とは長年友好関係を築いているけども、
こんなに疲れた顔をみるのは初めてだ。
それもそのはずだ。
彼は、女好きであるのに、男の綾部に抱かれ、
それからその噂が流れると、男に迫られるようになったらしい。
下弦の月の下、屋根の上で酒をぐいっと一気飲みをしているの横顔は、
たしかに、男が好きそうな綺麗な顔をしている。
盃から口を離すと、色気のあるはっと言う声もする。
私・鉢屋三郎から言わせてもらえば、女好きであってとしても、
よく今まで食われなかったものだというのが正直な感想だ。
まぁ、彼がその手の視線に鈍く、
立花仙蔵先輩が堂々と自分のと触りまくり、
その後ろで、七松小平太先輩が手を出すと殺すと
威嚇していたのが、効いていたのかも知れない。
そんなことを思っていれば、の愚痴がようやく終り、私に問いかける。
「と、いうわけだよ。三郎くん私はどうすればいいのか」
ここで、無視したりいい加減な言葉を言えば、
彼は分かりやすく拗ねるものだから、いただけない。
しかも朝までそういう態度だから、
友人らに、なにしたの?もしかして、君も手を出したの?
と変に疑われるので、彼を拗ねさせる訳にはいかない。
「近寄らなければいいんじゃないか?」
「それが、ほら、足見て、今でも手形が残ってますが、
土遁の術を使われまして、こう足をがっと掴まれて、
地面から出てくる姿が、かなりホラーで、
腰を抜かしたところ、抱きつかれて、のしかかられました。
意外と力がある綾部に連れ込まれかけた所を、
滝に助けてもらったとか、もう威厳も何もない」
手を顔にあててしくしくと泣いているの足にはくっきりと、綾部の手形。
今日の出来事を振り返えると、
ギャーと死にかけた鳥のような断末魔が聞こえたような気がした。
保健委員が穴に落ちた日常音だと思ったが、
そういえば、保健委員が落ちる確率が減ったと報告書に書かれていた。
つまり綾部は、穴を掘るより、の穴を掘ろうということか。
さすが、穴掘り小僧。穴は難しいほうが頑張れるということか。
うんうんと頷くのを堪えて、魚の眼をしたに、感想を述べた。
「5年なのに、綾部の気配に気づかない方がやばくないか?」
「・・・それは言わないでくれ。綾部が優秀とかなんとかよりも、
戦闘区域でもなく、なんでもない地面から人の手が出てくるとか
思わないだろう?いや、もしそう思って生きているなら、
私どこで気を休めばいい?ここは戦場ですか?
学園でしょう?そういうのはもっとあとでいいじゃん。
そういうことじゃないんだよ。そういうことじゃあ。
どうすれば、あいつらが私に一切の興味がなくするか考えるんだよ!!」
凄い必死だ。
そもそも一切興味がなくさせるって、
おまえが嫌いとか拒否ればいいだけの話だろうに。
と前言ったことと同じことを言おうとして、解答を思い出した。
もうすでに実践はしているようだ。
ただ話を相手が聞かないとかなんとか。
逆に、嫌いは好きとかよく分からない理屈を述べられて、
肉体関係に移行されたとかなんだか。
ふむ。どう言えばこの無駄な掛け合いは終わるのだろうと、
考える私をよそに、は大声で叫んだ。
「女の子が好き好き、好き、好き。大好き!!」
このところ、彼が自分を保つための呪文だ。
傍から見れば、え、おまえ大丈夫?な言葉だが、
ここまで男に好かれている彼にとっては、魔法の言葉である。
「そう、だから彼女を作れば、奴らだって諦めると思いまして、
彼女を探す為に、街に繰り出せば、
なんと齊藤が先回りしていた。しかも兵助までつれて」
落ちが読めた。
タカ丸さんは学園に来る前から、
たくさんの女性方と遊んでいそうな匂いがしているし、
兵助だって5年の中で一番女からモテる美少年だ。
「私だって、そこそこいけてるけど・・・・うぅ、くそ。
あいつらなんで男が好きなんだよって思うほど女に好かれまくりやがって、
私の目に映る範囲にいなくなればいい」
私はの愚痴を聞きながら、思う。
どちらかというと、タカ丸さんは男が好きというよりも、が好きなだけだろう。
と、は男好きが男の自分に惚れていると思っているようだが、
実は、に落ちる男は、普通に女が好きな奴が多い。
ノンケでも落としているのはのほうなのだ。
むしろ、可哀想な被害者だが、
からは、獰猛な犯罪者にしか見えないのだろう。
私の中にある一番的確な答えをに投げた。
「もう、他の男と付き合えば?」
「立花先輩みたいなこと言わないでくれ、
作ったら作ったで、変な視線が増えるだろう?そっちも嫌だ」
「でもこのままじゃぁ嫌なんだろう?」
「・・・見ろ、三郎。これが私の今日の貢物だ」
そう言われてどうやっても懐に収まりきらない量が出てきた。
髪結いの紐に、手紙に、花に、綺麗な小箱に、本に、お菓子に、
色々とあってそのなか一際目立っていて、よく見かけるものに手をかけた。
「これは」
「実用性のあるものを狙ったらしい」
・・・5年忍服一式はさすがの私でも気持ちが悪い。
手を口に当てて、
私の中で可哀想な被害者が、気持ち悪い被害者に変わりつつある。
「こんなもんいらない。しかも、これ、ちゃんと褌もあるんだ。
名前も入ってるし、こんな細かいこだわりもいらない!!
しかも、匿名ってとこが嫌だし、きっと男だし」
いや、女でも私なら引く。
「綾部のせいでこんなことになった。
今日、歩いていたら、知らない先輩に抱きつかれて、
男でも構わないんだろう?俺とやらないか?だってよ。
まじ怖い。男怖い。くのいちへ入学希望」
うん。
今私の中で、気持ち悪い被害者は、と同じ獰猛な犯罪者へと変化した。
すまない。好意だからいいだろうとか思ってて、過ぎると、なんでも痛いよな。
でもどうしてだろう。
くのいちへ転入して、なにも変わらず普通に暮らしているお前が見えた。
そして状況も変わらない。むしろ、もっと女度上がって、大変な気がする。
「あーそうだな、じゃぁ、綾部に責任取らせて、綾部と付き合えば?」
「・・・・・・最初の話聞いてたか、三郎。私は、男と付きあうつもりはない!!」
そういって、は自棄になって酒を飲みまくった。
今、私の背中で、グーグー寝ているは、
現状なんて忘れたかのように幸せな顔をしている。
私は、男と付きあわない。女大好き!!好き好きすーき!!
と、最後の方は、女好きの歌を即興で歌い始めていた
を思いながら、私は誰に言うでもなく呟いた。
「その割には、おまえは綾部ばかりを見ていたけどな」
長い間、私はお前の傍にいた。お前を見てきた。
だから、お前が気づいていないことも知っている。
2010・11・7