は組の補修が終わって、みんながいる場所に走ると、案の定、穴に落っこちた。
上から留さんの叫んだ伊作ぅぅの声が遠くに聞こえた。
不運な自分は、こういうことが多々あり、
身の防御の仕方が学年一うまくなっている。
だから、深い穴に落ちても受身を取りほとんど無傷な体で、
よっこらせっと起き上がり状況を見回す。
落ちた場所は、泥の中でも水の中でもなくて、空気がある洞窟のようだ。
ラッキーと思うところもおかしいのだけれど、根本ポジティブで、
なんとかなるという精神たくましい自分は、みんながいるだろう場所へ向かった。

ぺろりと指をなめて、風をよむ。

「うーん、あっちが出口みたい」

そういってテクテク歩いていると、がっと何かを踏んでこけた。

「いったーん?なにこれ」

何かを拾って、見れば。
「ぎゃぁぁあああああああああああああ。顔!!!」

ガタガタと体を丸めて震えたけれど、顔の癖に、重いとか、
骨と肉の構造がうんやらかんやらと医学知識がざっと頭にわいて、
ちろりと何かを見返すと。

「地蔵の・・・頭?」

首を拾って、周りをきょろきょろを見ると、
二体の地蔵が置いてあり、一体の地蔵に首がないことに気づく。

「誰がしたのかな。罰当たりだよね」

そういって地蔵の首を戻し、みんなのもとへ戻った。
それが始り。






【直してくれてありがとう。お礼にあなたの願いを叶えましょう】







その日、朝からついていた。味噌汁は飛ばなかったし、
トレペの補充をすべて終わらせても、綾部の穴には落ちなかったし、
上から物が降ってくることも、転んでも、棚が落ちてくることもなかった。
鳥のフンの被害にもあわなかった。
もしかして不運直ったんじゃないかな?
とかなり陽気に包帯の歌を歌って、

「それだったら、王子様にも会いたいなぁ」

呟き、保健室の扉を開けると。


――――そこは、別世界だった。――――


暗い保健室の中で留さんが叫ぶ。

「利吉さん。なに、うちの後輩にベタベタ触ってるんっすか?」
「おや、私とくんの間を割くには少々やわっこすぎる殺気だね」

相手は利吉さんで、その間で、誰かが留さんの暴力に訴えそうな手を制する。

「留三郎先輩。大丈夫です。
利吉さんは、国が違うだけです。だからこれも挨拶!!」
「え、それって、私との愛は国をこえたってこと?
そうだよね。今日本では男同士は結婚出来ないけど、国を超えれば、
いけそうだものね。いいよ。私、舟を手配してくる。結婚しよう」

顔の見えないけれど、服から5年と分かる少年の手を
利吉さんは、熱い視線で両手で包む。

「あ、ぁぁあ、現実逃避すんな。あんたも、そういう冗談言わないでください」

べっと、留さんがその手をはがせば、利吉さんにぎっと凄い殺気で睨まれた。

「冗談?私の愛が冗談だって?私は、いつだって本気だ。
いや、君はこう言いたいんだね。本気なら、それを証明してみせろと。
いいだろう。私とくんの愛を魅せつけてあげよう!!」

そういって、保健室にあった布団の上に少年を押し倒した。

「うわぁぁ、やめろ。何してんだあんた!!」
「丁度、布団もあるし、愛っていったら、こういうことだろう?君が言ったんだ」
「言ってねぇ。離れろ。抵抗しろ。お前、やばいぞ」

うん。保健室はそういうところじゃないからね。
その布団でいたすのは本当にやめてほしい。

「大丈夫です。利吉さんはちょっと風邪引いて、おかしくなってるだけです。
だから、休めば大丈夫ダイジョブ」

と、またしても見当違いなことを言ってまったく危機感のない少年に、
頬を染めた利吉さん。

「休むって、OKってことだね。嬉しい」
「言ってねぇぇぇえええええええ。何度言わせんだ。あんた。
てか、本当に国が違うんじゃねーか。日本語通じてねーぞ。おい、脱がすな」

留さんの力でも夢中な利吉さんには敵わないらしく、
少年の服がはだけていく。少年は、下の服をめくられそうになって、
ようやく利吉さんの手を掴み。

「利吉さん、俺は、風邪引いてないので、脱がなくていいです」

・・・・・・。うん。

「脱がないでって、そういうプレイがいいんだね!!じゃぁ、私が脱ぐ。
そして激しく抱いてください」
「うぉぉぉぉ。離れろ。このホモ野郎。伊作。見てないで、助けろ!!」
「え、ごめん。僕は何も見てない」

関わりたくない。と顔を背けたが、留さんの声が響く。

「俺の後輩の貞操の危機だ。助けろ」
「え、利吉さんから?無理でしょう。だって、実力差がありすぎる。
仙蔵と文次郎呼んでくるよ」

案に、巻き込むなと言って、僕は仙蔵と文次郎は呼んでこようと
足を後ろに一歩進めて、

「公開プレイもいけるけど、初めては二人っきりがいいよね?」
「なんでこんな残念な人が強いんだよ!!」

「あっ」

留さんと利吉さんが暴れていたときに落ちていただろう薬瓶を踏んで、
自分が進みたい方向と逆方向へ進み、三人がいる場所に倒れた。
痛みはあまりなく、ぱちりと目を開けると、誰かの顔のUP。
凄く近い。
相手も驚いて、それから沈黙を続けていた僕に、
眉毛をハの字にして、困った顔になった。

「えーと、こんにちは」
「・・・・・・・・・・・・う」
「う?」
「うぎゃぁあああああああああああああああああああああああああ」


僕は叫んだ。
当然だ。だって、一年間ずっとずっとずっとずうっと会いたかった人が
人一人分の距離じゃなくて、指5本分の距離にいるから、
心の準備なんてものはなくて、心のままに叫んだ。
僕の絶叫に、みんな停止した。
いや、僕の声に耳がやられて、みな耳を抑えていた。

「な、なんであなたが、あなた様がここにいわす?
え、なにこれ、幻覚?いや、伊作落ち着け。こんな罠何回あったか。
こういうときは深く吸い込んで、物体に触れば分かる」

耳を押さえていることをいいことに、目の前の人物のほっぺたを触る。

ぺちり
沈黙。

それから、そろりと目を合わす。
相手は苦痛の表情から、ようやく耳が直ったのか、
僕を視界に映しだした。

「・・・」
「・・・」

彼の目に写っている僕は酷く間抜けな顔をしていた。


「本物?」
「・・・偽物いるんですか?」

そろりとまた触ろうとして、ばしっとはねられた。

「ちょっと、私とくんのLovetimeを邪魔しないでくれないかい?
久しぶりの生くんなんだ。この一分一秒でも目に焼き付けて
おきたいっていうのに。くんもくんだよ。他の奴と見つめ合うなんて。
あ、分かった。嫉妬させたいんだ。
大丈夫、君が触ったゴミにですら、嫉妬してる」

利吉さんが胸張ってどうだみたいな顔をしているが、
横の留さんが引いた顔で見ている。
僕は、利吉さんの言葉を無視して、自分の両手を握り、胸元に掲げる。

「・・・・・・・・じ・・・・・・・・・・」
「じ?」
「王子様、ずっとお会いしたかった」

そういって、涙を流すと、少年は?と頭をかしげ、
留さんが、青い顔をして固まった。

「・・・・・・は?」
「ま、まさか」
「えーと、これはどういうことですか?留三郎先輩」

状況を分かってそうな留さんのほうを向こうとするから、
少年の顔を掴んで、僕の方へ向かす。

「僕が分かりませんか?
一年前、強姦に助けていただいた善法寺伊作です。
伊作か、お前か、姫でお願いします」
「えーと、じゃぁ、伊作先輩?」

一番無難なものを選ばれ、チッと舌打ちしたい気分になったが、
名前呼びゲッツと自分にできる最高の笑顔で、尋ねる。

「名前を聞いてもよろしいですか?」
「俺は 。5年は組っす。よろしく?」
 様。王子様名前ランキング一位の名前です。
いや、様が先で、王子様のほうがあとですよね。ごめんなさい。
僕ってば」

僕と王子様・・・いや様の幸せで永遠の時間に・・・

「なんだい、さっきから。
人のもんに手を出すのは雌犬だけだと思ってたんだけど、雄犬もかい?
それと、王子様って君はどこの乙女?痛い子だね。ね?

魔女が入ってきたようだ。
するりと体を寄せられて、困惑している様。
大丈夫です。様。

「あなたのその節操ないところのほうが痛いですよ。
もしかして、様の体だけが目当てなんでしょう?
じゃないと、そんな恥ずかしいこと好きな人に言えるわけないですもんね。
ああ、だから無理やりヤろうとするんですね。
様。その人に触ると、腐りますから、お手をどうぞ?」

今どきの姫は、魔女を倒せるほど強いんですよ?

「へー、言うね。でも、君は子供だね。
私とは、お互い好きすぎるから、愛し合いたいのレベルまで行っているのさ。
つまり、もう付き合っている」
「・・・本当ですか?様?」

その言葉に、泣きそうな僕は、違うと否定して欲しくて、様を見る。
様は、よく理解していない顔で、答えた。

「え、付き合ってるって?
ああ、前、買出しには付き合いましたけど、
みんなと一緒で、帰りに行った甘味屋が美味しかったです」

様が言った言葉を反芻する。
なんだ。そうだよね。当たり前だ。
だって、彼と運命の赤い糸に結ばれているのは、僕なのだ。
危うくダマされるところだった。僕は目の前の魔女を嘲笑する。

「あなたこれで付き合ってるつもりですか?勘違い野郎。
まず学園関係者でもないんだから、こんなところまではいってくんな。マジキチ」
「あれは、ツンデレに決まっているだろう?くんの魅力がわからないなんて、
それで、よく様ずけなんて出来るね。厚かましい。
ほら、見てみなよこれ。おそろいの箸持ってるもんね。私」

とだしてきた箸を割ってやろうかと思ったが、さすがフリー。
すぐに隠した。ちっ。豆腐の角に頭突っ込んで、窒息しろ!!

「ふん。そんなもんで勝った気にならないでください。
付き合ってるで照れもせずに、最後に美味しかったで終わってるですよ。
あなたなんぞ、甘味屋以下。ぶ、笑える」


僕らの会話を、引いたところで留さんが見ていた。


「・・・・・・ツンドラ気候」

びゅっと利吉さんと伊作の間に、氷が舞っている。
こうなったのは、用具委員の最中、
急に、利吉さんがに抱きついてきたところから始まった。
ぎゅうぎゅうと離れないとばかりに抱きついてくるから、
とうとう我慢ならなかった俺が、それどうにかしようと言ったのが
保健室に連れてくる要因だった。つまりなんだ?
伊作を覚醒させたのは、俺のせいか?
いや、だって、が王子様だなんて思わないじゃないか。
は、あいつがいるとき俺の部屋に何回か来ていたし、
後輩自慢で何回かあいつに言っていたのに。
もう、俺ではは助けれないと涙が出そうになれば。

「留三郎先輩。利吉さんも保健委員に渡せたし、作業再開しましょうか?」

横にがいた。いつ、出てこれたのだろう。
服は直して、涼し気な顔で、保健室を出ようとしている。
俺は、のとなりにたち、まじまじとを見てから、感想を述べた。

「お前は、凄いな」
「はい?変なこと言わないでくださいよ。俺は凡人っすよ凡人」

いや、凡人は、あの過度なストレスの渦みたいな場所にたってはいられない。
は、女の子が好きな普通の子なのに、変態と電波に好かれて。
涙が滝のように溢れた。

「先輩?どうしたんっすか?泣かないでください。えーと、あ、これ、
先輩が好きだって言ったから、喜んでくれるかなって持ってきたんですよ。
よければ、食べてください」

そういって笑う後輩を抱きしめ。

「おでは、おまえをまもるがらな」

この鈍感で、素直で、人を疑うことを知らず、
男に好かれているなんて思ってもいない、
菓子作りが趣味な、可愛い後輩を毒牙にかけてたまるかと決意した。














2011・3・24