運命って知っている?そういって手を絡めた。
運命の言葉についてきた、一生とか、永遠とか、
言葉にすれば簡単で。
そう。
言葉になってしまった瞬間に、それは嘘になる。
あとは、泡沫のように、消えるだけ。
だから、私は運命って言葉がクソ嫌いなんだ。
酒瓶を持って、屋根の上にあがった。
いつもなら、愚痴を三郎にこぼすのだけれど、今は一人だ。
ぐいっと瓶を傾けて、中の液体を胃に収めようとしたけど、
瓶の中身は空っぽで、一滴だけ、口の中に落ちていった。
まだ全然酔えそうにない。
横をみれば、瓶が三本落ちていた。
私はそこそこ酒が強いほうだけれども、これだけ飲めば少しぐらい
いい気持ちになるはずなのに、目だけが妙に冴えるだけ酔えない。
別に。
綾部 喜八郎が誰と付きあおうと私には関係ない。
みなが私を綾部を好きにさせたがっているが、
私は綾部が好きじゃないし、根本がおかしい。
私は女がいい。男はいい。
理解したくないが、私はどうやら男好きする人種のようだ。
だからといって、私が男を好きになるはずはない。
そうだ。そうだ。と私の中でやんややんやの喝采が響く。
そのなかで、一人が手を上げた。
じゃぁ、なんで酒なんて飲んでいるの?と。
何か忘れたいことがあるのでしょう?と。
一回みなが顔を合わせ私を見た。
もしかしてと、困惑した顔をして、私を見ている。
脳内会議なのに、意思疎通が簡単ではない。
私はおほんと咳払いをして、正解を彼等に伝える。
―――これは、体を清めるためだ。―――
私は浮気とかそういった不誠実な行動も嫌っている。
道徳云々よりも、誰も幸せにならない行動をすることに理解出来ない。
だから、いくら無理強いでも、流されてしまっても、
恋人がいるのに、体の関係を持ってしまったのだから、それは浮気だ。
そう、私はその行為の一因な私を嫌悪しているのだ。
その嫌悪を収めるために、酒を飲んでいる。
私の正解に、心は静まって、周りをみるゆとりが出てきた。
煌々と地面を照らしている月を見れば、その中に。
「・・・・・・なんでいるんだ」
「先輩に会いたかったんです」
そういって、彼は、黄色の髪を灰色の髪に変えて、私の前に出てきた。
お前は、天に連れていかれるべきだ。
そうして、もう二度と私の目の前に現れなくなるのを希望する。
そんな私の熱望も虚しく、月は彼を離した。
人になった彼は無表情で、心ってものが本当にあるのか
分からないから、私は聞いた。
「なんで会いたいの?」
その一言に、彼は考える顔して、
一拍間をあけると、私の瞳を覗き込んで答えた。
「・・・・・・運命って信じます?」
安直で、クソ嫌いな言葉を、綺麗な顔についてる口から出てきた。
はははと乾いた笑みと共に、私は少し泣いて、
綾部喜八郎は、目をちょっとだけ見開く。
そうだろうね。そんな安い言葉で、泣くなんて馬鹿みたいだ。
泣いた私の涙を綾部が拭うと、そのまま舐めた。
「辛い」
そういって、私に手を差し出す。
私が、そんなもんで、ほだされるわけがない。
私は男が好きではないし、綾部も好きではない。
その手の意味がどう言ったものか分かってる。
綾部の考えは分からないけど、これは浮気で、嫌悪すべき行動だ。
綾部に恋人がいるのを知って、いくわけがないと、
振りはろうとした手に、うっかり間違えて、手を乗せてしまった。
綾部は、その一瞬を逃さずに、私の手を握って、月のない場所へ私を攫った。
手を絡めあう。そのなかで、リピートする。
運命って言葉がクソ嫌いです。
大嫌いのその上の上の上のそのまた上くらいに嫌いです。
だから、その反対を思うことも出来るわけでして、
ええ、そうです。
そのクソ嫌いな言葉を、私は、もう一度待っていたんです。
そして、これが終りなのでしょう。
それも分かっているのです。
2010・1・11