それはとても陽の光が心地良くて、ご飯も食べ終わったあとで、
眠くなる時間帯でした。
僕は、いつものように門番をしながら、
ちょっと居眠りをしていたのがいけないんだと思います。
だから、こんな恐ろしいことになったんです。


人の気配がして、はっと目を覚まし、ヨダレを拭いて、
入門表をとり、名前を記入してもらおうと思うと、
顔を上げると目の前には、綺麗な女性がいた。
あっけに取られている僕に、女性は、黒髪と、
ちょっとつり目な切れ長の目をしたキツメ美人は、門を指さした。

「入りたいのだけれど」

「あ、はい。どうぞ。名前を書いてください」

入門表を渡すときに、ふわりといい香りがした。
綺麗な人は、匂いまでいいのかと思ったけど、
僕は仕事は忘れない。

「あの、どなたに御用でしょうか」

少々赤く染めた頬に、美人は笑顔を崩して。

「君、本当に気づいてないんだね」

「え、その声は、もしかして」

「利吉だよ。小松田くん」

苦笑した。声も、さっきまでの声じゃなくて、低くて、男声。
よくよく見れば確かに、利吉さん。
ちなみに、利吉さんていうのは、まだ若いのに、フリーで売れっ子の忍者。
学園にいる山田先生の血縁だと思えないほどのイケメンで。

「わぁー元がいいと、何やっても綺麗なんですね。
未だに僕、山田先生から産まれたとは信じてませんよ」

「まぁ、僕は父から生まれていないからね」

「あ、間違えた。家族とは思えない。
よっぽど、山田先生の奥様はお綺麗なんでしょうね」

「ハハハハ、君にそんなに言われるとは、なんだいタイプだったのかい?」

クスリと妖艶に微笑む利吉さんの女装姿は確かに綺麗だけど、
僕は、中身が利吉さん、もとい男と分かれば、頬を染めることもない。

「いえいえ、大概の男は、綺麗なものが好きですから」

「君って、時々毒吐くよね。
ま、いいけど。綺麗に見える、女に見えるなら、大丈夫だろう」

利吉さんが書いた入門表を確認していたので、
最後の言葉が聞こえなかったけど、カーンと鐘が鳴り、
門をそろそろしめる時間になったので、
僕は利吉さんと途中まで同行しようと、今回の目的を聞いた。

「今回も山田先生へお会いになられて?」

「いや、今回は、違うんだ。今回は・・・僕の歴史上の任務の中で一番難しく、
一番やりがいがあるものさ」

「忍術学園内に任務?女装で?」

「そう。僕は今からあるターゲットに接近する。そして」

利吉さんの真剣な顔と、ただならぬ雰囲気にツバを飲み込む。

「・・・そして?」

「そして、お話をする」

想像していた内容とかけ離れて平和な内容に、僕はずっこけた。
お、お話をする。それは、僕でも出来そうだ。
それが、一番?
色々と考えたが、忍術学園で、女装し、会話することが、
一番難しい内容がまったく出てこなかったので、利吉さんに尋ねた。

「・・・・・・・それだけ?それが一番?」

「小松田くん。彼に会うだけで、それほどのことだよ。
ここに来るはずの何回を何度、踏みとどまったか。
見てくれ、この母から父の手紙の量を、塵も山となる感じ」

どこからだしたのか、大きな風呂敷に紙が溢れてる。
そうか、だからなかなか利吉さん、来なかったんだ。
でも、その量。
山田先生へ奥さんの怒り爆発してるんじゃないかな。
あなたのせいで。

「会うだけで難しい人なんて忍術学園にいたかな」

とくに、あなたが。大体誰にでも話せるだろうし、土井先生とか?
・・・・・・いや、一番話しやすい。
篠神先生は、とっつきにくいけど、土井先生とのやりとりを見てると、
そうでもないようなきがしだしたし、うーん。と考え込んでいる僕に、
利吉さんは凄い力で、肩をがっしと掴み、これまた凄い形相で、
一枚の写真を目の前に突きつけた。

「君は、相当だな。これを見ろ!!ファンクラブ限定のマル秘写真
「かなりお腹が空いたときの無の領域の顔」を」

凄いぼーっとした平凡で、平和そうな顔の人物は見覚えがあって。

「あ、これくんじゃ」

くんだとぅ?お前なめとんのか。
さまと呼べぇ!!お前のような小僧に、
 さまを、くんずけなんておこがましい。
それと、写真には触るな。これを手に入れるために
どれだけの犠牲を払ったと思っている。運と動体視力の素晴らしい私が、
最初に手に入れた「やや空腹顔」から始まり、
何十人と、ジャンケンし、あっちむいてホイで
この完全体「かなりお腹が空いたときの無の領域の顔」を手に入れたんだ。
ふふ。みろ。この顔を、完全にいってしまわれている。素晴らしい。
ラミネート加工したが、やはり、心配だ。どこかに飾るのも、盗まれたら困るし」

ブツブツと言い写真をみてにやけている利吉くん。
・・・・・・うん。

「・・・・・・利吉さん。なんか任務でもあった?」

「ん?ああ、簡単なものが二三個。だけれど、今日の私は、ただの美人。
 さまとお話し、あわよくば、女王と呼ばせていただきたい」

うん。内容がやっぱりおかしい。

「利吉さん」

僕は、出来る限り優しい声を出した。

「い、いや、本当はそれ以上も望んでいる。
女装がバレて、おもいっきり殴ってもらいたいとか、全裸で迫って、蹴られるのとか」

「・・・・・・」

僕は、利吉さんの肩に手を置いた。

「小松田くん。どっちがいいと思う?女装して迫って、殴られるのと。
もはや裸で、迫って蹴られるの。ああ、どっちもゾクゾクする」

「はい、利吉さんの前の旅は、とても厳しかったようですね。
大丈夫。今なら、保健室も空いてますんで、休んでください」

僕は自分の出来る限り安心出来る笑顔を向けた。
それから、僕は、今までの人生の中で、こんな力があったのか
と思うほど、抵抗する利吉さんを問答無用に保健室に連れていった。
途中で、覚えてろよと低い唸り声が聞こえたけど、
はっきり言おう。今回の出来事は、覚えておきたくない。
保健室の扉をあけて、僕は叫んだ。

「すいません。睡眠薬ください。
利吉さんにたっぷりと。凄い疲れてるみたいだから、一週間ぐらい寝る奴で。
あ、それと僕にもお願いします」

僕は、きっと悪夢をみていたということにしておこう。
だって、僕は、あなたの本当の姿なんて、知りたくなかった。

利吉さんが、ホモで、マゾなんて、知りたくなったよ。














2010・09・03