始まりは遠くから聞こえた掛け声だった。
「いけいけどんどーん」
そして、俺に迫る白い球。三択の選択肢。
1・避ける
2・ぶつかる
3・蹴りかえす
普段なら1だったさ。 は温厚で事なかれ主義。
できればこのイケメンパラダイスに何事もなく過ごしてひっそりと卒業することを望んでいる。
その前に、俺は普通なので、目立たないけどな。
しかし、俺はそのとき少々やさぐれていた。
5年は組の連中はなぜか俺を置いて任務に出かけたからだ。
篠神先生もご一緒された様子。俺は実質一人ぼっち。なわけで。
一週間ぐらいで帰るから、お菓子の用意ヨロシクお願いしますね。と同じ顔の篠神、とか。
ランキングに変動があると思うけど、後だなこっち優先。と紙に何か書いている藤野、とか。
つけてこないでね。。
つけてきたらあることないこと5年イケメンズに言って襲わせちゃうよ?と笑顔の峰、とか。
てかこれはのためだから、木籐も面倒臭いんだよ?分かってるの?と逆ギレした木籐、とか。
意味分かんねぇー。もっと分かりやすく置いていく理由言ってくれよ。
俺たち仲間だろー。バカヤローと気持ちを高ぶらせて蹴り返してしまった。
他にも、他の組に入れさせてもらえず一人寂しく
あの広い部屋で自習とかないわーもあったかも知れない。
ボールは弾丸のようなスピードと直線を描きそのまま打ってきた人の顔面に直撃した。
謝り倒したが、そのときのなんかキラキラ顔をして
何を言わず後ろでコソコソつけまわしたりするのは、
頭に何かあの時影響を及ぼしたのかもしれない。
でも、だからと言ってどうしてこうなるのか。
深夜の俺の部屋には、5年イケメンズじゃなく、4年のイケメンが一人。
「ですから、なんで私を好きになってくださらないのですか?
私は美しいし可愛いいし、文句の付け所なんてないのですよ?」
文句。そりゃ確かに髪も綺麗、顔も綺麗、体も綺麗、どちらかと言うと女顔だけど、
お前男じゃん。
それで全部終わる話なんだけど、言ったら
「私の美しさは女以上です」
と怒られた。どうすればいいの?後輩が怖い。
13・もう、一回!
ある日突然、凄い笑顔の七松先輩はおっしゃった。
「凄い奴がいた」
目をキラキラ輝かせておっしゃった。
とても子供のような笑顔で、さらっと
「私のアタックを蹴り返した奴だ」
しかも、顔面に当たった。凄い威力で一瞬記憶がとんだ。
と笑顔でいう話じゃないことを言った。
夢でも見てたんじゃないッスか?と三之助が言う。
私もそのとおりだと思う。『暴君』と知られる怪力の七松先輩が放ったバレーボールを
返せる人は、六年生でもあまりいないし、なおかつ蹴り返して、
馬に轢かれても気絶なんぞしない人を一瞬気絶させたなんて、
そんな人物がいれば噂ぐらいあるだろうに。
しかしこの忍術学園で怪力と知られてるのは、七松先輩しかいないのだ。
しかし、先輩はぬっとバレーボールの残骸を出して、これが証拠だと笑った。
当たった瞬間に破裂したらしい。
それは、七松先輩になんか個別に恨みでも持っているのではないか。
しかも、誰かも分かったらしい。
「奴は五年で用具委員だ!!」
バレーボールの修繕を頼もうとしたら、彼が居たらしい。
それだけの彼の情報を言い、七松先輩は今日の体育委員会の内容を言った。
「私は奴が気に入った。ぜひとも体育委員に欲しい。そしてバレーボールとかして遊ぶ。
なので用具委員から引き抜く方法を走りながら考えよう」
なんともめちゃくちゃな内容だ。考えるのになぜ走る?ちゃんと本人に言った?
名前は?話しかけてもいないじゃないですか?
そんなことを言っても、『いけいけどんどーん』で終わる。
今日も、いや今日は少しばかり七松先輩のテンションが高くて
いつもよりもボロボロになり長屋に辿り着く。風呂は出たので後は髪の手入れとかして
明日の授業の予習をして宿題をして寝るだけだったのに。
自分の部屋に入る前に、私は拉致られた。七松先輩に。
「え、え、え?」
「よし、滝。私は今有益な情報を手に入れた」
「有益?」
「そう、奴は男色だ!」
へ?で、なんで私を担いでいるんですか?と言おうと思えば。
凄いスピードで5年の長屋に突っ込んでいく。
「先輩。部屋知ってるのですか?」
「知らん」
と突っ込んでいった。私は5年長屋の恐ろしさを忘れない。
男色でなんで私をその人物に連れて行くのかも怖いが、
5年長屋にはある場所にだけ競争区域に比べものにならないほどの罠があった。
というか、喜八郎の穴が多すぎて、しかも印なし。何度も落ちたり、
一歩間違えれば命を落とすようなものから可愛いものまでの罠が仕掛けてあったり、
唯一5年長屋で明かりが灯った部屋に逃げるように入れば
頭からとか肩からとか血を流し、中にいる人物を見てにっと笑った先輩。
「よし!滝。じゃぁ、色仕掛けしてそのまま体育委員に連れて来い。朝まで帰るな!」
「ま、待ってください」
帰れません。あの中で、私は4年長屋まで帰れる自信はありません。
と伸ばした手は、いけいけどーぉぉぉぉぉぉと何か深い穴に落ちただろう先輩へ届くことはない。
「えーと」
びくりと後ろを振り返る。七松先輩以上のムキムキ怪力で化け物でしかも男色な
男をおそるおそる見れば・・・・・・普通だった。
長身だが、どちらかという細みな彼に、私はとても呆気にとられた顔をしていただろう。
「なんの用でしょうか?」
その常識的な言葉に一気に疲れた。
そして、冷静になった私の頭は疲れと安堵で変な方向へいってしまった。
七松先輩が私に頼るなんて初めて。色仕掛けして連れてきていけば、あの気に入りよう。
ちょっとは委員会がマシになるはず。
そして私は綺麗だ。美しい。それを認めてくださった。
ならば。
「私を好きになってください!!」
そのときの男の顔はポカンと口を開け間抜け面だった。本当に、疲れていたのだ私は。
もう少しで、布団で寝れるはずだったんだ私は。
じゃなければ、男と男のというより女と男のそれすら知らない私が、
初対面の男に、襲え!!と迫らない。
しかし、相手も手強く、なかなか自身に迫る様子もそれどころか距離を置かれはじめている。
男色の癖に、私以上の美しく可愛い男がいるというのか!!
と、もはや意地とプライドの問題になってきていた。
「だから、先輩は私を襲っても問題はないと言ってるでしょう?」
「問題ありまくりでしょう?何、君ちょっと落ち着いて」
「私の名前は平 滝夜叉丸です。この光栄な名前を呼ばせますので、さぁどうぞ」
「滝夜叉丸くん?意思疎通しようか。何4年はそういう集団なの?あ、それと」
手を広げた私の頭に乗っけられたのは手ぬぐいで。
「髪の毛濡れてるよ」
ぐわっしとぐわっしと強く髪がボロボロになるまで先輩に撫でられたことはある。
しかし、その男の先輩はとても優しく壊れ物を扱うように私の髪を乾かそうとしていた。
落ち着いてくれてよかった。これって、川で溺れた猫を落ち着かせるためにやった方法だけど、
滝夜叉丸くんも同じようだ。みゃーみゃー言っている姿からこの行為をしたんだけど、当たりだな。
滝夜叉丸くんは、口をつぐんで、下を向いている。
その後、どうやって穏便に長屋に帰そうかと思っていると、滝夜叉丸くんがポロリポロリと泣き始めた。
え、何?痛かった?俺細心の注意を払って髪の毛乾かしてるんだけど。
あたふたしている俺に、ぎゅっと涙顔のまま裾を握られた。
「止めないで下さい」
エコーで俺の頭の中に言葉と、表情が入ってくる。
すげー威力。4年がアイドル学年たる所以、綾部君しかりこの子もだな。
と考えなければ、やばかった。
「滝夜叉丸くんが男でよかった」
じゃなきゃ、この状況で襲わない自信ないもん。
うーん、この状況の彼を部屋に帰すのはやばいかも知れない。
じゃ、俺の部屋に泊めるか。俺は男を襲うような性癖は持ってないから君は安全だ。
と意味をこめて笑えば、逸らされた。
さっきまでの強気が嘘のように彼は大人しくなった。
なんのようできたのかは分からないけど、罰ゲームみたいなものかも知れない。
そう考えれば今の状況も彼の言っていた言葉も大体理解できる。
そして、あの笑顔のバレーボールを当てた人のことも分かる。
先輩からのはきついよな。断れないもん。
俺は、上が食満先輩だからそういうのないけど。
どちらかといえば、一年の懐かれ方を教わりに来る人だし。
そうだとしたら。
「よく頑張ったな。偉いぞ」
あのバレーボールの人には食満先輩に頼んで適当なこと言っておいてもらうから。
「もう大丈夫だ」
あまりにも、優しくされているから涙が出てきた。
此の頃、喜八郎はどこか行ってなかなか帰ってこないし、
私が心配してると言うのに本人はどこ吹く風で、委員会は委員会で、無茶難題を吹っかけられるし
もう嫌だ、疲れた。眠いし、髪の毛だって、宿題だって、予習だって頑張ってきたのに、
今日は出来そうにない。
「よく頑張ったな。偉いぞ。もう大丈夫だ」
そんな言葉学園に入って初めてで涙が溢れて止まらない。
私はちゃんと頑張ってる。ちゃんと努力している。
でも、誰からも褒められないから、自分で褒めるしかなかった。
ふっと、力が抜ける。疲れた嬉しい頑張った温かい。
そして、そのまま頭を撫でられながら寝入ってしまった。
疲れていたんだ。本当に。
朝、目が覚めれば、横にはその人が傍にいて、布団の中。
なんでこんなことに?顔が赤くなるけど、私の片手が何をしっかり握ってる。開けば固い。
私は先輩の裾を掴んだまま寝てしまったらしい。
他に何か変わったところなんて一つもない。
「滝夜叉丸くんが男でよかった」という程の男色だと言うのに彼は私に手を出さなかった。
色気がないとかそういうわけではない。
きっとこの先輩は寝ているものに手を出す人物ではないのだろう。
ぽふっと、もう一度布団に寝転がる。
普通顔だけど、結構睫毛が長い、一つ一つの部位は結構整っている。
髪の毛、そろそろ長くなってるから切ったほうがいい。
あ、なんかいい匂いがする。甘い匂い?香とかじゃない。お菓子みたいな。
ふんふんと匂いの元を辿れば凄く近くなる距離。
目に入った体の部位に私は笑みを乗せる。
でも、手を出されなかったことが悔しいから。
ふに。
「私の初ちゅーぐらいは、お試しであげます」
後は本番で私を好きになってから貰ってもらおう。
それにしても、この人の唇、とても柔らかくないだろうか?
そうだ。もう一回しとこう。
2009・11・3