どうして?



「どうしてどうしてどうして?」


三郎は、が土下座したところから、逃げた。
それを追いかけにいったのが雷蔵で、はっちゃんは、委員会で遠出していたから、
最後まで見ていたのは、俺と勘ちゃんだけだ。
部屋の中でわめいている三郎に、
ことのあらましをすべて見ていた俺達は無言だった。

「やめろよやめてくれよ。
どうして、は、あの女を捨てないんだ。
チャンスだったじゃないか。あんな変な女捨ててれば万事解決だったのに。
なんでどうしてなんではあそこまでするんだ」

そういった三郎を雷蔵が抱きしめる。
三郎の問いに、誰も何も言えなかった。
答えてしまえば、三郎に追い打ちをかけるだけにしかならないから。
最後に聞いてしまった「彼女なら」の続きで、
三郎の思いが絶望的なのを知っている俺は特に。

に土下座したなら、三郎の頭を撫でてくれるだろうか?
そう思って嘲笑した。
泣いている三郎に、はもう手を差し伸べない。
彼はもう、歩いてしまっている。



勘ちゃんと俺は三郎が眠ってしまったあと、屋根の上に登った。

は、あの人を選んだみたいだな」
「そうだね」
「冷静だな」
「俺は、どのみちこうなると思っていたよ。
は、三郎じゃなくて、いつかあの人を選択するって」

勘ちゃんのおかしな髪が風に揺れた。
俺は、それを見ながら、
そばにいるのは本当にいつも笑っている彼なのか疑った。

「三郎が壊れてしまうんじゃないか?」
「でも、を壊したのは三郎でしょう?」

平坦な声に、じっと目を覗き込めば、彼の丸い目も俺を見返した。
勘ちゃんの言葉に説得力があった。
浮気はするは、うざがるは、酷い言葉で傷つけるはで、
前の三郎がしていたへの態度に愛はみえなくて、
嫉妬しいのストーカなが三郎のせいで出来上がってしまった。
今のからあの時のを比べると、たしかに壊れていたのだろう。
因果応報なのだと言い切る勘ちゃんに、否とは言うことはできない。

だけど、俺は三郎の友達だから。

「勘ちゃんは、このままでいいと思ってるの?」
「じゃぁ、兵助はさ。三郎が素直に好きって言って、
全部解決する日がくると思ってるの?
無理でしょう?三郎は自分が傷つくことを恐れている。
彼女は自分が傷ついても、が好きなんだ。それだけで完敗だよ。
ほら、現に、は、三郎じゃなくて、彼女を選んだ」

そうだ。三郎は、遊び好きでイタズラ好きで飄々としているふうで、
内心はかなりのチキン。
彼が素直な気持ちを口に出来るかと言えば、
・・・・・・・・・それは、考えないようにする。
勘ちゃんの口にした完敗に、ふと考える。

「なぁ、勘ちゃん。思いってさ、はかることなんて出来るのか?
俺は好きは好きなんだと思う。
いくら好き好きでもさ、相手の受け取りかたで、
嫌いっていうのもあるじゃないか。残酷だけど。
あの人をは好きで、も、嫁にしてもいいと思っていても、
あんな酷い三郎を愛せたなら、
素直になった三郎を愛せないはずはないと思うんだ」

と、言えば、勘ちゃんは、丸い目をもっと丸くして、そのまま後ろに倒れこんだ。

「・・・・あーあ、兵助って本当天然だよね。
俺としては、同じ立場なのがもう一人いてくれてもいいと思ってたんだけどね。
兵助。勘違いしているようだから言っとくけど、
は、まだ三郎が好きだよ」

へっと目をぱちくりさせて、俺は声を大きくした。

「なんでそれを言わない」
「なんでって、俺、許せなかったんだ。多分」

勘ちゃんはそれ以上俺に何も言わず、空を見て、

「ここは本当に綺麗だよな」

と呟いた。










2011・3・28