愛しているの方程式
愛しているの方程式
【1−1=0】
心の中が寒いと呟けばいつも君がいてくれました。
泣きたいときには、そっと傍にいてくれた。
そんな君を私は愛さないわけなかったのです。
しかし、彼は違いました。
どこかからきた美しい電波なことを言う天女様に心奪われてしまいました。
私は泣きました。けれど、傍にいてくれるのは獣達だけで
そうか、私は一人になってしまったとそう思いました。
私は獣達の人とは違う温かさに抱かれて、昔を思い出しました。
そうです。私は最初から、人と触れ合ってはいけない種でした。
私にとって彼らが最高の友であり、恋人であり、両親でもありました。
なんて、間違えをおかしてしまったのでしょう。
裏切りにも近い行為をした私に、彼らの目は優しく頬をざらりとした舌で舐めるだけでした。
もう、二度と私は彼らを裏切りまいそう誓いました。
私は、もう人がいる長屋では寝なくなりました。
体を綺麗にして、いつもどおり授業を受け、変化のない日常を暮らし始めました。
そう、いつしか私が一人でご飯を食べているのが普通になってしまうほどの時間が。
「どうしたんだ?」
彼が私に聞いた言葉を、私は不思議そうになにがと返せるほどになってしまった日常。
彼を愛してました。けど、そのままの感情で凍結させました。
傍にいれば、近くにいるほど私は彼を憎んでしまうでしょう。
だから、私にとって彼はA君でしかないのです。
【5+1−1=5】
人の言葉ばかり気にして、真面目で繊細な奴だった。
泣いても泣いてもそのたびに上へ向かっていくそいつが好きだった。
獣の匂いがすると軽蔑の目を向けた同級生と取っ組み合いするほど、
俺にとって奴は特別だった。心を開かないそいつは、その事件以来俺に少しずつ
心を開いてきたようで、休み時間も組む相手も、好きな場所も教えてもらえた。
年が上がるにつれて人前では泣かなくなった彼は、よく好きな場所で泣いていたから、
そこに許されていたのが俺だけだったから、優越感があった。
よくいる4人に加えて彼という光景が普通だった。あの日までは。
天女が現れたのだ。俺たちが守らなければ消えてしまいそうな儚い少女が。
俺たちは夢中になった。警戒心が強いはずの三郎までも夢中だった。
先輩達との少女に対しての争いも、少女が俺たちの手を取って終わった。
その矢先に、違和感に気付いた。
一人、足りなくなっていた。
奴の傍は、静かで鳥がピイピイと鳴いていて、いなくなってはいないはずなのに、
そこに確かにいるはずなのに、なぜか心臓の心音が早い。
俺は出来るだけ冷静をつとめて聞く。
「どうしたんだ?」
くるりとこちらをみる珍しい大きな翡翠色の瞳で彼は。
「なにが」
と返した。
後ろから少女が俺の名前を呼ぶ声がして、彼はふっと笑うと
「呼んでいるよ」と俺に背を向けた。
違和感に気付きながらも、俺は少女のほうへと足を進めてしまった。
あそこで、彼のそばにいればこんなことにはならなかったはずなのに。
彼は真面目で繊細な奴で、俺の大切な親友だった。
【1−1=0+2=2】
私たちの中で異彩を放っていた奴がいた。
奴が私たちの中に入ってこれたのは、ひとえに兵助おかげだろう。
だれも信じない目をしていた彼は、学園一の泣き虫であった。
綺麗な銀色の髪は長くサラサラで、目は大きな翡翠色、身長が一番低くからかうと
むくれる。甘いものが好きで、辛いものが嫌い。
おばちゃんのお菓子を奪うと涙目になる、彼のなす全てが愛おしく、
私は女でも男とでもいける性質だから、私はそう意味で彼の全部が欲しくて仕方がなかった。
空から降ってきたという絶世の美女と言われる天女よりも
私は彼のほうが綺麗だと思うほど私は彼に参っていた。
そして、天女は私に絶好の機会をくれた。さすが天女、神様の使いだけはある。
私の目から見ても、彼は兵助に依存し、愛しているのだと知っていたから、
兵助の目が隠れているうちに、私は本当のお姫様を連れて行こう。
その努力を私は惜しまなかった、好きでもない女を好きだといい、素敵な部分を毎日
兵助に聞かせ、彼から引き離して、彼を忘れさせて、六年の先輩から少女を奪う大挙を成し遂げた。
私の笑顔は、少女を得たことによるものだろうと勘違いをしてくれてありがたい。
そんな矢先二人を見つけた。
「どうしたんだ?」
「なにが」
「呼んでいるよ」
彼の目には、兵助に対して愛情も敬愛も友情もそのすべてが映ってはいなかった。
ハハハハはアハハハハハアアアアアアアアッハハハハハハハハハハ
ざまぁみろ。ざまみろ。
なんて最高な日だろう。私は兵助がいなくなり一人になった彼の元へ降りた。
「よぅ、」
兵助のような瞳で見られることはない。なぜならば、最初からこいつは私に対してこうだったからだ。
興味がない瞳で私を捕らえる。だからこそ。私は進めるのだ。
フンフンと鼻歌を歌い彼の傍から離れない。誰が呼んでも動かない。
そんな姿にようやく彼は私に声をかけた。
「三郎は天女さまはいいの?」
「何言ってるんだ。。私は狐だから。お前の傍からもう離れないさ」
そういって抱きしめれば、いつも抵抗するはずの彼は静かで、
彼の大きな目が、もっと大きくなり、翡翠色の瞳から、空色の涙がこぼれた。
ああ、これで君は私のもの。
【2≠∞ 1+1=∞】
迷っている。ずっと迷っている。今でも。きっとこれからも。
帰ってくれば、凄くご機嫌な三郎がいた。どうしたの?と聞けばようやく手に入りそうなんだと
私の顔で私の表情でない顔で笑みを作った。
彼が男でも女でもどちらでも大丈夫だと告白した時、
これからなにがあっても雷蔵だけはそういう対象にならないと言った。
その意味はよく分かった。僕らが友情や兄弟の情に達しても、愛情にまではならない。
僕らはまったくの他人でありながらも、魂が片割れのようだったのだ。
彼が誰を見ているのか彼が何を考えているのか高々5年という歳月でも全てが分かってしまう。
今だって、彼が何をしたのか手に入りそうなものがなんなのか直にわかってしまう。
僕は三郎が大切で大好きだから、幸せになってほしいと思う。
だって、三郎が彼に一目ぼれをしてから5年の年月も経っているんだ。
彼はこれまでに、一生懸命に彼に間違った方向にアピールをしていた。
おかげで、にとっては三郎はいじめっ子だったろう。僕はそのことを一言も助言しなかった
迷ってたから、だからこそ、今回の天女さまの計画に一役買ったんだ。
彼は僕に隠さない。けど、僕は彼に隠していることがある。
三郎は、彼を手に入れたら僕を必要としなくなってしまうじゃないかって、
僕は三郎とずっと一緒にいたくて、、でも三郎の幸せを祈ってて、
どうすればいいかなんて、なにが正しいかなんて、
迷ってる。
【5+1−1=5−1=4≠2=1+1】
このごろ、何かがおかしい。
俺たちは5人組だ。天女と名ばかりの力のない少女が現れて、まずがいなくなった。
それからあんなに好きだと言っていた三郎もいなくなった。
俺と雷蔵と兵助と少女の4人組。
「おかしい」と、相談しても雷蔵は曖昧に笑い、兵助は不思議そうな顔をしている。
ある日、三郎はを連れて戻ってきた。
俺はまた、あの日が戻れるとそう思っていた。
けど、三郎は幸せそうな蕩けるような見たことのない顔をしてと手を繋いでいて、
そしては。
ゆっくりと歩いてくる姿に、昔、言われた言葉を思い出した。
「ハチ、私はね、凄く幸せ、兵助がいてハチがいて雷蔵がいて・・・三郎もいる
みんな大好き」
そんな言葉を思い出していた。
久しぶりに5人でいるのに、決定的に変わってしまった関係に涙が出そうだ。
は、もう三郎以外を見てはいなかった。
「私たち、付き合うことになったんだ」
そう幸せそうに言う三郎。
どうしてこうなったんだろう。二人がいなくなった後、三人ともそこから動けなかった。
俺は、横にいる兵助が食べようとして零した杏仁豆腐を親の敵のように見ることしか出来なかった。
俺は、は兵助と幸せになるってどこか勘違いをしていたから。
二人が幸せだったら、俺たちは壊れてしまうことはないって思っていたから。
それはすべて間違えだったけれど。
【結論:三辺は均等ではない。正三角形ではなく、直線である。】
「大丈夫?」と声をかけてくれる少女は、愛しくて可愛い少女は
俺に手ぬぐいを渡す。その姿が誰かの姿にダブって見えた。
「私たち、付き合うことになったんだ」
頭の中にめぐる言葉は、色々な俺の思いを崩した。
男同士の愛情だとか、友情とか、色々なものがぐちゃぐちゃだ。
雷蔵は少し悲しげな顔をして「三郎は昔からが好きなんだよ」と言う。
ハチは、少し困惑した顔をして「俺勘違いしてたよ。は・・・・・・」と言う。
俺は二人の言葉になんにも反応しないで、一つの結論に到着した。
彼にとって俺は一番ではなくなった。そう思った。
そんなことがあってからしばらくして学園で一番静かな場所に出会った。
木々のざわめきも、鳥のさえずりさえも、すべての音が消えた場所。
は太陽に浴びて銀色の髪は光の道筋のようきキラキラ光り、翡翠色した目は、
七色に変化して見えた。本をペラリと捲る音すら彼は吸い取っていた。
「」
、、、、、、
何十回出した名前の音は小さな一回だけの声になった。
彼はその小さな声で俺を映した。
そして、俺は気付いてしまった。
「なに?」
「その」
「ああ、そうだ、兵助は、○○さんのことが好きなんだよね、幸せにね」
と、微笑んでいた。
「」
俺よりももっと小さな声が遠くで聞こえた。彼は、立ち上がってさようならを言った。
映る瞳で彼の雰囲気で感じ取ってしまった、
彼にとって、俺がただの通行人に成り下がったと、
本当に失ってはいけないものを失ってしまったと気付くには遅すぎた。
天女と言われた少女が少しだけに似ていたこと。
俺は男が好きだと認めたくなかったこと。
気付いたときにはもう遅くて、
浜辺で作った砂のお城は波にさらわれてしまえばすぐになくなってしまうことに気付いていたはずなのに。もう、おそい。もう駄目です。
もう、終わりです。
彼が居なくなって、消え去った音がすべて戻ってきた中、音もなく泣いた。
、俺はお前を愛しています。
2009・10・4