お互い最初が痛いのは嫌だろうと、もう抵抗を止めた私は、縄をほどいてもらった。
それからのことは、・・・忘れたい。
何がよろしくて、朝チュンを、まさかあんまり関わりのない後輩と共にするなんて、
と横に寝ている綾部が、女ではないかと確認してみたけれど、やっぱり男だった。
苦虫を噛み潰したようなすごい顔をしているだろう私は、はぁと重い溜息を吐いた。
友達が男色に走って冷や汗だったのに、
彼等が出来る前に自分が喰われるなんて思いもしなかった。
出来ればこの記憶は、遠い彼方に埋めたいと思ったときに、
綾部の顔に誰かが被った。
「おはようございます。先輩・・・先輩?」
綾部の声で、はっとする。
今のはなんだと自身の脳に問いかける前に、細身で、
どうみても女の子な顔してるくせに、私より筋肉ができている体に苛立った。
「おはようじゃない!!綾部。
君、一回死んで、私にわびろ。男としてのプライドずたずたじゃないか」
「先輩。やっぱり先輩の体は最高だった。好きですよ」
死ねを軽やかに無視し、後悔も懺悔もせず、
無表情のくせにうっとりしているのが分かる。
そして、やっぱりってなんだ?
私はBL的なウマそうな果実、名器みたいな体してるってことか?
冗談じゃない。そしたら、もう一人で歩けない!!
「私、こう見えても、じわじわ嬲り殺すの得意だよ?」
「そうですか。私は埋めるのが好きなので、おそろいですね」
きゅっと恋人つなぎをする綾部。何がおそろいなのか。
ああ、じわじわ生き埋めにすると。なるほどと理解したが、
手に気づいて、離れさせようとバッと手をあげる、だが、離れない。
「・・・手放せや。
はっきり言っておくが、私は、君に、同情したので、流されましたぁ。
そんで、君の顔が綺麗じゃなかったら、君を殺してます。
良かったね。君のたった唯一の長所がいかされて。
そして、こっから同情はしないので、今度同じことしたら、君のあそこ切ります」
「先輩は、私の顔好みなんですか?」
「君は、電波なだけあって、話を聞かないな!!
ともかく、さっさと出てけ・・・いや、まてよ」
私は考え込んだ。
その間、綾部が抱きついてきたが、
考えこむと周りが見えなくなるのが私の悪い癖だ。
そう、ここがどこだか考え込んだ。私は自室で寝ていたはずだ。
そして、ざっと周りを見れば、よく見知ったものたち。
ここは、自室で間違いはない。
では、同室者な久々知 兵助くんは、ここにいるはずなのだが、なぜ彼はいない?
任務は入っていなかった。齊藤を夜這いするとも聞いていない。
そして、4年である綾部が私を縛れたのはなぜか?
あ、なんか分かった。くそう。奴を八つ裂きにしようと思えば、
「さんの髪結いに来まし・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「タカ丸さんのエッチ」
棒読みでエッチと言うの初めて聞いた。かなり癇に障るな。
そうか、エッチか。私は綾部の方がエッチだと思う。
初めてなのに、上手いとかよくわからないし。
本当は、経験あるんじゃないかと何度疑ったか。
でも、本人に言うのは負けた気がして嫌だ。
そして、兵助。お前、覚えとけよ。
豆腐を、毎日おいしく食べれると思うなよ?大嫌いにさせてやる。
これは、脅しでなく、予告だからな。
それから、なんども言うが、私は、BLではない。
ノーマルだ。女の子好き!好き、好き、
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
好き好き好き好き好き好き好き好き、大好き!!
何回か言わないと、今精神崩壊して、もう好きにしてとかいいそう。
だから、別に兵助から齊藤をとったりはしない。てかいらない。
齊藤が女の子でも、好みじゃないと言っておく。
イケイケより、恥じらうほうが好きだ。
ちょっと手を握ったら、真っ赤になるほどウブな方が好きなんだよ。
服は、胸元開かずに、きっちりしてるほうがいいし、
髪だって、いつでもちゃんとしているより、ちょっと動いて乱れてるほうがセクシーだ。
まぁ、これは、男になってからの好みだけどね。
と・も・か・く。
私は、どちらにせよ齊藤が好みではない。
てか、盗られると思ってんなら、私を連れていくな。
嫌だを隠して、忙しいって言ってるのに、無理やり連れてったのはお前だろうが!!
どんだけ、人を不快な目にあわすんだ。
あー、もう、色々と間違えすぎだろうが、兵助よ。
というか、一番は。あんただ。あんた!!
私、髪結ってとか朝一番に言わないんですけど。
朝ほど、人に会いたくないんですけど。
ちょっとは疑え。おかしいって。
何度か君に言った気がすると思うけど、
朝、低血圧だから、今も、絶賛機嫌悪い私。
だからさ、齊藤。なんで君は、傷つた顔とかしてんの?
え、そういうことなの?
まじで?いやいやいやいや。拒否します。
あーもう。
色々ぐるぐる考えていたら、プツンと糸が切れたような音が自分からした。
・・・もうどうでもいいや。
だって、眠るの大好きなのに、なんで男に邪魔されなくちゃいけない。
イライラしてきた。全部、ぜーんぶぅ!!
豆腐が馬鹿で、苦手が阿呆で、電波がエロで。
もうお前ら勝手にしてくれ!!私を巻き込まずに。
私が死んで、男になって、普通に女が好きになったように、なるようにしかならない。
考えるのが面倒いが強い気がするが、収束する気配もなく、
睨んでいる二人に、私はあくびを一つして、
綾部をまず部屋からだし、服もだし、
私のすっぱんぽんに、齊藤がガン見して、
「は、はだか」と鼻を隠した気がするが、無視する。
「全部事故だ。忘れろ。私は全部、ぜーんぶ、なかったことにする。
おまえらと私の関係は後輩先輩の関係以外ない。以上も以下もだ!!
これでも、ミジンコだと思いたいのを妥協してやってる。喜べ。
では、寝る。邪魔すんな。邪魔したら、切るぞ。
そして、兵助にあったら・・・野宿しろ、クソやろうと言っておいてくれ」
ぴしゃんと襖を閉めて、引いてあった布団を蹴飛ばし、
兵助の布団を取り出して、グーと寝た。
嫌なことは、寝て忘れるに限る。前も今も変わらない私の習慣である。
2010・10・19