初めて学園の先生になったとき、私はどうしていいか分からなかった。
悪戦苦闘の末ようやく、休めたときに体がぐらりと右に傾いた。
気持ち悪い、気持ち悪い、誰か助けてくれ、伸ばした手は誰かに届いていた。
「日射病です。少し横になっていてください」
と気の木陰で、とても穏やかな顔で微笑む。
すっと額にきた手が冷たくて縋ってしまった。
驚いた顔。私には男色の気も、少年趣味もない。
けれど、手が冷たくて気持ちよかったから。
「大丈夫。そのうち慣れるから」
ああああああああああああああああ。
い、嫌な夢で起きてしまった。
私の消したい黒歴史。
12・ツンとデレは7:3の黄金比
遠くからの長身に私は体を隠してダッシュで逃げる。
5年は組 は私にとってそういう存在。
「嫌いとはいかないにせよ、苦手な子」
職員室でも、今でこそ1年は組は有名だが、もう一つ有名なは組があった。
いや、今でもある。忍びとして生きる気がないものを集めた組。
忍術学園は忍びになるものだけではなく色々な教養のためにつくられた学園でもあるから
そんな組があってもおかしくはない。しかし、あのは組はおかしかった。
学園に入って初めて言われたのは、は組には近寄るなだった。
意味は分からず過ごしてきたが、今となったらわかる。
は組担当の篠神先生はあの有名な『鬼』で、その組の子達らは個性豊か。
子鬼とか言われていた。なんでも先生至上。完全別世界。
歯向かえば、明日は見れないとかなんとか。
忍びを目指していないのが救いだと、上の学年を担当していた先生が言っていた。
嫌がらせで6年が失敗した任務を彼らはこなしてしまう。任務率100%。
学園長先生ですら、あの組には手出し無用とお達しするくらいだ。
そして、一番の原因を。
「は組のの分、見ましたか?」
「恐るべき技ですな。女装もせずに、よくもまぁこんなに貢がれるものです」
「本人が無自覚と言うのがまた」
「しかもは別に男色ではないし・・・・・・不憫と言えば不憫な」
4年の女装テストの集計物を集めていた先生が渋い顔で見れば山のような貢物。
私に気づいた先生方は私に言った。
「土井先生も気をつけてくださいよ。
本人にそんな気がまったくなく無意識で男を陥落するような生徒がいるんですから」
「はは、誇張しすぎじゃないですか?」
「現にあの篠神先生は、を嫁にする気らしいですよ」
「はっ?生徒と先生がそんなの」
「あの組には手出し無用。ただ私が言えるのは」
を会ったら、逃げろ。会っても、惚れるな。
私は胃が痛くてしょうがない。
なんせ、そう言われる前に会ってしまっていたのだから。
そしてもう二度と会わないだろうと思ったのに、きり丸の一件で、完全に知り合いになってしまった。
任務に巻きこまれたきり丸を無事届けてくれたのは嬉しいが、
ねっちねっちと横から本当にお前ら年下?と疑いたくなるほどの嫌味をは組の連中から貰った。
はなぜか鍋の用をしていた。本人曰く、美味しいものを食べれば心豊かになれるらしい。
やっぱりあの時と同じ穏やかな顔で。
それをみてにやりと笑っているは組なぞ知らずに、一名陥落。なんて言葉も知らずに、
言われたとおりにの鍋は絶品でつい笑顔が出てしまう。
あいつは、優しい男だ。と思えば。
「先生。俺を連れてきてくれたのって」
って頬を赤くしたきり丸をみて、咽るのが止まらなかった。
恐るべし、 。こんな小さな子供にまでその手は伸びるのか。
先生達の言っていた言葉は誇張でもなんでもない。
きり丸の小さな手を掴んで私は高らかに誓った。
「大丈夫だ、私が守ってみせる」
恋のこの字も知らない子供を誤った道に進ませて堪るか!!
そして私はを観察して、私の可愛い生徒達を守ろうとした。
用具委員だからしょうがないが、もはやしんべヱと喜三太はメロメロというか、
甘いもの作りが好きだという彼は甘いもので釣っている・・・やり方が卑怯だ。
だいすきの文を読んで他の生徒が興味をもってしまわないように燃やすつもり
だったが、何者かに盗まれた。手間が省けた。
その日5年長屋がうるさかったことなんぞ知らない。
特にきり丸には用具委員に近づかないように、細心の注意をした。
したが、私と奴はあれ以来なぜか会ってしまう。
「おばちゃーん、ごめん、何か残ってない?」
う、嫌な奴に会った。奴は、今日も今日とて普通の顔で、少々困り顔で
おばちゃんに、ご飯をねだりに来た。
いつもこの日は、昼食を食い損ねるにおばちゃんがお疲れ様と、
おにぎりと卵焼きを差し入れる。
は、ありがとうと、やっぱり普通の顔で笑みを作り私の方向へ来る。
ええーい、来るな。来るな。
私は、今この憎き練り物と戦い中だというのに、タダさえ苛立たしい気持ちがますます上がる。
そんなこと気にせずは私の目の前に座って、箸を手に頂きますと両手を合わせる。
目を瞑ったときに、意外と長い睫毛とかそんなものは見てない。
練り物しか視界にない。
「なぜ私の前の席に座る」
「一人で食べるの寂しいんですよ」
「他の奴と」
「この時間に食べているのは俺と土井先生くらいですよ」
困った顔。そんな顔するくらいなら私の傍に来なければいいのに、
そして
「あ、先生。あれ!!」
「へっ、んん!!」
「それに、俺には土井先生にコレを食べらすという役目がありましてね」
それにしても、いつもこれでひっかかりますね。と笑う。
お前の顔が近いから、ちょっとでも見てないと私に何しでかすか分からないから、
だから、集中しているんだ。と、言えばいいのか。
お前の箸で私の口に入れるな。と、言えばいいのか分からない。
箸を使う手と唇なんてまったく視界に入っていないし、
水を飲みながら真っ赤になった顔に、怒っているんだって思ってればいい。
「本当に、嫌な奴だな」
「ハハハそう嫌わないでくださいよ。俺先生のこと嫌いじゃないんですから」
そう言って去っていく奴は私の顔なんて見てないのだろう。
それだけの存在に、そんな言葉をかけないで欲しい。
じゃないと、私はまた傷つける言葉しか出せない。奴がいると感情が操縦不可能だ。
イライラして、ムカムカして傷つけてしょぼくれている自分がいる。それに気づかないにも
またムカついて、・・・・・・本当なんなんだろう。
きり丸のことだって、私の家族に手を出すなという気持ちだけではない気がするが、
それ以上考えたら深みにはまりそうで。
「はまればいいのに」
いつの間にか目の前にいたのはは組の一人。にんまりと嫌な笑みを出して。
「ねぇ、土井先生。土井先生っていつもこの時間にいるよね」
なんで?って頭を傾げられる。なんでって、私は食事を残しているから。
「だったら、わざわざ練り物入ってるの注文しなきゃいいのに」
心の何かを見通させるような目に、言っている意味を理解して真っ赤になった顔に
少年・いや子鬼は笑った。
「大丈夫。木籐、土井先生に賭けてるし」
は鈍いから気づかないよ。
でも、作戦をあながち外れてないよ。、本当に土井先生のこと気に入ってるもの。
後は、ツンだけじゃなくてデレたらいいと思うよ。
2009・10・30