どうしたの?大丈夫?
【どうしたの?大丈夫?】
私・
みんながみんな彼女を好きだと嬉しそうに蕩けるように言うから、
だから私も好きでいなければならないと思った。
きっかけは、空の上から来た優しい美しい人。
さすがは天の住人、考え方も容姿も匂いも何もかも違ってて、甘くて優しい。
私たち4年生で最初に彼女に陥落したのは、なんと穴を掘っていた喜八郎だった。
穴を掘りすぎて自分が穴に落ちてしまったみたいだ。
いつもならばせっせと12個目を作っているはずの時間にまだ3つしかできてなくて、
穴よりも長い鋤の姿が未完成の穴から見えたから、私は飛び込んだ。
「どうしたの?喜八郎」
「、どうしよう私」
他の人物から言えば表情がないと言われる喜八郎だけれど私には分かった。
白い絹ごし豆腐のような肌がうっすら桜色になって、眉間に力が入っている。
彼は酷く狼狽していた。一人分のサイズの穴はちょっと窮屈だったけれど、
私は、喜八郎の柔らかな髪を撫でながら、大丈夫だよと微笑んだ。
彼は私のことをじぃと見つめると、他の人はこれを嫌がるが私は喜八郎の綺麗な顔を
近くで見れるので役得だと感じる。喜八郎は、ひゅっと息を吸い込んで。
「私、あの人を落とさせたくないよ」
彼の語源はとても特殊だけれど、4年も近くにいればよく分かるようになった。
つまり、あの空の上の人を、自分が作った穴に落としたくないということだ。
なんだそんな簡単なことと、思わないで欲しい。
彼にとっては死活問題で、彼にとっては異常な、彼にとっては規定外の感情なのだ。
つまるところ、彼は穴を掘り続けるという自分の生き様よりも、
あの人に怪我をして欲しくないと思っているのだ。
喜八郎の感情を正しく汲み取れたであろう私は、にこっと、
上級生直伝の不安を和らげる顔をして、
「喜八郎、胸がぎゅーってするだろう、それはね」
あの人を喜八郎が好きってことだよ。
そういえば、大きな目をもっと大きくして好き?と幼子のように呟く喜八郎。
何回か呟いた後に耳を赤くした喜八郎。
遠くで彼女の声が聞こえて、ぴくりと動き、私は撫でていた手を止めて、
「いってらっしゃい」をした。
それから、しばらくして、空の上の人は、瞬く間に愛された。
4年生で私と仲が良い、滝に三木にタカ丸さんに、もう全員に。
タカ丸さんは私の人よりも色素の薄い髪をひきながら、その周りで滝、三木、喜八郎
で固まって語り合っている。主に空の上の人の話だ。どこが素晴らしいかどこが美しいか
滝が自分以外に熱心に語っている姿に、昔のナルシストな滝のほうが面白かったのにと
不満を漏らさず、やはり先輩直伝の笑顔でニコニコしていれば、
上から声がする。
「ねぇ、くんは、ハナちゃんのこと好き?」
その質問に、先ほどまで熱心に語っていた彼らの3対の目が私に向けられた。
私は迅速に頭を回転させて、どうにか搾り出した答えは。
「うん、私も好きだよ」
ごめんね。私、好きの感情を人には教えられるけれど、自分じゃよく分からないんだよね。
実は空の上の人の名前がハナだということを今知ったぐらいなんだ。
といえば、元のままでいれただろうか。
三反田 数馬
空の上の人の「おやつ」の声に反応した下級生に今日は終わりでいいよと言えば、
一人数馬だけ、私の傍を離れようとしなかった。
「どうしたの。数馬」
「先輩。僕、伊作先輩が好きです」
「うん」
「でも、あの人は嫌いです」
そういってボロボロ泣きはじめた彼を私は膝の上に乗せて髪を撫でた。
タカ丸さんに教えてあげたいほどの柔らかい感触だった。
いつまでそうしていたのか。
「理由聞かないんですか?」
「好きな人もいれば嫌いな人もいるよ。大丈夫。数馬。それは悪いことじゃないさ」
「・・・・・・僕、先輩が好きです」
「うん、ありがとう」
「そういうのじゃなくて」
「??」
首を傾げればため息を吐かれた。地味にショックだ。
「先輩もあの人が好きですか?」
「うーん、今の私としては早く善法寺先輩が彼女を射止めて、さっさと保健室に戻ってくださるほうが
ありがたいかな」
先輩は、空の上の人を奪う激戦区に参加中。なので、薬の補充も、怪我の手当ても、
前よりも保健室にいることも少なくなった。それが私に全部回ってきた。
二人ぶんの仕事は意外ときつい。
数馬が、嫌いだっていうのは、きっと好きな先輩が取られてしまったからだろう。
私の問いに数馬は何か小さく呟いたけれど私の耳には入らなかった。
「でも、あの人に感謝してる所もあるんです。こうやって先輩を独占できるから」
先輩はとても優しくて影が薄い僕にどんなときでも気付いてくれる大大大好きな先輩です。
先輩があの人を好きだなんて噂はやっぱり嘘だって分かって、先輩の温かい
胸の中で安心して眠りにつけた。本当だったら、僕は彼女を殺しちゃうかもしれないから。
伊賀崎 孫兵
「先輩」
夜が濃い時間に一人の訪問客。
此の頃というか、一ヶ月くらいから私の寝床は保健室だ。
善法寺先輩が、放棄しているというのもちょぴっとくらいあるけれど、
泊まり番を勤めると自ら申し出たのだ。
だって、私の同室には三木がいるから。
「どうかしたの?孫兵
・・・・ジュンコもどうしたの?なんだか、凄く心配そうに君を見てるけれど」
孫兵の首にいるジュンコは私に一瞥をしチラリと赤い舌を見せた。
うん、私は動物の言葉は分からないんだ。
唯一、喋れるはずの孫兵も、一番初めの言葉以来私の前に正座して、
私の寝着の端をしっかりと握り締めている。
私は、しっかと目を見開いて、彼の異変を見つけようとする。
これでも保健委員なのだから、体の不調は隠していても分かる。
外傷はなし、腹痛や頭痛、毒といった反応もない。
では。
「どうしたの?」と私は二度目の問いかけをする。
「先輩は」
小さな声で呟く孫兵はそこからなかなか続かない。
保健委員と生物委員、まったく接点もなくしかも片方は人間嫌いな彼に懐かれたのは、一重にジュンコのおかげだろう。
今、ジュンコは私の腕に絡まって擦り寄ってくる、可愛い。
と、意識を少し落ちかけたところ孫兵は顔を上げた。
ボロボロの大泣きだ。
私は、彼がジュンコのために涙を流している姿をよく知っている。
脱走したら大概私の元にいるからだ。懐いた彼が私を訪れ遊んだ回数が増えるにつれ、
冷淡であまり表情を変えないという孫兵が実は、大変感情豊かだと知っている。
ものすごく幸せそうに笑い、ものすごく眉間に皺をよせて悩み、静かな怒気を発して怒るそのときは、
表情よりも後ろのオーラともいえるが。まぁ、ともかく感情豊かだと知っているが、
ここまでの大泣きは初めて見たので、私はうろたえてしまった。
うわーんと声をあげないがもはやあげる寸前だ。
後輩を泣かせた。困る。凄く困る。だって、生物委員の代理委員長は竹谷先輩なのだ。
彼は後輩思いで、まえ苛めていた奴に狼を仕掛けた姿がくっきり鮮明に覚えている。
私は慌てて、孫兵を抱きしめた。
「な、なにがあったんだ。私が出来ることならしてあげるから」
「ハナさんを好かないで下さい」
「え?」
「先輩がハナさんを好きなのが嫌なんです」
私、一回しか好きっていってないし、しかも交流も友達だと思っていた喜八郎とか三木とか滝とか
タカ丸さんとかに、近寄るなとばかりに威嚇されてるからあんまりしていないんだけど。
何、孫兵もハナさん好きで私に泣き落とし攻撃で阻止?
あ、ヤバイ。私のほうが泣きそうだ。楽しかった思いでも全部すべてガラガラ崩れてく。
ドクンドクンと鳴っている頭の中の何かが、小さくなりピーとまっすぐな線を描いて終了音。
「・・・・・・大丈夫?フフなんだっけそれ。ああそうだっけ、ハナ・・・うん
えーとそうその女と喋ったの3回くらいだし、好きとかつい言っちゃっただけだし、ほらあれだよ。
皆言ってれば言ってないほうがおかしいかなって思ったんだけどさ。
フフフフ孫兵、人はとても脆いよね」
「せ、先輩?」
「友達だって思ってたのは私だけだったのかな。孫兵もハナさんのところへ行ってしまうんだよね。
『じゃ、行ってらっしゃい?』うん?ジュンコ、君は行かないのかい?
そうか私の心の支えはお前だけだよ、ジュンコ」
ちゅっとキスしたら、シャと舌を出す。今の分かるよ。ジュンコお前嬉しいんだろう。
そうかい、フフフ。私も嬉しい。
ポカンと私を凝視したままの孫兵を置いて保健室の襖をしめた。
もう人はいいかな。保健室も人と会うし、ああじゃあ。
「そう、ジュンコと二人、人が来ない場所で暮らす。私」
違うんです。先輩。僕は貴方がハナさんを好きなのが嫌であって、
先輩が好きなんです。愛してるんです。
もはや孫兵の言葉が聴こえない場所に行ってしまったは空を仰ぎ見た。
月だけがキラキラ輝いている。
どうしたの?どうもしないよ。ただ疲れただけ。
もううんざりです。愛だの恋だの友情も、全部うんざりなんです。
綾部 喜八郎
このごろ、私はおかしい。
ハナさんを穴に落としたくなくて、ハナさんが来ない場所に穴を掘っているんだけど、
止めようと思っても止めれない。
夜になって滝がむかえに来てそれでも穴の中から出ない。
三人が無理やり引っ張り上げてくれるまで私は外へ出れない。
私の部屋に、滝に三木にタカ丸さんが集まっている。
炎が消えてしまったのか、皆真っ暗な顔していた。
「どうしたんだ。喜八郎」
滝が言った言葉が誰かの言葉に被って、つい
「みんなだって、どうしたの?」
と言い返した。皆が言う。
「くんが、いないと寂しい」
「でも、は賢いから優しいから強いから、帰ってくる」
「私たちがいけなかった、私たちのせいでいなくなったら、だから帰ってきたら謝ろう」
「だってくんがハナさんを好きなら、くんをハナさんは好きになっちゃうから」
「違うでしょう?」
私の言葉で、みんな止まった。それから私は何かに耐えるように体を小さくさせて
寝てないけど目を瞑り床についた。
朝、いつの間にか寝ていた私が目を覚ますと、騒がしい声がした。その場所へ行くと、笑顔で笑っているがいた。
は私たちを見ると笑顔を苦笑に変えて傍によってきた。
久しぶりのの匂いに、
、その横のは邪魔だから置いてきてなんて言うことができない。
「あ、うん、皆ごめんね。もう大丈夫」
「ああ、それと、私ハナさんのこと好きじゃなくて、彼のことが好きなんだ」
「だから、大丈夫」
そういって幸せそうに蕩けるように笑った彼を見れば
急に、ぎゅーと胸が苦しくなってズキンズキンと棘を飲み込んだように痛い。
を穴に落として、を埋めて私だけのものにすればよかったと思って、
そして、気付いた。
私がハナさんに抱いていた「好き」とに抱いていた「好き」が違かったことに。
だから。
ねぇ、どうしたの?って聞いて、そしたら、私は今度は正解を出すよ。
そして今日も、待っているんだ。穴の中で、どうしたのと柔らかい音色を。
斉藤 タカ丸
なんで、迎えに行かなかったんだろう。そうすれば未来は変わった。でも、いまさら後悔しても遅い。
くんはちゃんと学園に帰ってきた。良かったと安心して僕らはみんな謝った。
彼は笑って許してくれて、しかもハナさんのことは好きじゃないと言ってくれた。
本当に良かった。
彼が好きだと言ったから、僕らは彼からハナさんを遠ざけた。
理由は、僕らがハナさんが好きで、ハナさんはきっとくんを好きになってしまうと思ったからだ。
なんで、そう思ったんだろうか。
良かったと思いながらも、どうしてもぐるぐるすっきりしない。なんでだろう?
お腹でも痛めたかなっと、こんなときはハナさんに逢うのに限ると
補習も終わって、歩いていれば喜八郎くんがいた。
喜八郎くんは前みたく、迎えに行くまで帰ってこなくならなくなったけど。
「喜八郎くん」
声をかければ、ばっとこちらを振り向いて
少し残念そうな顔をしてまた穴に戻る。
くんが帰ってきて、彼は前よりもハナさんの元へ行かなくなった。
くんに罪悪感でもあって逢わないのか、でももう許してくれてるしいいよねと。
落ち込んでいる喜八郎くんを元気をださせるために、
「一緒に、ハナさんのところに行く?」
そういえば、喜八郎くんはぴくりと動いてようやく穴から出てきた。
ハナさんは穏やかで優しくて綺麗で髪の毛まで最高。髪を結ってあげると言って触れるのは僕の特権。
ハナさんの近くでお饅頭をほおばっている喜八郎君も機嫌がよそうだ。
良かった。そう思ったのもつかの間。
「先輩!!」
「どうしたの?」
ぼとりと、落ちる音が聞こえたと思えば喜八郎くんは、お饅頭を落としてくんを見ていた。
くんと彼をつれ帰ってくれた彼は、互いに幸せそうに笑っていた。
くんが僕らに向けることのない甘い蜂蜜のような笑顔を始めて見た。
あんな顔も出来るんだと思ってれば、ぐるりぐるりまた僕の腹痛が始まった。
見なければいいと喜八郎くんの顔を見れば。驚いた顔をしてこっちを見てる。
「タカ丸さん。血が出てる」
ぎりり。
髪結いは手が命なのにそれさえ、忘れ去れるほどの衝動。
鋏が手に食い込んで、ハナさんが慌てて手ぬぐいを持ってくると出て行った。
そして、二人を見る喜八郎くんの顔にそっくりな顔がピカピカに磨き上げた挟みに映ってた。
理解してしまった。
「違うでしょう?」と言った喜八郎くんの言葉も分かってしまった。
なんで、くんがハナさんを好きじゃいけなかったのか。
なんで好きになってしまうと思ったのか。
僕らは二人して、本当に好きな人を間違えて追い詰めて、
大切なものを失ってしまった。
ハナさんが好きになるのが怖かったんじゃない。
くんが傍にいなくなるのを誰かを愛するのが怖かった。
くん、手を怪我したよ。大丈夫じゃないから。今すぐその子を捨てて僕のもとに来て。
追加しておくと、主人公の彼氏は、数馬か、孫兵です。
泣いて泣いて、ぐちゃぐちゃになってしかもジュンコまで連れていかれてるし(笑)
精神ボロボロなところを、まずジュンコが来て、上からそれを見てる主人公で、
嫌いなわけでもないしここ危ないしで、保護みたいな形で出てきたら告白されたみたいな、
よーく考えれば嫌いじゃないし可愛いしあれ、めちゃくちゃボロボロに泣いてくれるのも愛しいしあ、これが好きで恋か!!
な感じで学園に帰るか。→孫兵
めちゃくちゃ、愛され主人公をなじりになじって、探しに行って気合で見つける。ストレス現場から離れた主人公は意気揚々と
サバイバル中で、唯一キライだと言った数馬には友好的。あれ、どうしたのこんなとこまで?っていったら
やっぱり泣かれて、先輩がここにいたいなら僕もここにいますの一点張り。なんでそこまですんの?って聞いて
告白。そういえば、唯一お前だけだったもんな、となんだかしみじみしてきゅんときて恋人に。
ちなみに、不幸委員なのでボロボロになっているそんな姿にもきゅんときた。→数馬
それか両方。二人とも途中でであって、そのまま行き着き、告白しあう。え、え?と慌てふためいている所を
泣き落とし(主人公は弱い)二人とも好きじゃ駄目?って感じで落ち着く。
主人公は唯一不幸じゃない保健委員。実家が薬師なので所属している。