「    !!」
「ごめんなさい」
「×××××!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「◯◯◯◯◯!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

誰かが泣きわめいていた。言葉はもはや理解不能。
私は一心不乱にごめんなさいを繰り返している。
でも、なんで、私が謝らないといけないの?

誰かの手が横から私の頬を撫でる。

―――――あなたは     ?


「先輩、先輩」
「・・・・・・」
先輩、ちょっと足開いてくれませんか?」
「嫌だ」
「しょうがないですね。じゃぁ、このまま」

と、ひょいと体を持ち上げられた。
私は、おもいっきり足に力をいれて、綾部の腹を蹴った。

「綾部死ねぇぇぇ!!」




昼寝から何かを感じて起きたら、綾部に襲われていた。
もはや毎度になりつつある綾部との攻防に、
廊下の真ん中を歩いてれば、自分が夢を見ていたことを思い出した。
内容は全然覚えていなかったが。

「・・・嫌な感じ」

そう呟くと、何がだと?横から、綾部の顔が出てきた。
私は、うぉぉぉと叫び、顔面に拳を繰り出したが、簡単に受け止められる。
そしてすぐに、三郎・・・いや、雷蔵の顔が出てきた。

「また綾部に襲われたのか?」
「あいつは電波すぎる、何度拒んでも、何度嫌だと言っても聞き入れてくれない。
それどころか、嫌がられたほうが燃えますとか言ってきたし、
なにより、私懇親のケリを踏子ちゃんで防御しやがった。
何、私、5年失格なわけ?4年に負けてない?負けてるかな?」
はもうちょっと肉をつけるべきだ!!」
「そう、肉を・・・・・・七松先輩」

横からがっと私の肩を捕んだ筋肉隆々しい七松先輩は、今日も元気いい。
というか、七松先輩から見れば大体の人がひよっこです。
私なんてもやしです。と色々言いたいことがあったが、
スルーされるので、言わない。

「ほら、今からドッジをするから、も来い」

そして唐突にボールを出した。
ここで、間違えてはいけない。ドッジ?子供じゃん。(笑)
と思うだろうが、この筋肉隆々しく、学園一の怪力で暴君と呼ばれている
彼が行う遊びだ。もちろん、デスマッチ!!死ぬか生きるかだ。
私はまだ生きたい。
このところ、BLな環境に置かれて、死にたい気持ちにかられることは多いけど、
本当に死にたいわけではない。
むしろ、相手が死ねばすべて結果オーライ★と考えるほどの強さを持っている。
汗が半端なく出てきた。肩をがっちり掴まれて逃げれない。
だったらせめて、誰か巻きこんでやる。

「え、だ、だったら、三郎も、っていねぇ!!」

薄情者!!と心のなかで盛大に叫ぶ私も薄情なので、どっちもどっちだ。
そんな私を太陽も負けそうな笑顔で、七松先輩は照らしつけた。

「メンバーはちゃんと用意した」
「その(可愛そうな)メンバーに私を入れないでください」

と懇願するも、やっぱり聞いていない七松先輩は、
楽しいぞ!!と、ずるずる私を引きずった。
途中、何人かが私を可哀想な目で見ていた。


ドッジをやる場所へ行くと、見慣れた姿。
その姿に私は駆け寄ったが、

「兵助、なんだお前もメンバーか」
はこっちだぞ!!」

七松先輩の声に、すぐに方向を変えて。

「私、喜んでそっち行きます!!」

と、駆け出す私の腕を誰かが掴んだ。

「私のことは無視か?いい度胸だ」
「やっぱり、本物の立花先輩だ」
「なんだ偽物がいるのか?」
「いや、だって、立花先輩はこういうのやらなそうなのに」
「しょうがない。小平太の賭けにのったんだから」

答えたのは立花先輩でなく、潮江先輩だ。
潮江先輩にはなんでメンバーに入っているんですかとはきかない。
この人は結構のせられやすく、
よく七松先輩の命をかけたゲームに参加しているからだ。
まぁ、この人ぐらいになれば、ちょっとした怪我をするくらいのゲームなのだろうけど。
実は私、潮江先輩を尊敬している。
三禁を守り、自分を律し、鍛錬にあけくる姿は、男だ。
堅苦しいとか、汗臭いとか、隈酷いとか色々言われているけど、
私には、こんな人になってみたいけどなれない人で、憧れている。
ちなみに、これを、三郎に言ったら、
すごい顔をされて、一回予算委員とか出てみろよと言われた。
それから永遠と潮江先輩の嫌な所を聞かされたが、
三郎の語彙の多さに驚いたくらいだ。
そんなことを考えていれば、潮江先輩をじっと見ていたらしい。
なんだと?振り返ったので、私は適当に話を言う。

「あー、じゃぁ、兵助はおまけですね」

と言って兵助を見たが、何の反応もしない。
よく見れば、顔が青い。無理やり連れられてきたのがよく分かる。
私は、七松先輩の私を呼ぶ声に、
「兵助。武運を祈る」と安全地帯へ走った。




「なんかさー、私は動かなくてほぼ良かったというか、
初めて、ボールが破裂するのを見たというか、
途中から、6年のバトルっていうか。獲物だしてたとか。
人の顔って結構強いな。いや、あれは潮江先輩だからか?
なぁ、ボロ雑巾」

兵助もといボロ雑巾は屍のようだ。返事はない。

「賭けってなんだったんだろうな」
「それは、作法委員が一週間お前を借りるって話だ」
「あ、潮江先輩生きてらしたんですか」

私の呟きにこれまたボロボロな潮江先輩が答えた。
先輩は、途中で、焙烙火矢の餌食になっていたのだけれど、見事生還している。
投げた立花先輩は、味方も敵も関係なく攻撃していた。
だからだろうか。勝敗が決まった。
七松先輩の勝ちだ。

「小平太と仙蔵がもめてもめて、ドッジになった」
「へー・・・・え、いや、なんで勝手に私を賭け対象にしてるんですか?」

さっきまで聞き流していた情報が頭の中に入ってきた。
負けていたら、私は作法委員にかりだされていたとか、
作法委員の面々を思い出して、特に綾部を思い出して
あそこにいくぐらいだったら、七松先輩と中在家先輩の部屋に立てこもる。
そのまえに、私に前もって言ってくれればと、
色々思っていた私に潮江先輩が一言。

「小平太と仙蔵だぞ?」

まだいがみ合っている二人を見れば。

「・・・・・・ああ、暴君と女王が見える」

見ていたら、七松先輩が振り返り、灼熱の太陽ばりの笑顔で。

「大丈夫。は、渡さないから!!」
「・・・私、愛されてるってことでいいんでしょうか?」
「・・・そういうことにしとけ。余計なことを考えるだけ無駄だ。
こっちに火花が散る前に、久々知を医務室に連れていこう」

そういって、潮江先輩は兵助をおぶって、医務室へと歩いた。
私は、前を歩いている先輩に、もう一つの疑問を口にした。

「潮江先輩、なら、なんで兵助が入ってたんですか?」
「小平太は、馬鹿で真っ直ぐだからな。
こういった方法で、お前を害したものを、退治したんじゃないか?」

ああ、なるほど。と、いうことは私の噂はちゃんと知っていると。
・・・・・・・・・・・・・・・それは、凄く恥ずかしくないか!!
事実だから、嘘とも言えないし。
うわぁー、今度からどういった顔をすればいいんだ、
てか、潮江先輩も知ってるわけで、どんだけの羞恥プレイ?
うひょーの気持ちを覆い隠し、なんでもない振りをして潮江先輩に返した。

「あ、だったら、綾部をコテンパンにしといてくださいって言ってくれませんか?」
「・・・・・・」
「穴掘り仲間だから駄目ですかね?」

潮江先輩は振り返って、私を見た。
片まゆだけが上がっている。

「いや、だって、お前はいいのか?」
「はい?」

「だって、お前、綾部が好きなんだろう?」

その言語が頭に届くまでの数秒。
私は止まった。

―――あなたは   好きなの?―――

あははは。私は笑う。
今も昔も、同じように。

「・・・・・・全然そんなわけないじゃないですか。だって、あいつは、

男ですもん」


私が大嫌いな男ですもん。







2010・11・16