僕は、四年の田村 三木ヱ門。学園のアイドルです。
最近四年に新しい人が加わった。
年は上だけど、ほわほわした笑顔に、あの滝夜叉丸の話を聞けて、
喜八郎の穴によく落ちても、あはは落ちゃったと言うほどの懐の大きい人だ。
そんな彼に、滝夜叉丸も喜八郎も友好的だったんだけど、

「で、どういう関係なんですか?」

滝夜叉丸ので、の前に沈黙しかなかった。
僕には何も聞こえなかった。

「内容次第では、・・・・・・切りますよ?」

喜八郎は、ダンと鋤を床に叩きつけた。
無表情が怖い。でも、ここで笑われたらもっと恐ろしかっただろう。
そんな二人に、タカ丸さんが

「どこを?ってか怖すぎない?喜八郎くん。
どういうもこういうもないよ。滝くん。
だが、あいつに、色を抱いているなら、さっさとすてやがれ、ガキども」

・・・・・・うん。タカ丸さん。
あなたが、一番怖いです。最後なんてドスきいて、いつもの声じゃない。
一日に、数回起こる僕の分からない彼等の喧嘩には、
いつもため息がとまらない。
何度喧嘩を止めようとしても、関係ない奴は引っ込んでてって言われるし。
はぁー。
そんなときは、ユリコとの散歩に限ると、
カラカラ音を立てて、外を歩いていると。

「およ、三木くんじゃない。どうしたの?疲れた顔して」

青紫の服がちらりと見えた。見知った声に振り向くと、僕の思った通りの人がいて、
甘ったるい匂いをさせている。また何かを作っていたんだろうか。
いや、薪を持っている所をみると、作り中といったところか。
この人は、いつも平和だな。
まぁ、夢が団子屋って、忍術いらないじゃん。って感じの人だから、
性格が比較的おとなしい五年にのっ取り、この人も、おとなしいし、
なによりも普通だ。ナルシーも穴掘りも、髪結いも、その言葉だけで
学園中が、分かる単語なんてない。その前に、そんなに知られてない。
四年で、僕ぐらいだろう知ってるの。あんまりあの組、交流してないから、
下手すれば同学年すら知らないんじゃないかな。
彼の、争いごと?なにそれ、おいしいの?の雰囲気に、
いつもはほんわかなのに、急にギスギスした彼等の姿を思い出し、ため息が出た。


「ため息なんてはいちゃって、ほらほら、言ってごらん。
嫌なこと言うと、ちょっとはマシになるぞ」

「いえ、なんでもないです」

「水くさいなぁ。三木くんと俺の仲じゃん。言ってよ、ね?」

眉毛をハの字にしている。
これ以上無下にすると、へこみそうな彼に、僕は、

さんには、負けました。実はですね」

口を開いた。

「へー、あの三人がね。三人ともイケメンなのに、同じ相手って、
どんな美女なんだろうな。でも、タカ兄さんのは、かなりショックだ。
教えてくれたら、情報ぐらいは教えられるかもなのに。
俺、とったりしないし、むしろ、とれないし」

誰かが蹴って倒した跡がある大木の上で、どこから出てきたのか
お茶をすすりながら、話を聞いているさん。
彼等の話も気になるけれど、この大木を蹴り倒せた人がいることも、
気になる。あーでもこんな芸当出来るのは、暴君と名高い七松先輩ぐらいだろう。
そう思って、茶をすすりながら、
さんの話を聞いていたら、気になるフレーズが出てきた。

「あれ、兄さんって」

「うん、幼なじみ。小さい頃、お兄さんが欲しくて、兄さんって言ってたら、
定着しちゃってさ、知らなかったっけ?」

「そっちが、僕んち来るだけですから。幼なじみとか知らないですよ。
それにしても」

全然つながらない。あのハデ金髪バナナと、さんが?
思考が顔に出ていたのだろう。

「どうせ、俺とタカ兄さんは全然違うよ。俺は、非モテ。あっちはモテモテ」

「い、いえ。さんもモテモテじゃないですか」

本泣きしそうなさんに僕は、話を変えた。

「君のじいさまにね」

「・・・・・・」

・・・駄目だ。どうフォローしていいか、分からない。

「餌付けした感が拭えないしね」

「あー、じいさまは、さんの甘味の大ファンですから。母さんも父さんも」

「ははは、そういって貰えると、嬉しいなぁ。作り手としては」

へへへと、屈託なく笑うさんにほっとする。
良かった。どうやら機嫌は直ったようだ。
僕は、この人の泣き顔にめっぽう弱い。
いや、弱い・・・というか、うーん、記憶が飛ぶというか。
まぁ、あまり経験したくない。
それに、この人は、笑っている方が似合うし。
お菓子を誉められて喜んでいるさんに、思い出して、
僕は懐からくるまれた二つの風呂敷をさんに渡した。

「じいさまから、これさんと、篠神先生へって」

「おー、いつも悪いね」

そういって、さんは、一つの風呂敷を開けると、中から、
小さな木箱が出てきて、その中を開けると、綺麗に研げられた包丁が入っている。
そして、上に手紙が添えてある。
読まなくても分かる。絶対甘味の催促だ。
週に一回持って行っているのに、まだ足りないのか、あの甘党らは。
さんは、立ち上がって、その包丁を一振りすると、
落ちていた葉っぱが綺麗に割れた。
それを、拾いくっつけると元に戻る。
じいさまと、包丁が素晴らしいせいだ。っていうけど、僕はさんの包丁さばきも
素晴らしいのではないだろうかって思ってる。
本人にいえば、お世辞は、大人になってからって言われて本気にされないけど。

「うーん、やっぱ、三木のじいさまは違うね。俺が研いでも、こうはならないよ。
包丁のほうも、ご立派だし、さすが、鍛冶師」

身内が褒められるのは嬉しいし、
僕もじいさまは、尊敬しているから、言われると、誇らしい。

「いえいえ、こちらこそ。
甘味はいただけるし、あと、篠神先生はお得意様ですから」

もう一つの風呂敷に入っているものは、篠神先生のものだ。
中に入ってるのは、さんと用途が違った武器。
大きさも、さんの倍はある。
僕が生まれた前から篠神先生は、我が家の・・・じいさまの得意であった。
僕のじいさまは、鍛冶屋。
じいさまの職場が好きだった僕は、
いつもいっては駄目と言われていた両親の言葉を振りきって、遊びにいっていた。
じいさまは、「三木ヱ門は、火が好きか」と言って可愛がってくれるものだから、
僕には馴染みの場所で、その日の両親の言葉を最後まで聞かずに、
聞いたふりして、遊びに出かけてしまった。
ちゃんと、聞いとけば良かった。
「特に」近づいてはいけない。と言われていた言葉に。
僕も運がなかった。彼はめったにここにいることはなかったのに。
じいさまの仕事場に行けば、いつもと違う立ち込める違和感。
出所をみれば、能面のような黒い存在。
僕は、彼を見た瞬間、声が出ず、恐怖を感じているのに、泣くことも出来ず、
口をパクパクさせ、息ができないでいれば、
じいさまが、「あれは孫だ」と言った。
それから、いつもは穏やかで僕に甘いじいさまが、
「あっちにいってろ」と強い口調で追い出された。
初めてのことだったけれど、早くそこから逃げたくて、僕はがむしゃらに逃げた。
それ以来、ちょっとじいさまの仕事場がトラウマになり、
入るときには右左を確認している。
今、忍術を学んで、分かったことは、あれは殺気だった。
そして、僕はじいさまの言葉がなければ、殺されていたんじゃないか。
そんな思考がいつも脳内にあって、篠神先生はあまり得意ではない。
だから、こうやって、いつも篠神先生の届けものは、さんを頼ってしまう。
そう。
いくら、その後、人が変わったかのように、ニコニコした笑顔貼っつけて、
僕のハニーとかいいながら、一個しか変わらないさんを連れてきたとしても。
包丁この子の作ってと、初めて武器以外のものをじいさまに頼んだとしても。
同じ人物かと思うほどに、さんにベタベタしている様を見てきた今ですら、
駄目なものは駄目なんだ。
ちなみに、今は、じいさまと、篠神先生は、
さんの甘味愛好家として、一個の塩大福に喧嘩している姿を見かけた。
そんなことを考えていた僕に、さんが僕に言う。

「じゃぁ、三木くんは今、暇?」

僕の答えは決まっていた。





・・・・・・そう。それと、僕が憂鬱の原因その二だ。
後ろには、後輩の屍。拾おうにも、僕の筋肉が限界で、
たった一人立っている潮江先輩に話しかけることしか出来ない。

「・・・潮江先輩。このごろ、訓練が、倍になっているような気がするんですけど」

「ああ。我が会計委員は、頂点でなくてはならない。
それなのに、あのあひる野郎の後輩に負けるのは、悔しいではないか。
だからといって、タイマンを申し込むのも、仙蔵が怖いし・・・
い、いや、仙蔵を落とすほどの手だれだ。侮ってはいかん。
だから、こうして訓練している」

最後は聞いてなかった。僕も、後輩のように屍になったんだろう。

「ですって、本当にやりきれないですよ。
さんは、潮江先輩がいう人知ってますか?」

「いや、そんな凄い奴いればちょっとは噂が来るかもだけど、あ、あれは?
鉢屋くんじゃない?」

さんは、カカカと、五年は組の調理場で、高速にきゅうりを切っている。
今日は、冷やし中華だろうか。

「立花先輩が落ちるって、あの二人犬猿の仲ですよ」

「あ、やっぱり?仙蔵先輩がメロメロな姿って分かんないなぁ。
よく床に倒れていることは多いし、病弱だからなぁ。
あ、保健委員のイケメンがいるって言ってたから、それじゃ?」

今、立花先輩が病弱とか恐ろしいこと聞こえたけど、
・・・やっぱり交流がないんだろうな。
あの人の恐ろしさを知らないから。
それにしても、倒れてるって、なんだろう?
厳禁の二人でもいたのか?
しかも保健室のイケメンって善法寺先輩のことだろうか?
あの不運を、イケメン。顔はいいけど、不運ってワードが先にでないだけに、
本当に他のところと交流がないんだな。

「うーん、俺らの組、孤立しちゃってるから、あんまなぁ」

僕の心を読んだように、さんは、答えた。
麺が空を飛んでいる。

「・・・いえ、いいんですよ。篠神先生の組ですもんね」

うん。あの篠神先生が、他とコミュニュケーションが取れる姿が分からない。
むしろ、しないほうが世のため、人のためだ。

「あ、今日は、冷やし中華と・・・あ、ぱんけーきですか!!」

「うん。前、三木くん、好きだって言ってたからね。昨日のお礼だよ」

出来上がった冷やし中華の横にある皿の上に、
しゅっと乗ったまあるい物体。上はきつね色。中は黄金色。
ホワホワと柔らかい触感に、甘い香り。
さんが僕の好きなものを覚えてくれていることも嬉しいが、
さんのかなりの腕前な料理が食べれるのは、もっと嬉しい。

「僕のユリコの火力が必要な時はいつでも言ってください」

「あはははは、三木くんも餌付けしちゃったよね。俺」

「しょうがないですよ。こればっかりは」

本当に、食が満たされれば幸せとはこのことだから。
それに、食べている姿を喜んでいるさんの姿も大好きですから。
その後、ぞろぞろと集まってきたは組の四人とご飯を食べた。
途中、視線を向けられて「まだだね」「まだだ」「まだか」
と、いつも呟かれる。一体なんなんだろう。



先輩が、」

「だから、くんには」

「どうして、先輩の」

また、彼等は騒いでいる。その姿を鬱陶しく思いながら、
は組の先輩から、耳栓を貰った僕は、声が聞こえないだけ、
ちょっとはイラつきが軽減された。
それに、潮江先輩の方は、

「お前が無理な訓練に後輩を混ぜるから。それを聞いて、
後輩に酷い奴の友人だと思われた。どうしてくれる」
と立花先輩の鬼の形相で迫られて以来、前と同じになった。
ようやくキツクなくなった腕の筋肉を一回回して。

「本当に、おまえらは毎日毎日、飽きもせず。
そんなにまで思われる相手は、本当にどんなやつなのか」

僕はそう、呟いた。










2010・08・26