3泊4日の合宿、1日目から疲れた。
疲れをとるべく、部屋に戻れば、月森がいて、
生理的嫌悪感を感じたが、私情を挟むわけにもいかず、耐えた。
が、朝・限界を超えた。無理だ。
だれか部屋、交換してくれと洗面所に行きながら思えば。

「いいだろう。壁交換してやろうか?」

「・・・・・・」

フフンと、いつもの三つ編みが、ぐしゃぐしゃな状態で柱によりかかり、
立っているがいた。

「言っとくが私の部屋は一人部屋だ」

「どうしてそういう部屋割りになったか、いささか疑問だ。
それと、こい。それ直してやる」

のぐしゃぐしゃになった三つ編みを解くと、
いつも長いと思っていた髪は、もっと長い髪で、
細かいウェーブの癖がついた髪を、手ぐしで整える。
背中をみせるは俺よりもかなり身長が低く、つむじが見えた。

「ふむ。どうしてそうなったかは、分かるのだけれど、
月森が、私の部屋に、いてもいなくても変わらないだろうという結果に至った」

どういう結果だろうか?心底不思議だけれど、これが だ。
理解出来ないことを聞いてもしょうがないと、一般的なことを口にする。

「おいおい、男女一緒とか無理だろうが」

「じゃぁ、壁と私でいいか」

「まて、俺のカテコライズはなんだ?」

「壁」

カテコライズ。壁。
人や動物、風雨、光・音・熱などの外部からの侵入を防ぐ物質。
たしかに、それなら大丈夫だ。と思いかけたが、俺は人で、雄だ。
さっき、月森、男に見られてねぇの。ざまぁ!とか思ったけれど、
俺は人類にもなってない。三つ編みを四つ編みにしてやろうかと
思ったけれど、それがどういう仕返しなのかよく分からないし、
なにより面倒なのでやめた。

「と、いうわけで、どちらかと私が交換することでどうだ?」

「どうだ?じゃねーよ。考えてもおかしいだろうが」

おかしい。色々と最初からおかしい。
髪をそのまま離すと、綺麗な三つ編みが出来ていた。
満足気に頷くと、は、背中から正面に変わって。

「おかしくない!!え、なんか横から聞こえてこない?
とかそんなわけない」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

沈黙の中、は俺に合わせた目を逸らした。

「正直、怖かった」

の部屋では、どうやら怪奇現象が起こっているらしい。
それを、どうにかするためにということらしく、
色々と麻痺した俺は、でもそんなもの怖がるんだなぁとホワホワした気持ちで、
チャンジOK?になんでか頷いてしまっていた。


その後、は食堂で、俺の横の席に座ると、
まじまじと朝食のパンを見つめている。

先輩。さっき部屋変わってもらうとか聞きましたけど」

志水の声に、はパッと顔をあげる。

「うん。月森と私をチェンジで」

「・・・・・・それって」

「大丈夫大丈夫。彼は壁だよ?」

うん。俺も大丈夫じゃない気はするけど、もういい。
なんか色々諦めた。さっきした内容を、なぜ志水が知ってるとかもどうでもいい。
ブラックコーヒーを口に含んでいると、ガタンと誰かが椅子から立った。

「大丈夫なわけあるか。なんでこの男と一緒の部屋になるんだ」

「月森ぃ。朝から元気だね。私は鼓膜が破れそうだ」

「この男とはなんだ」

ムッとして俺が返すと、いつもの冷静な面じゃない月森が、吠えた。

「この男だ。この狼が、、食べられる気か!!」

食べねぇよ。正直、食べたくない。

「食べるって、美味しくないからやめときな。私の主成分は、主に
すっぱムーチョで出来ているぅぅぅ」

と、横からパンではなくお菓子を出したに、

「「おい、偏食はヤメろっていっただろう」」

月森と声がかぶった。
激しく嫌だ。相手も嫌そうな顔をしているが、
ちゃっかりと菓子を没収するあたりがオカンなのだろう。
そんな俺達に、火原先輩が朝から元気に変な発言をする。

「月森と土浦は、仲良しだね」

「ほんとにね。それよりも、本当にチェンジする気?」

柚木先輩の困惑した表情に、お菓子を諦めて、
オレンジジュースを飲み終わったはことなげに、言った。

「マジ」

「・・・へー」

一瞬柚木先輩の笑顔が黒かったのは俺の勘違いだろうか?
凄い柚木先輩に、凝視されているが、は気にせず、
置いてあったリンゴを取ろうとしていた。
しかし、なかなか届かず、志水が横からリンゴを渡した。
そして、何も考えていなそうな表情で。

「だったら、僕もいきます」

「ん?」

「僕は、先輩と一緒がいいです」

「おーよし、三人で枕投げをしてみるかぃ?」

「はい、楽しみですね」

・・・・・・今、熱い告白みたいなのがあった気がする。
と志水以外のみなは、シーンとしているが、
当事者の二人は何もなかったのように話を進めている。
金澤先生は、呆けた顔をしていたが、
はっと気づいて、

「まてまて、いかんだろうが、一般的に」

ようやく教師らしいことを言った。

「そうだよ。ちゃんは、女の子なんだよ」

日野も、加わりどうやら変わることは無理になりそうだ。
と安心したような、どこか惜しい気がしたような気分でいれば、
は、不思議そうな顔をして。

「女の子だとなにがいけないんだぃ?
時々、市松くんが泊まりに来るけれど、彼も枕投げは好きだから」

「待て、今のどういうことだ。一から説明しろ」

月森が、の言葉を切って、の肩を掴んだ。

「なんか途中で、鼻血出して寝るというのが正しいけど」

「待て、話がもっと複雑になった。何やってんだ。お前。というか北村ぁ!」

あの冷静な月森が、凄い形相で吠えている。
学校では稀なんだろうが、のそばにいれば、
そんな稀でもない姿の彼に、同意しながら、
日野が、な、なにかされなかった?などと、火に油を注ぐことをきいている。
と北村の関係性をみて、ほぼ男女関係はなしに近いだろうが、
なんだか面白くない。
・・・・・・本当になんだ、昨日からと思って、
昨日関係で志水を見てしまったのが間違えだった。

「・・・・・・あのやろう。帰ったら覚えてろ」

「・・・・・・し、志水?」

「なんですか?」

なんだか、凄い台詞と形相を見た気がしたけれど、すぐにいつもの志水だったので、
俺は、見間違いだと思うことにした。
うん、俺の今後のためにそれが一番好ましい。
その後、最終的に、柚木先輩が、俺と変わってくれた。
の事情を話して、も部屋を変わってもらったのだけれど、
変な声が、聞こえるらしい。の荷物をみてみれば、
ある時間になると作動して北村の声が出るようになっていた時計が入っていたので、
捨てたら、ようやく変な怪奇現象はなくなったらしい。









2010・6・30