「「あ」」

久々に彼女に会ったような気がした。
といっても、さっきの時間横にいたが・・・・・・。


熱くもなく冷たくもない、太陽も丁度いいくらいで、月森は一人庭に出ていた。
庭では、木の葉が、揺れて音を奏で鳥の鳴き声が聞こえる。
穏やかな時間を、歩いていると学校だと言うことを忘れそうになる。
ここのところ、コンクールで少々気が張っている自分にはこんな時間も必要だと
心もちゆったりと歩いていた。
そして、出会った。

は、すでにお弁当を開いており、口をもごもごと動かしていたが、
月森を見ると、自分の横をタシタシと叩いていた。
月森は、箸を口から取ることはないの姿に、大きなため息を吐き
のんびりすることを諦めた。

自分のお弁当を開き、横にいるを見れば、
彼女の手にしているものが、彼女が持っていないはずの存在だと言うことに気付いた。
少なくとも、一年間近くにいた月森の記憶の中で、彼女がお弁当を持っている姿をみたことはない。

「どうしたんだ?それ」

月森の問いに、は口の中身を全て飲み込んでから答えた。

「貰ったんだよ」

その言葉で、月森は、ある人物を思い浮かべた。
彼ならば、食生活がままなっていないを放っておくはずはない。
それどころか、家まで押しかけて夕食を作ってまでいそうだ。
ありえない想像が、現実にありえそうで月森は考えることをやめた。
ピンク色したお弁当箱に、黄色の入れ物。
少女少女した色の組み合わせが、意外に似合っていることが可笑しかった。
食べ終わったらしいは、両手を体の後ろにして、体全体を支えている。
そして、横目で月森が食べている姿を何が面白いのか、にやにや嫌な笑みで笑っていた、
居心地が悪いが、月森は以前やめろと言って、彼女が真正面に座って
穴が開くほど見つめられた経験があるため、やめろとは言わない。

「そういえば、あの時お前どうやったんだ?」

「あの時?」

その代わりに、話を変えれば行動をやめるということを知っている。
現に、は月森から目を離した。
知りたくもなかったが、彼女にかかわってしまっている学園生活の中で、
その技術は、必要不可欠だ。

「あれだ。バスケットボール」

「ああ、あれね」

興味が失せたような顔して、は木のざわめきを目で追っていた。
月森は、気になりはするものの昼食を食べることもしたかったので、
追求をせずに、箸をもくもくと進めた。
お弁当箱を閉めると、はどこかからプリンを取り出していた。
売っているものではなく、手作りらしいそれを至極ご機嫌でほお張っている。
月森は、それが彼女の好物であることを知っていて、以前好きなだけ驕らされた記憶がある。
眉を顰める月森を気にすることなく、は話した。

「あれね、パターンを読んだんだよ」

「パターン?」

いきなりなんのことだと思ったが、長年付き合いがある月森は、前の話だと分かった。

「そう、例えば、目の前の木が、ターンタンタンタターンだとするなら、
月森は、タタタタタンタターンだろう?」

抽象的でよく分からなく、眉間にしわがよる。

「あの時の、あー・・・先輩がタッタターンで、ボールがターンターンで、
壁が、あー・・・・・・・なんだっけあっそうだ。テテテテテーンだっけ?まぁいいか。
でそれらの間に隙間があるから、そこで動いて、後は、先輩と壁の真似すればいいだけ」

プリン容器に、カランと音がした。
は、億劫そうに立ち上がった。何も映し出さない彼女の目が、月森を捉えた。
運動靴でこけるから、彼女は運動を止められた。周りから。
運動靴という運動をするためだけに作られたものを脱いで、彼女は自由になった。
もし、あの動きが本来のものなら、今まで知っている彼女は違っていて、
そう考えて、月森は舌打ちしたい気持ちになった。
彼女のことを分かりたいと思うのに、
彼女のことを知れば知るほど、彼女が分からなくなる。泥沼だ。
真実を聞いても、きっと曖昧な言葉で誤魔化される。
でも、月森は彼女の頭を小突く。

「スリーポイントは、誰の真似だ?」

「・・・・・・さぁ?」




それでも、彼は諦められないのだ。
 を知ろうとする気持ちを。









2009・6・7