暗い部屋の中、鏡に顔を写す。
人に変化するときように綺麗に磨かれた顔には
泣き腫らした不破雷蔵の顔。
もう私の本当の顔を忘れてしまった。
悲しい、つらい、もう辞めたい。
綺麗に整えられている自分の机の上に置かれている
引き出し付きの棚の二段目の上げ底を開けた。
そこには、宝珠がついた腕輪が入っていた。
全身黒の宝珠の腕輪。本当は一個だけ赤い珠が付いていた。
が私にくれた付き合って一周記念のプレゼント。
は腕輪から赤い珠を一個取って、二人で一個で、ずっと一緒だ。
なんて恥ずかしいセリフを幸せそうな顔で言っていた。
はいつも肌身は出さずお守りのなかいれていて、
私はというと、つけてる?と聞かれるたびになくしたと言っていた。
初めてつける腕輪。
重く綺麗に光る。
質のいいものだって分かって、がどれだけのものをくれたのか苦笑する。
うそつきめ。ずっと一緒ではないじゃないか。
また泣きそうになったけど、遠くで甲高い笑い声が聞こえて、そろりと襖を開ける。
長い間暗い部屋だったから、外の明るさが目に痛い。
遠くにと、あの女がいた。
は外出していたようで、私服で相変わらず格好いい。
ほぉっと見惚れていれば、女が邪魔した。
「これありがとうね、さん。
ねぇ、さん、私ちゃんと肌身離さずつけてるから、さんもつけてね。
おそろいの買ったでしょう?」
そういって、に指輪を見せる。
女の付けているのはシンプルな指輪で花の模様が書かれていた。
「ああ」
は指を見せた。の指には、生地が黒い同じデザインの指輪。
「さん。知らないでつけてると思うけど、左の薬指は結婚しましたってことなんだよ」
「・・・・・・そういったら、莉乃だってつけてるだろう?」
「私はそのつもりでつけてるの。言ってなおさないっていうの期待しちゃうよ?」
私はそっと襖を閉めた。
光は消え、闇が広がる。
いつの間に、あの女の名前を呼んでいるの?
お揃いは、好きな人だけだろう?
なんでそんなもの捨てないの?
なんでそんな笑顔でそいつを見るの?
なんでそんな柔らかな雰囲気なの?
私はおまえのせいでこんなに苦しくて、悲しくてどうしようもないのに。
なんで、あの女は幸せそうなの?
ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい
ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい
ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい
頭に広がる文字は、私に涙を消さし、笑みを与えた。
目には黒い炎。私の付けている腕輪と同じ色。
私はなんだ?
学園一の変装名人鉢屋三郎じゃないか。
こんな簡単なことに気づかなかったなんて。
もう私がと恋人になれないのなら、お前も道連れだ。
2011・7・6