ぴょーんときた
1
「俺と恋人になってくれ」
目が見えないほどの瓶底メガネをかけて、
男のような肩につくかつかないかくらいの髪の短さにした女の子は、
ありえないほど顔を赤くさせて、俺に聞いた。
「えー、えと、間違ってません?私は、あ、あの、
っていうの、だから、えーと」
「 で当たってる」
「な、なんで私なんですか?私はく、久々知くんと接点もないし、
話したこともないのに」
たしかにその通りだ。
名前を知ったのは一日前。
存在を確認したのも一日前。
接触すべきだったのだけれど、いかんせん時間がない。
だって、と恋人になるのは、課題だからだ。
昨日5年い組の課題で渡された紙に、
「と一週間恋人になること」
と書かれていた。名前を指定してくるなんて、
優秀で疑り深いタイプなのかと思って構えていたのだけれど、
調べた結果、 は普通・・・いや普通よりもシャイな女の子だった。
でもなにかあるはずと、隠された意図も気になった俺は、すぐさま行動した。
こう言われるのは覚悟したけれど、理由を考えるのを忘れた俺は、
雷蔵の顔を借りている理由を三郎に聞いたときの答えを借りた。
「ぴょーんと来た」
そういえば、 は声を詰まらせた。
「ぴょーん・・・ですか?」
「うん。ぴょーんと」
繰り返して言うと、ぴょーんより、ぴーんだったような気がし始めたけど、
言ってしまったのだからこれで通しきろう。
と、こくりと頷くと、は握りしめた右手を口元に当てて、肩を震わせた。
「ふふふふ」
は笑っていた。
何か変なことを言ったのかと頭を傾げると。
「ご、ごめんなさい。笑って、で、でも、く、久々知くんは、天然なんですね」
ともかく、俺はOKの言葉を頂いた。
2
告白が終わって、その場にいるよりも、日向ぼっこがしたくなった俺は、
彼女を長屋の軒下に誘った。
顔をあわせることのない彼女は、数分経つと、
もじりもじりと、声をかけてきた。
「あ、あの恋人って何をするんですか?」
「何って」
くるりと顔をあわせようとしたらそらされた。
顔を真赤にしている。酷い赤面症らしい。
「す、すいません私、友達いなくて、いきなりの恋人で、
どうしていいのか分からないんです」
「そういえば、俺も恋人が何をするのか分からないな」
のようにいなかったわけではなく、
あっちからの行動に合わせることが多く、
自分からなにかするということがほとんど、いや、・・・思い出せない。
もしかして何もしてなかったかも知れない。
「えーと、それじゃあ、く、久々知くんの好きなものってなんですか?」
「梅入りのおにぎりが今、無性に食べたい。
これって好きなものになる?」
「じゃぁ、食堂行きますか?」
立ち上がろうとするを手で止める。
「いや、今はいい。今は食欲よりもゴロゴロした気持ちのほうが強い」
「えーと、じゃぁ、お、おしゃべりしちゃいますか?」
赤い顔をもっと赤くさせて、声が弾んでいる。
目は見えないけれど喜んでいることが態度に出ている。
「なんでそんなに興奮気味なんだ?」
「人と喋るの久しぶりですいません」
「いや、別に構わない、梅入りおにぎりで思い出したんだけど、
なぜか差し入れでみんな豆腐を持ってくるんだ。
俺はねこまんまのほうが好きだ」
一瞬時が止まった。さわりと木の葉の音が響いた。
ゆっくり時が動いているな。日差しも温かいし、眠るには最適だ。
そういえば、勘ちゃんが兵助は意図して話を外しているのか、
天然なのか分からないと言っていた。失礼な俺はいつでも真面目だ。
と思っていれば、そろりとは手をあげた。
「・・・・・・わ、私も好きですよ。かつおぶしも入れると美味しいですよね」
「分かってるな。茶碗派?お椀派?」
「えーと、お椀に味噌汁を入れます」
「あの溢れるかどうかの計算が楽しいよな。で、目玉焼きはソース派?醤油派?」
「真ん中で、そのままパクリ派です」
「そのまま、・・・なかなか豪快だな。俺は、ケチャップ派だ」
「く、久々知くん。ケチャップって、選択肢にないですよ」
「フェイントをかけた。たい焼きはどっから食べる?」
「そうですね、頭から入ります」
「あ、頭だとう?どこまで豪快なんだ。
は、なかなか肝っ玉がでかいな」
「そ、そうですかね?く、久々知くんは」
「俺は同時だ。頭と尻尾と腹を交互に食べる」
「同時・・・最後に、残るのはどの部分ですか?」
「尻尾だな」
「尻尾食べ方の比率が知りたいです」
「ああ、ここに三郎が一人で食べようととっていたたい焼きがあるから、見とけ」
は、喋りやすい女の子だった。
ぎゃぎゃとうるさく喚くでもなく、自分の自慢をするわけでもなく、
嬉しそうにうんうんと頷いていた。でも、聞いているだけでなく、
ぽんぽんとタイミングよく、言葉が返ってくる。
ほかほかとした陽気に、大きくも小さくもない丁度いい音量に音質なのに、
不思議と眠くなることはなく、俺の口は川の流れのように、
さらさらと言葉が出た。
内容もない馬鹿みたいなことだけれど、とても楽しい時間だった。
この一週間は悪くないものだと思った。
3
次の日、俺がのんびりと木陰で本を読んでいると、
が俺を見つけて、手を振ってきた。
相変わらず凄い瓶底の眼鏡だ。
「く、久々知くん。恋人はまず名前を呼ぶそうなんです」
ぐっと拳を握りしめて、やや俺の顔の左下を見ている。
二日目もは赤面症だった。
「ずっと気になってたんだけど俺のフルネーム言ってみて」
「く久々知兵助くんですよね?」
「くが一個多い」
なんかずっと違和感があったんだよな。
ようやく解決して満足気の俺に、口を半開きで、
腰あたりで、手のひらを天の方へ向けて、オーマイガーのポーズをして、
は、ガッと自分の頭を掴んだ。
「・・・・・・・あああああ。す、すいません。
名前間違えるなんて、こんな失礼なことを」
土下座しそうな勢いだったので、俺はもう一つ気になったことを聞いた。
「くくくちって言い難くない?」
「あ、だから、く、久々知って切ってました」
「なるほど、いい案だ。俺も言い辛い名前は一個切ることにする。
で、名前で呼ぶって言うのは?」
あ、とは胸元から本を取り出し、薄い本をぺらりと捲り、
第一章と書かれているページを俺に見せた。
は、真っ直ぐ動くタイプで、話を換えたら名前を間違えて、
土下座しようとしていた前のことは忘れてしまったようだ。
の性格を付け加えながら、本を見れば、
恋人の最初。名前を呼ぼう。そしたら仲良くなれるよ。と書かれていた。
「本にも書いてありましたけど、どちらかといえば、
言いにくいが先行してました。すいません」
俺が物事を噛み砕いて頷いていれば、はさっきのことを
思い出したようで、また土下座しそうになった。
だから。
「」
そう呼べば。
「へ、あ、兵助くん」
急に名前を呼ばれても、久々知くんと言わない程度には適応力があるようだ。
「俺もは言いにくいと思ってた」
「・・・・・・ありがとうございます」
そういって下を向いて、喜んでいる姿に、よかったと思った。
4
「食いっぱぐれた」
食堂は見事に空っぽ。おばちゃんはいないし、誰もいない。
当たり前だ。もう昼食時はとっくに過ぎている。
なにか少しでも残っているかと思って来たけれど。
「さっさと三郎が負けないから」
「何を言う。兵助が負けないから」
今日の5年い組対ろ組の組み手は、俺久々知兵助と、変装名人と名高い
鉢屋三郎の試合が最後だった。
いつも一緒にいて、仲がいいと言っても、組の違いは大きく、
最後には、組の威信をかけた戦いになっていた。
「うーん。この後きついね」
と、三郎に顔を貸している優しい雷蔵がお腹をさすりながら呟いて、
八左ヱ門は、ぐーとお腹を鳴らし続け、
勘右衛門は、机の上に突っ伏している。
料理を作るのも疲れたし、このまま部屋に帰って、
夕食までふて寝でもするかと帰ろうとすると。
「あ、あの兵助くん」
「あ、」
「これ」
「・・・・・・おにぎり?」
「あと、玉子焼き・・・あ、ちゃんと梅入りだよ」
と、今日も相変わらず赤面症で瓶底眼鏡のがお弁当を渡してきた。
表情は顔半分閉めている眼鏡でよく分からないと当初思っていたが、
は身振り手振りと、空気で伝えてくる。
受け取ると、安心したように息を吐き出した。
友達もいないし、喋ることもあまりしないと言っていたから、
相当の勇気がいったのだろう。
ありがとうと言う前に。
「兵助に差し入れで豆腐を入れてこない奴初めて見た」
俺と同じ顔をした三郎が邪魔をした。
「ふぎゃ、兵助くんが二人いる!!」
そういって指を指しているに三郎はおっという顔をした。
一瞬でそれを直すと、次はにやりと
いい鴨見つけたとばかりに人の悪い笑みを浮かべた。
「三郎・・・からかうなよ。ありがとう丁度お腹すいていたんだ」
ようやく言うべき言葉を言えた。は良かったと小さな声で呟いたが、
もっとでかい声で消えた。
「いいなー兵助。差し入れとか」
八左ヱ門こと、はっちゃんは、
空気を読まず、いいないいなぁと俺の弁当を見ている。
「あ、あの、これ良かったら」
どこに隠していたのかはもう一個お弁当をはっちゃんに渡した。
「・・・・・いいのか?」
「う、うん。お腹が空いたらよくないものだか・・ぎゅるるう」
タイミングよくのお腹が鳴った。
は顔をもっと赤くして、三郎は肩を震わして笑うのを耐えていた。
「・・・・・・・い、今のは、違うの。お腹が空いたわけじゃなくて、
ちょっとダイエットしてるだけで、
一緒に食べようとか待っていたわけでもなくて、その、うぅ」
半泣きになったに雷蔵が三郎を殴って、優しい笑顔で慰める。
そうか、一緒に食べようと思っていてくれたのか。
ずっと終わるまで待っててくれたとか、俺が言った小言を覚えてくれたとか、
ちょっと心が温かく、少しにやけた。
「僕らには簡易食あるから、兵助と食べなよ」
そうしてもらうとありがたいと言おうと思ったけれど、
はぶんぶんと手を振った。
「い、いいの。あの、その、お弁当、たくさんあるから」
はどこに隠していたのか、
どんと机の上に同じ入れ物のお弁当箱を置いた。
みんながそれに目を丸くして。
「「「・・・・・・何人分?」」」
は、えへと頭をかいて。
「私、燃費悪くて」
とバツが悪そうな顔をした。
「じゃぁ、食わせてもらうわ」
はっちゃんは、のお弁当を一個取った。
「うめぇ、これ、全部おかか?」
二個目を口にいれて、に問い詰める。
貰い物に、文句つけるなっといいたいが、
はっちゃんは純粋な興味みたいな顔をしていたので、何も言えなかった。
ははっちゃんと目があったのか、ビクリと体を揺らして、
それから下を向いて答えた。
「う、ううん。三個だけ、たくあんが入ってるよ」
「三個だけ?しかもたくあん?」
「好きだから、そういうのは少ないほうがいいかなって」
「へーじゃあ、私のは当たりってこと?」
三郎が真逆に顔を近づけて、目を合わせようとしている。
は三郎を見ないように顔を逸らし続けていたが、
その行動が三郎を煽っていることに気づいていない。
ひょいひょいと何度か繰り返していたら、
雷蔵が、三郎?ちょっと、こっち来ようか?と
腹の底からの声を聞いて、あ、あはははと大人しく雷蔵の横に座った。
「あ、名前なんてーの?俺、ろ組の竹谷 八左ヱ門」
「同じくろ組の不破 雷蔵。
この馬鹿は、鉢屋三郎。気にしないでね、馬鹿だから」
ば、馬鹿じゃないと三郎が小さな声で反抗していたが、
雷蔵の笑顔が怖いらしく、ん?と言われて黙った。
「あ、あの」
は困った顔をして口をパクパクしている。
「俺は、い組の尾浜 勘右衛門だよ」
勘右衛門こと勘ちゃんに差し出された手をどうしていいのか
困っているから。
「あ、あの私、私は」
「 だ」
「あ、うん」
「兵助。こういうのは本人の口からだよ」
勘ちゃんは、俺をたしなめる。俺はの作った卵焼きを食べた。
もちろん三郎のを。俺のはすでに食べてしまっていた。
あーと言われたけれど、をさんざんからかった仕返しだ。
どうやら、玉子焼きは、俺のだけ甘かったようだ。
「でも言いにくそうにしていたから?」
「?じゃないよ」
ガツガツと食べていたはっちゃんは、が何も食べていないことに
疑問をいだいたのか、もぎゅりと喉を鳴らしてから、尋ねた。
「。の分の飯は?」
「あ、た、食べたよ。えーと、竹谷くん」
「いや、ハチいきなり、名前呼びとかおかしいよ」
雷蔵がいうことに頷く。
「なんか妹が似たような感じで、つい。悪いな」
「う、ううん。そんなの。なんか仲良しって感じで憧れる」
もじりと言った言葉が、彼女の背景を匂わせたのか、
みんなが沈黙して、俺に矢羽音を飛ばしてくる。
全部肯定したら、雷蔵がの両手で握った。
「じゃぁ、僕もちゃんって言うね」
じゃぁ俺も、俺もと続いたので、タンタンと少々大きな音で、
俺の横の椅子を叩く。
みんながこっちを向いた。
「、ここ、こっちに座るべきだ」
う、うんと、は困った顔から一変して安心した顔をして
俺のもとに来た。それがちょっと嬉しいような気がしたから。
「、今度は鮭が食べたい」
次を頼んどいた。
5
「手を繋ぐのが、次だって書いてあったの」
綾部の穴の中にいれば、はあの本の第三章を俺に見せた。
綾部の穴はいい、暑さを拭えるから。
少々汚れるのはしょうがない。それより、暑さを防ぐほうが重大だ。
穴を掘るなと埋めている用具委員には悪いが、
綾部は穴を掘り続けるべきだと思う。
「なるほど」
「なるほど」
穴にいる俺と、の横に俺がいた。
大体誰か分かる。
「ふひゃぁぁぁぁああああああ二人?」
そういって本を投げ出して、は尻餅をつく。
俺は本を取って、地上に出ると色々な顔をつくっては、
ばぁとをからかっている。
うひゃぁと驚いているを見て、三郎が活き活きとしている。
「面白い、私の変装で驚くくのたまがまだいたとは」
ふぅと一仕事したという顔をして、かいてもない汗を拭った。
それから、俺の持っている本に怪訝な顔をする。
「サルでも分かる恋人入門編?なにその本」
三郎は本を奪うと、苦虫を潰したような顔をした。
「・・・・キスは一ヶ月以上たってからぁ?」
「どうしよう。三郎。俺こういうルール知らなかった」
俺が真剣に言ったのに、三郎は無視した。
「これってどこにあった?」
「へ、あ、あの、ち近くないですか?」
たしかに近い三郎に、は三郎の顔を、見ないようにして押し返している。
「ああ、ごめんなんか見覚えがあるような顔してた気がして。
ああ、顔真っ赤だな」
と笑うので、
俺はとりあえず三郎を殴って、そのまま穴に落とした。
「私の部屋に置いてありました」
「それを疑わず使ってるのか?」
怪訝な顔をしている三郎に、俺の後ろに隠れたが答える。
「だ、だって、図書室に入ると、
怖い人が私を見るたび笑うんです・・・よ」
なんで?と聞く前に、近くにあったの手を握った。
「これでいいか?」
と聞くと、の顔が近いことに気づいた。
相変わらず、どこに売っているのか聞きたいほどの瓶底眼鏡と、
赤い顔、そしての髪は、真っ直ぐで、の人柄のような気がした。
「兵助いきなり過ぎないか?」
それと、私もここにいるんだけど?
とさっきより近い距離で三郎が呟いた。
「ありがとうございます」
「適応力半端ないな」
と三郎は苦笑していたが。
「なぜ、三郎も繋いでいる?」
「え?」
俺の繋いでいない方の手を三郎は握っていた。
どういう了見だ?と見ると、
飄々と答える気もなく、離す気もない三郎は、ぴゅーと口笛を吹く。
沈黙を破ったのは、だった。
「あ、分かりました。父母子の川の字。鉢屋くんは、子供なんです」
「いやなにそれ」
三郎が突っ込んだ。はいつの間にか両方の手を抜いて、
じゃーんと本を出した。
「サルでも分かる家族について中級編です」
俺と三郎は沈黙した。
「お前の部屋のぞかせてくれないか?」
他になにがあるのか、どこまでサル扱いされているのか
知りたいといえば、は赤い頬をもっと染めて。
「え、い、嫌ですよ。恥ずかしい」
と言った。
の部屋には、不思議が一杯らしい。
6
「勝者、くのたま」
先生が勝敗を言って今回の勝負は終わった。
上級生とくのたまの陣地を争う試合は、今回もくのたまの勝ちで終わった。
はぁ、と今回は作戦に自信があったのだけれどと思うものの、
近くにいた同じく参謀である6年の立花先輩がすごい顔をして、
ある一点を見ている。
そこには、音もなく歩く一人の女性。
ぴーんとまっすぐに伸ばされた背筋と、
機動性を考えられたとされる肩までの短い髪。
後ろにお供のくのたまを連れて、
少々つり目の彼女は、敗者には興味がないとばかりに、
何も見ず、独特の威圧感醸し出していた。
「女帝」
誰が言い出したかは分からない。
くのいち不動伝説を創り上げた彼女はそう呼ばれている。
ぴったりな名前だと思う。なにせ彼女は。
「相変わらず、凄い眉間の皺だな」
潮江先輩よりも深い皺が刻まれ、
全てを疑って生きているような顔をしていた。
「ばぁ」
三郎が、女帝の前に出て、しんべえの顔をした。
馬鹿と雷蔵が青い顔をしている。
女帝は三郎を一瞥して、何が面白いのか分からないとばかりに、
見続けて、
「何をしている鉢屋。女帝の前をふさいで邪魔だ」
そういって、お供のくのたまに退けられた。
「ピクリとも動きやしねーてか、しゃべんのあいつ?」
「奴を落とせる男っているのか?」
「デレデレな奴が想像つかない。てか笑ってる姿も想像つかない」
「鋼鉄の女か」
そう呟く俺と、三郎が口に手を当てて、何か考えていた。
俺達と一緒にいて雑談しているときだった。
ぴしりと殺気を感じた。
みんながバッと感じたほうを見れば、3人のくのたまが立っていた。
「さん!!ちょっと来て」
「・・・・・・はい」
は、バツの悪い顔をして、ごめんねと、俺の顔も誰に顔も見ずに、
背中を向けた。もちろん俺達は付いていった。
くのたま達は、なかなか腕のたつことで有名なくのたまだから、
ある程度の距離を開けなくてはいけなかった。
だから、会話すべてを聞き取れなかったけれど。
「うん。ごめんね」
「・・・・・・」
「ごめんなさい」
が謝っている姿だけは分かった。
その姿を見て、腹の奥底からじわりとした衝撃を感じる。
頭のてっぺんから、足の先までの一本一本の毛細血管が破裂しそうな、
なんとも言いがたい気持ちが迫りくるった。
「あれっていじめか?」
「だから友達いないとか」
はっちゃんの言葉に、雷蔵の言葉が重なる。
うーんと唸っているのは勘ちゃんで、
三郎はじっととくのたまを見ていた。
「何よ。あんたらのぞき見とか最悪なんだけど」
くのたまの一人がいなくなったと思えば、ここにいたらしい。
苛立ちを隠さない顔で俺たちを睨んだ。
だけど、怯まずはっちゃんが抗議した。
「おまえらのしていることのほうが最悪だろう?」
「・・・・・分かってる。だけど、しょうがないじゃない。
私たちは・・・・・弱いんだから」
そう呟いてから、くのたまは消えて、も消えた。
温かい軒下の中で、今日もくだらない話をした。
会話が途切れても、居心地悪くなく、
優しい沈黙に溢れていた。
「なぁ、」
「なに?」
彼女の顔は今日も瓶底眼鏡。
このごろ、ちょっと目があっても、赤くならなくなった。
慣れたということか。
そうだったら嬉しいと思いながら、言おうとした言葉を飲み込んだ。
「いいや、なんでもない」
何かあったなら、俺を頼れ。なんて言葉いえるはずなかった。
だって、俺がこうしていることは、を傷つけているのだから。
一番最悪なのは、俺なんだ。俺なんだよ。
拳をぐっと握りしめた。
7
バレないようにしてきたつもりだ。
私は、最初から、人よりも学習能力が上だったわけでない。
どちらかといえば、それは兵助に当てはまる。
だからといって、努力家だったわけでもない。
ただ鉢屋三郎は、その時に、どう動けば、ベストなのかの判断力が高かった。
それに加え、自分が一番生きる能力も早くに開花した。
からかうのが大好きな鉢屋三郎は、その能力を愛した。
愛したぶんだけ、上がっていく。
私の周りには人が集まった。
勝手に好意をよせてくるもの、悪意をぶつけてくるもの。
何が本当で何が正しいのか分からなくなるほどの差し出された手。
でも、私は運が良かった。
人を疑う前に、雷蔵に会えた、みんなに会えた。
人間嫌いにならずにすんだのはみんなのおかげだ。
だから、鉢屋三郎は、飄々とした性格でい続ける。
なにがあっても誤魔かせるように、いつでも逃げ出されるように。
みんなを守れるように。
上から太陽の光が眩しい。
「鉢屋くん。いつもの仕返し・・・です」
高くも低くもない声。
どもって、自身の弱気な性格が現れてしまっているが、いい声だと思う。
そんなは、綾部か七松先輩か誰が作ったのかは
分からないが私を後ろから突き落とし穴に落とした。
「もっとやってやればいいのに。は優しいな」
「ちょっと三郎はそこで反省しているといいよ」
友人の色々な声が聞こえて、それから遠くなった。
気配もしないから、どこかへ行ったんだろう。
いつもなら、すぐ出ていって、
私を一人にするとかいい度胸だなと言うのだけれど、今回は助かった。
腹を押さえて、汗の出ない顔で、深い息を吐く。
呼吸をするたびに、腹がいたんだ。
失敗した。まさか6年からの攻撃をくらうなんて。
こういうことは度々ある。
6年と5年の因縁というものが。
それに加え、6年の派手な人たちほどではないが、
目立つ私たちは、時にこういった標的にもなるのだ。
きつい太陽の光をすっと二つの丸い物体が隠した。
よく目を凝らしてみると人で、それはだった。
赤面症な彼女と目を合わせたのは、初めてのことで、
口を一文字にしている彼女は、
からかいがいのあって天然な彼女と違ってみえた。
ごくりと喉を鳴らした。
やばいと脳内で、赤いランプをつけて、音を鳴らしているのに、
私は丸い二つのレンズから目を逸らすことが出来なかった。
「鉢屋くん。怪我してるでしょう?」
「なんだ、いつも顔すら合わせないのに、分かるのか?ばぁ、
ほら兵助だ。これだったら、私を見るかい?」
怪我がばれているのは分かった。
そうじゃないと、人を避けている彼女が
わざわざ自分から私を穴に落とすという行動をしない。
耐えて耐えて耐えまくるのがだ。
だから、こういうことすれば、帰るかと思えば。
「め」
と指をつきつけられた。
目・・・レンズは私の顔を捉えている。
顔は、茹だっているのではと思うほど赤く、
指は震えていた。言葉も震えていた。
「触られたくないのは分かってるよ。私なんかに気づかれたくないよね」
じゃぁ、放っておいてくれよ。の言葉が出てこない。
一生懸命なのだ。
人と目を合わせることが得意ではない彼女が、必死で訴えていて、
それを遮ることで出来なかった。
「でもね。あなたの守りたい人たちが、悲しむんだよ。
心配かけたくないから隠しておいて、
その怪我でもっと大きくなったとき、彼らは泣くよ。これ、薬。
あとで、嫌でも保健室に行ってね」
渡された薬に、目を見開く。
厳しい眼つきで、傷ついた私に、同じものを落としていった人。
そんな過去を思い出して、彼女を見たけれど、
彼女はもう私から顔をそらしてそそくさと逃げるように、
どこかへ行こうとするから、手を伸ばした。
「待ってよ」
「なに?」
びくびくした彼女に、兵助じゃない、いつもの鉢屋三郎の顔で笑う。
「ここまでしといて、治療してかないの?」
「・・・・・私、不器用だよ?」
そう言われてされた包帯は時間をかけたわりには、綺麗じゃなくて
ところどころ緩んでいる。
「はっ、本当に不器用」
そう笑うと、彼女も少し笑った。
抜けてるよ。あんた。
薬をつっと指を這わす。部屋にある同じ薬入れ。
だから、この秘密は誰にも言ってやんない。
――――だから――――
「おーい、兵助。そんな目で見なくても、何もしてないぜ。
叫び声も聞こえなかっただろう?」
木陰からふっと兵助が現れた。
何も喋らないが、目は口よりもものをいう。
私はそんな兵助を嘲笑する。
「はははは・・・・・・ぎもーんその一。兵助はぁ、が好きなの?」
「だったら恋人になってない」
兵助は眉をひそめた。
「ぎっもーんその二。
と恋人になるのって任務抜きして好きなの?」
目が見開かれる。
知らないと思っていた?私は知っていたよ。
が、私たちの中に入ってきたときから、調べたんだよ。
「ぎっもーんその三。それっていつ終わる?」
私の顔、本物じゃなくて良かったって心から思う。
じゃないと、
「三郎惚れたのか?」
「さぁね?」
その答えなんてすぐバレてしまっていただろう。
8
「おはよう、兵助くん。あのね、今日は鮭にしたよ」
と、手を振って、が来た。
「えー私あのたくあん入なのが好きなんだけど」
そして三郎も来た。
「そ、それは運で当てて」
は、三郎に心を少し許したのか、少し顔が赤くならなくなった。
俺は、完全に赤くならないけど、三郎のは少しなっている
と違いを確認し、俺のほうがまだと、安心している。
いや、まだもなにもない。俺との関係は明日ゼロになる。
「じゃぁコレ・・・・・当たり」
「え、嘘」
「じゃああげるよ。はい」
「もが」
俺が意識を飛ばしている間に、三郎とがじゃれていた。
ざわりと、妙な気持ちが湧く。
「の食べる姿って、リスみたいだよな。ほっぺに詰めて、食べるとか」
「ごくん。鉢屋くん。誤飲しちゃうから、いきなり詰めないで」
「あ、これもどう?」
「もぐもぐもぐ・・・ごっくん。だから、ん。これは私のじゃないね」
「あ、分かった?貰ってばっかりってのは、悪いからね。
作ってみた。どう?美味しい?」
「美味しいです。鉢屋くんってもしかしなくても器用ってやつですか」
「掃除、育児、洗濯、料理まで全部できるよ。
正直、くのたまより上手い自信ある。なんなら、の部屋掃除してやろうか?」
「私の部屋ですか?うーん、入れないと思いますよ。
それより、兵助くん。それは、食べれないと思います」
困った顔をしている真逆に指摘されて自分が食べているものをみた。
食べ物をくるんでいる笹の葉だった。
どおりで、苦いと思った。
「兵助くんは、天然ですね」
「は兵助が天然だから好きなの?それとも顔が好みなの?」
「え、うーん。顔って言われても、大体みんな同じもんじゃないですか」
「「・・・・・・」」
二人同時にの顔を掴もうとした。
同時だったので、ぶつかって、
を捕まえることは出来なかった。
は俺達の行動に驚きが隠せないようだ。
「俺のこと、よく見て」
そういって、顔を掴もうとすると、三郎がぺいと払う。
「え、嫌ですよ恥ずかしい」
「この眼鏡の意味がないだろう。私の顔をじっとよく見て」
俺も三郎がを掴もうとした手を払う。
「おまえのだって意味ないだろう。雷蔵の顔じゃないか。それより俺の顔よく見て」
「え、急に、なんでそんなこだわるんですか?」
わたわたと逃げ腰のに、じりっとにじり寄る俺たち。
「どうやって判別してんだっていう話だ」
「え、足と声と髪で」
そうか。俺がこのごろ目があっていると思っていたのは勘違いか。
ふっと笑ってから、距離を短くする。
「はい、俺をよく見て。目があっていると思っていた俺が馬鹿だった」
「いや、この頃は頑張って、唇までは見れるようになりました」
「その眼鏡を外せ、意味がない」
「い、嫌ですよ。眼鏡ないともっと見えないんですよ」
ぎゃぁぎゃぁくだらないことで、俺達はじゃれあった。
そんな日も明日までだなんて思うことも忘れて。
ただ楽しんだ。
9
俺の任務は終わった。
一週間、と恋人になるは終了した。
しかし、
「兵助くん。今日は何しましょうか?」
俺の横にはがいた。
任務は一週間で終了。ここからは自由。
俺の選んだ自由は、何も知らさず、そのままでいることだった。
俺のいくつもの「ぴょーんときた」ような感覚が恋なのか分からないけれど、
彼女を傷つけるのも、一人でいさせるのも嫌だ。
最初会ったときと同じように日向ぼっこを楽しんで、
たわいのない話をしているときだった。
「感心しないわね。久々知兵助」
「・・・・・誰だ?」
「あら、分からない?だったら言ってあげるわ。
私は、あなたに任務を頼んだものよ」
長い黒髪をなびかせた、タレ目で胸がでかい美人のくのたまは、俺に微笑んだ。
任務という言葉に、意味に気づいたけれど、何も知らないは、頭を捻る。
「に、任務?」
「ちょっと考えれば分かるでしょう?名前指定で日数指定なんておかしいって」
ふふと、俺達に近づく。
俺は自然と、をかばった。
その様子が大変気に入らないようで、眉をひそめる。
それから、狂ったように笑い。を指差した。
「。あんたはそこの男に騙されたのよ。
一週間、あんたを恋人にする。っていう色の授業の任務で
こいつは動いていた。そんなことがないと、
あんたを、恋人にする男はいないわ」
温かな日差しが極寒へと変わった。
違うと叫びたくても、何も違うことがなくて。
俺はたしかに最初は任務だったかも知れない。
だけど。
「」
縋るような眼つきでを見た。
でも、は俺を見ずに、くのたまを見ていた。
「なんでこんなこと」
「あははは、泣きなさいよ。ほらぁ。なんで?
決まってるでしょう?私、あんたのこと大っきらいだからよ。
傷ついて、傷ついて・・・私を憎みなさい」
最後の言葉のあと、すぐにくのたまの姿が消えた。
の姿も消えた。
ただくのたまのいた地面に、クナイが何本も刺さっていた。
「っ、は離して」
「・・・・・・」
「離しなさいって言ってるの?」
「離したら、攻撃される。
私を知っているなら、発言を慎むべき」
くのたまを抱いていたのは、女帝だった。
俺は、女帝の声を初めて聞いた。
はどこにいったのだろう。という気持ちと、
まさかの気持ちが混じりあい心臓の鼓動が大きくなった。
女帝の声はの声によく似ていた。
「・・・・・・・・あーもう。駄目ぇ」
くのたまが女帝に抱きついた。
「さん、抱いて!!!」
この一言で、一生懸命否定していた出来事が、イコールで結びついた。
は、女帝だった。
「だから、嫌なのよ。さんなんて、
女だって分かってるのに、なんでそんなカッコイイのよ!!
もう女でも構わないとか言っちゃってよ。
男なんかになびかないで、久々知兵助死ねばいい。
すぐさま、私を女に」
はぁはぁと息があがっている女に微動だにしない女帝・・・いや。
色々驚くことが多くて、パニックになりかけたが、
目の前のやばそうな事実に、突っ込んだ。
「違う意味でそろそろ離したほうが良さそうだ」
10
「ご、ごめんなさい。騙していたわけじゃないんだけど、どういっていいのか」
眼鏡をかけたは、正座で下を向いている。
大嫌いといいながら、本当はめちゃくちゃ大好きだった
くのたまの女はの腕にすりついている。
さっきの攻撃は、くのたまらしい。
女帝であるへ言葉の暴力を加えたものへの愛の鉄拳らしい。
いじめだと思っていた彼女らは、女帝の親衛隊みたいなもので、
忍たまとの関わりを心配してくれていただけらしい。
色々な事実にくらりとしたけれど、一番重要な部分を聞いておけないと
倒れるわけにはいけない。
「は、二重人格なのか?」
「ち、違うの、あのね、私ご覧のとおり、赤面症酷いでしょう
体技の時でも、潜入したときでも、真っ赤になっちゃって、
使い物にならないから、メガネをとることにしたの」
そういって、は眼鏡を取った。
眼鏡をとったは、女帝の顔だったけれど、
眉間に皺が寄っておらず、優しい顔つきをしていた。
「実習とか、動くのは全部それでやってて、
話かけられても、誰か分からないから喋らないしで、
そんなこと続けてたら、メガネ外すとそういう風になっちゃって。
一種の刷り込みみたいな感じで、記憶とかもちゃんとあるし、
私なのはかわりないんだけど、こんな感じだから。
慕ってくれる人はいても、友達はいないし、
恋人だって・・・・・・ごめんね。兵・・・久々知くん」
名前が直された。
たったそれだけで、俺の胸に空白が出来たような気分になる。
「ちゃんと分かってたんだ。おかしいって。
そこを追求しなかった点で、私は弱い。
私は、あの時、強くなるって決めたのに。
どこかでそういうことにならないかなって思ってた。
人の温もりを求めるなんて馬鹿だよね。鋼鉄の女なのに。
久々知くんが、私のことで巻き込まれている可能性を無視した。
ごめんなさい。謝っても謝りきれないね。
こんな最低な奴は、すぐに忘れちゃってね」
そういって、眼鏡をかけて去ろうとするに声をかけた。
「ま」
が。
「待てよ」
違う声に邪魔された。
「はーい。こんにちは、鉢屋三郎でーす」
いついたのか。おどけた雰囲気で三郎が語り始めた。
「、私のこと気づいてたでしょう?
私には口止めしなくていいのかな?」
その言葉に、赤くならないは答える。
「だって、あなた私のこと途中から気づいていたでしょう?」
その言葉に、にまりと三郎が笑う。
その顔が、俺よりも三郎のほうが上だと優越感のあるようにみえたのは、
俺の誤った認識かもしれない。
「そうそう。私は気づいたんだ。嬉しい?」
「嬉しい・・・というよりも驚いたよ。
と、女帝を結び付けれる人はいないから。
現に立花仙蔵とかも気づかないのに」
ふふと笑うに、三郎がばぁと手に薬を出した。
「は、ちょっと抜けてるからね。
ほら、これ前くれた薬。これは保健室にはないし、
個人で作ったものでしょう?昔、女帝にも同じもの貰ったからね」
そう言われて、は、気を付けなくちゃと苦笑した。
「ねぇ、さん?」
「女帝への言葉じゃないの?」
「同じだからどっちでもいいけど・・・お願い聞いてくれるよね?」
「条件による」
の雰囲気はいつものではなく、女帝の雰囲気だった。
威圧感が半端ない。だけれど。
「私の恋人になってよ」
その三郎の言葉で、空気が変わった。
「久々知兵助何してんのよ」
二人の睨み合いのなか、くのたまが俺をつついた。
「何って」
「盗られるわよ。あの男に。私あいつ嫌いなのよ。似てるから。
似てるのに男ってだけで、奪えるあいつが憎い」
「男とか女とか意味があるのか?」
疑問を口にすれば、くのたまは、胸を揺らしながら、手を振って怒った。
「あるに決まってるでしょう。
さんにとって女は守るべき対象で、そういう対象ではないの。
彼女に、守られたいっていう子は多いけどね。
最初は夢見心地、次に気づくのよ。対等じゃないってね。
いくら愛しても、彼女の愛は女に平等に別けられているから。
それだけじゃ嫌なのよ。女は欲張りだから。一番になりたいの。
彼女と対等になるには、守れるってことだけよ。
でも彼女は、クノタマで一番強い女帝で、私たちが守るなんて無理でしょう?
彼女の体みたことある?
いくら守った気でいても、結局守られているのよ。私たち。
男だったら守られたのに、悔しいのよ。悪い?だから私は男が嫌い」
最後の方は涙ぐみながらいったくのたま。
彼女がなんでこんなイタズラにしては悪質なものをしたのか、
分かった気がする。要するに彼女は、男に嫉妬しているんだ。
を盗られたくないから、盗られる前に、嫌な記憶を埋め付けて、
いかせないようにしようとしていたんだ。ようやく合点いった。
だけどと俺は思う。
「本当に、そうかな?」
「なによ」
あんたは男だから分からないくせにと目で訴えてくる。
俺は、のほうへ足を向けた。
「女だからって男だからって、守れるかって守れないかって
そんな難しいことどうでもいいことだろう。
全部は、ぴょーんときたかこないかで全部かたがつくと思う」
何を言っているのか分からないという顔をしたくのたまを放って、
二人の間に割入って、俺は二度目の告白をした。
「今度は任務じゃない。。もう一回、俺の恋人になってくれ」
は俺と三郎を交互に見て、ふっと力を抜くと。
「いいよ」
と答えた。その答えに、俺と三郎は顔を見合わせる。
「「それって、どっち?」」
と尋ねると、は不思議そうな顔をして、顔を傾けた。
「???恋人って、4人までOKなんでしょう?だから2人ともいいよ。
私、2人とも嫌いじゃないもの」
「「・・・・・・・・」」
沈黙してから、すぐさまくのたまを見た。
奴は、笑いを耐えていた。
睨みを強くすると、はーと息を整えて、
分かった分かったと言って説明し始めた。
「睨まないで頂戴。しょうがないじゃないの。
女帝よ。くのたまの最後の守りで要なのよ。
守られている私たちは、他の面で、守ろうとしたのよ。
その結果、恋愛から、破廉恥な部分の情報には凄く疎くなったのよ。
ピュアなのよ。エンジェルなの!!
だから、時には、こういった間違った情報を鵜呑みにされる。
恋人も、男の友達だと恋人になるぐらいに思ってるわ」
言われた言葉をリピートしてからを見れば。
「え、恋人って、恋人になってくれって言った男がなれて、
4人までOKの、友情の最高形態でしょう?え、違うの?」
どうやら本当の恋人までは程遠いことを知らされた。
俺も三郎も。
ぴょーんときた【完】