俺は は、今大変困っている。
何に困っているかと言えば、別に何にも困っていない。
困っているのは、誰だっけ。そうだ俺だ。という所におちいるほどの思考回路だ。
何でこんなことになったのか。というよりも俺はイケメンには関わりたくなかったのに
関わってしまった罪なのか。豆腐が罪なのか団子が罪なのか。ならば、俺は敢えてその罪を被ろう。

「よし、ではどっちがどっち?!」

目の前には双子ではないクリソツな人物。
俺が、豆腐成功の報酬は変な双子に変な因縁を売りつけられたことだった。
目の前にいるそっくりな双子なイケメン、片方は変装をしていると聞いたが、
俺の勘が告げている、こいつもイケメンだと。

「もう止めろよな、三郎」

豆腐君が俺を守ってくれる。うん、でもね俺の袖から手を離していただくとありがたい。
彼は俺より背が低い。というか俺は身長だけは高い。4年では一番ではないだろうか。

が困ってる」

うん、それとね、名前で呼ばないでね。いつの間にか名前呼びになったけど、
もしかして豆腐をあげることは餌付けだったのかもしれない。
でも、この豆腐君の味覚はいいらしく、他に杏仁豆腐なども試食してもらっているので、
強く言えない。団子以外の甘味にも挑戦しているけなげな俺。
それも俺の夢のため、全員が幸せな計画のため!!!!!
は、思考が飛んだ。いけない、いけない。と顔を上げれば、かなり顔が近い二人。

「どっちがどっち!!」

なぜか片方が涙を流している、それをペロリと舐めれば甘い味。

「君が、鉢屋くんだろう」

俺の鼻を舐めるな。俺の舌を舐めるな。鉢屋と呼ばれている人物が甘い匂いをさせているのも、
涙がちょっと甘いのも俺からしたら朝飯前さ。
そして君が、今日食べたのは吉野屋の酒饅頭だ!
あそこのはちょっと甘めで俺は苦手だけどそうか、変装名人くんはかなりの甘党だな。
だったら。

「これをあげるよ」

俺は、最新作の栗饅頭をあげた。食べたら泣くほど美味しかったのか。俺の胸でワンワン泣いた。
豆腐君は俺の腰にしがみついていた。所帯なさげに立っている子もいたので、
こうなれば三人も代わらんとよく分からない理論に行き着き
もう1人の子も腕で抱きかかけて彼からはしょっぱめの甘さが好きな匂いがしたので煎餅をあげた。
三人に囲まれながら俺は、試食者が増えたことに喜びを感じた。
だって、このごろくのたま太るってあんま貰ってくれないんだよね。




3・どっちがどっち



私たちの世界には雷蔵と、ハチと兵助だけでよかった。
それと可愛い後輩がプラスされた可愛い箱庭でよかった。
それなのに、ある日突然の異邦者。
4年は組  。彼を調べれば調べるほど普通な男だった。
顔も普通成績も普通実技も普通、普通普通な彼に兵助はべったりくっついている。
ことの発端は、豆腐で は、豆腐を餌に兵助を釣ったのだ。
なんていうことだ。私たちの幸せな世界が崩れてしまう。が。
「三郎。いくら美味しくても同じならば飽きてしまう。兵助も、いずれは飽きるよ」
と雷蔵が言うので私は の闇討ちをやめた。
そしていつ、彼が飽きてくれるのかと待っていれば、目の前に長身の彼が現れた。

「こんにちは、変装名人くん。これを彼に渡しておいてくれないか?」

そういって去っていく彼に、私は少々違和感が残るもののそれを受け取り

「あれ、三郎?それなに?」

雷蔵が後ろにいることにぞっとした。彼は普通のはずだ。普通なはず、それなのに
そのはずなのに。だらだらと冷や汗が出てくる。
なんで私と雷蔵の区別がついているんだ?
私は、口を開かなかった、さっき人を騙してきたから雷蔵の笑顔のままだったそれなのに。
そんな気持ちも知らずに、私の手の上には冷たい杏仁豆腐がのっていた。

「よし、どっちがどっち?!」

雷蔵が心配そうにこっちを見ているのが分かる、私はつとめて冷静を装いながら
腹の中はぐちゃぐちゃで、今にも吐いて倒れてしまいそうだ。

「もうやめろよ、三郎」
との兵助の声。でも、でも。

もしかしたら、私たちを、イヤ、私を分かってくれるかもしれないんだ。
私は一年の頃から雷蔵の顔を借りてきた。
鉢屋 三郎でありながら、鉢屋 三郎でなくまったくの別の種であり続けた。
顔を貸してくれた雷蔵や、そこから私を探してくれるハチや兵助の例外はいたものの、
誰も鉢屋 三郎だと私すら鉢屋 三郎が何か分からなくなるときがあるのに
彼私をちゃんと鉢屋 三郎と分かったのだ。
彼は私たちを見ないどこかを見ている姿が腹ただしくて、私をちゃんと見て欲しくて。

「どっちが、どっち!!」

言いながらも頬に流れる感触、それを拭い去る温かいもの。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、雷蔵と兵助の驚いた顔で、
 は、私の涙を舐めたことが分かった。
彼は、ふむっと同じ年とは思えない大人の笑みを零して。

「君が、鉢屋くんだろう」

「これをあげるよ」

と、兵助にあげた冷たい物ではなく温かい栗饅頭をくれた。
温かいそれを食べればじわっとこみ上げてくるものを我慢できずに彼の胸で泣いた。
わんわんと泣く私を嫌がらずに、いつのまにか傍にいた雷蔵は、煎餅を口にして良かったねと笑って、
兵助は負けじと腰辺りにしがみつき、
いい迷惑な私たちを笑う彼からは、甘くてしょっぱくっていい匂いがした。
そして、舐められたことを思い出して顔を赤くする。
でも、雷蔵の顔を被ってるからばれてない・・・ハズ。






2009・10・9