【幼馴染に、さようならした日 4】
なーんてね。
僕が自らさようならなんて、出来るはずもない。
だって、そんな思いを抱いて、数年経ってしまっていたから、
彼に邪な感情を抱きながら、兄の振りをすることに、慣れる方が早かった。
「タカ兄さん。すみませんが、明日予定が入りましたので」
と、休みの日の僕の部屋でのちょっとした愚痴のいいあい。
もとい、僕のエネルギー補給は、ご破算となった。
僕は、いいよといいよと、笑顔で言いながら、彼の代わりをすぐにあてがう。
だって、そうしないと、今ここで、彼を襲ってしまいそうだから。
今回選んだのは、橋の上でナンパした女の子。年上の子なんだけど、
自分が恋人だと、周りに風潮しているみたいで、
おかしいなぁ。最初から、遊びだよ?っていう関係で、遊んできたのに、
そろそろ終わりが近いかなぁって子。
体の相性はいいだけどなぁ。と床にごろりと寝転がって、
彼女の豊満な胸に手を突っ込む。
肌が吸い付いてきて気持ちいい。
女の子の喘ぎ声。
ああ、それはウルサイ。だって、彼は男だから、僕は彼女の口元を隠す。
違うもっと低い声だ。
もっと、香りだって、キツイ花の匂いじゃなくて、甘い甘味の匂い。
最近、彼にあんまり会えないから、溜まっている。
瞬間瞬間で、彼の顔が見え隠れ。
もう、だめかも。クラクラする。
欲情しているのが、誰か分かっている。
それは、目の前の女ではなくて、
それなのに、こんなことをしている僕は、最悪だということは知っていた。
だけど、そうしないと仮面の僕が保てない。
それなのに、どうしてですか。神様?
これ以上、どうしろって言うんですか?神様。
僕は、お仕置きなんて、いらないです。
カターンと後ろで、湯のみが落ちる音がした。
「え?」
行為の途中に入ってきたのは、くんで、僕らを見て、呆然として、
僕を見て、それから、顔を真っ青にして、出て行った。
「ごめんなさいぐらい言えないのかしら?」
と目の前の女が笑う。
すっと頭は冷めていて、体の熱だって引いているのに、彼女は体を絡めた。
「なんで」
「ああ、私が、来るように言ったのよ。
お兄さんの邪魔を、しちゃダメってね。教えてあげたの」
女の言っていることが、頭に響いてガンガンする。
「そんなことよりも、私と楽しみましょう?」
僕は、僕は。
「・・・そんなことよりも?」
笑って、腹の底から笑って、さっきまで触れ合っていた女を睨む。
何よと声を言わせないほどの殺気で、睨む。
この女は、そばにいたいから、僕が必死で隠していた努力を全て無にして、
あろうことか、代用品のくせに、本物に楯突いた。
「出てけ」
「あんな子供を、私よりもいいっていうの!!」
「出てけ」
「っあなたは、異常よ!!」
女が僕になにか言っているけど、僕は蹴って、服を放って、
女がいなくなったあと、一人で佇んだ。
異常なのは、分かっている。そんなの百も承知だ。
だけど、それでも僕は。
目に見えたのは、彼の最後の置き土産。
湯のみの破片を拾って行ったその先に、崩れた三色団子が見えて、
あんなに熱かった体が急速に冷え込んだ。
僕と彼の世界が、終末を向かえた。
2010・6・15