うーん。失敗した。私、七松 小平太は後悔していた。
教員室を通りかかったときに聞いた「5年は組」「男色」
で、体育委員である滝を5年は組である奴の元へ置いていったのだが、
穴に落ちた私は、昼になってようやく這い上がれた。
まさか通じている場所がまったく知らない場所だとは、あれの製作者は人、一人殺すつもりだ。
殺意しかない穴に落ちた私は、怪我を治してもらうために保健室に行き
理由を問われたのでそれを伊作に言えば、青い顔をして怒られた。

「トラウマを先輩が後輩に与えてどうするの?!
あーもう、僕が出来ることは怪我の治療で心の治療は出来ないんだよ!!」

と、言って私にぐーで殴った伊作は、座薬と軟膏どこだっけ?と探している。

「伊作。私は、ひどいことをしたか?」

「ひどいも何も!!4年生はまだ、そういう授業もしてないんだから。
初めてで、そういうことはさせちゃ駄目だよ」

そうか。私だって、初めては女だったし、滝は綺麗な顔をしているけど、
女との噂も聞かないけど、男色ではなかった。

「私は、なんて」

なんてことしゃちゃったんだー!!と叫ぶ前に、パリンと新野先生が、受け皿を落とした音が響いた。

「な、なんてことを」

「ど、どうしたんですか。先生」

伊作が慌てている。私だって慌てている。
いつも柔和な先生が顔を歪めているのだから。

「い、今七松くん、5年は組と言いましたか?」

「は、はい」

「今のは組には陥落者以外立ち入り禁止で、一番多い5年生にも
実習を組ませ外へ出したというのに
委員会すら休ませて、わざわざ部屋に留まらせているのに近づくなんて」

陥落者?留まらせる?と伊作と二人で顔を合わせていると、
新野先生は私の肩にポンと手を置いた。

「平くんは・・・外側は何事もなく帰るでしょう。しかし、きっと内側は以前の彼ではない。
運が良くて火傷。運が悪くて底なし沼ですね。
君も、そうなりたくなければ、スットパーも守りもない今の彼に近寄らないことです。
伊作くん、保健委員に通達です。5年の長屋には近づかないよう。いいですね!!」

新野先生には珍しく強気の発言に伊作もはいと言うことしか出来なかった。
そして、私の?の答えは、謝るために滝夜叉丸を探していて分かった。

おーい、滝夜叉丸。と声をかける前に。
鏡を見ながら惚けている姿。ここまでは昨日と同じ彼。
なーんだ、新野先生の言っていることはデタラメじゃないかと思ったが、
唇をそっと押さえて。

先輩」

と口にした言葉がとても愛おしげに、頬をほぅっと少女のように、乙女のように赤らめた。
私は上げていた手を下げて、声をかけることをせずに、そのまま図書室に来ていた。
扉を開けば座って本を読んでいる長次。

「長次」

「どうしよう。長次。どうしよう」

長次は無言のまま私を見ている。

「私の滝夜叉丸が盗られてしまった」

盗るはずが、盗られてしまった。とポロポロ泣く。
私は、自分でも大概だと思うほど独占欲が強い。
私のものは私のもの。
だから、体育委員会の彼らは私のものだった。
滝夜叉丸は恋人ではないが、私のものだったのだ。昨日までは。
彼は今、頭に占めているのは一番が自分でも、体育委員でもない。
一番は奴なのだ。奴の言葉と私の言葉でどちらに反応するかなんて
あの滝夜叉丸の状態をみて分かってしまった。

そんな私をポンポンと長次はリズムカルに頭を叩くと。

「・・・・・・盗られたなら盗りかえせ」

パチクリ。目が覚める思い。その通りだ。私は、なんて、思い違いを。
私の言葉でもあるじゃないか。

「・・・・・・いけいけどんどん」

とポツリと言った長次の言葉ににかっと笑い返す。その通り。

「いけいけどんどーん」

私は体当たりすることにした。それが私じゃないか!!




14・盗られたら盗り返せ





俺は、今デジャブーを見ている。

朝、女だったら襲っているレベルの色っぽい滝夜叉丸くんを長屋に返して、
ぺらりと分厚いお菓子の本を開いた。
もうあの広い部屋で独り言とか寂しいし、痛いしなので、俺は部屋に篭る事にした。
お茶を飲んで、サラサラと筆を取り本に自分なりの方法を書き込む。
おお、もう昼か。
俺は大概なまけものなので、人ごみの中にまぎれてご飯を食べに行くとかない。
大勢の中で一人で食べることもできない。寂しい過ぎるので、惨め過ぎるので、
俺は出来ずに他は授業中であろう中で、おばちゃんに簡易なご飯を受け取った。
面倒なので夜のご飯を渡してもらう。昼は握り飯と卵焼き。夜はお茶漬け。
あまり動いてないので、そんながっつり食わなくても大丈夫だ。
もぎゅっと口の中に放り込めば、
そういやなんで5年イケメンズが来ないのだろうと疑問。
彼らは、時々孫兵が夜中に眠れないとか、
綾部くんが勝手に布団を引いて中にいるときには奴らは必ずいるのに。
けれど、今回は滝夜叉丸くんが来ても来なかった。
うーん、彼らにも何かあるんだろう。
そう何回も俺のところに来る事態おかしいし、
奴らは大層、面がいいから彼女とかできたのかも知れないし。

へっ、面のいい奴らはいいな。と手に付いた最後のご飯粒ををぺろりと舐めたときだった。

「たのもーう!!」

俺がバレーボールをぶつけた後、満面な笑顔をしていたドMで、
罰ゲームとして後輩を俺のところに送り込む結構良い性格をしている先輩が
やっぱり前と同じように傷だらけで立っていた。
え、何?もしかしてちゃんと確認に来たの?結構シビアな罰ゲームだなおい。
大丈夫ですよ。彼はやりました。と言う前に、なぜか、タックルされた。
綾部くんのタックルと同じくらいのタイミングで、
しかし彼のはどうやら少しばかり力が強いようで、そして大きいので、
綾部くんならば倒れなかった。タイミングさえ分かれば用意は出来た。
など色々な言葉が並べられるが、見事俺は彼に馬乗りされた。
おお、彼もまたイケメンだ。と下から見上げる形で思いながらも
この体制、6年生は好きだな。と食満先輩の時と同様な格好で俺は思っていたわけで。

なぜ、彼が上の服を脱いだのか。
そして、なぜ俺の上の服を脱がしたのか。

ああ、食満先輩に肌質のことを聞いたのかなとか思っていた。





奴に体当たりにすることにした私は、そのまま前の部屋を目指した。
奴の部屋は罠を一通り知りえた私でさえまた新たに傷を作ってしまうほど
罠が巧妙で数が多い。

しかし、私はそんなことでは挫けない。
盗られたのなら、盗り返せ。最初から彼は盗るつもりだったのだ。
だから、滝が好きな彼ごと頂いてしまえばいい!!
部屋に入れば、普通顔の少しのほほーんとした雰囲気の彼がいた。
滝がどうやってこの普通すぎる顔に、普通な雰囲気をもつ彼に盗られたのかなんて、
私は彼を馬乗りになったときに考えなくて。

「どうしよう、私、女としかやったことない」

が頭に占めていた。口にも出ていたらしく。

「ああ、先輩。経験者ですか。何自慢しにきたと?」

と下から返ってきた。彼は童貞らしい。なるほど、男色だからか。
つまり処女ではないと。ならば、滝の選択は間違えていた。
奴はどうみても受けだ。彼は受けのようだし。
一応服を脱いでみた。状況に変化はなくて興奮も何もない。
彼も一応脱がしてみた。まじまじと見て落胆。

「胸ないよなー」

「あったら、俺男じゃないですよ」

だよね。どうしよう。私、男に興奮しないなーと、
一応ペチリと触った。

おお。

「凄い凄い。何この肌」

「ああ、だから俺のは体質というか豆腐の食べすぎというか。
もっと上。そう、久々知くんとか凄いですよ」

「仙ちゃんよりすべすべで滑らかで、気持ちいいー。スゴ。私仙ちゃん以上って初めて」

「聞いてますか?人の話。ってか、擽り弱いんで、それ以上触らないで下さい」

ペチペチペチからサワサワサワに変化してから、下が振動する。
アハハハハハという声と共に。

「ひゃははははははははははだひゃははおれははだめってあっはははっは」

「おお、傷も少ない。すーべすべ。コレは気持ちいいな」

あ、じゃぁ大丈夫かも。うん。

え、何が?と止めた手で笑い終わった彼の顔をみて、
ああ、なるほど。これはこれは滝も落ちるわ。と冷静になる前に、
ごくりと喉が鳴った。
普通顔で、普通な彼で、男で女でもなんでもない。
しかし、頬を少し染めて、涙を目の端に、吐く息も荒く、
仙ちゃんの色気とはまた違う色気があふれ出ている。
そして何よりも、彼から香る甘い匂いが強くなった。
最初、彼が甘いものを食べるからのその匂いかと思っていたが、
どうやら彼が甘いらしい。
舐めたい。噛み付きたい。その喉元に。
頭の中では私の野生の勘である警報機がウーウー鳴っている。
いや、私の中の野性がウーウー唸っているのかも知れない。
そして、最大限の音量が頭に響いた。

『ガブリと頂いちゃおう』

じゃぁ大丈夫じゃない。かなりいける。とあーんと喉元に噛み付くところに。

先輩ー!!ご飯持ってきました」

の滝の声が早いか。
耳元に聞こえたシュッとした音が早いか。
私のいた場所には鋤が刺さっている。

「な、なにをしてるんですか。七松先輩」

と、ご飯を落として顔を赤くしている滝に。

先輩。はい。私の服着て」

「あーどうも。綾部くん」

服を着せて、壁に刺さっている鋤を取ってギロリと殺意ある目で私を睨みつけている綾部。

「何って、ナニ?」

と笑顔で言えば、滝はすっと懐から戦輪を取り出し、綾部はブンと鋤を振った。

「「そうですか。それは、それは死んでください」」

6年生に4年生の二人が敵うはずないだろうとか、
ああーいいとこだったにとか、
実は何も分かっていないだろう彼とか、
なんとなくだけど、彼は男色ではないじゃないかとか、
まぁどっちでもいいか。いつか彼は頂こうとか。

うん。二人を相手しながら私は聞く。

「名前なんていうの?」








2009・11・6

【おまけ】


七松が去った後。

「うわーん。先輩が穢された」

「何かされましたか?先輩」

「え、擽られただけだけど?」

「滝、あの先輩の手綱ちゃんと握ってないとめっでしょ?」

「私の言葉が通じないから困っているんじゃないか。
ああ、もー、先輩お風呂入りましょうお風呂!!」

「私も入ります」

「喜八郎!!お前は入る必要ないだろう?」

「だって、入りたいんだもん」

「だもんを使えば可愛いと思うな」

「あ、でも先輩の匂いつき服はゲット。最高いい匂い」

「ずるいぞ。喜八郎!!それよこせ」

「昨日、先輩の部屋で寝た滝のほうがずるい」

「二人は仲がいいなー。それにしてもあの人。
名前聞かれたけど、名乗らなかったな。何しに来たんだろう?」



5年イケメンズの察知。


皆バラバラで行動、()の時間帯に言ってます。

・兵助
「!なんか、今俺のレーダーが、一人で寝るのは寂しい兵助って言った気がする」
(七松と会う前の日。一人で寝ていた。別にそんなことは思ってない)

・三郎
「なんか凄い不快、ナルシー死ねって気分だ」
(滝が初チューの日)

・ハチ
「なんか急に寂しい気分になった。なんだこれ?」
(ここに来る事態異常のとき)

・雷蔵
「・・・ふふふ。どこかの躾のなってない犬が噛み付いたみたい」

「雷蔵。本当か?」

「大丈夫。三郎、躾がなってない犬は天罰が下るから。ふふふ。
三郎、早く帰ろう。ただでさえ、いらないものが飛び回ってるから」

「うん、急ごう」
(七松、二人と対戦中名前を聞いて名乗る前に、前と同じ罠にかかった時)