愛すべき馬鹿やろう


私には歌しかない。だってそのために生まれたような容姿。
その他の能力。

はっきり言ってしまえば、私の顔は十人並みだ。
普通、ああけど私は私のことが好きなので普通よりもやや上と明記しておく。
その他能力は、誰かがないと生活できない。

必要最低限の文化的で健康な生活を、送っているとはいいがたい。


自尊心だけが強い哀れな女だ。
この年になっても彼氏一人すらできないし、また出来る気配も無い。
今年こそはと思いをこめた髪の毛だけが無常にも伸びていく。
勉強なんて、してどうするの?と先生に問いかけたらおもいっくそ叩かれ、
運動する前に紐靴の紐でこける。料理はなぜかする前に出来ている。

それだけじゃない。一日では語りつくせない話がまだまだある。


私には歌しかない。というか歌だけしか生きていく術がなかった。





普通科と音楽科が併設された高校、星奏学院。
音楽科の棟で、人気の無い廊下を長い三つ編みを垂らして、鼻歌交じり歩いている少女。
彼女は楽しげな表情で薄暗くなっていく廊下を歩いていた。
ちょうどその頃。

音楽棟第三会議室にて。
ここでは、学内コンクールについてコンクール参加者に説明を行っていた。

コンクール担当である金澤は周りを見渡し、見るからに綺麗に整えられてはいない
髪をかきながら参加者に自己紹介を促していた。
普通科から追加参加の日野のことも気にかかるが、それよりも
金澤はみなの紹介を聞き流しながらある一人の少女を考えていた。
ちゃんと釘刺しておいたというのに自分以上のずぶらさにため息しか出ない。
いや、違う。
彼女のことだから良い音を見つけたとかでどこかいって迷子になっているんだろう。

「金やん、全員終わったけど?」

目をクリクリさせながら覗き込んできた火原に、にっこりとした笑みを湛えながら柚木はいった。

「違うよ。火原。さんが来てないよ」

その名前を聞いて明らかに顔をしかめたの月森は金澤に視線をよこした。
金澤はやれやれといったように携帯を取り出した。

廊下から大声音の気が抜けた音楽が流れている。
日野は、遠くから聞こえる気の抜けた音に呆気にとられた。

「こ、これは笑点?」

「・・・おもしろい音楽ですね」
志水は独特の観想を言いながら、他の人々はそのなんともいえない音楽に困惑している。
金澤はがらっと扉を開けると大きな声で。

〜お前さんそこから動くな。月森すまんが」

月森は何も言わずそこから走り出した。数秒後、音楽がやみ。
帰ってきた月森の手には、襟元をしっかり掴まれた白い音楽科ということを証明する服を身に包んだ少女がいた。
着くなり月森は無言で、ソレを離すと
少女はそのままバランスを崩ししりもちをついて月森に何か言わんとする前に自分の置かれた状態に気が付いた。
少女は、照れ笑いしながら立ち上がると

「えっとよく分かんないけど」

ちらっと金澤を見る。

「紹介だ。お前さんの」

ようやく分かったは、にへらとした可愛いようなだらしないような笑顔を貼り付けながら。

「ああ、音楽科2年A組・・・多分   専攻は声楽です。
他に趣味などはう〜んないなぁ年はえ〜と・・・・・・?」

傍にいる月森の顔を見ながら考えこんでいる。月森は視線に耐え切れなくなりに顔を向けた。

「なぜ俺をみる」

「知ってるかなと思って」

「16だろ」

はその答えを聞き同じような笑顔で16です。言った。

「あ〜そこまででいいぞ。じゃぁ参加者もそろったことだし、第一セレクションのテーマは後日発表だから、じゃ解散」

閉められたドアに続くように月森が出て行こうとした。
その姿をは反射的に追いかけて部屋の中は静かになった。

普通科参加者 日野 はこの濃いメンバーの中で自分が過ごしていけるかどうかその夜考え込むこととなる。