「俺ってさ、大層暇が嫌いなわけ。だから、俺と愛し合わない?」
と言う酷い台詞で綺麗な女3.4人アイツについていった。
なんでだ?
色で、女をたぶらかす授業でコイツ以上な奴はいない。
俺は忍びを極め、のちのち学園長になるのだから。
だが、俺はめっぽう色に弱い。ドベだ。そんな教師が俺に見本として見せたのが、
だった。
「わ、分からん」
「大丈夫だ。俺も分かんねぇ」
「うん、僕もさっぱり」
隠れている場所にいつの間にか、は組の伊作と食満がいて、
「なんでいるんだ」
「なんでもいいだろう」
「声かけようとした人、みーんな、の所行っちゃってさ」
「ああ」
ご愁傷様だ。
「お前らになくて、にあるものそれは色気だ」
なんで仙蔵までいるんだ。と視線をよこせば、プイと横を向かれた。
もしかしての、伊作と同じ理由か。
俺はそのときまでこいつが色気で女を引き寄せ、飽きたら捨てる酷い男で、
馬鹿でだらしない男だと思っていた。
つまり、俺はが好きではなかった。
ある城の警護に、俺とが選ばれた。私情と、任務は違う。
は性格に難があるものの、忍びとしての才能は認めていた。
「菫様。お加減は宜しいので」
町娘から姫となった少女らしさと赤臭さがまだ抜けないにせよ。
くしゃと恥ずかしそうに笑う顔が印象的な人だった。
「ありがとう、なんか恥ずかしいな。くん」
人払いして最初に言った言葉を俺は忘れない。
彼女とは知り合いであった。
彼女の言葉に、彼は少しだけ、顔を緩めた。俺はその顔に見覚えがないほど穏やかだったと思う。
「ああ、元気そうでなによりだ。菫」
一週間。俺は内心、冷や冷やし続けていた。
あの女に見境がない男が、知り合いであんな顔していたなら
守る対象に手を出すかもしれない。ずっと気を張っている中、は主に呼ばれ、
俺は菫姫の元に一人。
「あのね、文次郎くん。いいかな?」
「はい。なんでしょう。菫姫様」
「姫、まだ慣れなくてくすぐったいなぁ」
クスクス笑う彼女は、魅力的で姫と言うにはおおらかな人であった。
菫姫はひとしきり終わると、くるりと湯飲みを一回回して、こちらを見る。
思った以上に意志の強い瞳にたじろいで何を聞かれるのか身構えれば。
「文次郎くん、くんは学園では元気?ちゃんと友達いる?」
拍子抜けして、だけど違う意味でドキマギしている。
今回の目的がもしそういうことならば、は主に殺されるかも知れない。
そんな感情が出ていたのだろうか。菫姫はまた一回くるりと湯飲みを回し、
今度は下を向いたまま話し始めた。
「雨の日にね出逢ったの。今思い出しても最悪最低な出会いよ。
女の嫉妬で私は働く場所なくなって、生きることもままならないときに、あの人に出逢ったの。
普通なら傘一本でも渡してくれるのが男なのに、彼は笑って、
くたばるのか?って聞いたのよ。失礼しちゃう。
だから私も言い返したの、赤い天狗がわざわざ町までおりてきて見つかれば、
見世物小屋行きね。それでも、生きていれるのだから、赤髪はとくねって。
今考えれば相当酷いことを言ったわ。一瞬きょとんとした顔をしてそれはそれは楽しそうに笑って
面白い面白い、ならばこの天狗、お前を生かして見せようかってね。
頭がいかれた人か本当に天狗か分からなかったけれど、
私はいつの間にか団子屋の看板娘になっていた。それで見事今の殿に見初められ姫となった」
「ねぇ、文次郎くん。君が私と彼の間を疑っているけれど、それはありえないのよ」
少しだけ悲しそうな顔で彼女は湯飲みを置いた。
「私ね、くんが好きだったけど、振られちゃってるのだから」
頭に響く彼女の言葉。何かが引っかかる。なにかがと思っていれば、
ここの殿様が俺に声をかけた。
「そこの。聞きたいことがある」
「はっ」
「これを見覚えないか?」
「これは」
「のだろう」
「・・・・・・」
「悪いことではない。ある日どこぞの暗殺を企てたものに刺さっていたのだ。
奴に聞いても知らないと言うだろう。のう、そちは同級と聞いた、
私が奴に言っても聞きやしないから言っておいてはくれまいか」
そうして、全て任務が終わったとき、菫姫は笑って見送りにきた。
「、私子供が出来たの。ありがとう、幸せよ」
「幸せだってさ」
俺は今学園でと酒を酌み交わしている。
前の俺ならばありえないことだが、素面ではいえない感情があった。
だから、俺は酒を飲んでいるんだ。
「殿が、知らない所で私たちを守ってくれてありがとう。
だが、もういいと言っていたぞ」
「ふーん」
「」
どういうことだと睨めばなんてことはないように語る。
俺とね、あそこの城主知り合い。
俺があの二人くっつけたの。
そんだけ。そんだけのことだよ。
かーと酒が回ったのわけでもないのに熱が上がった。
なんでだ。なんでだよ。鈍い俺だって分かったんだ。お前はだって。
あの時引っかかった思い。だって、お前は
「好きだったんだろう。菫姫を」
お前があんな顔をして女の顔を見たのは初めてで、必死に守った姿も初めてで
そして決定打なのは振った女にわざわざそこまでするお前。
好きだったんだろう?好きなのだろう?
幸せを語るお前が一瞬歪に動いた眉間の皺を見逃さない。
なのにどうして。どうしてだよ!!
「どうして、振ったんだ。付き合えば良かったじゃないか」
答えを聞かず決め付けた俺に彼はやはり独特の笑顔で笑う。
人を馬鹿にした笑い方は好きじゃなかった、でも今はそこに隠れている全てを感じてしまって
いつも感じる苛立ちなんて微塵も感じない。
「馬鹿だね。文次郎。あの笑顔見た?幸せだろう。
俺は絶対にあんな顔させてやること出来なかった。なぁ、文次郎。それでいいじゃねぇか」
そういって酒を飲む男は確かに同性が見てもかっこいい男であった。
そしてなんて不器用な。
「バカモン、バカモンが」
「なーんで、文次郎が泣くのさ」
なんでって?決まっているだろう。お前が泣かなずに笑うからだ。
だから俺が変わりに泣いてやってんだ。それくらい分かれバカモンが。
2009・11・27