「おまえは、酷いな」

温かな日差しを受けながら日向ぼっこをしている平穏なときに、
目の前に立っている美少年こと久々知 兵助に言われた。
酷いに思い当たりがある。
だが、私はただ、予告通り、兵助が豆腐が嫌いになるまで
豆腐がぐちゃっと音がするほど、わさびをねじいれているだけだ。
見る人が見たら、豆腐ではなく、緑の物体と称すだろう。
だが、酷いはおかしい。
むしろ、強姦の手伝いをした兵助を許している私の心の大きさを、
感じ入って欲しいものだ。
あーやだやだ、
肉体年齢より低い精神年齢は嫌だ。
ほんと、私のように、どっしりとした大人でいて欲しいものだ。
ちょっとくらい好物を食べれないくらい何だって言うんだ。
ちょっとくらい好物が苦手になろうと何だって言うんだ。
私は、男に抱かれたんだぞ!!
それを、一週間野宿させて、総無視して、
食べる豆腐を、腐っているものと交換して、水に流してやったんだ。
時々思い出す慰謝料として、
お前が豆腐を嫌いになるくらいどうってことないだろう。
そして、思い返してみればなぜ、私が抱かれる方だったんだ?
色の授業なら、襲われる方でも良かったはずだ。
綾部、超女顔じゃん。どっちかっていうと、そっちじゃん。
なのに、なぜ、抱きやがったあいつ。
そうすれば、ちょっとは心持ちが軽くなったのに。
あ、イライラしてきた。
いや、クールダウンだ私。
ようやく、あの忘れたいのに、忘れられない屈辱の夜を
頭のすみに追いやることが出来たのに、この腐れ豆腐が思いだたせやがって。

「酷いのはお前の思考だ」

と、殺気は出したが、殺さずにそういい留められた私は偉い。
偉いから、誰かこの人をどっかやってください。

「立花先輩、セクハラってしってますか?」

さっきから腰を撫でている立花 仙蔵先輩を睨んだ。
昨日今日の出来事じゃなく、毎度の会えばの恒例行事でも、慣れはしない。
というか、この人の場合、慣れたら、つけ入れられて、レベルアップしていくだけだ。

「なんだそれ?知らないな」

今度は、私の髪を取って、いじくり始めた。
年功序列が激しいこの時代。
私が、あと一歳上だったなら、今この人を殴っているのに。
拳を震えさせ変わりに、軽口を叩く。

「知ってるだろうが、この狐が」

「何か言ったか?」

さすが、忍びの卵、耳がよくいらしゃっる。
あの事件から色々なことに、敏感になった私は恐る恐るある可能性を口にした。

「立花先輩は、ノーマルですよね?」

「お前、喜八郎に抱かれたらしいな」

「え、私の話無視?」

「いくら私がいいよっても抱かせてくれなかったくせに、酷いではないか。
まぁ、私ほどの心が大きいものになると、二番目でもいい。今晩抱かせろ」

さっき私が思った言葉と一緒なのにどうしてだろう。
この人の心の大きさには高慢が入っている。
はぁ、ため息を吐き、額に手を置いた。
そうだ。私が今まで、こんなBLな言葉に、セクハラもされているのに、
BLだと疑いもしなかったのは、この人の行動の最後は、
全てひとつの物事に直結しているからだ。

「それって、抱いて、作法委員会にいれるためのお話ですよね?」

「そうだ。お前は、結構美しいくせに、あんな委員会など入りおって、
汗臭いだけではないか。美しくない。お前は、次期作法委員の委員長に
なるべきなのだ」

いつもそのために言っていると思っていたが、考えてみれば、
なんで抱かれたら、次期委員長になるんだろうか。
綾部との一件で、私自身にある特性があるように思っているのだけれど、
言う人を間違えれば、え、自分どれだけ自信あるの?の痛い人か、
そっちが好きな人になるので、言えなかった。
しかし、ちょうど良い人物が目の前にいる。私は、意を決して聞いてみた。

「私、そういう言葉も行動も、
後輩とコミニュケーションを取るためのギャグだと思ってたんですが、
私を抱きたいのって本気ですか?」

「本気だが?」

「こは、嘘でも、美しすぎるのは嫌われるからな、
お茶目さをいれて、親しみやすさアップだ。って言ってくださいよ。
え、なに?私って、そういう雰囲気でてるんですか?」

あまりにさらりと言われたので、ついいつものような軽口が出てきた。
毎日の積み重ねとは恐ろしい。
立花先輩がどちらでも(この人が女にモテることも、遊んでいることも知っている)
いけると知っていても、走って逃げて、近づかないでください、
私をそういう目でみたら目を潰します。と言えずに、普通に会話している。

「女よりも男に好かれている自覚がないと思ったが、やはりな。
優しい先輩だから言っておく、お前は男にそういう目で見られやすい属性だ」

「優しい先輩は、そういうことが大嫌いだとよくよくご存知でしょう私を、
絶望の底に落としません。てか、抱かせろなんて言いません。
あー、どうしよう、もう一人で歩けないじゃないですか」

時々感じる頭を傾ける視線が、そういう意味ならば、・・・ぞっとする。
てか、その属性はどうすればジョブチェンジ出来ますか?
バニーから、武道家になりたいです。美味しい果実(ハート)な設定はいらない。
出会い頭で、カッコいいと思えば、襲われて、あはんうふんで、
すぐカップルになってしまう世界なんて紙媒体だけで十分です。
出会い頭に、熱い視線なんてクソ喰らえ。
それなら、パンをくわえて、ぶつかって、パンツ見えて、怒られる女の子がいいです。
色々ツッコミが多い、古臭い少女コミックの設定のほうが、BLの世界よりも優しい。
と現実逃避をしている私の肩を抱き、立花先輩は耳元で囁いた。

「私の恋人になればいいんじゃないか?」

「あっはー、なるほど、立花先輩、賢い!!
先輩みたいな怖い人の恋人、なかなかとれませんものね、
って、おかしすぎません?私、女の子大好きなんですけど。
男と付きあうの嫌なんですけど。なんで、そこで先輩の恋人になるんですか?
根本を覆してどうするんですか!!
それに、先輩、恋人になって、私に一切手を出さず、愛なんて一片もなく、
後輩先輩の関係でいれれますか?」

大げさな動作で、手を離れさせ、距離を置き、じっと目をみた。
立花先輩は真剣な表情で私を諭す。

、恋人というのは、愛があるんだぞ?」

「・・・ですよね。私ってば、言葉の意味をちゃんと理解してませんでした。
では、さよなら。一生涯!!」

そういって、今度こそ習慣という文字をぶっぱなして、走って逃げた。
途中、角で誰かにぶつかったので、抱きかかえられる前に、
その手を避け、床に思いっくくそ激突した。
だ、大丈夫か?の言葉に、起き上がると、ぎっと睨み、
「お前、私に変な気をおこしたら、ぶっ殺すぞ」と言っておいた。
少女コミックもBLでもびっくりな展開だろう。これが、現実だ。
そしてこれは、八つ当たりでもなんでもない。正当防衛だと言っておく。


びゅんびゅんと横の景色が変わっていく。
足は動けるだけ動かして、もう豆粒にしか見えない緑を追っている。
緑は、ちなみに暴君こと、七松 小平太という先輩だが、
化物級の体力をもった駄々っ子だ。
走りたいから好きなだけ走っているワガママな彼を後輩に持った、
四年で体育委員の後輩である平 滝夜叉丸に声をかけた。

「滝よ」

「なんですか?先輩」

息が上がっている滝は色っぽい。
だけど、残念なことに男なので、そういう気はまったくおきない。
どちらかというと、えらいなぁ。よくなったなぁ。と甘やかしたくなる子だ。
滝は、同級と後輩と一部上級生からナルシストで、口上が多いと
言われているが、私にはそうではない。
凄くいい子で後輩の面倒見のいい可愛い子だ。
そんな滝に、ちょっとしたジレンマを口にする。

「私は、頑張れば、七松先輩の後ろについていけるほどの体力はあるつもりだ。
そして、後輩をこういうふうに運べるほどの筋肉もある」

そういってもう死んで、意識のない一年生を小脇に抱えている姿を見せる。

「なのに、なぜ、体に表れないのだろうか?」

そう、私の体は、滝より細い。
おかしい。ご飯だって睡眠だって運動だってちゃんとしているのに。
男らしい体になりたい!!
受け、絶対これは受けキャラ、萌!!なんて腐女子に、言わせない。
え、これはない。と引くほどになってやる。これが目下の目標だ。
だが、鍛錬の量を増やしても、疲れるだけで、体に変化はなかった。
滝は、目を泳がして、懸命に言葉を探している。

「えーと・・・・・・た、体質です。あ、私から見ると大変羨ましいです。
その、綺麗な体だと思います」

「フォローが変な方向だけれど、滝がいい子なのは分かった」

いい子だと開いている手で頭をなでると、やめてくださいよと照れている。
いいな。なごむ。このところ、なごみが私に多大に不足していた。
アクが強すぎる人ばっか来るし、絶望する内容ばかりだ。
あー、こんな子供欲しいと思っていたが、彼の服の色を見て、眉間にシワがよる。
あれから、近づかないようにしているが、どうなっているだろうか。
気になって滝に聞いてみた。

「齊藤と綾部はどうしている?」

滝は一回息を飲み込み、それから下を向いた。

「・・・・・・タカ丸さんはニコニコして、喜八郎は無表情です」

それはそれは。・・・なんだろう。
前となんら変わらないことなのに、あまりいい関係じゃないように思える。
きっと、言った滝が凄く疲労困憊していたからだろう。
それは、今の体育委員の内容なのか、彼らなのか分からないけれど。

先輩」

「ん?」

滝は、真剣な表情をして、私に言った。

「喜八郎はやめたほうがいいですよ」

私は、一瞬沈黙して、息を大きく一回吸い込むと、息継ぎもせず連ねた。

「滝、私はな男は好きじゃない。女が好きなんだ。
いくら綾部が、女顔だろうが、綾部は男だ。
私はあっちの世界ではない、おっぱい大好き。と叫べるほどのノーマルだ。
あれはもはや神秘の領域。でも、貧乳も美味しくいただけます。
ともかく、女が好きだ。女大好物。女バンザイ。なんならバンザイ三唱すらできる。
綾部をやめるもやめないも、まず無理。
ってか私がそっち方面の人物だという認識を今すぐ消し去れ!!」

そういってぜぇぜぇと息を吸い込む私に、それならいいんですと、
言いながらまだ納得いっていない滝の顔が見えた。
・・・今度、私の膨大な春画コレクションでも見せてやろうと思う。












2010・10・24