からないいつもどおりの笑顔で答えた。
どうしようもない人物が答えたありえない答え。なんとなくそれでいいような気がした。
というかこいつに関してはもうどうしようもないとさじを投げているだけだ。
それにしても
「よく君は、学内コンクールにでることになったな」
「う〜んそれだよ。月森ィ。なぜ出ることになったのか。いっこうに理解できないんだよ」
彼女が頭を振るたび長い三つ編みが揺れた。
「君は」
「そうだよ。月森ィ」
「「誰にも歌を聞かせたことなんてないのに」」
「で君はコンクールをどう思うんだ」
「嫌だよなぁ、大勢の前で歌うなんて、けどまいいかぁ〜」
本当にいいのか。声を出す前に君は答えた。
「ただ機会がなかっただけだよ」
心配性だよね。とへらりと笑った。
心配ならしている、けど決して君へではない。
このコンクールに対してだ。と言ったらこいつは、俺から離れるだろうか?
いいや、コイツのことだ。やっぱりいつもの笑顔で流してしまうんだろう。
二人の間にゆったりとした沈黙が流れる。
それをとぎらせたのは、音。
音 音音音 音音 音 音音 音 音音音音
雑な演奏、けれどなぜか惹かれる。
「粗いけど嫌いじゃないなぁ」
いつの間にか歩みを止めていた。
「・・・・・・」
「誰が弾いてるか分かる?月森ィ」
この音はきっと。
「日野さんだ」
「ふ〜んこれは強敵現れるってね」
その前に君は彼女に会ったことがあるだろうとか、出演者ぐらい覚えろとか
もしかして第一の課題も演奏日も忘れているのかとか。
案の定。彼女は全てを忘れ・・・知らなかった。
強敵は日野さんよりもある意味でお前だ。
2008.4.4