きゅきゅっとバスケットコートで走り回っている奴等に、火原先輩が声をかける。
「おーい、みんな、どうにか説得できた!」
その声に、良かったなと皆が火原先輩を祝う、って
これいきなりじゃなくて用意周到〜!!!
火原先輩の笑顔に裏があるじゃないかと疑う。
そんな俺の心情を全て無視して火原先輩は言った。
「じゃぁ、やろうか?」
横を見ればは、ぼーっと上を見ながら空が綺麗だなと言っていた。
火原先輩は腕をクロスにして柔軟しながら俺たちにルールを言った。
一対二の制限時間30分でその間に点が多い方が勝ちという、なんとも大雑把なルールだった。
だが、俺は自身の運動神経を過剰評価していたのかも知れない。
いいや、音楽科である火原先輩を侮っていたかもしれない。
先輩はできる。
どうみても、慣れている。先輩のマークはきつく思うように前に進まない。
そこで、俺はノーマークであるにボールをパスした。
俺が火原先輩をマークしているからは簡単に点は取れるはずだったが、
ボールを受け取ったはそこからドリブルしようとして
なぜか運動靴の紐を足でふんでこけた。
音がするならコケっと言う音で・・・・・・。
心配するまでもなく、はうまい具合に受身をしていて、その姿に慣れを感じてしまった。
テンテンと音を出して地面をこぼれるボールを火原先輩に取られてそのままゴールに入れられる。
「なにしてんだ!」
叫べば、は腰に手をあて自慢げに言った。
「壁ぇー、一つ言っておく。私は走れば運動靴でこける!!」
自慢げにいうことではない。しかも、運動靴の紐は全く解けてもいない。
どうやって転けるというのだろうか?その原因を知りたい、ちょっとしたミステリーだ。
原因は分からないものの一つ分かったことがあるとすれば、
はまったくつかえない。なんてこった。最初から、一対一じゃねぇかこれ。
俺が頭を悩ませていると、
いつの間に集まったのだろうか、コンクールに出るやつがみな勢ぞろいしていた。
そのなかで月森がイライラと、に言う。
「なんで、運動してるんだ?あれほど被害がでかいから走るなって言っただろう?」
「おー月森ぃ!お久。なんでこんなとこにいるの?」
「それは俺の台詞だ!俺は来たくてきたんじゃなくて呼ばれたんだ!
いいからさっさと帰るぞ!」
「月森ぃ、女にはやらなきゃいけないときもある」
その言葉にの伴奏者である北村が格好いいと呟いている。
噂に聞いていたが、信仰度が半端無い。
柚木様親衛隊も真っ青な熱愛度だ。
「それにさぁ、私は動かないから大丈夫だよ〜」
そうお気楽に月森に返事を返していた。
台無しだな、本当!
見ろあの月森が呆れた顔してみているぞ。
やる気があるのかと思えば、全くないにがっくりだ。
おい、プリンの約束、破棄するぞ。と言う前に、
火原先輩が俺を見てニンマリ笑った。
「どうする?降参?」
「冗談は、よしてくださいよ」
ここまでくれば、負けるか、負けるもんかと闘志を燃やしている横で
あくびしているが見えた。
17ー14 残り時間二分。
僅差まで持ってきた俺を褒めたい。
だが、少ない残り時間しかも体力も疲弊している。
このまま逃げられて終わりだと、頭をかすめ、ボールがこぼれる。
近くにいたのは。ああ、もうダメだと諦めたとき北村の声が響く。
「先輩。靴脱いでみてください」
その言葉で靴を脱ぐと、は転がったボールをとり
さっきのが嘘のような身のこなしで
綺麗なドリブルをして火原先輩のマークを交わしてそのまま軽やかに飛んだ。
ーーーーーーダンクが決まった瞬間だった。
俺も火原先輩も信じられなくて目が点になるとはこのことだろう。
周りのやつらの声援でさえ止まった。
プラーンとゴールで体をくねくねと動かし、体の反動で下に落ちた。
よっと、声を出してグーサインをだし北村に向かって一言。
「良い考えだ。紐でこけるなら 無くしてしまおう ホトトギズとはうまいことを」
俺にはその感想は良く分からないが、というかそれであんな動きできるなら
その運動靴呪われてるんじゃねぇ?
「うわー強敵現るってこのことだね!でも、俺も負けないから」
そう意気込で、どっからでもこいと次のゲームに構えをした火原先輩に
ボールを持ったがつぶやいた。
「動くのめんどくさ。ああ、そうだ、最初から動かなければいいんじゃないか」
そういって、は、軽く手首を動かしスローパス、足は少しだけ地面を離れた、
ボールはそれは綺麗な弧を描いてゴールのなかに吸い込まれるかのように入っていった。
そして、ピーとホイッスルが鳴った。17ー18で逆転したもののこの不完全燃焼な感じは何だ。
ほら、みろ火原先輩のあのポーズの虚しさ!
それよりも、最初からそれをしとけば、楽に勝てただろう!
突っ込み所が多すぎて頭がショートしそうだ。
皆、呆然としているなか北村だけが、熱烈なコールを送り続けている。
「すごーいです。先輩。かっこいいいいいいぃぃぃ!!!!!」
さながら熱烈な視線で応援する女子生徒のようだ。
その声にみなが起きだしたように騒ぎはじめた。
なんか、全てをとられたきがしたのは間違いじゃないだろう。
俺も火原先輩も。
が、
俺が思っている以上に、火原先輩は大物だった。
のところ行って凄い凄いと褒めると今度もう一回しようと懲りずに誘っていた。
・・・・・・俺は二度とゴメンだ。
2009・2・13