皆が食事をし始めていたのに、目の前に置かれた皿をはじっと見ているだけ。
もしかして取り方を知らないんじゃないかと思えば、横から月森がの皿に入れていた。
はそのことになんの文句も言わないし、月森も当然として行っているからして
それが日常的なものだと知る。どうもこいつらは常識を逸脱している気がしてならない。
二人の行為は、母親と子供、ちょっと間違えれば彼氏と彼女にも見える。
みんなの視線をかっさらっていることすら気付かない羨ましいほどマイペースな二人に言葉はなかったが、
それまで月森に盛られたものをもくもくと食べていたがもくもくと盛っていく月森に口を開いた。
「月森、お前は私を草食動物にしたいのかぃ?」
その意見には賛成だ。の皿には見事に野菜しかのっていない。
皿を見た月森は、手を止めいった。
「いつも、いつも肉やら菓子しか食べないのだから、今のうちに取っておけ」
「月森くん。そんな、冬眠するクマじゃないんだから、あれ、リスだっけ?
えーと、でも人は、食いだめなんて出来ないから!!」
「そうだよ。月森君。サラダを全部のせるんなら、もうまるごと持っていってしまったらどうかな?
(君本当に馬鹿だよね。人の分って言葉知ってるのかな?)」
「先輩。これ美味しいですよ。どうぞ」
「はははっ、ちゃんと月森は仲がいいね。ねっ、金やん」
「・・・・・・いや、火原、の顔を見てみなよ。すっごく嫌そうな顔してない?してないか?
なーらいいや。丸ごとオッケー!!」
「み、みなさん、その、野菜ばっかりでも、体に悪いんですし、同じお味じゃ飽きちゃいますよ?あの、その聞いてください」
そうだな。このカオスと化した食卓で唯一まともなのは冬海だけだな。
未だやむことのない、月森の野菜論争やら、なにか間違えている日野や、爽やかに毒吐く柚木先輩に、
ここぞとばかりに、自分が食べたものと同じものをいれていく志水、
もう目がおかしいとしか言いようがない火原先輩に、まとめるはずの金澤先生なんて酒飲んでないか?
俺の中でやはり音楽科とはあいふれないと再認識していると、皿の中に入れていたからあげがなくなっていた。
「うーん、やっぱ鶏肉サイコー」
いつの間にか、問題の中心ともいえる人物が俺の横にいて俺の皿からからあげを食べていた。
いきなりのことで唖然としていれば、と目が合い、身長差ゆえに上目づかいになる。
もぐもぐと頬を動かしている姿も、大きな瞳もすべて今自分にしか向けられていない。
やばい。
「先輩、あーん」
横から来たフォークにはそのまま喰らいついた。
普通なら羞恥心が芽生えるその行動は、色気のいの字もなくて、変わりにくの字はあった。
好物なのであろうからあげを口にしてもぐもぐしている。咀嚼途中に、月森がようやく冷静になり、
「、食事中に出歩くな。ほら、お前の好物をとったぞ」
「おー」
視線が外され、元の位置へと移動していく。助かった。そう一息つくと、
ふわふわした髪が俺の視界に入る。
「・・・・・・駄目ですよ」
「ハッ?」
言われた言葉の意味を聞き返そうと志水の方を見れば、いつものんびりしている志水ではなく、
まったく別人の顔をしたそいつがいた。
「な」
「羊君。出歩いたら駄目だって、月森が言ってるよ」
「はい。いきます」
に声をかけられた瞬間いつもの志水の顔に戻って、それからのんびりと食事を再開する姿に、
あの顔は見間違いだと、
そう、思いたかった。
そして、俺は志水の変貌に驚いて志水の言葉を忘れて意味さえ考えなかった。
何が駄目なのか。そして、あの時何に助かったと思ったのか。
2009・8・30