私たちは、しんべい、きり丸あわせて、らんきりしんとあだ名されるほど、
私たち三人は仲がよくて、今回のお使いも、私たち三人が行くことになりました。
ただ、三人揃うと、何か一事件起こるのは常で、
そして学園長に頼まれたお使いの場所が、
このところ、山賊が頻繁に出るようなのです。
心配して、土井先生が付いてくるはずでしたが、
山田先生に奥さんからお手紙を持ってきた利吉さんが通りかかりました。
ちなみに、利吉さんは格好良くて、フリーの売れっ子忍者なのです。
未だに私は利吉さんが山田先生の子供であることを疑っています。
だって、あの女装大好きな山田先生と結びつけられないのです。
でも、本人が認めているので、子供なのでしょう。
そんな頼れる利吉さんが「丁度、暇だし付いていこうか?」と言ってくれました。
土井先生もいて、利吉さんもいれば、
山賊なんてへっちゃらだねときりちゃんに言えば、
きりちゃんは、利吉さんの姿に目を吊り上げて。
「まだ未練あんのかよ。あの人も大概しつけーな」
と呟きました。
私はなんのことか分からず、頭をかしげていると、
しんべいが、学園長のお使いもとい、届け物の匂いを嗅いでいます。
「これ、すっごくおいしそうぉぉ」
「え、でも今回のって、手紙じゃなかったけ?」
「どうした。鼻づまりが酷いのか?」
そういって、土井先生がちり紙はと、胸元を探っていると、
しんべいはうーんと首をかしげました。
「うーん、でもこの匂いどっかで・・・・、
この食べたら忘れられない極上な匂い・・・あ、そうか!!」
閃いたしんべいより前に、何かに気づいた土井先生が、叫びます。
「!!
いいか、お前ら、今から来る人物から距離をとれ、顔を見るな、
声を聞くな、いや、きり丸逃げろ!!」
急になんだと思いましたが、
しんべいは、土井先生の忠告なんてまったく聞いていなくて、
そのまま前へ走り、土井先生が距離をとれと言った人物に抱きつきました。
「あーやっぱり先輩だぁ」
そこにいたのは、5年の制服を包んだ先輩でした。
私は見たことのない先輩なのですが、しんべいの言っていた先輩で、
しんべいが懐いている用具委員の先輩だということに気づきました。
身長が高くて、優しそうな先輩です。
しんべいが言う凄い先輩像には悪いけれど、
ちょっと遠くて、どこにでもいそうな容姿と雰囲気を持っていました。
初めてみるね。と言ってもなんの反応もないので、きりちゃんを見れば、
きりちゃんの目がかっと見開かれているままになっています。
きりちゃんの視線を追っていくと、そこには先輩と土井先生がいました。
「土井先生、顔青いですよ。胃薬飲みますか?」
「君は、なんでここにいる!!」
「なんでってここ学園の門番近くですよね?で、俺、一応5年なんですけど」
「タイミングが悪い」
「・・・あーなるほど逢い引きですか?しかも、生徒とダブルブッキングして、
居心地が悪い所に、俺の出現とは、すいません。
空気読んで、せ、赤飯炊きましょうか?」
「あ、逢い引きって、どこがそう見え・・・・・・利吉くん、
なんで女そ「は、はじめまして、私、利子って言います。
あなたの信奉者です。握手してください」」
・・・・・・あれ?利吉さんがいつのまにか女装してます。
いつみても、山田先生の女装と雲泥の差があります。
ちょっと身長が高い綺麗な女の人が、頬を染めて、手をさしだしています。
先輩の方が、わずかばかり高いので、問題なく男女のように見えます。
先輩は、一瞬、間を開けたものの、その手を握り。
「・・・・・・えーと、綺麗ですね」
と、鯖に、いい青さですねと言う台詞と同じ感じで先輩は言いました。
しょっぱなの利吉さんの言葉に、色々と突っかかりを感じているようです。
しかし、利吉さんはそんなことどうでもいいようで、
そのまま先輩に抱きつきました。
「・・・・・・・・・・・・えーと?」
「すいません、感動して、つい。ここまで長かった」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えーと」
先輩が混乱しているのが分かります。
利吉さん、もとい利子さんは、涙を流しながら、
運命のいたずらで別れてしまった恋人のような抱擁です。
混乱して、なんだか分からない私の横で、ぎりっと音が聞こえました。
「私を食べてくれても構わないです。もう今すぐにでも、どうぞ。
ああ、人から見られても、大丈夫です。かえって興奮します。
話を聞けと殴られたなら、もの凄く興奮します」
見れば、自分の手を強く握ったきりちゃんが、
さっき以上に利吉さんを睨んでいました。
「・・・。どういうことだ?説明しろ」
血のつながりはないのですか、不思議なことに、
土井先生ときりちゃんの顔がそっくりです。
土井先生が先輩の肩を掴んで、睨んでいました。
どうしてでしょうか。私は睨むという行動は、憎いしかないと思ったのですが、
彼等には、焦りのようなジリジリと燃えるような
・・・言葉が足りない私には説明することが難しいものが見えました。
土井先生の剣幕に押されて先輩は、焦っていました。
どうやら先輩はボケのようです。
説明を促す相手が違う!!
どうみても、女装して抱きついている変態だろう!!
と、誰も突っ込んでくれないのが辛いところです。
「説明も何も、俺、初対面なんですけど。誰かと勘違いしてませんか?
俺って平凡な顔だから、どこにでもいるし」
「いいえ、私があなたを見間違えることはありません。
それに、覚えてないのも無理ないです。暗殺しようとしたときに会っただけですから」
ふにゃりと笑う利吉さん、もとい利子さんは大変可愛らしかったの
ですが、それを忘れてしまうほどのキーワードに、先輩の顔は青い。
私も混乱してますが、先輩はその倍混乱しているのでしょう。
ちなみに、未だに利吉さんは先輩から抱きついています。
私は、ピカーンと先輩から閃いた音を聞きました。
「・・・・・・えーと、もしかして、外国から留学生ですか?」
どうやら、閃いたというよりも脳みその容量を超えて、壊れた音だったようです。
「あなたとなら、国が違っても愛しあえます」
ぎゅっと先輩の手を握りしめた利吉さんからは、
ハートが目から出ているんじゃないかってほどの光線が見えました。
「そうか、さっきからスキンシップとか、話が通じないのが多いのは、
国の違いからですね。
えーと、あっちの流儀の挨拶は、抱きしめるんでしたっけ?遅れながら失礼」
先輩の脳みそはとうとう色々なものをシャットダウンしたようです。
利吉さんの言葉を無視して、抱き返すと。
「ぎゃぁぁにゃあああああああああ」
利吉さんが凄い声で叫びました。
今のは学園中に広まるほどの声だったと思います。
出来れば、その声に、おかしいと思って、頼れる先輩があらわれて、
さっきより一層目が険しくなった土井家族を元に戻させ、
一方的な甘甘で全然噛み合ってないおかしな二人を離れさせ、
先輩のお土産を勝手に食べて幸せそうなしんべいと
同じような立場に私はつきたいです。
私から見ると利吉さんの顔は真っ赤かで、耳まで真っ赤なのに、
顔が見えていない先輩は気づかず、問いかけます。
「・・・・・・間違ってましたか?」
「いえ、このまま死んでもいいと思っただけです。この体は洗えません」
「軽い知識しか知らない俺が調子のって申し訳ない。
体は今すぐ、洗ってください」
「い、今すぐ?ここでですか?羞恥プレイとはさすがです」
「すいません。じゃぁ、俺、木藤に留学生との正しい付き合い方聞いてきます」
「つ、付き合い。あ、じゃぁ、私と本気で付き合ってください」
走ってどこかへ行こうとした先輩は、
利吉さんの言葉に、ゆっくりと振り返りました。
それは長くなかったのに、静かではない忍術学園に、
なんの音も聞こえないほど長い静寂で、
ごくりと誰かが唾を飲み込む音だけが響きました。
「ええ。いいですよ」
「え、本当ですか。もももも、もしかしての、名前呼びとかも、OKですか?」
近くはない距離をすぐさまつめて利吉さんが両手を握って、
ギラギラと目を輝かしています。
私は、彼に言いたいです。
いますぐ逃げて!!と。
私の近くにいるきりちゃんが、ぶつぶつ言いながら、銭を取り出しました。
その横で、土井先生がやっぱり同じように、出席簿を取り出しました。
この二つでなにをするかは皆目見当がつきませんが、
彼等から出ている殺気は半端無く、
どこからヤる?もちろん顔から。太陽に浴びれないほどの顔にさせてやる。
と、後ろの殺気の会話が私にも伝わりました。
・・・正直、分からなかったら良かったです。泣きたい。
殺気で体も声も動かない私は、ちらりとろしんべいを見れば、
すぴよ、すぴよ、と鼻ちょうちんつけて寝ていました。
彼は大物になるなぁと微笑ましい気持ちと、
そうか、私も寝ちゃえばいいんだ☆と、気絶の準備をしていれば。
「はい、別に。あ、でも、遅くなるとみんなに言わなくちゃいけないんで、
どこまで付き合うんですか?」
・・・うすうす思ってましたが、この人は、空気クラッシャーのようです。
二人の殺気は見事に拡散して、
なーんだ。とやっぱりなとの心の声が聞こえましたが、
利吉さんはどうやら、ただでは転ばないようです。
「もちろん極楽浄土まで」
チッと盛大な舌打ちと共に、きりちゃんが、叫びました。
「先輩。利吉さんは男っすよ」
「え?」
「ち、きり丸くんいいところで・・・いや、私は、男です。
どうですか?男に攻められる気持ちは?気持ち悪いですか?
殴ってもいいですよ?」
なんだか、利吉さんの新しい一面を見れて、相当後悔しています。
利吉さんは、女物の服をばっと脱ぎ、イケメンにかわりました。
さっきまでは、恰好もよくて、仕事もできるなんて憧れるなぁと
思っていましたが、今が残念なイケメンにしか見えません。
ですが、そんな変態よりも先輩は一枚上手なようです。
きっと先輩は逃避から逃避を重ねて、一歩高みへあがったんでしょう。
もう、そんなことじゃ動揺もせず。
「男でも、綺麗ですね」
と、笑顔で言いました。それに利吉さんは、ポッと乙女のような顔をして。
「あ、やばい。もうMとかどうでもいい。
その包容力のある胸に飛び込んでいいですか?」
「好きなだけどうぞ?」
さっきまでは勝手に抱きついていたのに、
わざわざ許可をとる必要があるのか分かりませんがこれだけは言えます。
「いい匂いする」
「そうですか?甘いもの作ってるからですかね?」
どうやら私は先輩を侮っていたようです。
先輩が、普通?平凡?
そんなわけありません。
しんべいの言っていたとおり、彼はすごい先輩です。
そりゃもう、ものすごい先輩です。
そして、利吉さんは山田先生の子供です。
わざわざ女装しなおして、
先輩に抱きついてますから、利吉さんも女装大好きなんでしょう。
それから、ようやく収まったのだろうか。
それでもとまだ全然近距離な利吉くんの腕をとり、小さな声で問う。
「利吉くん?どういうつもりだ?」
そういえば、利吉くんはさっきの悪態をすべて覆し、
真剣な顔で言った。すらりと切れ長の目が私を射ぬく。
「土井先生。私、ずっと間違っていたようなんです。
私は、あなたが好きだと思ってました。
私が持ち得れなかったものを持っているから、輝かしかったから、
だから、欲しいと思っていたんです。
でもそれは勘違いでした。好きと執着は違うんですね。
文字通り、くん。あ、言っちゃった。恥ずかし。
に、拳を交えて、教えていただいて、本当の恋愛することができたようです」
途中の心の声に色々台無しな彼だけれど、顔がいいせいで、
雑音にしか聞こえない。
ああ、どうしよう。
「私には、君がとち狂ってるように見えるのだけれど」
「これが私の新の姿です。くん・・・うわぁ、名前呼んだだけで、
満たされるとか、パナイ。に開かされた自由な私です」
にっと、私にはない色気をのせて笑う彼を。
「だから、今度はライバルですね。
もちろん、誰が相手でも、私は負けるつもりありませんけどね」
全力で、徹底的に、誰かと分からないほどぐしゃぐしゃに潰したくなった。
私から離れ、背中を向けた利吉くんに、
私は顔を覆って、誰にも気づかれないように笑った。
「誰が負けるか。彼は私のだ」
彼が誰かのものになるくらいなら、
その誰かを殺して、慰め、付け入ろうと思う私が、
彼に開かされた自由の姿なら、これが本当の私なのだろうか?
2010・11・22