ばさらっこ
「なんで、その子がいいの?その子仕事ちゃんとしてないし、
ちっとも可愛くも綺麗でもないじゃないし、性格なんて劣悪だし、
人のもの奪って、笑ってるんだよ?
この子のせいであの子が死んだのに、知らないで笑ってるんだよ?
ふざけんじゃない。お前が死ねばいい」
パン。
頬を叩かれた。
叩いた人は私を憎しみの目でみて、
彼女を守る私の友達は、敵をみるような瞳をしていた。
頬を抑えて、私は外へ走る。
後ろからは謝れと言われたけど、私何も悪くない。
何も悪くないもの。
あれは夏の日。蝉が自らの命をかけて泣き叫んでいる日のこと。
暑さで頭がやられた馬鹿が、天女という夢物語の人物を拾ってきた。
最初は、綺麗で可愛くて何も知らない彼女と友達になれればいいと思っていたのに。
「夏祭りどうだった?」
と聞くと、くのたまの彼女は涙をこぼした。
どうしたの?お腹が痛いの?慌てふためく私に、違うくのたまがそっと肩に手を置く。
そっとしておいてあげて。
忍たまと恋仲にあった子たちはこぞって、彼らと別れたらしい。
なんで、どうしてと、しつこく詰め寄らなくても、
くのたまの彼女たちの彼氏が、天女さんの横にいる。
くらりと幻覚をみている気分になった。
ふわふわと浮いているのに、上から重い石を投げられたような、
そうなったのは、私だけじゃないようで、学園長までおかしくなった。
いつもの突然の思いつきで始めた行事は楽しいのに、
賞品がその子とのデート券とか、
いらない。
バカみたく奮闘する彼らに、手伝おうとしたけど。
『足手まといはいらない。いるのは勝利のみ』
なんて。
いつも訓練を教えてくれていた文次郎が目を鬼のような形相をして走っていった。
仙蔵も、長次も小平太も留三郎も伊作も全員、
「これだったら、も出来る」
と一緒に歩んできたのに、いまさらいらないって。
涙がボロリとこぼれた。
私、いつの間にいらない子になってたんだろう。
友達じゃなくなちゃうの?
長次の暖かな膝の上も、
文次郎の死ぬ気な夜の訓練も、
仙蔵の綺麗な手で髪を梳いてくれることも、
伊作の薬の調合する姿も、
小平太にされた肩車も、
留三郎にもらったあひるのおもちゃも
全部、なかったことになっちゃうの?
嫌だ。
彼らが私を嫌いでも、私が彼らが好きだったから、
いつも以上に彼らに近づいて、嫌な仕事だってちゃんとした。
主に、天女さんの仕事だったけど。
私が洗濯している間に、天女さんと彼らは遊びに行って。
おみやげは甘いどら焼きだったけど、しょっぱくて、
いつもなら私の異変にすぐに気づいてくれる伊作や仙蔵は、
天女さんにどんなものを送ったか競い合ってる。
それでも、まだ好きだったから、友達だから、
一緒に遊ばなくても一緒に勉強しなくても一緒に喋らなくても
それでも友達だから。
「泣いているのに友達なの?」
暗闇に乗じてカラスが鳴く。
風が強くて大声じゃないと聞こえないはずなのにはっきりと聞こえる。
「いつか、彼らも元に戻ってくれる」
「無駄だよ。あいつらは元に戻らない。
前にあいつらが好きとか言ってたけど、今もあいつらが好きなの?」
「好きだよ」
「あんたは好かれているから好きだったんだ」
「違う!!」
「違わない。だって、嘘ついてるじゃない」
――好きなら、嘘はつかないんだよ。
あぁと膝から崩れ落ちて意識を失いかける私を誰かが抱きとめた。
「ごめんね。愛してる」
恋で人は死なない。そんなのは嘘だ。
今、目の前で私に厳しかった人が死んだ。
一通の遺書がぶらぶらと動く死体の隣に置いてあって、
目を覚ましてと、彼への恋文が置かれていた。
みな、彼女の姿に泣き崩れ、目を伏せ、
死体が初めてだったのが、口を抑えどこかへ行くもの多数。
教師が来る前に、彼女を下ろし、見れなくなってしまった体の始末の処理をした。
彼女の杏の匂いが強く強く香った。
そして、彼女の死をかけた訴えは、馬鹿な男どもの何十もの警備により
一つも届くことがなかった。
つまり、彼女の死は無駄死だった。
私は私の友達と談笑する彼女に近づき、思いっきり殴った。
「あんたのせいで、人が死んだ」
そして、冒頭に戻り、私も友達を失なった。
ガリガリと爪を噛む。
昔の癖が戻ってきてしまったようだ。
おかげで、景色が白黒で、心が空っぽ。
自殺した子の両親に、死んだ理由がバレた。
彼らの両親はそこそこ地位がある忍者だったので、
自分の子は自殺ではなく、天女さまの術によって殺されたと、
嘘の証拠を出し、天女さまは敵の間者であることを、
忍術学園の紫のある城に情報を流した。
そして、忍術学園に通達がきた。
忍術学園ひいては城にも実害があるため早急に身柄を引き渡すべしと。
天女さまを渡して、終わるはずだった。
それなのに、忍たまはどうしようもない馬鹿で、
天女さまをそういうことにした間者がいると逆の疑いを持った。
それは、もう死んでいるあの子であるけれど、
そんなこと気づくはずもない。
そして、間者に私が選ばれた。
クナイを向けられるのは、友達だと思っていた人たち、大事な後輩だと思っていた人たち
彼らが一様にありもしない疑いを言って、そうだろう!!と頷かさせようとする。
私の体はボロボロになったけれど、心臓は動いている。
片目が腫れたが、彼らの顔が、6年の顔が見えた。
3年間一緒にいて、感情を手に入れた。
彼らの顔が歪んで見える。
ぞっとする気配を感じて顔を横に向ける前に、走る。
走ったら、成績悪いし、運動神経切れてるし、どのくのたまよりも遅い私は、
こけて終わりだったはずだけど、
大きな手裏剣は彼らを突き破りはしなかった。
「お馬鹿さん。まだこんな奴らかばうの?」
「まだ私は友達だと思ってますから」
「友達っていうのは、弱っている子を攻撃なんてしないね」
やれやれと大げさな手振りをする、黒カラスを横につけた猿飛佐助さまは、
にっと人を馬鹿にした笑みを浮かべた。
じんじんとするクナイをもつ手に、
本気で彼らを殺すつもりだったのが分かって、
どうやらこの人はかなり怒っているようだ。
その空気が読めないようで、文次郎が叫んだ。
「。お前本当に間者だったのか」
「頭悪いよね。ここまでかばわれてるのに、まさかの言い草だよ。
、ここに置いて悪かったね。そろそろ出番だから帰っておいで」
佐助さまに手を差し出される。
「、なんで何も言わない」
言うもなにも拒否権なんてとっくの昔に一回使ってしまった。
昔、帰ってこいと言われたときにまだここに居たいとごねたのだ。
佐助さまの顔を見る。前回のように引く気はないのだろう。
誰かが叫んで、みんなが一斉に佐助さまにクナイを投げた。
私は・・・。
みんなが投げたクナイを全部撃ち落とした。
呆然としているみんなに、申し訳ない。
私は別に弱くない。どちらかというと、殺される側の反対だ。
佐助さまは、あははと一人笑う。
「あんたら、弱いね。戦場で簡単に死んじゃうだろうね。
今まで助けてくれてた子を攻撃するようなゲスだから、俺様は困らないけど」
「今まで僕らを騙してたの?」
伊作が私に触れようとするが。
「触んないでくんない?は最初から俺様のものだからね」
抱きかかえられて世界がはっきり見える。
殺気や疑わしい視線に、あの世界を思い出し、ガリと爪を噛んだ。
ガリガリと、爪をかんで、むせ返る血の海の中、座る私に
暗闇の中金色の目が私を射ぬいた。
見あげれば、予想していた通りの人がいて、
笑いたくもないのに、口端がにやりと上がった。
「暇をあげる」
その時私は12歳だった。
あの時は感情なんてなくて、
なんで泣くのか怒るのか楽しみのか全然分からなかった。
佐助さまの弱い振りをしろの意味も分からずに、忍術学園に入った。
友達なんていらなかった。
愛なんて分からなかった。
でも、1年経ち2年経ち、
忍びを学び感情を捨てるはずなのに、私はそこで感情を得た。
友達を得た。辛さを得た。幸せを得た。
ガリと爪をかもうとすると、そっと手を握られる。
「こうしたら、噛まないでしょう」
「・・・・・・」
「今度は俺様と一杯経験して、一緒に色々なこと分かっていこうっか」
「佐助さまとですか?」
「そうだよ。俺様とだから、超絶に楽しいよ。真田の旦那もいるし、
今度はお団子もらっても美味しいって言えるでしょう?」
「一緒にいてもいいんですか?」
「一緒にいろっていってんの」
世界がまた色を変えた。
いいや、もう選んでいたのだ。
みんなからクナイを向けられたときに私は彼らを殺そうと思った。
そう気づくと、極端な私は、
忍たまたちが悲しもうがどうでもよくなって、
クナイを一本誰かの心臓めがけて飛ばして、
私は佐助さまと共に消えた。
天女は花と一緒に砕け散った。
みんな、に妹という感情を持っていたんじゃなくて、
本当は、好きが他の女の子より一歩でていて、
秋になったら、の誕生日に、みんな告白して、
恨みっこなしの協定を組んでいたとか、
好きってなんどいいそうになったかの回数で、邪魔しあった回数で、
いがみあっていた事とか、
忘れてしまえばよかったこと、全部思い出したとして、
はもう弱い守ってもらう子ではなくなって、
傷つけても全然強い子で、優しい子で、愛しい子で、
でも憎んでしまったので、
友達にも戻れないので、
カラスに盗られてしまったので、もう二度と帰ってこない。
誰かの叫び声が響いた。
2011・10・24
