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妹だって





目があった瞬間分かった。
ビリっと体に稲妻が走ったから、ああ、これが恋なんだなって、
相手も同じで、大きく目を見開いて私に笑いかけた。
一目惚れだった。相手も私に一目惚れだった。
それって完全な両思い・・・だと思うでしょう?
私はLoveで、彼のもLove。
英語に変えても意味が変わらない思いなのに。

「なんて理想な妹像」

どうしてだろう。前に、妹がつくだけで、
こんなにも打ちひしがれる思いを感じる。
私は、ちょっと童顔で、ちょっと身長が低いだけで、
好きな人を、「おにーちゃん」と呼ばなくちゃいけない。
私の恋は、一瞬で砕け散った。



「・・・おにーちゃん」

「なんだい。

「暑いから離して」

そういえば、忍たまで、5年ろ組の不破 雷蔵の顔をした、
鉢屋 三郎は、ガーンと音を声でいい、
足を折って手を地面につけ分かりやすくらいに落ち込んだ。
でも、落ち込みたいのは私の方だ。
なにがどうして、好きな相手をおにーちゃんなどと呼んで、
抱きしめられているのに、複雑怪奇な気持ちを抱かなくてはいけない。
微笑ましそうに、くのたまでも人気な5年グループがにこやかに見ている。

ちゃん、三郎が僕のお菓子無断で食べたんだ」

雷蔵先輩の言葉で、一睨み。

「三郎が俺の顔で、下級生を脅かした」

八左ヱ門先輩の言葉で、目に力を込め。

「三郎が豆腐を持って、俺の顔で下級生を襲ってた」

兵助先輩の言葉で、こっちをじっと見つめてくる反対方向を見た。

「三郎が、うーん・・・ウザい?」

勘右衛門先輩の言葉で、哀れんだ。
ちらりと、見てみれば、アセアセとそれはだなと、言い訳を口にする三郎先輩。
もとい、おにーちゃん。
ちなみに、この名前は、出会い頭に、
おにーちゃんって呼んでくれないと死ぬと言われて、
好きが強かった私が頷いてしまい今までこの名前を呼び続けている。

「おにーちゃん、みんなに迷惑かけると、嫌いになるよ」

「わ、分かった。もういたずらしない。だから、嫌わないでくれ。
に嫌われたら、おにーちゃん。死んでしまう」

早いこと決着をつけたい。
だけど、二人共愛情には違いないから、どうしようもない。
私がおにーちゃん以上に好きな人を作るしかないのだと思う。
またぎゅっと抱きしめられて、私はさっきまでの決意を忘れ、
ぬくぬくと暖まってしまう。

ちゃん。三郎が、また恋人増やしたんだけど」

そう告げ口する雷蔵先輩に、私は笑えているだろうか。

「おにーちゃん。、何回も言ってるけど、
本当に好きな人が出来たとき、そんなんじゃあ誤解されちゃうよ?
ちゃんと、一人を好きになって」

それか、この傍若無人でどうしようもないこの人が本当に愛する人を作れば、
私だって諦められるのだろう。







私は用具委員だ。
4年生だから、くのいちでも、委員会に所属しなければいけない。
今年が終われば来年は入らなくていいのだからと、嫌われないよう
愛想だけは売ってきたつもりだ。
だけど、まさか、倉庫で、委員長こと食満留三郎先輩に襲われるとは思わなかった。
好まれているのは知っていたが、私の知っている先輩と違う。
だから、遠慮なしに、首を狙わせていただいた。
一発で気絶した先輩の下からどうにかはいあがれば、扉のところで、
にこやかな笑顔をしている善法寺先輩。
不運としか情報がない先輩だけど、彼等の長屋に連れてこられた。
にこにこ笑っている姿が、似非臭い。不運が、苦手な人物だと
認識を改めたところで、私は善法寺先輩に問いた。

「で、どうしてこんなことになったんですか?」

「君って鉢屋といるときと雰囲気違うよね。
でも、良かった。留さんを強姦魔って言いふらさなくて」

「いえ、言いふらしたいのをぐっと我慢しているんですが
あなたを強姦魔と言ったほうがいいかも知れないと計算中です」

「やめてよね。僕はロリコンじゃないから」

「二歳差をロリコンという人の神経が信じられませんけど、で、善法寺先輩。
なんで食満先輩はいきなり私を性的な意味を込めて襲ってきたか教えてください」

「うん。間違って、僕特性の薬を飲んじゃってね」

ぐだぐだと長い作り工程を自慢げに話した後、ようやくその薬の名前を、言った。
どうやら、惚れ薬と言うらしい。

「・・・それ、どこにおいてました?」

「留さんのお菓子の横だけど?」

「はい、完全実験体にしましたね。あなた最悪です。私、善法寺先輩が
動物にしか欲望を感じず、その行為を人に見られるの大好きな変態だって言っておきます」

「ちょ、ちょっと待ってよ。強姦魔よりレベルアップしちゃってるよそれ」

「疑わしいと思ってたけど、やっぱりそうだったの。ほら、見て、見てって鼻息荒くして、
気持ち悪いし、怖いで、おにーちゃんに言えば
確実に一発で広がりますから、間違って伝わりませんよ。大丈夫です」

扉に向かって出ていこうとする私の袴を善法寺先輩はしっかと掴んでいる。

「なにが大丈夫?鉢屋に言うのは、やめて、マジで広がるから、
運が悪ければ、勤め先とかにも言われるから!!」

「ああ、運が悪いの有名ですね。私はそれだけじゃなくて、街角で、
ペットを隠されるくらいには広まるんじゃないかなっと思ってますけど」

ふっと笑ってやれば、ようやく善法寺先輩は、青い顔をして叫んだ。

「やめて、謝るから!!」


一段落して、お茶を飲めば、じとりと睨まれる。

「・・・見かけと違って、怖い子だね。君」

「あなただって似たようなものじゃないですか。で、なんでこんなことをしたんですか?」

「え、だって留さんが君のこと気に入ってるって、ノロケ聞くのが煩わしくて」

「・・・・・・第三者に言われる告白ってどんな気分ですか?」

後ろから感じれた気配に言うと、留さんこと、食満先輩は、
怒りをあらわに、拳を鳴らしてる。

「おう。殺してやると思ってる」

「あ、目が覚めたの留さん。よかったね。今思いが通じたところ」

「伊作、大丈夫だ。墓は立派なものを作ってやる!!」

食満先輩と善法寺先輩の戦いを見終わる前にでていく。
つまりところ、惚れ薬によって、
ちょっと気になる後輩ぐらいな私に、惚れさせやがったのだ。あの不運め。
ああ、でも、保健委員じゃないのがおかしいくらい私のほうが、不運な気がする。






「すまない」

「ここで謝れって、誰に言われました?」

「俺は、お前を傷物に。この責任は取る」

食堂で、いきなり食満先輩に頭を下げられ、謝られた。
私の質問をスルーされたが、
どうしてこの人目につきやすく噂が広がりやすいところで謝罪しているのかは、
横で顔に怪我をしている善法寺先輩のせいな気がする。

「いえ、いいです。遠慮しま「?」」

遠慮しますの言葉を最後まで言えず、後ろから、おにーちゃんの声がした。
まずいと冷や汗が出るよりも先に、さっと食満先輩から私を隠した。

「どうしたんだ?この人はロリコンで、ショタコンだから
近寄っちゃいけないっていっただろう?」

「おにーちゃん。あの」

あの、この人一応委員長なんで、近寄らないは無理です。
それと。

「妹さんを、俺に下さい」

空気を読まない先輩に、空気が固まった。

「傷物にしたらしいよ、件名な判断だよね」

ここで、なんで余計なことを言う善法寺!!
もはや先輩なぞつけるか。妹キャラを崩して、あいつの頭に豆腐の角ぶつけて、
息の根を止めてやると、善法寺を掴む前に、
おにーちゃんが、食満先輩の首元を掴んで、吠えた。

「なに私の妹に手を出してんだぁぁぁ!!!」

すごい殺気だ。しかも、片手にクナイを持って、完全に首を狙っている。
こんなことで、殺されては寝苦しくてしょうがないと、クナイの手にしがみついた。

「未遂だから、出されてないから、クナイをしまって!!おにーちゃん」

「かばうのか?」

殺気がこっちに向かう。

「違う、事実無根だよ。私のプライドのための訂正だよ。
それに、どちらかというと、薬でなっただけだから、
飲ませた善法寺・・・先輩のほうが悪いよ!!」

殺すなら、あっちにしろと誘導したが、

「僕は関係ないもん。
僕はぐじぐじしている男の背中をぽんと押してあげただけだし、
留さんが最初から好きだったんじゃん。関係ないない」

野郎!!青筋がたったのが分かる。
そしてやっぱり空気を読まない食満先輩。

「幸せにする。絶対だ。だから、付き合ってください」

手を握られたが、おにーちゃんが振りほどく。

「誰か私の妹をあげるか!!」

その叫びに、冷静な私が、あーあと言った。
ほらみろ。いくら怒ったって、感情がコントロールできなくたって、
おにーちゃんは、おにーちゃんで、私は妹にしかなれないんだ。
これからもずっとずっと、そういう位置でしかない。
それって、どうなのかな?
諦めるしかないでしょう。
それは、どうすればいい?
私の打算的な考えが弾きだした答えは。

「・・・・・・おにーちゃん」

「なんだ、?」

「おにーちゃん。私、おにーちゃんのおかげで誰とも付き合ったことないの。
あとね、食満先輩は、薬で変になってるだけで、薬が切れたら、
元通りなんだよ。だから、私、数日ならいいと思うの」

「え」

何言ってという顔をしているおにーちゃんに、実はさっきからずっといた
五年のグループの八左ヱ門先輩が口を開く。

「ま、そりゃそうだよな。三郎と出会ってからの4年間。
色の授業すら邪魔されたんじゃ、青春なんかないしな。
てか、三郎はバンバン女と付き合ってるんだし、いいじゃないか」

「な、なにを」

焦っているおにーちゃんに、雷蔵先輩が言葉を重ねた。

「薬切れるのって、数日でしょう?あ、でも手を出さないでくださいね。
僕らだって大切な妹だと思ってるんですか」

そういうと、善法寺がちょっとの間があったものの、その間にいい笑顔を作った。

「・・・・・・そう、そう、薬が切れたら、留さんだって元に戻るし、
お試し期間ってことでいいんじゃないかな?」

「嘘じゃないぞ」

食満先輩の不服そうな声に、善法寺先輩はなだめる。

「うん、そうだね。嘘じゃない、でも薬が切れるまで、傍にいてくれるみたいだよ。
ねぇ?」

「私をのけものにして話をすすめるな!!」

おにーちゃんの声はもう誰の耳にも届かない。

「じゃぁ、決まりで、やー、良い事したあとは気持よく御飯食べれるなぁ。
あ、もちろん、恋人になったんだから、こっちで一緒に御飯食べるよね?
ちゃん?」

名前を呼ばれることの不快もあるけれど。

「あははは、味噌汁が飛んでこないなら、いいですよ」

食満先輩が、逃げることは許さないとばかりに手を握っているから、
逃げることが不可能だ。

。おにーちゃんは、認めないからな!!」

認めるも認めないもそもそも兄ではないと誰も言わなかった。






「最初に言っておきます。私はあなたを好きではない」

「そうか」

「ええ、恋人と言っても、仮だし。そういう感情はあいにく持ちあわせてません。
だから、腰を掴むのは、セクハラです。やめて下さい」

「そうか」

そうかと言っているが、また触ってくるので効果はないようだ。
最初は、このまま薬が切れるまでと思っていたけれど、
ところかまわず、愛愛愛愛愛。
走っている最中に、花を渡されたのはびっくりした。
綺麗だと思ったから。と言われて渡された。
そうですか。なら、それはあとで見せてください。
授業中とか、どんだけ羞恥プレイなんですか?と攻め立てたかったが、
周りのくのたまの嫉妬と羨望と、羨ましいねご両人のからかいの声。
受け取らないと食満先輩が目に見えて、落ち込み、
周りから攻められるので、私は、ありがとうございますと、歪な笑顔を作ったものだ。
つまり、私はあの薬の効果をなめていた。
まさかあの後輩に甘い、
鋭い瞳が素敵な先輩に、こんなことをさせるとは。
だから、私は爆弾を落とすことにした。

「私な好きな人がいます」

「鉢屋だろう?」

誰にも気づかれていない自信があったから、すぐに帰ってきた正解に驚く。
でも、今の食満先輩は、私を愛してるから、私を深く観察している
わけだから、分かるのかも知れない。

「・・・・・・知っているのなら、話は早いです。
私は、あなたを利用しようとしています。
それで付き合うと言っている最低な女なので、
薬のことは、切れるまで変なもん食ったぐらいに思って、
今すぐ、普通の生活に戻ってください。付き合うことは、
ぜんぶ嘘で、ちょっとした罰ゲームだったといっておきます。
ロリコンの噂も消しておきます。取り消してくれますよね?」

「嫌だ」

「・・・嫌だって、私は、好きな男がいて、
その人が手に入らないから、安全パイであなたをって考えですよ?
ちょっと離れれば、忘れれるとか打算的でしかないです。
いいんですか?一時的とはいえ、二番目とか、耐えれないでしょう?」

二番は誰だって嫌だ。プライドが許さないだろうと揺さぶりをかけたが、
食満先輩は、呆れるほどのまっすぐさで言った。

「二番でも、お前が手に入るならいい。
好きだ。体がとか顔とか、関係あるかも知れないけど、
そういうことを真っ正直に話すその考えが好きだ。
を、俺は好きだ。それに、一番にすればいいだけの話だろう?」

「・・・しょうがないですね。薬が切れまで、茶番劇続けますよ」

私は、ほんの少しだけ、食満先輩が好きになった。
もしくは憧れとも言う。
私も、そんなまっすぐに、妹と思われてもいいけど、
私は男として好きだからと言えたなら、ずっと苦しまずにすんだのに。






私・鉢屋三郎は焦れていた。
なにって、私の大切な妹・が変な男に引っ掛けられているからだ。
木の上から見やれば、今日も超絶可愛い私の妹が一生懸命鍛錬中。
ほぅとため息が出る。思えば、あれは運命だった。
私が、二年生の時、は一年で、会った途端に雷にあたったような心地がした。
ぷにぷにな赤い頬、大きな目は落ちてしまいそうで、
誰かの裾を持って、こちらを伺ってくる、一年にしても小さな可愛い物体。
ああ、これぞ。これぞ、理想の妹!!
それから、おにーちゃんと言わせて
(最初のおずおずと言われたおにーちゃんの響きを私は忘れない。
あれほどの感動はもうこの世にないように思われる)
私以外の男に触れさせないように、大切に大切に育ててきたのに、どうして。
あの糞ロリコンに捕まってしまうなんて、おにーちゃんは、悲しい。

「いや、でもさ、くのいちとして、それはまずいでしょう?」

同じ顔をした雷蔵が私の横にいる。

「色なんて学ばなくても、もうくのいちなんかならなくても、
のぶんまで私が稼ぐ!!」

「いやいやいや、何言っちゃってんの?ちゃんは、本当の妹じゃないでしょう?」

「何言ってるんだ。は、妹だ。ちゃんと、未来のプランだって出来ている。
小さながらの家で、何不自由なく、任務から返ってきた私が扉を開けると。
「あ、おにーちゃん。ご飯できてるよ」
、今日は遅くなるから、先に寝とけっていっただろう?」
「むー、おにーちゃんが来る迄、が寝るはずないでしょう?
それに、、おにーちゃんと、一緒に御飯食べたい」と」

私の一人二役の芝居を白い目でみている雷蔵。
なんだ、その重いため息は。

「あ、がいなくなってる」

と、を探し始めた私は、
雷蔵のそれってもう妹じゃないじゃないって言葉は聞かなかった。

「あんた調子こいてるんじゃないわよ」

「鉢屋くんのは、妹だって承知してるけど、何今回の留三郎先輩の話。
あれ、どういうこと?」

「黙ってないで、ちゃんと言えよ」

「助けてって、おにーちゃんに告げ口することしかできませんか?」

何人かのくのいちに囲まれて、どうみてもリンチ前の姿を見つけた。
私は、相方である雷蔵のように迷う。

が泣いてしまう。ああ、でも、ここでくじけて、もう別れるって言ってくれたら
万々歳。でも、泣かせた女はあとで泣かす」

殺気を一生懸命に押し殺し、と彼女らを見ていたが、
は私の予想だにしない言葉を口にした。


「うるっさいですね。大きな声で言わなくても聞こえてますよ。
集団でピーチクパーチク、あまりにも不快で、聞きたくなかっただけですよ。
すいませんね。でも、関係のない第三者に、
べらべら喋るほど、馬鹿なことはないですね。
あー、なんですか。
つまり、食満先輩が、好きなんですか?嫉妬ですか?
そういうのって醜いですよ」

「な、あんたちょっと優しく言ってやれば勝手なことを言いやがって」

と、クナイを出す中心の女に、表情も変えずに淡々と言葉を紡ぐ

「あれ、なに怒ってるんですか?正論過ぎて、むかつきましたか?
違うなら、私じゃなくて、食満先輩に聞いてくださいよ。
べらべら喋るかどうか他人の位置にいるあなたに教えるか微妙ですけどね」

「この」

クナイはさすがにと思うほどには冷静だったらしい手を振り上げた。

「いいですよ。叩いたって、嫌がらせをしたって。
特に攻撃は証拠が残りますからね。
セオリーどおりになると、私と食満先輩の愛が深まる行為ですよね。
自爆でいきますか?ああ、でも、イジメカッコ悪いな学園ですから、
下手すれば、あなたがたは退学ですね。
そしたら、見ていることも、好きだということも言うことが出来ないですね。
数日で終わることに、嫉妬して、全部ダメにするってとんだ阿呆ですね。
で、その手をどうします?」

は、最後ににやりと笑った。
女は、手を振り上げることも出来ずに、その場で、涙を流す。
それに、ふんと鼻を鳴らし。

「あなたがたのせいで、授業サボりじゃないですか。ああ、大丈夫です。
急いで、いなくならなくても、私は名前を覚えておけるくらいには、
記憶力がありますから」

そういうと、周りの女たちが顔を青くした。

「嫌ですね。変な顔しないでください。私はしゃべりませんよ。
あなた方がぐちゃぐちゃにしてくださっているだろう部屋と、
教科書を弁償してくれれば、つい口が滑って、
この学園から出て行かなくちゃいけないようにはしませんよ」

これは誰だろうか?
私が知らない可愛いく、守らなくてはいけないは、獰猛で強者だった。
ハイエナの群れを一吠えでけちらし、つつと細めた目で、妖艶に笑った。

「外見で侮らないでくださいよ」

呆然と突っ立ていることしか出来ない私にも言われたように気がした。







「やぁ、ちゃん」

雷蔵先輩が、軽やかに手をあげた。
このところ、おにーちゃんに会わないと思っていた頃だった。
いつもだったら、嫌なぐらい会うのに。
彼にあったのはそのことを聞くのも、丁度いいと、軒下で二人して座る。

「そうですか。とうとうバレましたか」

出された三色団子に手をつけることはない。
木漏れ日が膝に当たって、脱力感を感じた。

「あれ?わざとバラしたかと思ったよ」

「ご冗談を。私はおにーちゃんに、嫌われたくはないんですよ」

「そのわりには、冷静だね」

「そうですね。一生は無理だって理解していたからでしょうか?それとも」

その後は続かなかった。
それとも、なんと言おうとしたのか。
その後、歩いているおにーちゃんこと、三郎先輩を見つけて、
走って抱きついた。

「おにーちゃん!!」

「っつ」

抱きついていつも抱きしめる手は、私の手を払いのけた。
おにーちゃんは雷蔵先輩の顔で、大きく目を見開いて、
ごめんと言って、足早にそこを去った。
夢は甘く、現実は厳しい。
私は、私の本当の姿を見ても、
こういうふうに拒否されないとでも思っていたのだろうか。
ああ、思っていた。私を受け入れてくれると思っていた。
ぎりっと奥歯を噛み締める。

「どうかしたのか?」

後ろを見れば、食満先輩が立っていた。
綺麗だと思ったと言った花を手に持っているから、
私を探していたらしい。ぽんと頭を撫でられた。
じくじくと、手から、痛みが走る。
別に、怪我なんてしていない。打撲もカスリ傷も、なにもない。
傷があれば、良かったのに。そうすれば、
あれが現実だと分からせてくれたのに。
あるはずのない痛みだけは私を正気づかせるには弱い。

だから、涙なんてそんなもんが出てくる。

妹でも傍にいられるって思っていた。
でも、本来、血のつながりなんてない。
妹像が崩れれば、呆れられるって分かっていたはずなのに。
これは、ゲームに似ている。
おにーちゃんは、気分屋で、子供だから、
望むように動かなければ、終わってしまう。
今、ゲームの盤はひっくり返された。
違うと、ヒステリックに叫んだおにーちゃんがひっくり返した。
それでも、私の負け。
おにーちゃんは負けることはない。
だって、ゲーム開始から負けているようなものだ。
惚れたら負け。本当に先人はいい言葉を残す。






「泣いている姿を見ると、女の魅力アップらしいです。
私も泣いてみようと思います。罠にかけて、メロメロにしてやります」

と、言って、ドンと食満先輩の胸で泣いた。

「いいですか、これは嘘泣きです。女力をUPさせるのです」

泣いても口は動くらしい。私の武器は口だからしょうがない。
そんな私を、食満先輩は撫で続ける。

「馬鹿。嘘泣きなら、もっと綺麗な泣けよな。
それは、どうみてもドン引きだろう」

「じゃぁ、ドン引いてください。
それで愛想つかして、二度と私の目の前にでてこないでください」

そういえば、ぎゅっと抱きしめてきた。

「はぁー、分かってないな。
俺はお前が好きだから、撫でて泣くのを止めそそうと思うだけで、
むしろ、愛情がもっと増える。分かれよ」

そういえば、食満先輩に、頭を撫でられたのは初めてだった。
用具委員で、後輩を撫でる姿はよく見かけるけど、私を撫でてはこなかった。
自分の容姿ぐらいは理解している。年齢不相応の童顔で体も声も身長も
全部幼いから、どこへいってもいい子だと頭を撫でられる。
お菓子をただで貰えるから、甘んじて受けている。

「泣き方だけ外見相応だよな」

そういって上からくぐもった声がする。

「素直に泣きたいって言えばいいのに」

言ってどうする?
だって、私がこんなことをできるのも、
あなたの感情が偽物で、いつかは終わるものだからでしかない。
泣いて、縋るときは、最終手段で、まだそこまで着ていない。
ようやく落ついた私は、あぐらをかいた食満先輩の足の間にいた。

「で、どうしたんだ?」

後ろから、髪を三つ編みにされている。
手先が器用な食満先輩によって細かい三つ編みが何本か出来ている。

「もう、妹でもいさせてくれないらしいですよ。おにーちゃんは。
そうですね。私の本来の姿を目にして、目が覚めてしまったようです」

「嫌いだと言われたのか?」

「いいえ、でも拒否されました」

「言われていないなら、聞けばいい。
それと、丁度いいから、もう気持ちを言ってみればどうだ?」

「どうだって、あなた簡単に言いますね。
結構大ダメージを受けている中、
どうなるか眼に見えている行動を起こすほど私は強くないんですよ?」

「だからこそチャンスだろう?ダメージにダメージのほうが、回復が早い。
怪我したんなら、もう一個ぐらいどうってことないだろう?」

凄い理屈だ。でも、それも一理ある。
もう妹でもない、他人になってしまうなら、思いのたけを存分に言って、
砕けてしまえばいいだけの話だ。
泣くかも知れないし、今度こそ、泣いて、縋るかもしれないけど、
丁度いいところに、泣き場所がある。記憶がなくなる食満先輩だ。
今が、この4年という長い片思いの終止符を打つ時なのかも知れない。

「それもそうですね。このままそのままじゃぁ、私はいつまでたっても、
ロンリーな独り身ですしね」

「俺がいるだろう?」

立ち上がって行こうとする私の手を取って、食満先輩が止める。

「・・・・・・そうですね。あなたがいますね。
終わったら、泣くから、胸を貸してくださいね」

不覚にもときめいた。
だけど、この人だって、私を好きなのは、嘘で、全部忘れる。
そう言い聞かせて、背中を向けた私は、食満先輩が
嬉しそうに、また、あくどく笑っている顔をみることはなかった。






「好きだよ」

そうおにーちゃん・・いや三郎先輩に、言ったら、
すごい顔をした。一緒にいて結構長いけどその顔は初めて見た。
ははは、から笑いが出そう。口がカラカラして、変な味がする。

「・・・・・・妹としてね」

そう付け加えたのは、私の弱さ。惚れたほうが負けなんだ。
だから、ゲームは続ける。
今度はミスなんてしない、あなたの望む言葉をあげる。
もう、この感情なんていらないから。
やっぱり、をなんども繰り返したけど、これが最後。
私は笑えているかな?
三郎先輩の瞳を見れば、笑えているよ。
そうだ、ずっと、ずっと、隠してきたんだ。
私は彼に抱きついた。今度は、拒否されることはない。
彼の体温に、涙が滲みそうになった。
これが、最後の最後です。鉢屋三郎先輩。
私はあなたが好きでした。とても好きでした。
一目惚れでした。長い間、惚れ続けていました。
妹として愛せなくてごめんなさい。これからは、そうなるように努力する。
女としての私の好きは、これまでだ。
さようなら。はじめまして。これからよろしくね。

離れたときには、まだ涙が滲んでいたけど。
自分がいいくのいちになれるだろうと確信しながら。

「私を嫌いにならないでね?」

と、訴えてみれば、

「そんなことするもんか!!」

とあっちから強く抱きしめてきた。
これで元通り。これで最初からの間違いが全部正しく直った。
その後、私は予告通り、胸を貸してもらった。
ちょっと気恥ずかしくなって、軽口を叩く。

「食満先輩、ロリコンって言われますよ?」

「二歳差で言われてたまるか」

「・・・私の外見上の問題ですけど、そうですね。
そういえば、私をちゃんと年相応の女扱いしてくれるのって食満先輩だけかもですね」

は、外見よりも、中身は年上な感じがするしな」

「女は成長が男より早いんですよ。じゃないと、あなたのファンクラブに
キャットファイトなんてできませんから」

「な、なんだと。誰に何された!!」

あ、口が滑った。目に、殺って書いてある。しょうがない。
彼女たちは、あの後ご飯まで奢ってくれて、尊敬と恐怖をまぜこぜにした眼差しで、
言うことを聞くようになったのだ。

「食満先輩。
あなただっておにーちゃんに嫌がらせをされているでしょう?
私だって、そういうことを受けなくてはフェアではないのです。
でも、不思議ですよね。二人の関係に第三者が立ち入る。
まぁ、私の場合は恋慕ではなく、兄弟愛でしかないのですが、
愛って本当に、複雑怪奇なものです」

「なんだ、俺のこと好いてくれないのか?」

そう真顔で言われて、この人の薬っていつになれば終わるのだろうと
思った。一週間も、一ヶ月もこのままだ。
いや、別に、このままでいてほしいと思っているわけではない。

「なぁ、好きだ。本当に好きだ。だから、俺を好きだろう?」

なんだその好きだから、好きって、変な話だ。
でも、そういう強気は、嫌いじゃない。

「傍にいて、触られても、逃げたいと思わない程度には好きですよ」

でも、あなたの気持ちだって、偽物で、いつか忘れてしまうんでしょう?

「じゃぁ、お試し期間は終わりだ。一生傍にいてくれ」

だから、そういって、握り締められた手を離せず、
頷くことも出来ない私が悪いわけではない。






ああ、やばいなと思った。理由もわからないまま、あのはやばいと思った。
頭の中で整理する時間もくれないまま抱きつかれて、うっかり手を払ってしまう。
凄い傷付いた顔をしていた。後悔が渦を巻き、腹の中に居座っている。
どうしようもない懺悔は雷蔵にしてみた。

「傷つけてしまった」

「・・・・・・なんでそんなことしたの?」

「だって、なんだか知らないけど、脈が変になった」

「変って?」

「今、を見るだけで、早くなるんだ。
触られたら凄いだろうなって思ったら、触らなかったのに、
いつもは触ってこないのに、どうして、今触るの!!
心臓が爆発するところだった」

「まだ、理解してないの?」

そう雷蔵に、呆れ顔で言われたけど、なんのことか分からず、
謝るタイミングを見計らっていると、から来てくれた。
嫌われたくないと言われて、抱きついてくるものだから、
私の気持ちをどっかに置いて、抱きしめてみた。
知らなかったけど、は柔らかくて、いい匂いがする。
このままずっと抱きしめていたいなと思って、今度は、体温が上がってきた。
本当に何だこれ。

それから、は変わった。
何が変わったのか分からないけど、何かが違う。
なんか私を見る目が違う。
うーむと考えていると、遠くで、と・・・食満先輩。
あのロリコン。いつになったら、薬が切れるのだろうか?
いや、待てよ。そもそも、薬が切れるって誰が言ったのだろうか?
そして、薬を飲んだ姿を誰が見たのだろうか?
嫌な憶測だが、最初から、
が好きで、こういうことにしているのではないだろうか?
そう思うものの、食満先輩と手を繋いでいる姿を見て、
すぐさま、手を離させに、飛びついた。
離させて、触るな。触るな。獣!!と言って、を見れば、
食満先輩をみるときの眼差しに、前のの面影がある。
なんでか嫌で、そのままを攫っていった。

「なんでだと思う?」

「・・・三郎は、どっちがいいの?」

「は?」

「前と今?」

そう言われた考え込む。今も昔もは超可愛い。
でも、どうしてだろう。

「・・・前の方がいい」

盗られた気がするのは。

「そう、じゃぁ」

そういって、雷蔵は立ち上がるとおもいっきり私の顔を殴った。

「な、なにするんだ。雷蔵」

「僕は言わない。そう決めた。
というか、これで気づかないとか、馬鹿じゃないの?
これは三郎自身で分からなくちゃいけない問題だよ。
・・・盗られたってしょうがないじゃない。結構ヒントも出してきたけど、
そもそも君が最初から、防波堤を築いたんじゃないか」

雷蔵が言っていることがまったく分からない私に、
これはちゃんのぶんと雷蔵が、また殴ってきた。
どう意味か分からないのに、盗られるのは嫌だった。
何でかも分からず、子供のように、私はイヤダを口にするだけ。
そして、時間は前へ進み、全ての物事が動いていく。
そんな当たり前のことに気づかないでいた。




10

長屋に帰れば、すごい顔してると、伊作に、指摘された。
嫌な笑みを浮かべている自覚がある俺は、
はははと笑いをそのままに吐き出した。
ようやく収まった頃、呆れた目をしている伊作に、ほいっとあるものを渡す。

「ありがとうよ。伊作」

「まぁ、僕はちょっと変態な噂を流されかけただけだし、
そんな労力はかかってないよ。
それにしても、薬が切れるなんて誰が言ったんだろうね?」

「お前も言っただろうが」

「ああ、正確に言えば、薬は切れていたよね。
僕が飲ませたのって、
ちょっとした興奮効果の薬で、2・3時間で消えるものだからね」

「お前が炊きたててくれなかったら、こんな美味しいことにはならなかった」

「あははは、感謝されちゃった。でも、鉢屋すら信じなんてびっくりだよ。
そんなもん作れてたら、僕、ここにもういないと思うんだけど。
どこでも、引っ張りだこだと思う。それにしても、
みんなの想像してる僕ってどんなんなんだろう」

黒魔術とかできそうだよね。と落ち込んでいる伊作に、
さっきのあるものと意味は一緒で、内容が違うものを渡す。

「落ち込むなよ。これもやる」

「わーい、新作の春画だ」

渡された春画をぺらぺらめくりながら、伊作は、疑問を口にする。

「いつもながら、留さんっていい趣味してるよね。
あー、でもさ。本当は爆乳で、年上好きだって聞いたらびっくりするだろうなぁ」

留三郎が買ってきたのと、持っていたのは、全部、胸が大きく、
年上だ。そういえば、留三郎は、呆れ顔をした。

「何言ってんだ。好みと好きは違うだろうが。
あんな二枚も三枚も難しい相手だぞ?
そんな薄っぺらい女の何百倍も魅力的だろうが」

「難しいからってこんな手の込んだことしなくても」

「本気には本気だ。それに、こんなことしなくちゃ、なかなか手に入らないんだよ。
でも、徐々に好きになられているのは分かる。
薬が切れなければ良いのにって思われてるのもな。
ほんと、ゾクゾクする。
あとは、いつ俺が薬じゃなくて、本当か言うだけだ。
鉢屋はもう終わったし、一番面倒だったのが終わってくれて助かった。
あいつは、半端なく鈍くて、馬鹿だな。
のなかで、おにーちゃんは、おにーちゃん。
幼い時の一時の憧れだって確定しちまったから、もう動かない。
ああ、楽しみだな。俺のこと、好きでたまらないが手に入るなんて」

そういって、お風呂に入りにいった留さんを横目に、僕はため息を吐いた。

「あーあ、ご愁傷さま。逃げても、あれは追っかけてくるよ。
でも、僕、ちゃん言ったのにな。
最初から、気に入られているって、ノロケがウザイって。
留さん、好きなんだって。
ちゃんって執着系に好かれる自覚ないよね。
薬が切れるまで傍にいてくれるって、一生だって気づいたときどんな顔するかな?」








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