「というわけだ。・・・きっとお前は来ないだろうから、迎えにいく」

「いいえ、大丈夫です。月森先輩」

その言葉を遮ったのは、北村で、月森に怖いくらいの笑顔で迫ってきた。
月森の眉間の皺が増えた。

「僕が、先輩を駅まで連れて行きます」

二人の間には花火が散り、ぐちぐちと言い続けている間、
は他人事のようにプリンをほおばっていた。
ほんのりとした甘みは、既製品ではなく手作りであることを表していて、
こんな愛おしいものが、ごつい男の手からできることをいまさらながら、驚いていた。
いいや、彼はとても器用にピアノを弾く。
白と黒の鍵盤と、長く綺麗な指が別の生き物のように動くさまを思い浮かべて
は、口の中からスプーンを抜いた。

「では、そういうことで」

「チッ、仕方ない、駅に現地集合だから、それまでこいつについていけよ」

二人が、のほうを見て、言う言葉には頭をかしげた。

「で、なぜ私は駅に行くんだ?そもそも駅って」

「っだから、合宿だといっただろう!!」

月森が、耳元で大きな声をあげた。正直うるさい。
それに、最後まで言ってない人の話は最後まで聞こうよ。月森。



「お、ちゃんときたな。。えらいぞ」


「いや、どっちかというと無理やり来た感が否めないけどな」

金澤は、口にタバコをつけたまま、北村に連れられたをみて笑ったが、
土浦が、の不機嫌でまだ眠そうな顔と北村の満面の笑みに苦笑を漏らした。
北村は、から手を離して、まるで子供にいうこと聞かす母親みたいに身長を低くし
目を合わせた。

先輩。寂しいけれど僕頑張ります。きっと試練です。ああ、でも先輩。
電話は一日三回お願いします。いや、やっぱり四回で。
助けて欲しいことがあれば、すぐさま駆けつけます。いや、やっぱり僕一緒に」

北村のごっと音がしたと思えば、

「あ、すいません見えませんでした。おはようございます。先輩」

志水のチェロが北村の頭に直撃し、
そのまま起きてこないが、志水は気にせずをみて微笑んだ。

「・・・・・・うん。羊が見えたからきっとこれは夢だ。寝よう」

お前さん、いい加減起きな」

が目を瞑る前に、金澤がの頭を叩いた。



の意識がはっきりしたときには、とても素晴らしいセンスの家にいた。特に狸。
どうやらここは、一つ下の冬海の別荘にらしく物珍しそうにの頭が動いている。
その姿を苦笑している柚木に日野、冬実、と同じく面白そうに見ているのが火原なら、
後ろではぐったり疲れているのは月森と土浦に、その後ろで嬉しそうに新発見といっている志水。


「まさか、さんが駅を知らなかったとはね」


「あいつ、どんな生活したんだよ」


「改札口をそのまま行こうとしたのも、券の買い方知らない人も始めてみた」


「その後の、電車と路線指してみたことあるっていうのに驚いたけどな」


そんな言葉をまったく聞かずに、どこか行こうとしているを月森が捕まえている所だった。
いつもの、高慢な態度とは違い、どこか年齢相当の顔をした月森に、
その後ろでものすごいいい笑顔をしている志水をみて、また苦笑した。
のことをいくら考えたところで、目の前の破天荒な彼女は変わらないのだから、
皆考えを止めた。一人、柚木を除いては。





「こんにちは、金澤先生」


「・・・・・・怒ってんのか。無理やり連れてきたこと」


「タバコ全部お子様のお菓子にしました」


「おいおい、それ死活問題じゃねーか」


「馬鹿ですね。あなたは、私をこういう場所に連れてきたらどうなるか、分かっているはずでしょう」


そういって、扉をしめた彼女に金澤は一つ零した。


「それでも俺は、約束したから仕方ないだろう」










2009・7・2