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花ではありません。もはや、木です。




人をコレほどまでに愛せたことが奇跡だと幸せだと笑う。
その裏では黒い蛇とか蜘蛛とか生物委員ならば愛してくれそうな奇妙で奇怪なもの
が蠢いているのだ。
それに気づかないで君は笑う。幸せそうに、今だけの箱庭を大事そうに抱えて、
その姿に涙が出るのに、そっと触れた肌に伝った体温が泣くことを止めさせた。

愛したから愛して欲しい当然の気持ちは、
とてもわがままだと周りの全員から指差された気分になる。
口に出せば始まる、終わる。どちらかしかない究極の選択。
生と死までいかないそんな簡単な選択をと笑わない欲しい。
時に愛は人を殺す。ゆっくり真綿を絞めるように。
だから、私は待つことしか出来ない。
足は歩くことを忘れて地に根を張っていき、体からは葉が生えて小さな私の体は大きくなる。
それが思いの丈。
さぁと風に吹かれてどこかへ飛んでいく葉っぱを止めることは出来ない。
口を開くことはないけれど、君は大概賢くて鋭いから私の思いは気づかれている。
確定・確実に。
それなのに君が私に聞くことがない時点で私の失恋は決まっていたのだ。
そんなことにいまさら気づいた私は、ぞわりと体中駆け巡る闇に息の仕方を忘れて、
はぁはぁと荒い息を吐き出して、障子の隙間から見えた太陽に手を伸ばした。
そこから見えた君はふんわりと笑っていたから闇が吸い込まれて、息が出来るんだ。
これはいけない。これ以上はもうダメだ。
この感情を抱き続けていればきっと私の中の息を止めるほどの闇が君の息を止めてしまう。
三日で恋に落ち、何週間で花が咲き、何ヶ月で大木となった。
もうこの木は己で枯らす以外方法はないようだ。
大層怖がりだから、君に切られてしまえば私は次を芽吹かせられるかどうか心配なんだ。
何日も何ヶ月も何年も何十年もかけて木を枯らすよ。
そうしていつか、新しい芽が出ることを祈っている。
だから、私が君の傍にいることを許して。
諦めるから、友人でいるから、君の箱庭の住人の一人に加えていて。






一目見たときから僕の獲物だった。
モロタイプ。ハートにドッキュンー。
なんとしてでも落として見せようホトトギズって訳で、
彼に色々と仕掛けをしたら、
恋を経験したことのない箱娘ならず箱息子は僕にすぐさま陥落された。
彼が僕のこと好きなのは分かる。だって触っただけで顔を赤くさせて泣きそうになるんだ。
なんてゾクゾクする顔なんだろう。
それを少しでも長く楽しみたくて、君が嫉妬する姿も見たいから、適当に先輩同級にちょっかい。
君はそれを少し悲しげに見ていた。欲情する。体中、すべてが君を欲している。

けれど、彼は僕に言葉はくれない。

タカ丸さん。タカ丸さん。一緒にご飯食べましょう?

うん。

嬉しいけど、それだけじゃダメ。

タカ丸さん。タカ丸さん。一緒に勉強しません?

うん。

楽しいけど、それだけじゃダメ。

タカ丸さん。タカ丸さん。・・・・・・久々知先輩が呼んでいたよ。

うん。

嫉妬した顔、すぐ分かるのに、続きの言葉を飲み込む。
僕は欲しいものは絶対欲しい。なにもかも欲しい。
僕から言えば君は必ず嬉しそうな顔をしていいや泣くかもだけど
それだけじゃつまらない。もっと、もっと僕を愛してよ。
恥ずかしがり屋で怖がりな君が僕に愛の告白でもすれば僕はすぐさま理性で留めていた
すべてを全部君にあげるのに。
ふわぁ、とあくびをすれば兵助くんが寝不足か?と聞く。
寝不足です。いつまでたっても言ってくれないから夜一人は寂しいし、
悶々と想像の君を抱くしかないし、どうやったら言うのか、色々考えている。
いつも君のこと見てていつも君の事考えているから、まさかの失敗に気づいたのは早かった。


人をコレほどまでに愛せたのは奇跡だと幸せだと偶然聞いてしまった言葉に、
君の真意が分かった。
なんてことはない、君は僕を諦めた。それだけだ。
それだけのことが、ずしんと腹に重石のせられて、
手や足をばたつかせても体の中に虫が駆けずり回っていくような感覚を覚えて、
部屋に帰ってすべてのものをぐしゃぐしゃにして投げた。
息があがり、ふぅーと大きな深呼吸して冷静に周りを見れば綺麗な部屋がめちゃくちゃで、
一人部屋で良かったな。とコツンと柱に頭を鳴らす、
さぁ、タカ丸どうする。どうするか?
箱入息子を舐めていた。からかって、めでて、愛して、ああ。

君が僕に友達だよ。って笑ったら、
君が僕に久々知先輩が好きなら、手助けしようか。って苦笑したら、
うん、馬鹿。
って笑って殴る自信がある。
だから、君が言葉を口にする前に、君が終わらそうとしている恋を芽吹き返してやる。

さぁ、タカ丸。目指すは彼の部屋。最初は軽く愛の言葉をあげる。
逃がしやしない、君が僕に愛を吐くまでは。僕をもっともっと愛すまでは。











2009・11・27


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