「くっだらなぁ!!」

三郎の怨念篭った呟きから、後ろをつけていた俺達の5年の中の一人、勘ちゃんは叫んだ。
とっさに、俺が口を抑えたが、モガモガ言っている。

「勘ちゃんしー」

唇に人差し指を立てて静かにと促すが、勘ちゃんは
ヤサグレた顔でべっと俺の手をたたき落として言葉を吐き出した。

「俺は、三郎が動いて二人の仲をぐっちゃぐっちゃにするっていうから邪魔しにきたのに、
なにこの茶番劇、心底くだらなぁ」

たしかに、俺も何をするのか。ワクワクしたのだけれど、
まさか、『天女さまに変装して、に嫌な事をして嫌われろ』
という小学生低学年のイタズラだとは恐れいった。

「兵助、俺、帰るわ」

と帰っていった勘ちゃんに俺も腰を浮きかけてたが、ハチにがっしり肩を掴まれていた。

「といって勘ちゃん帰ったけど、どう思います?雷蔵どの」
「うーん、でも、進めたのはいいことだと思うんだ。あのままうじうじ部屋の中にいられたら、
うっとしいことこの上ないし、僕はどこで寝ればいいのさ」
「いや、その部屋でいいだろう」

ビシっと雷蔵のボケにツッコミをいれるハチ。
知らないって平和だなと俺はハチを見て思う。
雷蔵はジメ三郎になって一日目はどうにか相手してたようだけど、
三日目で。三郎の胸ぐらをつかみ、
「泣くぐらいだったらあの女殺してこいや!!ああん?嫌われるだとう?
だったら、も殺せや!!面倒くさい。
それが嫌なら、告白でも果し合いでもしてこいやぁぁああ!!
グジグジしやがって、お前、吊るされたいか?吊るされたいんだろう?
分かった。干して、水という水がなくなるまで、カッサカサになるまで
お天道様の下に出してやんよ!!選べや!!殺すか、干されるか!」
と、キャラクターぶっ壊れの凄い切れ具合で、
あのときばかりは、雷蔵を俺は必死に止めた。
結果、雷蔵の寝る場所は俺達の部屋だ。
睡眠不足って人を崩壊させるんだと感心した今日この頃だ。

「てかさー、変装して近づけるなら、に近づく練習、
三郎変装していけばよかったんじゃね?」
「え、そんなの無理に決まってるじゃないか」
「なんで?」
「なんでって・・・・・・しまった!!!!」

そう雷蔵が叫んで、変装している三郎を止めようとした。
しかし、時遅くもう三郎はに話しかけていた。






「ああ、こんなところに、いたのか。さっきおばちゃんが氷飴をくれたよ。一緒に食べようか」

は爽やかに進化していた。
風もないのに髪が揺れている。
笑顔が眩しい。

「・・・・・・・い、いらない」

ぐっと手を握り、爪で手のひらを傷つけることで、逃げる足を止めた。

「そう?だったら、そうだ。酒まんじゅうが戸棚にあったな。
取りに・・・一緒に行こうか?」

ちょっと考えて口に手をあてる。まじ格好がいい。
目がハートになるのを腕をつねることで耐えた。
に、どうしたの?と聞かれなくて本当に良かった。
心臓がバクバクしすぎて吐きそうだから、
に少し慣れた。と言っても
のうなじが見える程度の距離でだけれど、
私は意を決して話しかける。

「げ、元気?」

・・・いや、なにこのセリフ。チョイスおかしいだろう。自分。
何年か前の友達のメールの書き出しみたいな。
なに、今室町だよ?メールとはないし。てか、元気ってなに?
元気って誰でも聞ける言葉だよ?そこらの鳥にもそこらの穴掘り小僧にも、
ってか、綾部こっちみんなし、あーもう、みんな死ね。自分こみで死ね!!

「元気だよ。おまえは?」

なんとこのセリフに返すとは、やばいこのイケメンがぁあああ!!
ああ、綾部がGJとか親指立ててドヤ顔しててもなんか許せます。
元気って素敵な魔法な言葉だよね。

「元気だよ。この通り」
「そう、良かった」
「酒まんじゅう好きなの?」
「ああ、俺酒好きだから、甘いのと相まって美味しい。
だから、お前にも食べてほしくて」
「え、うん、嬉しいなぁ」

ピタリととかかれた長屋の前で止まると、
が顔を覗き込んだ。

「どうかしたか?」
「いや、だって、部屋って久しぶりで」
「そう?」

不思議そうな顔をしてる。
あ、忘れてた。私、そういえばあの女の格好だったんだ。
当初の目的を思い出した私は、
軒下でとお茶と酒まんじゅうを一緒に頬張る。
忘れる前に実行しようとしたが、
酒まんじゅうには罪はないので口に入れた。

「今日もいい天気だな」
「そうだね。あ、これ美味しい」
「おまえならそういうと思った」

ふわりと華美ではなく、素朴で自然なの笑顔。
好きな人が喜ぶと自分が嬉しいときの笑顔。
私の好きな笑顔に、ついぽろりと本音がこぼれた。

「私、が好きだ」

口を抑えて回収しようとする前に、目を大きく見開いて、
それから、同じかそれ以上の幸せそうな顔でが笑う。

「違う、これは、その、違う」
「俺も好きだよ」

私凄く嬉しかった。だって、のことすっごく好きだったから、
でも、視線を下ろして、女物の着物に絶望する。
そうだ、私は今、天女で、だから、の言葉は、
私じゃなくて・・・。
動かなくなった私に心配したが近づく。

「え、どうし」
なんて嫌い!!大嫌いだ!!もう、お前なんて好きなんかじゃない」

だって、お前が美味しいを共有したかったのも、嬉しそうにしたのも、好き合っているのも、
今、心配したのだって、私じゃないなんて、

そんなこと知る必要がないくらい知っていたのに。




泣いて出ていく三郎の後ろで、突ったたまんまのの後ろで、
俺たちは大きなため息を吐いた。

「あーあ、間に合わなかったか」
「というか、本当なのかその」
「うん。は三郎が誰になっても三郎だって分かるから、
変装なんて意味ないだよね。
だから僕最初から変装をいれてなかったんだ」

馬鹿な三郎。天女さまは
さんだろう?
って呼び捨てにしてることにも気づきもしなかったなんて、
お前はどこまで見えてないんだ。








2011・8・18