「よし、私はやったぞぉっぉぉぉ」
「よくやったな」
「偉いぞ」
「み、みんなありがとう」

オメデトウ、オメデトウと、ハチと兵助が拍手をしている。
完全悪乗りしている二人に苦笑しながら、
拍手をしている僕に、輪から離れている勘ちゃんが目配らせした。
今、ようやく、三郎がを視界に入れても、
赤くなることも、動けなくなることも、
恥ずかしさのあまり傷つけようとする行為をしなくなった。
そのための、お祝いもとい、いや、これどうみても無理ぽというか、
三郎の好き具合がキモイ。ということを乗り越えた僕らへの拍手でもあった。

「どうしたの?」

三人からかなり離れた木下の影にいる
勘ちゃんは、木の影で暗くなっているわけでもないような顔をして、
言おうか言わないか口を何度か開いた。
迷うことは僕の十八番なのだけれど、勘ちゃんにも移ったようだ。

「どうしたの?」

二度目のどうしたの?に勘ちゃんは、目を伏せてから、
僕を真っ直ぐ見た。

「ごめん雷蔵。俺いくらか考えたんだけど、
やっぱり、三郎との仲を取り持つことに協力できない」

はっきりと宣言した脱退に、目を見開いたけれど、
僕は、そんな気がうすうすしていたので、思ったよりも驚かなかった。

「理由を聞いていい?」
とあの子が一緒にいるほうが、にとっていいような気がするんだ」
「つまり、二人がお似合いすぎるから邪魔はするなってこと?」
「いや、そこまでは、ただ俺は協力出来ない」

勘ちゃんの独特なうねうねした髪が揺れた。
僕のぼさぼさの髪は、口の中に入って、一瞬、視界が見えなくなる。
髪をどけると、勘ちゃんは変わらずそこにいた。

「勘ちゃんならそういうと思ったよ」

知り合ったころから変わらない彼の性格は、好ましいと思う。
僕の台詞と態度に、気が抜けたのか、勘ちゃんは、はぁと息を吸ってから、
肩を少し下に下ろした。

「雷蔵は、三郎とが本当に元通りになってほしいと思ってるの?」

勘ちゃんは、安心とともに、何か言われると覚悟していたようだ。
僕の様子に、疑問を抱いた。
僕は、勘ちゃんと同じように木の影に入った。
顔を向い合っていうには、僕にちょっとばかし勇気がたりなかった。

「勘ちゃん。僕はね」

僕はね。この本音を、隠しておきたかった。
いや、本当は誰かに言いたかった。
それを、ずっと悩んでいた。

「三郎の恋が叶っても叶わなくてもいいんだ」
「え」

勘ちゃんから驚きの声があがる。
そうだろう。
少し下を向けば、地面があって、名も知らぬ草と、蟻の行列が見えた。

「三郎を応援する会っていうのを提案した僕がそんなことを言うのは
おかしいと思っているだろう?
でも、しょうがないじゃないか。僕は三郎が愛しいもの。
のように好きっていう感情ではないけれど、大切なんだもの。
と三郎が元通りになるのは、三郎の様子をみていると、多分無理だろうね」
「・・・・・・」

勘ちゃんは、驚いた顔のまま沈黙して、僕の横顔を見ている。

「なんで」

小さな呟きが聞こえた。
それは、勘ちゃんの声のようでもあったし、違ったかもしれない。
幻聴か本当かも分からないほど、
僕はその呟きの答えをずっと言いたかった。

「僕が三郎を協力しているのは、
次の恋で、同じような失敗しないようにってこと。
今のまんまじゃ、次も同じでしょう?
その次に僕らがいれるか分からないじゃないか。忍びだもの。
生きてるかどうかだって・・・・・・。
そしたら、誰が三郎を慰めるの?
誰が、三郎の涙を拭って、大丈夫だって言うの?
そして、この恋に区切りをつけなければ、三郎は執念深いから、
ずっとしがみつくことになる。
僕らがそばにいるうちに、壊れるなり、くっつなり、なんなりしないと、
三郎のためにならない」

木から背中を離して、勘ちゃんの顔を覗き込んだ。
もう、驚いた顔をしていなかった。
口は一文字で、丸い目をして、真剣な表情だった。

「僕は、聖人君子でもないし、博愛者でもない。
大切なものは少ないんだ。
だから、のことより、三郎のことしか考えてない」

言った。言っちゃったな。酷いよね。分かってる。
平等なんてあるわけない。
否定されても、僕はそれでしか生きれない。

「なんか、雷蔵って」

はぁと吐き出された勘ちゃんの息に敏感に体が少し動いた。
視界は、地面に戻った。
思ったよりも、びびっている。
だって、勘ちゃんも大切な人の一人だから、否定されたくない。
今なら、三郎のの気持ちの十分の一くらいなら分かる。
好きな人に否定されるかもしれないのは、
逃げ出したくなるくらいの恐怖がある。

「何?」

声を絞り出した。
いつもと変わらない声で、できたかめっぽう気になった。


「いや、カッコイイなぁと思って。俺、そこまで兵助で思えるかって言うと、
無理だなぁって思って、あーあ中途半端だなぁ。俺は」

一瞬何を言われたのか理解しがたかったけれど、
横を見れば、柔らかな視線と、雰囲気があって、
勘ちゃんが僕を受け入れてくれたのだと理解した。
足元から崩れることはなかったけれど、木に寄りかかるくらいの疲れを感じて。

「違うよ。勘ちゃんは、僕よりも、正しくて、優しいだけだよ」

本当に、優しんだ。今、僕、泣きそうなんだ。

三郎に言いたいことが増えた。
もしが、お前を受け入れてくれたなら、
今までの悩みが全部吹っ飛んで、幸せを感じることが出来ると。
すっごい重すぎて、放っておきたいことや逃げ出したいことでも、
ぶつかってみれば、悪い結果でも、なんであんなことって思う日がくる。
だけど、ぶつからなかったら、ずっと重いまんま。
軽くなっても、小さくなっても、確実に重いんだ。
だから、勇気を出すことも必要なんだって。
そして、三郎はネガティブだ。
こういう幸せがあるかもしれないってこと。



木下の影が少し動いて、僕らは、風に遊ばれるまま、下に座って、
色々な話をした。勘ちゃんは、おちゃらけるように、僕に問おた。

「で、雷蔵さん。お聞きしたいことがありますのよ」
「なに?」
「ずばり、三郎さんとさん。二人がHAPPYエンドになる方法って、
何割くらいですか?」
「うーん・・・1割もないんじゃない?」
「その心は?」

下に見える、の長屋。
僕だって、一応三郎の望みを叶えようとした。
だから、の部屋だって知ってるし、情報だって知ってる。
まぁ、三郎には言ってないけど、どうせ、今日知るのだからいいだろう。
飴と鞭を与えないと三郎は、甘えただから、つけあがるし。
にしたことの因果応報だってことで。

「ほら。今まさに、の両親が、彼女の存在を知っちゃって、
わざわざ学園を訪れてるからね」


僕らが、押し出さなくても、時が押し出す。
ねぇ、三郎。
カウントダウンが、始まったよ。










2011・2・25