私、の前世は、千歳という腐女子だった。
千歳は、教師で、運命をねじ伏せた奇跡に、いたく感動した神様により、1つだけ願いを叶えてもらった。
――それは、男になり、生BLを味わうこと。
とてもくだらない願いのせいで、私は、たくさんの男から後ろの穴を狙われる始末だ。
それだけではなく、前世・千歳が好きだった男によく似た後輩・綾部喜八郎に、
恋をしてしまった。
いくら美少女の顔をしていても、奴は男で、恋人もいた。
でも、私は―――。
死んでも、馬鹿はなおらない。故人はいい言葉を残した。
はぁ、と溜息をはきたくなるのは、その事実だけではない。

「どうしたの、くん。疲れた? 帰ろうか?」
、腹でも減ったのか? よし、俺の非常食を」

私のことを心配そうに覗きこむ、金髪が眩しい斉藤タカ丸と、非常食と言って豆腐を
乾燥させたものをぐいぐい押し付けてくる、同室の久々知兵助に、
私は小さく呟いた。その声を拾おうと近づいてくるていで、キスをしようとしている
斉藤の頭と、口の中に高野豆腐をいれてくる兵助の頭を掴み、ニつの頭を
おもいっきりお互いにぶつけた。

「なに? この最初と変わらないメンツに、やり取り。
結構、私成長したと思うのに、なんで、お前らニ人は全然進展しないで、
後退してんの? それとも、私を挟まないと話出来ない病気?
やめてよ。そのめんどくさい感情で、めんどくさいことになったでしょう?
最初からやり直す気でも、私を巻き込まないでくれる?」

痛そうにうずくまるニ人を無視して私は叫んだ。
息継ぎなしで叫んだせいか、息が切れる。

「後退はしていないぞ。。俺は思ったんだ。俺はタカ丸さんが好きだ。
が好きだ。そのニつ混ぜたら、いいんじゃないかって」
「いいわけないだろうが。このド天然。斉藤もなんでこの馬鹿の言うこと聞いてるんだ?」

よく分からない兵助理論に、考えることを放棄した私は、もう一人の被害者である斉藤を見る。

「でもさ。くんが変なやつがつくよりは、三人で守ったほうがいいかなって。
まぁ、あわよくば兵助くんを出しぬいて、僕がいないとどうしようもない体にしようと思ってるんけど」
「腹真っ黒!! 怖い。斉藤、怖すぎる。兵助。こいつと手を組むのはやめろ。
どう考えても、おまえにマイナスにしかならないし、というか、今の聞いて、おまえまだ斉藤好きなのか?」

斉藤の考えでドン引いて自分自身を抱きしめる私に、兵助は頬を染めた。

「タカ丸さんが好きなんて、馬鹿。本人の前で言うな」
「おまえ、さっき自分で言ってただろう?」

兵助の頭をいくら叩いても、赤い頬は戻らない。
恋は盲目というが、ここまでとは、と思ったが、
自分も大概なので、頭を抱えた。
周りが前と変わらない時間をくれるのに、私は、まだ恋を覚えていた。




「作法委員に入れ、
委員会中に来た仙蔵先輩に、またかと苦笑い。
あの日から、毎日、朝、昼、晩と仙蔵先輩と出会っている。
いつも同じ時間ではないし、場所もバラバラだというのに出会っている。
もう苗字に呼ぶことはないくらい名前を呼んでいる。
最初は、美人で頭のいい先輩だと思っていたけれど、
仙蔵先輩の同室である潮江先輩並に、熱くしつこい人だと思う。
綺麗な笑みで、私の肩を抱く仙蔵先輩は急に、距離をあけた。
ぞくりとした殺気に、見覚えがあって、振り向くと、バレーボールを握りつぶしている七松先輩の姿があった。

「仙蔵、に手を触れるな。殺すぞ?」
「ほほぉ。私に戦いを挑むのか?」

ニ人の殺気に一年が体をふるわせている。
私は、一触即発の仙蔵先輩と七松先輩の間に入った。

「ここで、戦わないでください。七松先輩。仙蔵先輩。
やるなら、後輩がいないところでやってください。仙蔵先輩の獲物はたちが悪いです」

私の言葉に反応したのは、七松先輩で、私の肩を掴むと叫んだ。

「なんで、仙蔵を名前呼びで、私は苗字呼び? ずるい」
「え、名前で呼んで欲しかったんですか? 年功序列を重んじる方だと思ってましたが」
「それと、これとは別。私のことは小平太先輩と呼んでくれ」
「はい、いいですよ」

そういうと、七松……小平太先輩は嬉しそうに、笑った。
もう四年間その名で呼んできたから、なかなか慣れず、こぱっずかしさを感じていると、仙蔵先輩が鼻で笑う。

「まるで、飼い主と犬だな。小平太」
「それ、嫌味?」

ピリッとした空気が流れた。

「小平太先輩」

ため息混じりに言った私の言葉に、小平太先輩は、目で訴えかける。
私は、優しく微笑めば、分かったと、しぶしぶながら仙蔵先輩までの道を開けてくれた。
目の前に不敵に笑う先輩に、私は目を合わせる。
真正面から見ると、仙蔵先輩の美しさは異様で、もし、自分が女で、クノタマであったなら、
潮江先輩と仙蔵先輩の掛け算で、とても楽しめただろうと、思ったけれど、
今は当事者だ。

「仙蔵先輩。私は、体育委員会に愛着を抱いているんです。もし、他の委員会に行くとしても、あなたのところだけはないです。まったくもって」
「それは、喜八郎がいるからか?」
「違いますよ」
「いても、私だけ見てればいいじゃないか。私もおまえだけを見ていよう」
「それって、委員会活動できてませんよね」

苦笑する私の手を無理やり掴もうとする仙蔵先輩の手を、小平太先輩が払いのけ、
私を自身の腕の中へいれると、口端を大きくあげた。

「しつこいぞ。仙蔵。は、体育委員の委員長候補なの。
おまえにはあげない。帰れ」

しっしと犬を払いのけるかのような所作も気にせず仙蔵先輩は言う。

「新しい世界を見てみてもいいじゃないか。、傷は、新たなもので埋めよう」

どこかで、喧嘩をしているらしく、騒々しい。
それなのに、ここだけは、静かだった。
木々の音、鳥の音、誰かの息を吐く音、すべて聞こえていた。
いつもなら聞こえないであろう、誰かがいる音を聞いて、私は心を落ちつけた。

「どうしてでしょうかね。もう忘れようと思っているんですけど、最初の一歩はとても難しいんです。私は、まだ、彼らを見れません。
そして、再三言いましたけれど、私は体育委員会以外の委員会に入るつもりはないんです」
「‥…そうか、私としたことが、性急すぎたな。分かった。逢引で手で打とう」
「すいません。私の逢引予定、あとニヶ月間一杯です」

仙蔵先輩は、私の言葉に、鳩が豆鉄砲を食ったようような顔をして、
それから剣呑な顔をする。

「なんだって、私以外とするというのか」
「私にとって、男への恋愛の好感度なんてみなゼロですから。
もう、男は嫌だなんて言えませんしね。仙蔵先輩が言った通り、
少し世界の見方を変えて、言ってきた人全員と逢引することにしました」
「そういった新しい世界ではない」

焦っている仙蔵先輩なんてレアだ。
珍しいものをみた気分で喜んでいると、小平太先輩が私に凄んだ。

「そうだぞ。。さすがの私も忍術学園の人間を、何人も消すのは手こずるんだ」

何人も消すに不穏さを感じたけれど、滝が、私の裾を掴んで、涙目だ。

先輩。何度だって土下座してもいいですから、自分の体を大切にしてください」

焦る私に、委員会中なはずの友、雷蔵が木から出てきて高らかに言った。

「そうだよ。。僕らだって、その数証拠隠滅させるのは、
大変なんだよ」
「え、なに。証拠隠滅って」

尋ねると、雷蔵が出てきた木から三郎が出てきて、雷蔵にゴニョゴニョ耳打ちをしている。
だが、雷蔵は、説明が長いといって、三郎の頭を殴った。

「いやだな。証拠隠滅っていうのは……一杯ありすぎるな。
、どれからがいい?
上級生編? 下級生編? 忍び編? それとも一般人編? 迷うな」
いつもの優しい笑顔で雷蔵は丁寧に説明しようとしたが、どれを言うか迷っているらしい。
私は、にっこりと雷蔵と似た笑顔で、どれもいいと、しか言えなかった。
雷蔵は、私の最後の聖地。
例え、違くても、決定打を打たれたくない。
私は、ははと空笑いをした。

私は、どうやらとても愛されているようだ。
友に、先輩に、後輩に。










2013・1・9