すすっと女物の服に身を包み、鏡に顔を写す。
緩やかな放物線を描いた眉、大きな瞳、保護欲を匂わせる顔、
何度見ても殺したい顔だ。
完璧な出来栄えについ力が入って手持鏡を割ってしまった。
いけない。正常心。
これから、この顔が醜く歪むのだから、我慢をしなくてはいけない。
ふふと気持ちを真っ黒にして立ち上がる。
立ち上がるとがくれた黒い宝珠の腕輪に気づいた。
どうするか考えて私はそれを手にとった、どうせはあの女のものをつけて
私のものなんて忘れているに違いない。
その事実に泣きそうになったけれど、化粧が崩れるのでやめた。
廊下を歩くと、下級生にあった。
「こんにちは天女さん」と和やかに挨拶される。
「あれ、先輩は?」と聞かれる。
私は笑顔で、
「今探しているの」と甲高いうるさい声を出した。
先輩にあった。
「ああ、ならあっちにいましたよ」と言われた。
「私は笑顔で、ありがとう。見つけようとしてたんだ。
さんってば忍びだから、すぐ消えちゃんだから」
とむくれると、生暖かい目で見られた。
「そこまで思われても幸せもんだ」

そうかな?
「そうかな?」

じゃあ、私はこれで、とそそくさと離れる。

私は殺したい女の面をつけて、
好きな人が見つかって嬉しそうにしている演技をしながら、
のことを思った。


言っても答えない相手の名前をなんども呼ぶ。


お前は知らないだろう。
私は、が好きだってこと。私から好きになったことを。
私は素直じゃないくせに、独占欲だけ人一倍で、
お前のすべてを手に入れて縛り付けて雁字搦めにしないと気がすまなかった。
お前が悲しそうな顔をして悲しくなかったわけではない。
でも、その後にある好きだよと愛されていることを感じる瞬間のほうが大きかった。
私は、お前が好きだよ。
好きだからこそ憎たらしくてお前の触れるすべてに嫉妬している。
そんな私だから、お前は好きだと言ってくれなくなったことも、
こんなことしてもお前は帰らないし、お門違いの八つ当たりだって分かっているんだ。
世界がお前と私だけだったら私だってこんなことしなくてもすんだんだ。
でも、お前は変な女のところへ行ってしまったし、世界はたくさんのもので溢れている。


もう何年も会ってないような心地がするのに、後ろ姿だけでも誰か分かる。
心拍数が少しあがった。

さん!!発見」

お前は、最後に私に見せた悲しそうな表情じゃなくて柔らかで優しい表情をした。
一面の菜の花畑がさわりと風で揺らぐような、
のんびりとした春を連想させる微笑だった。
哀しいかな。それは私が惚れたときの表情で、私が彼にさせたくて、させられたなかった表情だった。
ぎりと拳を握りしめた。
私は誰だ?
学園一の変装面人の鉢屋三郎だ!!
さぁ、見てらっしゃい。寄ってらっしゃい。
今からするのは滑稽な道化の、最高で最悪で最凶な最低のお話。
私は私を捨てて、私が嫌いお前が好きな女を演じよう。
その先にあるのかは分かってる。
それでも、この腹の中に真っ黒な炎が消え去るまで私は私を忘れてお前を騙そう。












2011・8・1