1
俺ってば、三郎大好き。
大好きで大好きで、彼の親友の雷蔵くんに負けないぐらい頑張った。
そのかいあって、押せ押せの俺は意外なことに押され弱い彼をゲチューしたわけだ。
だけど、付き合ってからの落とし穴。
そう、三郎ってば、雷蔵大好きって言うくらいだから男色だと思っていたんだけど、
バリバリノーマル。つまり、普通の女の子が好きなわけですよ。
目を離せば、あのこの胸・尻・顔。
いっぱしな青少年。彼の春画はちゃんと女の人だったしね。
つまりだ。この世界に連れてきてしまったのは俺で、
普通に女の子にもモテルるし、
いつもとの世界に戻ってしまうか不安で不安でしょうがないから。
今日も。
「三郎、大好き。好きだよ」
とぎゅーと抱きしめて、
「三郎、見ないで、不潔。俺と恋人でしょう?」
と嫉妬する。
俺のキャラクターはいつのまにか嫉妬深い子になりました。
そんな俺を嫌いにならないでの代わりにまたぎゅっと抱きしめる。
ああ、なんてウザイ俺。
分かってるんです。分かってるんですけど、愛が暴走
2
私の恋人・は、とても嫉妬深い奴だ。
一言、二言女と会話すれば、
「い、今のなに?もしかして、逢引?」
と喚いて
手紙を貰えば、
「きっと恋文だよ。それ、うん、焼こう」
一日一回以上抱きついて、
「よし、他の奴の匂いはしない」
と確認している。
朝のおはよう。昼のお腹すいたな。夜のおやすみ。
見つければ抱きつかれて好きだと言われる。
一日の終わりをわざわざ言いに来る。
一言、痛いとかいえばすぐに駆けつけに来る。
全身全霊で愛されて、嫉妬されることも愛されているって分かって
心地よかったけれども、嬉しかったけれど
ハチが呆れた顔で言う。
「ウザクないか?」
兵助は真顔で言う。
「重くないか?」
雷蔵が困った顔で言う。
「時々僕まで睨みつけられる」
だから、私は、つい言ってしまった。
「私だって困っているんだ、重いしウザイし、
でも、好きだと言われたんだからしょうがないだろう」
本当は、心地よかったんだ。
本当は、嬉しかったんだ。
だけど、それを口にしてしまえばからかわれるだろう?
照れてしまうだろう?だから真実を隠すための嘘に、
彼の肩までの髪がすっと揺れて、
その場を離れたことなんて知らなかった。
3
重いか、ウザイか。
だったら、彼以上に夢中になれるものが降って来いと思えば、
丁度俺の上から少女が降ってきた。
少女は、とても困った顔をして、「ここじゃない世界からきました」と言った。
わぁ、なんて頭痛い子。
だけど、最初拾った俺に、最初笑顔を見せてしまった俺に
雛の刷り込みのように俺を信じていて、
僅かに震えている俺の着物の裾を掴むその姿に、俺の姿が重なって、
離さないでと掴んだその手を俺はそっと握った。
彼女は涙を流して俺に笑いかけたから、俺も笑顔で笑い返した。
「さん、あのね。今日はこんなことあったの」
「さん。助けて!!」
「さん。教えて?」
「うん。一人で食べるのとか寂しいかなとか、思ってないから大丈夫」
一日の終わりを彼じゃなくて、少女と話し合う。
一日の大半を少女と過ごす。
朝ごはんも、昼ごはんも、夜ごはんも、いつの間にか、少女ととっていた。
なにかあればすぐに駆けつける。
時々、穴に嵌って足をくじいたのにそのままで寝ていた。
なにもしらない少女はとても危なっかしくて、
少女が心から信じられるのはだけだったので、
よりどころも彼だけだったので、行こうとすれば行かないでと縋る。
それがまた自分に似ていて離すことなどできないは、
大丈夫?と髪を撫でてやった。
彼は、少女の来る前の三郎の言葉をちゃんと覚えていたので、
これで良かった。大好きな三郎に会う時間は減ったけれど、
他の誰と喋っていても浮気と疑うこともなくなったし、
毎日何十回も抱きつくことも愛を囁くこともなくなった。
彼にとって重くもなくウザくもなく、丁度良い恋人同士なれるはずだ。
好きだからって何でも縛り付けるのは良くないよな。とは頷いて、
「さん。あのね、お給料出たんだけど、これを元手に
外で借りれる場所ってあるかな?」
「なんだ、ずっとここに住めばいいのに」
「うー、無理だよ。私みたいな変な人とか信じれるわけないじゃん。
さんだけだし、仕事とか斡旋してくれる場所、知ってる?」
「じゃあ、もう、うちで住めば?住み込みで働いてくれる人探してから、
丁度良いや」
「な、な、な、な、さんってば金持ち?この太っ腹!!」
パシリと腹を叩かれた。
このごろ少女は、スキンシップが激しい。それほどまでに心許したと言うことだろう。
「金持ちって、たかが商屋だよ。帳簿のつけ方さえ覚えたら、大丈夫だと思うよ」
「ほへーさん。細いくせに筋肉ついてるね。細マッチョ!細マッチョ!」
・・・・・・・最初のお淑やかさは猫被っていただけらしく
今ではこの通りサバサバしているのと電波なかんじな子だ。
知れば知るほど仲が良くなっていく。
今では兄弟みたいなもので。だから・・・だからな?
「今度の帰りにそのこと言うから、今日は服買いに行こうか」
「別に良いよ。これあるし」
「これって、一週間同じ服着ていると流石に気になるから。てか気にしろ女だろ!!」
土井先生と同じだぞと言ったが彼女はどこ吹く風。
「えー、お金使っちゃ生きていけないよ?」
「・・・・・・必要最低限は使おう。うん、決定。
今日は必要最低限なもの買いに行こう」
「お金がぁぁ」
「俺のおごりだ。さぁ、行くか」
もったいない、もったいない、悪い、悪いと言い続ける少女をずるずる引きずって、
土産のお饅頭で釣って俺は少女とようやく外へ出た。
それを世の中では逢引と言うことも知らずに。
二人の姿はまるで恋人同士。
本当の姿はただの仲の良い兄弟みたいなもの。
そう言われても、横から見ていてそうだなんて思えなかった。
背中にべったり付いている少女の姿に、
それを苦笑している青年の姿に、誰かが掌を握り締めて怪我したことを青年は知らない。
前は、ちょっとでも擦りむけば、すぐに駆けつけてくれたのに。
なんでだよ。。
4
「見てください。買って貰いました」
「へー、くんってば太っ腹ね」
「違います。細マッチョです」
「うん、いいから。そのまま動くとほらぁ、こけた」
あたたた。とこけた少女に手を出しているのは誰だろう?
誰があの女に服を買ったんだ?
なんで、お前はどうしようもないなぁという顔の中に慈しみをこめた
顔で見ているんだ。
。お前は私の恋人ではなかったか?
みんな委員会でつまらないから、外へ出ていくきもしないから
部屋の中で、呟いてみた。
「助けて」
ごろりと、まだ明るい障子の向こうを見てみた。
誰も来るわけない。当たり前だ。
前のほうが異常だった。
監視されているかのようにタイミングがいいときに
毎度来るし、会いに来るのも異常な回数だったし、
周りは良かったじゃないかと言われた。
上から降ってきた子とは親愛しかないらしく、
その子が来てから、普通になったじゃないかと。
は、普通の回数の好きを言いに来るし。
一週間に一回。
時々部屋から消えるものはなくなったし、
雷蔵を睨みつけることも、兵助もハチもなくなった。
触っただけで、浮気だって喚かなくなったし、
ちょっぴり怪我させた相手を半殺しにしなくもなった。
でも。
放って置き過ぎじゃないか?
私が寂しいときにははちゃんと来てくれたし、
ご飯の時だって、後ろから観察しているの知っていたし、
夜の報告もなくなった。
なぁ、私恋文貰ったんだよ。
なぁ、私女を抱いたんだよ。
なぁ、お前は何をしているんだ?
そうだった、お前は今、あの子と勉強しているんだった。
あの子、今度お前の家に住み込みで働くんだっけ。
そのために教えているんだろう。
なんだ、もう、嫉妬してくれないのか?
5
ある日急に世界が反転しました。
私にとって平和で、日常で、
これからも細々と暮らしていく明日を信じて疑わなかった世界が私を捨てました。
落ちた場所が悪かったら私は死んでいたでしょう。
目を瞑って一瞬で暗くなって、私の精神がなくなった体だけがそこに横たわっていたでしょう。
想像すればするほど、危なかったと思うのです。
紐なしバンジジャンプーですから。
私は運が良いのです。落ちた場所が限りなく良かった。
受け止めてくれた人をさんと言います。
私よりも8歳も年下の男のですが、しっかりしています。
彼は私の言葉を、今考えると変なものでしかなかった言葉ですが、
私ならば絶対信じない言葉ですが、
彼はうん。それは置いといて住むとこあんの?と冷静な言葉をくれたのです。
でも、縋った手を握り締めてくれたので、彼は私を受け入れてくれたのです。
彼はとても良い人なんです。
こんな住所不明な戸籍不明な不審人物を、
全ての責任は俺が持つんでここに置かせてやってくださいなんて頭を下げて、
職もくれたんですから。
私は、あと一ヶ月でさんのところでお世話になります。
本当に至れり尽くせりで、申し訳なるほどなんです。
だから、私はさんが大好きで幸せになれば良いと思うんです。
「大好きだよ。さん」
「うわ、そこまで似てくるとびっくりだな。まぁ、嫌いじゃないさ」
「そこは素直に好きだと言ってくれてもいいじゃない」
「はい、はい。すきですよ」
「心が篭ってない!!」
さんからの背中から抱きついてみます。
うーん。さん私思ったんだけど、
さんに好きな人いるのも分かっているんだけど
あの人はさんのこと好きなのかな?
言っちゃなんだけど、いきなり現れた女に横取りされているんだよ?
なのに嫉妬もしないのっておかしくないかな?
それに、今日、女ものの匂いしなかった?
「・・・・・・それは言わないお約束」
って悲しい顔したから、私がさんのこと貰っちゃてもいいでしょうか?
だって、私とさん二人とも一緒にいれば幸せだと思うんです。
だって、私、さんのこと大好きなんですもの。
6
止めてくれ。どんどん盗られてしまう。
前までは二人は、親愛だからが、
あれってあの子と出来てたんだ。に変わってきている。
私は動けずに、好きだよと言われる言葉を睨みつけるだけで、
彼は苦笑して黙って帰ってしまう。
女の抱いた数に何も言わず。
女の匂いに何も言わず。
だけど、私を抱きしめることがなくなってきていて。
違うんだ。そうじゃないんだ。
私がしたいことはさせたい顔も全部違うんだ。
女を抱いても満たされないんだ。
いくら違う誰かに好きだと言われてもお前じゃなきゃ駄目なんだ。
だけど、どうしたら前のようになる?
あの子を殺したら、お前は泣くだろう。
それどころか、私を憎むかも知れない。
可愛がっているのは知っているんだ。
親愛だって言うのは信じれないけど、
原因を取り除くのも駄目。何しても駄目。
だったらどうすればいい?
どうすれば、で隣の同じ顔が見えて私はとうとうことの成り行きを言えば、
彼は驚いた顔をして。
「え、だって、三郎はに無理やり付き合ってるだけで、
別れても大丈夫だと思っていたよ」
「なんで、そんな」
「だって、三郎、一回も好きだって言ったことないし、
そもそもに嫉妬もしないから。今回のことは良かったんじゃないかって
そう思って、って、え?違かったの?みんなそう思ってたよ」
「みんなって、も?」
私の問いかけにうーんと悩み始めた雷蔵に、肯定であることが分かった。
なんてことだ。私だってちゃんとが好きなのに。
でも。
好かれているということが嬉しかったから、
好きだといわなくても安心できたから
私は好きと言ったことがなかった。
嫉妬するのはの十八番で私ではないからする必要がなかった。
ああ、分かった。どんなに苦しかったかちゃんと分かったから、
次からは優しくするし、他の女の子の尻も胸も見ないし、顔とかいいとかいわない。
女も抱かないし、好きってちゃんと返すからだから帰ってきて。
好き好き言われまくってて、嫉妬とかされまくりで
居なくちゃ死んじゃう。って言ってたけれど、本当は私の方が。
7
あーあ。このごろ愛しの三郎くんは冷たい。
好きって言えば、言うなとばかりの冷たい視線。
抱きしめたら女の香り。
どうよ。これ。なんか悪化してない?
あーあ。なにがいけなかったんだろう。
ちゃんと離れて丁度良い距離になったはずなのに。
「でもさ、良かったよな。三郎も」
三郎って言葉に反応して、彼らの友人の会話に聞き耳立てた。
「まぁ、変な男に追い掛け回されて、それが嫌で付き合って、
ようやくその男にも春が来て、別れられるって奴か」
「そう。それだ」
「前々から三郎はのこと好きじゃなかったしな」
「むしろ、付き合ったときには、あー面倒だったんだろうと哀れだったしな」
「良かったな。三郎も、このごろ女の子と遊べるようになったし、天女さまさまってやつ」
と、俺はここまでで走り去った。高速。涙が粒になる前に流れるほどだ。
前だったら、三郎の所言って、嘘だよな。って聞きにいけたけど、
恐ろしいほど言っていることが当てはまっていた。
三郎は男だから、男の俺を好きになってくれるわけなくて、
三郎は普通だから、そりゃ女の方が良いに決まっているわけで、
俺は、その女に勝るほどの特別な魅力もない男で、
俺が全部全部無理やり全てを狂わしていただけ。
嫉妬してくれるわけないよ。だって、ウザいんだもん。
好きっていってくれるわけないよ。だって、重いもん。
会わなくなったらそのぶんどこ行ってた?
知ってる。女の所だろう?
抱きしめたときに香った匂いに悲しくて。
前のように嫉妬したら、今ならお前は俺に別れを告げるだろう。
前よりもしつこくなくなったから、面倒じゃなくなったから。
いつの間にかあの子のところへきていた。
障子を開けて、そのまま抱きつけば驚いた顔。
そうだろう。俺もされたら驚く。
だけど、もうぐちゃぐちゃな俺は、そのままわんわん泣き始めた。
「えぇぇぇ?」と本来の彼女ならば叫ぶけど、
あまりにも俺のギリギリ加減に、ポンポンとリズムよく肩を叩いてあやしてくれた。
このときばかりは、彼女が年上であったことを思い出した。
ようやく納まったときに、彼女が口を開いた。
「三郎くんのこと?」
「ドンピシャすぎる。
ここは何も聞かないで、俺が何も聞かなくていいのっていうところだろう?」
「あら失礼。でも、さんがこんなになるのは一人ですもの」
沈黙。確かに。俺が人生でこんなにも泣くことは三郎以外にない。
うう、こんなにも好きなのに。とまた思い出し泣きがじわりと来たとき。
「なにをメソメソ。言ってくれなくちゃ分からないよ」
と上からスコーンと叩かれた。
「なーに?三郎くんに嫌いとか好きじゃないとか別れようと「も、もういい」・・・当たり?」
俺は答え変わりにまたメソメソし始めて、彼女は今度は何も言わず
髪を撫でてくれた。
「ねぇ、さん。私はちゃんとさんのこと好きだから」
「そうかい。お前は好きかい」
「そう。だから、私のこと好きになっても全然構わないんだよ」
三郎からの逃げ道じゃなくて、私が好きだから来いと言ってくれる。
男のプライドを守ってくれる男前の少女に、
女好きじゃないけど、キュンてきた。
それが普通の感情であって、彼女を選べば俺も正常になれるかなって考えていた。
8
どうしてどうしてどうしてどうして。
何が悪かった。全部私が悪かった。
なんでなんでなんでなんで。
「ごめん。ごめんな」
と謝る男は誰だっただろうか。
私を好きだと言った口で、私に口付けをした口で
彼は涙を流して、
私のために流していた涙を自分のために流して、
「もういいんだ。無理させて悪かった」
そういって最後に両手で強く握り締められた左手。
温もりが去ってしまって、久しぶりに触れられたことが嬉しいのが消えて、
悪夢が広がった。
事実を知っているのは雷蔵だけで、
周りのみんなはなぜか喜んで、良かったこれで自由だと言われた。
おたおたしている雷蔵を尻目に、私はまずハチを殴った兵助を殴った。
殴られた人たちはなんで殴られたのか分からず、走っていく私に
「おい、なんだよ。三郎」と言っていた。
私は、な。。
お前から、告白されたときは、本当はすっごくすっごく嬉しくかったんだ。
だって、私はずっとお前のことが好きだったから。
お前が私を確認する前からずっと好きで、
だから、嫌そうな顔しか出来なくて。この鉢屋 三郎が嬉しすぎて
顔を晒してしまいそうになるほど浮かれていたんだから。
嫉妬すると、とっても苦しそうでかわいい顔で私をもっと求めてくるから、
もっとさせたくて、どうでもいい女の話して、どうでもいい女抱いて、
いらない恋文見せ付けて、雷蔵すら使っていたんだ。
夜訪れる前には、ちゃんと髪とか着物とか確認してさ。
好きって言われるたびに、抱きしめられるたびに、
ドキドキしてキューンてしてしょうがなかった。
お前の全てが好き。嫉妬深いのも好き。
恥ずかしいくらい真っ直ぐな所も好き。
お人よし過ぎるのも好き。
だから、聞けよ。。
今、私嫉妬してるぞ。嫉妬で狂いそうだ。お前の嫉妬など目じゃないぞ。
お前がその女を大切にしていると知っていても、泣くだろうけれど、怒るだろうけど
その女をまず一発殴ろうと出来れば殺そうと思っているんだ。
迷惑だと重いと思うほどに捕まったのは私じゃない。
お前だ。
好きって言葉がお望みなら、会うたびに何十回も言ってやる。
だから、帰って来い。
いいや、帰ってこらす。覚悟しとけ。
お前の行動のほうが可愛いもんだったと思わせてやる。
2010・2・5