ああー最悪だ。
何度目かの綾部の腕の中。
綾部の腕は、毎日穴を掘っているだけあって筋肉質だ。
私のもやしのようなひょっろとした腕と違う。
何度目かの腕の中だけれど、
その日は私のほうがちょっとだけ早かったようだ。
いつも無表情な顔が、幼い顔をして、瞼が閉じられている。

正直に、綾部 喜八郎は綺麗な顔だと思う。
だから、抱かれても嫌悪感がないのだろうけれど。
こいつのほうが、男好きする顔だろう。
自分の顔はここまで女顔じゃない。
だけど、前世からの呪いで私は男に好かれる。
そして、なんの因果かあんなに嫌がっていたBLな関係になってしまった。
しかも、浮気な関係。
苦笑すら出てこない展開にお手上げだ。
さっさと、布団から出て行こうと思うのだけれど、
脳みそが、一生懸命、こいつの顔を覚えようとしている。
どんなに見たって、変わらない。当たり前だ。
何度も、女か確認したときに、一杯みた。
これ以上何を見ろというのだ。
綾部から、すーと寝息が聞こえた。
3年の・・・浦風 藤内に向けていた笑みを思い出す。
どこか幸せそうな顔。私に向けることはない顔。

「もし、綾部が私にあんな顔を見せたら」

見せたら・・・で、綾部の体が動いて、口を閉じた。

授業中の、兵助からの視線が痛い。
あの恐怖のドッジボールから、兵助とはあまり喋らない。
お互い喧嘩したわけでも、避けているわけでもないし、
ご飯だって寝る場所だって一緒だってのに、どこか違和感を覚える。
そのくせ、兵助は、授業そっちのけで、
私を穴が開くほど見続けるものだからたまらない。
教師に一回注意されて以来、器用に教師にはバレないようにやっているところが
優秀なのだろうけど、そこの忍びスキルはあげないでほしい。
それか、もっとあげて、私に気付かれないぐらいにして欲しい。
兵助とこんな関係になってしまったのは、振り返れば、
酷いと言われた所からだろうか。
今思えば、兵助が言った「酷い男」はたしかに、私のことだろう。
許されない行為だと頭は理解してる。
突き飛ばす勇気もある。
それなのに、体が言う事を聞かないとか、どこのガキだと言うのだ私は。
前世とあわせて、精神年齢30は軽く超えてしまっているのに、
なんでこんな青臭い泥臭い思いをしなくてはいけないんだ。


あーめんどくさい。全部全部何もかも。
何もかも放って、どこか遠くに行きたい。
そんなことは思っているだけで、
いざ行こうとなれば、なにかと理由をつけて断るくせに、
あーと疲れる振りするのもめんどくさい。


そう思っていれば、廊下から、金色の奴が歩いて来るのを感じる。
あの日以来、私はあの金髪を避けている。
なんでかって?
理由は簡単だ。
齊藤が言ったように、私はちゃんと目覚めた。
そりゃもう、最悪な方向に。
目が覚めて、齊藤は自分を怒るかもしれないと言っていたけれど、
私は自分を怒りたくてしょうがない。
でも、その怒りを、齊藤のせいにしそうで嫌なんだ。
私が全部悪いと、きっぱり言い切れるほど、強くなくて、弱くて、
そういう自分を晒すなんて耐えられないだから、逃げてる。

忍びの学校でよかった。
齊藤がまだ一年くらいの能力しかなくて良かった。
そう安心したのはつかの間で、はしっと腕を誰かに掴まれた。
振り返れば、綺麗な綺麗な黒髪。

「・・・・・・滝」
先輩」


「もう、終りにしましょう」

滝は見たこともない顔をしていた。











2010・1・20