「本当、蝿はブンブンと五月蝿いんですよ」

「だから、五月蝿いの中に蝿が入っているんじゃないですか?」

「もう木籐帰りたい」

「俺の勘だと、がこの機会に何人か落としているとみた」

「ああでも、5年イケメンズが防波堤を打ち立ててましたよ」

「あ、あれね。あそこが実習行くとき鉢屋がの振りして外出してたから、
伊賀崎あたりの下級生はいること知らないだろうな。俺らも外いるし」

「基本部屋に出たがらないは部屋に篭っているでしょうし。
でも、この任務も絡みだから好都合ですが、
はちょっと先生に似て、放っておくといい加減なご飯しか食べませんよ」

「だから、綾部に教えといた。ご飯やっといてって」

「はぁ、何してんの。藤野!!最悪」

「木籐だって、土井先生にちゃっかり教えただろう。
あの人は、感情が分からずにうんうん胃をいためときゃ良かったんだよ。
それに、綾部なら陥落者の中で一番女に見えから、が落ちるかも知れないだろう?
あと、野性の勘があいつぱねぇーし、浮気どころか独占欲のほうが強ぇーし、
不思議で電波で男なのを抜けば最良物件だろう?」

「見た目重視なら、先生もまだいけます!!ねぇ、峰くん」

「そうですね。したところみたことがありませんけど、きっと綺麗でしょう」

「ウン、木籐モソウオモウヨ」

「あはははははは。
あーの守りって今いないから、上級生あたりを落としていたら面倒だな」

「大丈夫です。先生。たくさん罠仕掛けときましたから。
三回までは普通ですが、四回目で死にます」

「「・・・・・・・・・」」

「大丈夫こんなことだろうと、俺、綾部に抜け道教えといた」

「うん、良かったって、言っていいのこれ?木籐なにが正しいのか分からない」

「ほらほら、皆さんがくんに会いたいのは分かりましたけれど、
ラスト1です」

大人1人、子供3人の忍びが、城のなかに潜り込んだ。
城主に知られることなく、目的の人たちだけを
殺されたことにも気づかぬほど正確にて、穏便。
彼らを育てた大人は
無意味な死を与えるのも、苦しむ姿を見るのも趣味じゃないんですよ。
だから、君たちには無意味な殺し方なんて教えてないでしょう?
死は、一撃。それで十分です。と笑顔で言う。
それに笑う子供たち。
ただ、真正面から戦うのが疲れて面倒臭いだけでしょう?と。

ただし、口を割らせるのは確認させなくてはいけない。
恐怖という名の存在。彼らの口は布に覆われていてもにぃと笑みの動きが分かった。
暗闇の中で、目と、少しの肌だけ見える4人は、これまではっきりした音を発さなかった。
彼らの会話は、羽音のみ。ただし、一人の少年にいたっては、音すら発していない。
目だけで伝えている。
彼らに囲まれた男は、人を呼ぼうとしたが自らの声が出ないことにようやく気づいた。
後ろの子供たちも恐怖だが、それ以上の逆らっていけない人物が
自分の肩に手を置いていたからだ。
彼は口元を覆う布を取った。やはり笑顔であるが、芯の底からの震えが全身を駆け巡る。

「「はい」か「いいえ」で構いません」

とても丁寧な口調。しかし、事実は命令以外の何者でもなかった。

「あなたは、 という人物の情報を知っていますね?」

口が震える。目で、早くしろと促している。
この世で一番の恐怖が死などそんなもの甘ちょろい。

「は、はい」

男は口を開いた。目には涙を浮かべ、体を震わせながら。
これが本当の恐怖である。



間章・完全別世界の住人の正体




「にしても、さっきの計画ってさー。結構穴だらけだと思わん?」

「あーさっきのは酷かった。一番じゃねぇか?
のあの特異性を利用して、
攫って敵国におくって傾国にさせるって奴な。なー峰お前どう思う?」

「そうですね。まず、の顔は普通ですし接しないと分からないし、
敵国から送ってきた人間をそう簡単に手元に置くわけないですね。
それに、のファンクラブの存在も知らないし、
彼らの鉄槌も知らないでしょう。
最後に、は許した人間には甘いですが、それ以外には甘くないですから。
団子屋を目指しているものの彼の力は強い。簡単にぐしゃでしょう」

「つまり、全部駄目っと」

「そういえば藤野くん。情報を売った人は?」

「ああ、こんな甘い情報売る奴一人いるんで、そいつの上に忠告しといたら、
流した奴の鉄槌と、締りの強化、それと流そうとしている奴を
そこで処理してくれるらしいっすよ。しかも、贈り物も貰いました」

「うわー藤野、えげつない。藤野に言われたらそりゃそうするでしょう。
しかも、贈り物って・・・・・・なにこの情報いるの?コレ?
『男が女になる方法』って・・・・・・え、使うのコレ。綾部に使う気?!」

「俺は、賭け事には本気だ!!」

「フフフ。それは僕が持ってきます」

「あ、ちょ、返せよ。峰」

「公平さが大切ですよ?」

ふふふと笑う峰に、藤野は手を下ろした。
笑顔で制したときの峰は逆らえない。
長年一緒にいる藤野は諦めることが最善だと自分に言い聞かせることしか出来なかった。
篠神はそんな3人を微笑ましく見ながらも、木籐に問う。

「で、木籐くんの方は?」

「木籐の方はファンクラブにかけあっておいた・・・ました。
今、学園に知らない人物は一人も一匹も入れない・・・です」

「さっきのほうは行かなくても良かったですけれど、
外に出たならば徹底的にしなければなりませんよね?」

「先生、頬に血がついてます」

「ああ、つい話を聞いていてあまりに哀れなので。
はぁ、はやくくんに会いたいですね。
そして、甘いものを食べてくだらないことをしゃべってお茶のみしたいです。
私疲れなんてふっとびます。」

ふふと笑った篠神にみんなが笑った。
彼らも彼の意見に同意で、帰ったらを想像して笑う。

「あと、2つですから。みなさんもうちょっと頑張りましょう」

「「「はい」」」



3人は、そのときのやる気を返して欲しいと本気で思う。
最初は良かった。
最後の2人の目標うちの1人がいるタソガレドキ城についた時。
彼は1人、前に出て目標に挨拶をした。

「こんばんわ。雑渡昆奈門さん。相変わらず変な名前をしてらっしゃる」

「おや、君は篠神くんじゃないか。久しぶりだねぇ」

目標が、知り合いだったことに後ろの三人は驚いていた。
一人は、知り合いいたんだ。
一人は、先生がちゃんと人の名前全部覚えている。
一人は、俺その情報知らない。
などなどだ。

お茶を飲んでいる雑渡に、横にいた諸泉 尊奈門はクナイを取り出し威嚇していたが、
彼らは、彼を一目見て目の前の彼に敵わないとみると、
2人の様子を眺めることにしたとても寛いだ形で。彼らも基本、先生に似て怠惰なのだ。

「ほらほら、尊奈門くんそれ下ろした方がいいよ。勝てないから」

「そうそう、一人で勝てると思わないで下さいね」

「なっ」

「うん、尊奈門くん死にたくなければ、下ろせ」

雑渡の命令にすぐに尊奈門はくないを下ろした。
ピリピリとした殺気だけを篠神にぶつけて。

「さて、本題です」

しかし、篠神にはなんともなく笑顔だ。

「面白いことは分かっているのでいますぐ止めてくれますよね?」

「まぁまぁ、まずはお茶でも、後ろの生徒さんもどうぞ」

「あ、お構いなくー」

「美味しくなかったら、どうなるか分かってる?」

「先生の知り合いのお茶の味の情報は欲しい」

「はい、君たち。なにも疑いなく飲まないように。毒とか入ってたらどうするんですか?」

といいながら、お茶をズズーと言わしている篠神に、
3人は、

「「「一人だけずるいですよ。僕・俺・木籐も喉渇いたんですから」」」

唖然としながら尊奈門はその様子を見ていた。
お茶を飲んでいる曲者。しかも、なんの疑いもなく。
唖然は、おかわり!!!と四人のコラボの声により
尊奈門はお茶を用意しに行くはめになった。

「まあまあだね。のが上手いけど」

「そうですね。えぐみが残っていますしね」

「62点ってとこか?」

「甘いものは?言っときますけど、まずいものでも食わせてみせなさい。
あなたの死は確定です」

「お前らは何しに来たんだ!!!」

寛いでお茶を飲んでいる彼らについに尊奈門は切れた。
ああ、そういえば。と4人は思い出したらしく。
一人は、本を漁るのをやめ。
一人は、雑渡とにこやかに話すのをやめ。
一人は、お茶を催促するのをやめ。
一人は、甘味を食べまぁまぁというのをやめ。

「そうでした。うっかり忘れるところでした」

「うん。忘れてくれて良かったのに。最悪だね。尊奈門くん」

「あーゆうのKYだって」

「なんですかそれ?」

「顔汚い」

「「「「「あー」」」」」

「止めてください!!」

と本気で怒り始めた彼を放って、篠神と雑渡は真剣な顔に戻る。

「で、やめてくれますよね?」

「え、なんで?」

「だって、可愛いし、愛しちゃってます」

「えー、だって私。彼がいれば面白いって思っているんだよ?」

「私だって、面白いです。だから駄目です」

「どこらへんが」

「そうですねー」

それからが長い。長すぎる。
先生の愛の告白は一文ではなく原稿用紙何十枚分になっている。
結構疲れているというのに、何件任務を済ませたか分からないのに、
早く帰りたいのに、3人は目を合わせた。

「じゃぁ、僕らはこのへんで、最後の任務やっときますよ」

「うん。最後のは学園関係者だし、木籐たちでも大丈夫でしょう」

「さあってと、じゃぁうちの先生よろしくー!!」

と言って去っていく彼らと共に尊奈門は一緒に逃げたくなった。
曲者が来て警戒しているのに、お茶を作らされ菓子まで用意し、
なのに目の前の人物の長い愛の告白、
・・・人のノロケがきつく独り身の自分は徐々に寂しくなってきた。
恋しようかなと思い始めた頃。雑渡はようやく口を開いた。

「ようやく、静かになったね」

「え?」

なんのことだ。と問う前に雑渡は続けた。

「彼らは本当に忍びにならないのかい?惜しいなぁ」

「彼らは忍びよりも向いているものがありますからね」

「そう?まぁ、そうだよね。さっきの子。そう峰くんかな?
彼の後ろの兵隊は結構粒ぞろいだしね。彼がならなくてもいいっていうのは分かるよ。
いいや、彼は上の人間だから、必要ない。
木籐くんは、市場を統括できるし、藤野くんはその筋では有名だよ」

「よく、集めましたね」

「ここまで集めるのに、苦労したよ。何十人か犠牲になった」

ククと笑う前の包帯男に篠神は笑みを返す。

「でも、一番は彼だ」

「私は、『鬼』と恐れられたお前に、『椿』に『狐』に『不知火』の総締め候補。
全部その筋のものは知らないものがいない。
それが、たった一人の普通の男を守っている。それは大層気になるじゃないか」

尊奈門はそれら全てに聞き覚えがあった。
『椿』はまとこしやかに囁かれている暗殺部隊。
『狐』は全国の市場の取締役集団。
『不知火』は伝説の情報屋集団。
そして『鬼』は。尊奈門はさーと自らの血の気が抜ける音がした。
もしそうだとしたら、自分はなんてことを。
そんなことも知らないとばかりに篠神は笑った。

「分かってないですね。雑渡さん」

雑渡昆奈門は、彼の名前を聞いたとき、自分の名前を一笑されたが、
お前の名前ほどお前に似合っているものはいないと思ったのだ。
篠神・・・・・・死の神。
彼はそのときと同じ顔をして笑う。とても歪に。

「私たちを変えた人間が普通のわけないじゃないですか。
そこまでは調べなかったようですね。
確かに彼を調べるならば何十人以上の犠牲が必要になりますからね。
彼は、普通を装った愛すべき人なのですよ」

いなくなった奴の席には一つの湯のみ。

「では、言うことを聞いてくれますよね?あなたがたのほうへ彼を連れてこさせません。
なぜならば、私が彼を娶るのですから」

うん、変わったよね。前はあんなふうに笑わなかった。
あんなふうに人を愛さなかった。
その変化が良かったのか、一時部下でもあった彼に思いをはせる。

「だから、心配なさらないでください」

ふっと笑う。一回命を助けられた。だからこそ、彼を一回助けるつもりだった。
変えたのが悪い方向ならば、その原因を取り除こうと思った。
だけど全てお見通しで、余計なお世話らしい。彼は今幸せなのだから。

だから、忍術学園にいるならいっぺん会ってみてもいいと思うのだ。
彼を変えた人物に。













2009・11・14