と顔をデレデレさせて、容認した。男は俺を視界に入れず、
俺がいないように振る舞いいさ子だけを見つめている。
俺は、別に、俺、可哀想などと思わない。
そうやって、これまでの女装試験を全てクリアしてきた。
伊作が引っ掛ける、俺がそれに付き合う。
初めは、嫌そうな男の顔とか、ちょっとショックでもあったが、
これをしないと、俺は一生声をかけられることも、何か奢られることもない。
つまり、いつまでたっても及第点がもらえない。
6年続ければ心は鋼で、
また馬鹿が集まったと、にまり笑顔を浮かべることも出来る。
だから、俺は女装試験中は、もっぱら伊作と共にいる。
「けどよ。って特殊メイク的なことも、
綺麗な顔の仮面も作ることも出来るだろう?」
何度目かの女装試験の時、留三郎に言われた。
伊作が、留三郎を殴ったが、俺は苦笑して。
「俺は、顔を隠さないよ」
そっと俺は自分の、凹凸のない顔を触れる。
そんな俺の顔に、違う誰かの手が触れた。
顔をあげれば、表情が分かることのない俺と同じ年の少女。
「私、の顔もも大好き。だから、隠そうなんてしないでよ」
そういって、悲しい声を奏でた。
「!!」
はっと気づけば、さっきの男はいない。
伊作が俺の目の前で手を振っていた。
「もう何度も声をかけたのに!!」
「ああ、悪い。ちょっと考え事を」
「もう。でも、こんだけすればいいよね。帰ろうっか」
懐に色々貰い物を詰めてにこやかに笑う美人。
貢ぐだけ貢がせといて、はいさようならな悪女だが、
こんな美人なら騙される方もありがたいだろう。
俺は、伊作の言葉に頷こうと思った。
しかし、その前に、伊作の体が、ぐらりと目の前で倒れた。
夕方。人はせわしなく、所々闇が覆う。
俺は、崩れ落ちる伊作に手を伸ばそうとして、
トンと後ろに痛みを感じた。人の気配に気付けないなんて、忍び失格だよなぁ。
とつい笑みが出てしまった。
薄れゆく記憶の中で、
「もう、しっかりなさい。
のそこが、良いと言っているのだから、
グズグズ、疑うよりも、やったと喜びなさい!!」
とブサイクだからと、卑屈で、なにかあるたび、グジグジと負けごとを言う俺を、
平手打ちではったおし、
無理やり前に向かせたあの人は、今何をしているのか、ふと、気になった。
2010・10・15