それは、ある日の学園長の思いつきで始まった。
しかし、私こと立花仙蔵にとって、それは素晴らしい催しものだった。

『上級生、女装大会』の張り紙が貼られている廊下。
それからうんと遠くの長屋の、私の部屋の机の上に、コトリと紅筆を置く。
女のように。ぷりんとした唇ではないものの、色香が伺え、
目は、切れ長で、髪はサラサラと絹のように流れ、
頬は、うっすら赤く色づいている。鏡の目の前にいるのは絶世美女。
笑えば、華が咲くようだ。

「ふふふふふ」

「・・・気持ち悪いぞ。仙蔵」

「気持ち悪い?どこがだ。なかなかおらん、美女ではないか。
ほら、みろ。文次郎、私は美しいだろう」

「・・・・・・あー、はい、はい。綺麗だ、綺麗」

文次郎はそういうと、自分のメイクにとりかかった。

「そう、美しさは罪、そして何をしても許される、そうだろう?」

ばっと手を広げて、舞う私に、文次郎は、怪訝な顔をする。

「そうだろうか」

「それにしてもお前、・・・いや、なんでもない」

目の下の隈を消し、髪を下ろすだけで、それなりに見えるのは、
文次郎が、すごく童顔で、それなりに顔が整っているからだ。
その恰好で歩いて、学園の奴にホレられるなよという忠告を止めると。

「似合わないことは重々承知だから、気を使うな。なんか泣けるわ」

と、勘違いな発言をした。
いつまでも、恋人ができずに、
学園を卒業してしまうかもしれない可哀想な文次郎
にならずにすむかもしれないので、私はそういうことにしておいた。

「・・・まぁ、さっきも言ったように、綺麗ならなにしても許される!!
名言だろう」

「迷言だ」

「大概の男は、ころりと落ちてきた【色の魔術師】と言われた
私・立花仙蔵の技を、にかける。
大丈夫だ。勝率92%私ならやれる。
今から、に私の美しさを見せつけ、
手を出しても、出されても、もう構わないとまで、魅了してくれるわ!!」

「ちょ、ちょっと待て仙蔵。暴走するな!!
俺は、まだメイクが終わって、チッ、足の早い」

私の後ろで、文次郎が叫んだが、私の愛は止まらなかった。
だが、愛とはいつもどこかで、一時停止が、かかるのだ。
文次郎が、追いかけてきたとき、私はの部屋の近くで立ち止まっていた。
文次郎も私の横で立ち止まる。

「・・・・・・なんだこの行列」

そう、の部屋から長い人の列が出来ていたのだ。
その間を、

「はいはい、並んで並んで、そこ横入りしないでください」

と、きり丸が、声をあげている。これはなんなのだと聞く前に、
バッと、6年は組の名も知らない二人組が、私たちの行く手を阻んだ。

「おっと、い組のモテ男たち、おまえたちはここから進入禁止だ」

「私はさておき、文次郎がモテるわけがない」

注意をすると、文次郎がじとっと睨んできた。
いつもの隈がないし、幼いし、威厳なんかない。

「チチチ。こいつが、好きな奴に告ったら、
潮江くんが好みと言われて、振られたんだから、ネタは上がってるんだ」

それは、言うなってと、横の男が泣いている。
私は、その話を聞き、顎に手をかけて考える。

「それは、それは、なんと好き者がいたものだな。
応援してやるから、もう、その子と、くっついちゃいなよ」

と、文次郎に言えば、

「俺とお前の噂を消して、に勘違いされたくないからか?」

「それ以外に、お前に何かする理由がない」

「俺は、今すぐお前との仲を取り持つことをやめたい」

「男に、二言はないだろう」

じりじりとした小競り合いは、はぁと、ため息を吐いた文次郎の負けで、
こんなことをしている場合じゃない私は、文次郎から目を離して、
二人組を見た。

「まぁ、いい。ここを通らなければ、愛しいマイスイート・ラブに会えないし、
こんなもの、私たちの愛の前では、紙よりも、薄っぺらいことを見せてやろう」

前に出る私に、身を固くした二人組。

「お前、誰が好きだ?」

「はぁ?」

私の台詞を、考えつきもしなかったのだろう。警戒態勢をといて、驚いている。

「そいつの好みを教えてやろう。
いないなら好みを言えば、落とせる方法を教えてやろう」

顔を見合わせる二人に、私は妖艶な笑みを浮かべた。

「どうする?」





「愛とは、強固だな」

忍びがあんな簡単に、たるんでるとブツブツ呟いている文次郎を放置しながら、
の部屋に行けば、きり丸が私たちを見つけた。

「あれ、立花先輩と潮江先輩。
もー、メイクの必要がない人達が、入ってこないでくださいよ」

「これは、どういう」

「しっ、始まりますよ」

口に指一本押し当てて、静かにというジェスチャーをされて、
私は口をしめて、きり丸の視線の先を見た。

そこには、素晴らしくカッコいいと、小平太と長次がいた。
小平太が、頭を下げて。

「お願いだ。このどうしようもない長次を助けてやってくれ」

と、懇願している。
超素敵なが男らしく、

「中在家。俺に、任せろ!!」

と、腕まくりをして、手元が見えないほどのスピードで、
長次にメイクがほどこされている。やばい、やっぱり、、超格好いい。
と、見惚れている間に、

「長次が、長次が、女だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

と、小平太が叫んだ。それと共に、周りからも歓声があがる。

「「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」」」」」

ビクトリー!!!さながらの熱気に、押されて文次郎が引いている。

「それと、七松。お前、素材いいのに、それは酷い。ここを、こうしてほら」

と、ちょちょっと唇や、頬の色を指で直されている。
な、なんて羨ましい。

「と、まぁ、このように、酷い女装しかできない人のメイクをしているですよ。
作法委員とかは、みな綺麗だし、メイク上手いし、関係ないでしょう」

「女装という訓練に、人の手を借りるとは」

きり丸の言葉に、眉間にシワを寄せた文次郎の後ろから、不破の顔をした、
不破じゃない生物にして、面倒なことにを気にかけている鉢屋が、
厭味ったらしい笑みを浮かべて出てきた。

「それは、努力してどうにかなる人の台詞ですよ。潮江先輩」

「お前にも必要ないだろう」

お前にはお得意の変装術があるじゃないかという文次郎の台詞に
激しく同意した。

「いえいえ・・・あ、せんぱーい」

ちょっと高い媚びた声を出すな。お前の顔を剥がすぞ?
と、手をワキワキ動かしたけど、が、こっちを見たので、手を戻した。

「お、鉢屋。用意しといたもの出来たぞ」

と、が、渡したのは、誰かの仮面で、鉢屋はそれを受け取ると、
さっさっと、顔を変えた。
そこにいるのは、不破と違った不愉快な存在ではなく、
店屋の看板娘のような、若々しく、素朴な少女だった。

「相変わらずの出来ですね。ありがとうございます」

「いや、でも、鉢屋の直にメイクしたほうがきれいだと思うけどな」

と、そっと鉢屋の顔に触れるの真剣な顔に、
鉢屋は、仮面をしているけど、耳は自前だったらしく、耳を赤くさせて、

「し、しっつれいしました」

そういって消えた。・・・いいなぁ。

「羨ましい。私だって、に触れられたいし、素敵な台詞を言われたい。
文次郎。今から私を女装が似合わない男にしてくれ」

「え、それってしこたま殴ってもいいか?」

「頼む」

こっくんと頷いた私に、嬉々とした顔をして、握る拳をつくる文次郎。
一発目〜と掛け声と共に殴る前に、伊作が拳を止めた。

「ここで怪我人ださないでよ。治療するのは僕なんだから」

凄く嫌そうな伊作の顔で、頭が冷えた。
だけれど。

「お、お二人さん」

と、が私を視界に入れたら、一気に体中が、スパークする。

「髪はねてないか?メイクはいつものほうが良かったか?
紅は、新作使うんじゃなかった?服も赤よりも、青のほうが
・・いや、柔らかな色のほうが可愛く思われたかも」

ささっと髪を撫でて、服を確認する私に、

「心の声を漏らさないでくれる?不愉快極まりない」

と、伊作が白い目で突っ込む。
私の心の準備がすまないうちに、はこっちにきてしまった。

「おお、立花は相変わらずうめーな。
潮江も、見事に、隈を消して、ん?ちょっと、ずれてるぞ」

と、が文次郎の頬を触れる前に、文次郎はの手を掴む。

「・・・どこだ?」

「手を握る姿を見せつけるな!!」

スパーンといい音を出して、手刀で、手を離させた私に文次郎が文句を言う。

「おまえ、触られたら怒ると思って止めたのに、なんにせよ怒るのか!!」

「もう、友達止めなよ。それが一番だって」

と、余計なことを言う伊作に、

「あ、ごめん。そうだよな。好きな奴に触られたくないもんな」

と、眉毛をハの字にしている
焦って、

「ち、違う」

と、言おうとしたが、が私に、近寄った。

「それにしても、いい色の紅だな。それどこの?」

「こここここここれは、その、あの、その、いつも贔屓にしているところので」

「へーその場所教えてくんない?」

「はい。教えまする」

変な敬語が出た。何をしているんだ自分と、心のなかで盛大に泣いていると、
横から文次郎が。

「いや、、その場所はいりくんでいるから、
仙蔵は、一緒にいってやると仙蔵は、言っている」

と、出てきた。グッジョブ。文次郎。
おかげで、休日、と買い物の約束を取り付けた。
これは、逢い引きだろう?
つまり、恋人だ。と盛り上がっている私の後ろで。

「・・・今のは以心伝心というやつかな。あー、なんかいいよな。
俺も好きな人、欲しいなぁ」

は、まだそのままでいいよ」

と、と伊作が話していたことを私は知らない。










2010・9・26