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ナルいち




私と私は相思相愛。鏡を見れば美しい私。
「ああ、なんて美しいんだ。私、愛してるよ」

そんな私の元に朗報です。
なんと、とても綺麗な人が学園に来たようです。来た方法などはどうでもいいのです。
彼女は綺麗らしいので、綺麗な私は綺麗な人を見に行くことにしました。

「わー、綺麗だぁ。なにこれ。肌とかどうやってお手入れしてるの?
髪の毛もサラサラー。わわっ、睫毛長い。すごーい」

私は忍たまの群れなど臆しない。彼女が私に触れられてビクリと体を硬直させたのも、
他の忍たまの視線などどうでもいい。

「これは、いかん!!私も努力しなければ。日々精進 」

と駆けていったのを誰もポカンと見ていることしか出来なかった。

「な、なに今の」


「すみません。美里さん。あれは、そういう病気で、そういう性質で」

は、滝夜叉丸以上のナルシストだよ」

4年生のアイドル集団の綾部の発言に
あー言っちゃったとの心の声なんて美里さんは聞こえもしなかった。





「先輩。知ってますか。綺麗な人がいました」

と4年くのたま  は目をキラキラさせて言った。
そうくるか。と考えを顔に出さずに、彼女の美里さんへの感情を吐露させる。

「どうだったのだ」

「はい、肌が良かったです。ツルツルで、何を使ったらああなるのでしょうか。
仙蔵先輩よりも綺麗でしたね。あ、でも髪をはうーん、先輩のほうが上です。
凄いですね。先輩」

キラーン、キラリン。
綺麗な眼で私を見ないでくれ。
やっぱりお前は、くのたまの中でも珍しい。いいや女の中でも珍しい種類の部類だ。

「先輩、今度新しい椿油を貰うことになったのですが、一緒にどうですか?」

。お前は嫉妬という言葉を知らないのか?」

「知ってますよ。嫉妬は自分の愛する者の愛情が、他の人に向けられるのを恨み憎み、
自分よりすぐれている人をうらやみねたむことですよね」

「嫉妬はないのか?」

「?綺麗なものは綺麗、ではいけないのですか?負けているならば、日々精進あるのみ。
それに私は私以外を好きにはならないので、相思相愛です」

「それは、それは」

狂っているといえばいいのか、真っ直ぐだといえばいいのか分からないが。

「・・・・・・。ここに饅頭がある。一緒に食べようか」

「わーい」

私は、が気に入ってる。
綺麗な人の存在よりも、彼女がそれにどう反応するかの方が気になるぐらいには。




「私は、美里さんのことが好きだ」

なぜだか、滝の愛の告白の練習台に?
ああ、私が美しいからだな。
鏡を取り出し、うっとりタイムにでも入ろうと思えば、

「無視するな!!」

「よし、。僕も美里さんが好きなんだ」

三木にもされた。

「僕も好きだよ」

「じゃぁ、私も」

なんだろう。これ?それよりも、私の私により私のためだけの時間を邪魔しないで欲しい。

「感想を述べよ」

「うーん、あや君。私は感想を述べる意味がよく分からないのだけど」

正直、あ、そう。だから何?
だけど。感想を述べなくてはいけないらしい。
だって、彼らはなぜかぐるっと私を囲んで真剣な表情をしているのだ。
私の一番は私だが、私の五本の手に入るくらいに彼ら、友を好きなのだから。
頭を悩ませた。そして、一つの結論に辿り着いた。
そういえば、この中で相思相愛の相手がいるのは私だけではないか。
なるほど先輩としての意見を聞きたいそういうわけだな。

「ならば、答えよう!!君たちは美里さんとやらを好きなのは分かったけれど、
好きなところ10個言ってみて」

と、言えばベラベラ出てくる。
うん、ちょっと滝夜叉丸、ロマンチストだとか要らない情報も分かった訳だが。

「では、嫌いなところは?」

長くなりそうなので、途中で割り込んで聞く。ああ、私の美しい声は、今日も良好だ。

「なんで、嫌いなところ聞くの?」

「おや、変なことを聞くね。タカ丸さん。
好きなところしかないなんて、そんなわけないだろう。
嫌な所も見なければ、全然その人を見ていない。それは好きじゃなくて憧れというんだ。
そして、本当に好きな相手というのは、嫌いなところも、好きなのだぞ」


「うーん、僕ね。ちゃんが、話してる途中で、鏡しか見てないとこ嫌い」

「私は、が穴にあまり落ちないところ嫌い」

「ああ、それなら僕はが人の目を気にせず恥ずかしいことをするのが嫌い」

「鏡を見るところが私に似ているのが嫌い」


嫌い。でも、そんな君をひっくるめて好きです。とは、
嫉妬すらしてもらえない彼らには言えないけれど。
憧れと好きは違うんです。違いは知っていましたが、言われてはっきりしました。
各々言った言葉の後なにか考え込んでいるようです。

でも、まずは。

「さすがにへこむ」

彼女を慰めましょう。





「あー土井先生。また練り物残してる」

「あ、あとちょっと待ってくれ。絶対食べるから」

「もう、いいですよ。秘密で食べてあげますよ」

「えっ」

その言葉に嬉々とした。なんて優しい女性なんだろうと思った。
お願いします。の言葉は。

「よっし、よくやった。えらい!!」

の言葉で掻き消えた。

「恥ずかしい行為をするな!!皆見ているじゃないか」

「知らないのか。三木。これはな。視線を集めて見られていることで自分を意識し
美しくしている特訓なのだ」

「えらーいにはもう一本ナスをドーン」

「あ、あああああや君。私はもう今回の苦行は終了した。よって、よく我慢した偉い私を
一歩好きになるのでいいのであって、あああ、あや君。増やさないで。止めてぇ。
私、泣く。真面目に!!」

今年の4年生はとても目立つ集団だ。
しかし、 の言葉が胸に刺さる。あんな小さな子供ですら、分かっていることを私は。
ぐっと唇に力を入れて、

「いいえ、大丈夫です。私が食べます。私もちょっとぐらい自分を好きになりたいんです」

このままではただの格好悪い大人だから、最初の小さな一歩。
天敵を口の中に入れた。

「ぐぅうう、水みずぅうぅ」

「ほほう。土井先生も頑張ったな。よぉし、。頑張れ、これはナスじゃない。ナスじゃなくて、
紫色のちょっと触感柔らかめのそう、あれだ。かたつむり」

「余計、食えないだろう!!」






夕日は嫌いだ。真っ赤になった手が怖いから。
前よりも夕日が嫌いだ。
真っ赤になった手が優しく穏やかで戦など知らない少女を穢してしましそうだから。
夕日を隠そうと手をかざしたけれど、大きすぎて隠れない。

「やはり、私が一番綺麗に見えるのはこの角度のこの風景だな」

シリアスがただ崩れだ。

「おや、こんばんわ。貴方も綺麗になれる場所をお探しで?」

最初から苦手だと思ったけれど、喋れば喋るほど苦手意識が強くなる。
 はそういう人物であって、できる限り関わらないようにしていたのだけれど。

「私は、夕日好きですね。この今日も終わるんだなという儚さが私の中の美を
照らし出してくれるから」

「君はいつも自分のことばかりで、楽しそうだね」

僕は今、毒を吐いた。しかし、 は別段なんともなく僕に言い返した。

「先輩は違うのですか」

「僕は違うよ。周りのことだとか、色々ごっちゃごっちゃ。迷うし」

僕は何を言っているのだろう。親しくもなく、親しくしたいわけでもない。

「君みたいな簡単な構造の頭なら、こんなこと悩まないんだろうね」

傷つけたいわけでもないのに。

「・・・・・・美里さんには触れないし本当、さんざん」

沈黙が重い。確実に傷つけてしまった。どうしよう。
本音が出てしまった。どうしよう。ぐるぐるぐるぐる。

「なぜ美里さんには触れていけないのですか?」

「だって、僕の手はもう汚れて血だらけだから、彼女が汚れちゃうから」

「変ですね。とてつもなく変です」

変といわれて、何かが爆発した。

「っ君に僕の気持ちがなんで分かるの!!勝手なこと言わないでよ」

うつむいた顔を上げれば、自らを美しいと称し自らが自らを美しく見せる場所と言っていたのも
分かるような がいた。

「気持ちは分かりませんが。私は忍びであることを自ら選択しました。
それに後悔も何もなく、血で汚れることも体が汚れることも承知でなりました。
だから、恥じることなく。正々堂々と私は忍びですと叫べます。
もし、私が遊女になることを選択したとしても、私は遊女であると誇りを持ちます」

なんで、どうしたら。

「どうしたら、君みたいになれるの」

「私は、私に好かれるため日々一生懸命です。
だから、私は私に愛されるための努力をし続けるのです」

にっこりと笑う彼女は確かに自分に好かれるように生きている人だった。
苦手なのは、彼女の傍にいると、自分がいかに自分が嫌いか分かってしまうからで。

「先輩は、忍びであることを後悔しますか?」

頭に浮かぶのは、先輩 後輩 先生 兵助 タケ・・・・三郎。
この学園に来て色々なことをしれて辛くないといったら嘘になるけれど、
僕はこんなに楽しいときを知らない。

「ううん。後悔してない」

「では、もう触れるでしょう!!」

高らかに言う彼女から、苦手はなくなっていて。

ちゃん。僕と握手しない?」

「ええ、喜んで、雷蔵先輩」




どうしてかしら。私は綺麗だし、可愛いし性格だって悪くない。
女から嫉妬されるのも前の世界で慣れっこ。
私が綺麗だから、しょうがないの、それにナイトはいくらでもいて私を守ってくれる。
そのときの女の顔の醜さにああ、汚らしいとぞくぞくと快感を覚えていたの。
しょうがないわ。女は生涯友達にはなり得ない存在なの。
友達と言って、可愛い服を着て化粧をして武装するのは、男のためじゃない。
女同士の戦いだから。女は敵にしかなりえないの。

それなのに、どうしてかしら。

不可解だわ。最初は4年生。とても可愛いらしい子達。
タカ丸さんは髪を綺麗にしてくれるから気に入っていたのに。
今は、違う子の髪を結っている。私の時よりも楽しそうに。されている彼女の周りには
私にいたはずの4年生の子達。

「うーん、私をいかに美しく見せる髪型はどれか」

「僕的にちゃんは、これかなー」

「私、おろしたときが好き。なんかエロイ」

「な、喜八郎!!何言っている。不潔だ」

「僕とおそろいとかはどうだ?」


土井先生を落とそうとしたら、邪魔をするし。
6年生に嫌われていると言ってあの子をどうにかしようとしても。

「ありえない」

で終わるでしょう。6年生は仙蔵くんの言葉が大きいから、仙蔵くんに
気に入られているあの子は役得だわ。

5年生で私に参っている雷蔵くんにしようとしたけれど、彼は最後の最後で、
私のナイトにならなかった。私を一途に思ってくれなくて、周りの友達を大切にし始めた。
それに、いつのまにかあの子を名前で呼ぶ雷蔵くんがいたからどうしようもないわ。

本当に邪魔な子。
どうしてかしら。私よりも綺麗じゃないのに。
あの子は私より可愛くもなくて性格だってナルシストで最悪なのに。
どうしてかしら、彼女の周りに人が集まるのかしら?


だから、直球勝負に出るわ。
ポロリ涙を出せばナイトがざわめく。

「どうしたんですか?」

「羨ましい、私もさんみたく笑えれればいいのに」

「帰りたい」

「私はこの世界のものじゃないから、一人ぼっち」

「悲しい、寂しい、辛い」

「帰りたい」

ナイトたちは、私の言葉に反応して、すぐさま実行。
 をつれてきました。クス、クス、クス。

 お前いい気にヘラヘラ笑ってんじゃねーよ」

「なんだ?私が美しいからって嫉妬か?悪いが今流行小物大会中なので、失礼していいか?」

「はっ、誰がお前みたいなブサイクに嫉妬するかよ。
俺が言いたいのは、お前みたいなブサイクが汚ねぇ面で笑うことで、美里さんが泣くんだよ」

「ブサイクだと?」

「そうだ、お前は醜い」

「顔をいくら化粧で隠したってその醜さは消えねぇ」

「髪だって、いくら頑張たって美里さんみたくなれねぇよ」

「お前が一番綺麗に見える髪型はな、全部なくしちまうことだろうよ」

アハハハハハハと笑う。彼らに私は止めましたが、心の底では笑ってました。
その通りだと、笑ってました。意気消沈してできるだけ、部屋から出てこなくなる姿を
想像して笑みを隠すので精一杯。

でも。

「そうか、私は醜いか。しかし、そんな私も良し!!」

彼女は笑いました。

「いかれてんじゃねぇか。お前」

私もそう思います。




「相思相愛な私だからな、綺麗じゃなくても愛せるさ。だが、綺麗であることを目指しているのだから
綺麗になる努力はし続ける。化粧消えない?常等。髪はなくせ?常等。
笑顔が醜い?ふふ、しかし私は自分の笑顔が一等好きなのでな」

と、笑う彼女にぞぞっとしました。しまった。
慌てて周りを見るとやはり何人かが彼女が一等といった笑顔にやられています。

「それにしても、私の笑顔を見てなぜ美里さんは泣いたのだ?」

「う、そ、それは」

「帰りたいって、一人ぼっちで、お前の笑顔でそう言うから」

ああ、駄目だ。
冷静になればおかしいことに気づかれてしまう。
疲れるけれど、しょうがない。

「だ、だって、羨ましいんです。さんは皆に好かれて、私も皆に好かれたいけれど、
さんみたくこの世界の人ではないから隔たりを感じてしまって、
だから、私。こんなことになるなんて思わなかったの。
私、本当は帰りたいってずっと、ずっと思ってて」

翻しそうなナイトを味方につけなおす。良かった。これで私は大丈夫。

「不思議だ。私は美里さんが帰りたいとは思っても見なかった」

「え?」

「帰りたいのならば、なぜ自分が現れた場所に訪れない?
帰る方法を捜し求めに、外へ出ない?保護されているというならば、
せめて図書室へ行かない?隔たりなんぞ。あるのか?
ここにいるやつらはみんな美里さんが好きだぞ。
隔たりを感じるのは美里さんが作っているからではないのか?
隔たりをなくならせたいのならば、ここの世界を受け入れればいい」

ああ、無理だ。彼女を負かすことなんて出来ない。
綺麗だもの。とっても輝いているわ。負けね。私。







「もーいいわ」

「美里さん?」

「もーいいの。皆さんありがとうございました。私はただ単純に彼女が邪魔だっただけなんです。
私、みんなから愛されたいのに、彼女は半分取っていっちゃうし。
綺麗だ。なんだっていっているけれど、皆本当は珍しいだけでしょう。
私は、綺麗でもなんでもないわ。偽って愛されたかっただけなの。
心の中なんて凄いわよ。優しいなんてウフフフ、優しくみせてるだけなのにひっかかるの
おかしい」

「美里さん止めてください」

「綺麗なこといえば動揺するんだもの。忍びに血なんてつきものなのに、
痛いですね。とか言えば、変なの優しすぎるって何?
誰か私をその言葉以外で私を言ってみせなさいよ。綺麗とか可愛いとかそれ以外で」

ああ、みんな離れていくのが分かる。でも、もういいわ。私は負け犬なのだから、
思いっきり惨めになりたいのに。

「そうだな。私としては、皆に好かれるよりも自分自身を好いてあげようだな。
美里さんは人のことを気にしすぎる顔色ばかりうかがっていて自分を愛してない。
愛されているのに、満足できないのは自分を愛してないからだろう。
相思相愛ではないのだな?よし、美里さん。相思相愛を教えよう。
なに美里さんのようにそこまで人を見れる器用さならすぐに覚えられる。
隔たりなぞ気にしなくなる。
ああ、それと私は美里さんの笑顔がみたい。女は一等綺麗なのは笑顔だからな」

女は敵なのよ。そして私は負けたのよ。貴方は私を貶める権利があるのに。

「おお、泣いている姿も綺麗だ!!」

「うわーん、ばかあぁぁぁぁぁぁぁ。このナルシストバカァァ。うわーん。うわーん」

子供のように泣く私に周りがドン引きよ。けれど、貴方は綺麗だというのね。

「こわいよぅぅぅ、だってこの世界しんじゃうんでしょう。私、しにたくないよぅ。あいされたいよぅ」

うわーん。

そうね。嘘泣きで泣く私よりも好きだわ。
とてもすっきりするし、いいわね。こんなのも。

「よしよし、一杯泣いたな。では、笑おうか」

「泣いてすぐに笑えるはずないでしょう。馬鹿ナル」

「そうか?今、美里さんは笑ってる。その顔はいい。一番綺麗だ」

本当は嫌いな言葉のはずの綺麗も、ストンと落ちていきます。
そして、私は笑うのです。

「当然です。私はお姫様だから」

愛される存在なんだから。






「美里さん、変わったな」

「うん」

「前は、綺麗で可愛くて優しかったけど、自由奔放になったというか。
儚さは消えたというか。ああ。そうかお前のせいだな。

「なんだータッキー。どこが悪い」

「なんだタッキーって」

「美里が、滝の名前を聞いて、タッキーって何度言いかけたか。って笑ってたよ。
眉毛濃い、タッキーって」

なななな、って顔。面白いなタッキー。

「正直に生きて、自分が好きになったんだ。何が悪い?」

じとっと睨まれる。なんだよ。本当に。

「なぁ、聞きたかったんだが、お前とお前は相思相愛なのだろう?
そこに誰か入る余地はないのか?」

「は」

二人の間にバスンとバレーボールが降ってきた。

ぃー。一緒に遊びましょう?まさか、断らないわよね?」

美里。黒いな。だが、そんなお前も綺麗だ。
とコクコク頷いて、仲良くなったくのたまの元へ走る。
手を繋いで、美里がこちらをキッと睨んで、ふて腐れた顔で言う。

「まだ、のままでいいの!!」

「??うん」

一応、気迫負けで頷いた。相思相愛の間なんて、忘れるほど、
美里とくのたま。途中乱入で七松先輩とか色々な人が出てきて楽しかった。





「私と私は相思相愛。隙間なんぞない」

って言葉は、いつか消える日がくるかもしれない。









2009・11・18


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