人生で、一番二番三番の最悪をあげよう。
一番、髪が綺麗にまとまらなかったとき、
二番、手が腱鞘炎になって、鋏をもてなかったとき、
三番、髪を忘れさせてくれる存在。それが、男だと言う事実。
一瞬、見間違えだと思った。
あのひょろ長い身長に、普通の髪。
あんな背格好一杯いるよ。と自分を誤魔化した。
僕が学園を案内されている以来から見ていなかったから、
ほぉら。やっぱり幻覚だった。と、落ち着いてきたときだった。
「・・・・・・・ズルー」
「・・・・・・」
「ズルズルズルズルー」
「はじめまして、こんにちわ。斉藤 タカ丸です」
僕は、ところてんを食べ終わって、彼が何か言うまえに、釘を刺した。
君と僕は、他人だって。
だけど。
「そうだ。タカ丸さん。言っておくことが一つある」
「ん?何?兵助くん」
「 に近寄るな」
怖い顔で、僕に釘さす兵助くんに、から笑い。
無理だよ。僕、とっくの昔に、君たちより先に会ってるもの。
できれば、昔に戻って、会っていないことにしたいくらいだよ。
からからからからから、から笑い。
【幼馴染に、さようならした日 1】
さらさらと筆を動かす音と、教師の声が混じって、
眠気を誘う。ご飯食べた後の座学って、眠くなるよね。
ふわぁと生あくびを殺しながら、僕は、真っ白な紙を睨んだ。
白い紙は、揺れて揺れて、声が聞こえる。
「タカ兄さん。タカ兄さん」
顔を上げれば、近所に住んでいる、
一歳年下の くんが、僕を見上げていた。
くんは、僕が起き上がる姿をじっとみている。
何が楽しいんだろう?
彼と知りあって一週間。
僕は、家の仕事の手伝いをしていて、彼も仕事の手伝いをしているから、
二人で会うことは、本当に稀。
しかも、彼は、年近くの子供と遊んだことがない。
なんともない遊びに、興味津々で、僕の後ろをタカ兄さんタカ兄さんと、
くっついてきて、正直、可愛い弟分だ。
「タカ兄さん。今日、メンコという都じゃナウでヤングなものを
頂いたので、遊び方を教えてください」
「くん。教えてもいいけど、それって、一人じゃ遊べないよ?」
「なんと!?いや、大丈夫です。俺には、サンちゃんがいますから」
「サンショウウオも遊べないと思うよ」
「!」
なにやらショックを受けている彼の頭を撫でて、
「じゃぁ僕と遊ぼうか?」
といえば、満面な笑みをくれた。
夕方、カラスが鳴ったから、さようならの中。
僕らは、ペンと紙を鳴らしていた。
思えば、彼といて純粋に楽しかったのは、このころだった。
何があった?何もなかった。
何もない日常で、僕がちょっとずつ変わっていって、
彼が何も変わらなかった。それが、歪。
彼を責めるのはお門違いだけれど、僕は、彼になんて会いたくなんてなかった。
会いたくなかったよ。
「タカ丸さん」
「授業終りましたよ」
「凄い汗ですね。なにか、嫌な夢でも見たんですか?」
体を上げれば、ぐっと重みを感じたけれど、
目の前に心配そうな顔をした少年らに、
僕は大丈夫、熱かったからねと嘘ついた。
「来た!」
謎な掛け声とともに、スパーンと開けて、組に入ってきた は、
手にところてんの空の容器を持っていた。
「俺のぶんは?」「木藤のは?」「僕のは?」
三人の言葉に、最初の勢いをなくして、は、
懐から、ところてんを出し、組の中においてある、容器に移した。
行った時の嬉しそうなテンションと、帰ってきた時の変なテンションの差に、
俺はピーンと来た。
食堂のおばちゃんとの食事交流会で、おばちゃんが貰ってきたところてんを
取りに行っただけなのに、さすが、。なにかしら事件を起こしてくるなんて!
と、うきうきと、胸もとの手帳を取り出した俺に、木藤がじろりと睨んだ。
「そういう野次馬根性って、どうかなと木藤は思うけど」
「仕事柄しょうがないじゃねーか。お前だって、食べてる時に、いくらとか
値段言うのやめたら?あれ、萎えるわ」
「はぁぁ?その値段書いてること、知らないとでも思ってるの。
てか、マジウザ藤野」
「あんだと?やるか?」
「いいよ。買って売りつけてあげるよ。その勝負!!」
俺と、木藤がすくっと立ち上がった中、パンパンと手を打ち、峰が入ってきた。
「二人ともそこまでにしないと、僕の部下が、二人のところてんを食べようとしますよ?」
俺と木藤だけでなく、なんでか部下まで脅している。
最後の?は、完全なる命令だ。
俺たちのもんを取って、ただじゃすまないことをちゃんと知っているだけに、
峰の部下たちが、ちょっと震えた。
よく分からない攻撃に、俺と木藤は黙って、座った。
「大人気なかったし、すまん」
「いや、俺も悪い」
なんとなしに、居心地が悪くて、に声をかけようとしたけれど。
は、なんでか逆立ちをしていた。
「どうしたの?」
恐る恐る、峰が聞いた。
「うーん、だけどさ。あっちがああなら、俺は何も知らない振りをすべきだとみた!」
「話がさっきから、まったく噛みあわないしー」
そうだな。木藤。俺ですら、まったく分からない。
情報という情報を学園一知っている俺でも、さっぱりだ。
「イケメン死ね!って呪うのは、ちょっと躊躇するほど優しい人だから、
俺は、その優しさに乗っかろうと思う」
「お、これ、さすがオススメだけある。美味いわ」
俺は、考える事を放棄して、ところてんを食した。
「まずは、言い方だな。兄さんと言ったら、関係ありありだから、
これから、斎藤さんと呼ぶ!!」
なんだか分からない誓いが、誰がすれ違っていた幼馴染の話なんて気付くだろうか。
気づいてたら、何かが変わった?
いいや、は、時々素晴らしい急カーブを描いて生きてるので、
情報だけ持っていてもしょがない。しょうがないさ。
・・・・・・いや、の勘違いくらいは、直せていたかも知れないけど。
悪いのは、ここんとこ、妙に暑い天候だと言っておこう。
2010・6・6