あなたの手もあなたの肌もあなたの腕も
あなたの目もあなたの唇もあなたの足も
あなたの鼻もあなたの歯もあなたの髪も
すべてすべて俺のもの。
もちろん
俺の爪も俺の瞳も俺の耳も
俺の舌も俺の掌も俺の尻も
俺の涙も俺のほほえみも俺の心臓も
すべてすべてあなたのもの。
ねぇ、待ってて。
今すぐ迎えに行くから。
事の発端が写真だった。
気づいたのは聡い狐で、事態を言いふらす前に、
学園中の情報を知る不知火の少年に尋ねた。
「どうするしー?」
「どうするって、なんの話だ?」
「藤野、あなた知らないのですか?」
不知火の少年・藤野に、椿を背負う少年・峰が笑顔のまま睨みつけた。
藤野は峰の笑顔に笑顔で返したが、
狐の少年・木藤は、いつもの楽しそうな顔を歪め、真剣な顔になった。
「これは・・・結構深刻だし。
藤野が知らないってことは、犯人を知るはずなんかないしー。
というか、木藤の組に喧嘩売る馬鹿で、
なおかつここに誰にもバレずに入れる人物・・・問題だし」
木藤の言葉に藤野も顔を歪める。
「は?おい、ちゃんと内容話せよ」
木藤が答えるかわりに峰が答えた。
「簡単なお話です。
僕らの組に今朝、悪質な写真をばらまいた阿呆がいたってことです」
「写真?」
「これ」
「・・・これ」
そういって木藤から渡された写真に藤野は目を見開いた。
「よりも僕のほうが早かったから本人の目に入る前に
写真すべて、回収できましたけど。木藤が言ったとおり、
そんなことをする奴が学園にいるってことが問題なんですよ」
「学園のことを全部知ってるはずの藤野が何も知らないってことも加えるし」
峰と木藤が藤野を見つめる。
藤野は頭をかき、重い溜息を吐いてから、一時停止して
道化のようにわざとらし笑みをつくり、大げさな身振りをした。
「おいおい、俺だって人間だぜ?ちょっとぐらい情報漏れって言うのもあるさ」
木藤と峰は無言で見つめあい、それから何も言わず立ち上がった。
「僕のほうもさぐっときます。木藤は?」
「木藤は、この写真がどこから流れたのか掴んでみる」
「・・・俺は、この学園にいる俺の足たちを集結させて情報を聴きこんでくる」
三人が各々の目的に歩く前に、峰が二人に声をかけた。
「ともかく、に気づかれちゃいけませんよ?」
しーと唇に指をあてる峰に木藤は頷いた。
「分かってるし」
「・・・・・・というか、後ろにいる篠神にだろうが」
藤野の答えが気に食わなかった木藤は言いかえす。
「木藤は、篠神よりに知られたくない」
「ほー、狐がなついちゃって」
「・・・・・・」
木藤は、藤野に何も言わずに消えた。
頭に腕をやっていた藤野がなんだよと横からの峰の視線に文句をいう。
「八つ当たりはみっともないですよ。あなただってが大切なくせに」
「・・・・・うっせ」
そうして峰も消え広い教室の中一人残った藤野は、
の顔を真っ黒に塗りつぶされた写真を握りしめた。
朝からブルーな俺は一人、もさもさと朝食を食べていた。
ロンリー悲しくなんかないと思っていれば。
「!!おはよう。今日も豆腐のように美しいな」
「ああ、おはよう。久々知くん」
「やだ、兵助って呼んで!!」
「久々知くん、今日豆腐持ってこれなくて悪いな。いろいろあって」
うん、久々知くんの待っているのは俺じゃなくて豆腐ということは分かってる。
分かってるが、ロンリーで寂しい俺はそれでもいい!!
と話を続けると、朝から美青年なイケメンの久々知くんは頭を傾けた。
「そういえば、が朝に食堂に入るなんて珍しい」
「あーそれが」
「兵助、置いてかないでよ」
事情を説明しようとすると、のんびりとした声が入ってきた。
声のほうをむけば、とても独創的な髪をした丸い眼が愛くるしい
同級生がお膳を持ってこちらに来た。
「あ、ごめん。勘ちゃん」
「おはよう」
「あ、おはよう。えーと」
「勘右衛門だよ。みんなからは勘ちゃんって呼ばれてる」
「俺は」
「知ってるよ。5年は組のでしょう?」
「え?」
一瞬止まった俺に彼は柔らかな笑みで言う。
「みんな、うるさいぐらい言うんだから。ねぇ?兵助」
「勘ちゃん。それは秘密なおはなしに」
「あははは。あ、兵助、豆腐忘れてない?」
「あ。一緒に御飯食べるから、待ってて!!急いでくるから」
と、久々知くんが行ってしまった。
俺としては、秘密なお話も気になるし、
彼の髪の毛のセッテングも気になるし、
彼の丸い瞳の愛くるしさとほわほわした笑みに
どのくらいの母性力をもつのかも気になる。
こいつ、隠れイケメンだ。と認識しているとき、いきなり名前を呼ばれた。
「」
「はい?」
「って呼んでいいかな?」
「あ、うん」
「俺のことは勘右衛門でも、勘ちゃんでも好きに呼んでよ」
「じゃぁ、勘ちゃんとかでもいいか?」
恐る恐る聞いてみる。そういえば、俺、あだ名とか言ったことないなと
思い起こして、恥ずかしくなってちょっと声が上ずったけど、
勘ちゃんはそんなこと気にせず
なんてことないさの懐のデカさで俺を受け入れた。
「うん」
きゅんと、今、俺の胸が鳴った。
いや、腹かもしれないけど。
毎日、朝御飯豪華だったから、これだけじゃ足りない。
もう一食いっとくか。
いや、それだと、ご飯置いてかれるかもしれない。
そう思ってれば、
あ、これ多めに持ってきちゃったんだけど、食べる?と勘ちゃんがご飯をくれた。
本当に、良い男だ。
こいつが隠れイケメンでもモテ男でも許す。
最初の固い始まりから、柔らかい雰囲気になり、
人見知りである俺が簡単に話し掛けることが出来た。
「勘ちゃんって、どこの組?」
「い組だよー」
「い組って、なんかふわふわした集団だな。俺のとこと大違いだ」
「そう?俺、は組みんな仲良くてうらやましいなって思うけど」
「・・・俺もいままでそう思ってた。なのに・・・」
ふるふると体が震え、箸をおってしまった。
「今日教室に行ったらさ、教室の扉に一時閉鎖の文字が書いてあってさ。
俺になんの連絡もなしだぜ。
部屋行ってもだれもいないし。
なにかと言ってもいつも一緒だし、ご飯だって一緒だし、遊びだって一緒だし、
仲がいいと思ってたのになのに、なのに!!
あいつら何も言わずに俺を置いてったんだ!!」
これが俺がロンリーで朝御飯を食堂で食べている原因だ。
理由を聞きたくても、みんないないから聞けないし、
寂しいしで、しょぼくれた俺に、勘ちゃんは魚を一口食べて答えた。
「じゃあさ、俺と一緒に食べて、遊べばいいじゃない?」
「え」
「俺、と仲良くなりたいんだ。だめかな?」
な、なんて懐が太平洋。
冴えないし、友達もあんまりいないし、お菓子づくりが趣味の変人で、
しかも初対面で愚痴とかないわーな男と仲良くなりたいだなんて、
社交辞令でもなかなか言えない。
唖然、呆然としていれば、勘ちゃんの眉毛が徐々にハの字になってきた。
それに気づいた俺ははっとして答える。
「い、いや、むしろ、俺で大丈夫か?こういうのもなんだけど、
俺面白いとことかあんまないぞ?」
「俺は面白いと思うけど?」
うおーエンジェルがここにいる。
感動した俺は勘ちゃんの手を両手で包み。
「おまえ、マジイイヤツだな。ありがとう」
と笑った。勘ちゃんは真っ赤な顔をして照れた。
たしかにオーバーアクションだったけど、
このごろ来る利吉さんの海外じこみの激しい行動に毒されてしまったのだろう。
「な、なにしてるんだ!!勘ちゃんひどい!!」
そんな俺に久々知くんが待ったをかけた。
どうやら勘ちゃんは、どこにいてもエンジェルでアイドルで
みんなから好かれているらしい。
2011・7・20