朝目覚めると、
三分の一サイズの人形を抱いて寝ている仙蔵も起きてきて、一言。
「あーと逢引きしたい」
「・・・・・・どうした仙蔵。とうとう頭がいったか?」
「ふん、15歳の健康男子が、好いたものと触れ合いたいと思うのは、普通だろう?」
「なんだ、が、今日、くノ一の仲の良い奴と出かけるから、
嫉妬したのかと思った」
「・・・・・・今のもう一度言ってみろ」
どうやら俺は、失言を言ったようだ。
でも、仙蔵。いつもストーカのごとくに、くっついてるのに、
なんでお前は、こんな簡単な情報が手にはいっていないんだ?と聞こうと思ったが、
前一回尾行中の仙蔵の姿を思いだして、納得がいった。
目が血走って、何かあれば我先にと出てくる仙蔵は、情報収集が
出来るほどの冷静さを持っているようには思えない。
恋は盲目。けど、仙蔵の場合、恋は失笑な感じだ。
いつものお前はどうしたとか、落ち着けとか何度言ったことか。
はぁ、とため息を吐く俺に、仙蔵は急かす。
「さっさと、邪魔しに行くぞ。文次郎」
俺を加えるのはやめてくれなんて言えないほど、必死な表情。
しかも、に誤解を与えてしまったこともあり、俺は私服に着替え始めた。
【ぶさめん 6】
「遅れた私を、待ってるなんてなんて、犬みたいなこと、あんたにお似合いよ!!」
「おー、似合ってるよ服」
「決まってるじゃない。
この日のために、服を下ろしたなんてそんなことしてないんだから!!」
「あははは、じゃぁ、行くか」
「しょーがないから、行ってやるわよ」
・・・・・・なんていう会話だ。よくはこの会話についていけるな。
というか、行ってやるって、何だ。
最初から行くためにここに集合してたんじゃないのか?
もう、なんか凄いな。は。
俺なら、今の会話で、もう部屋に帰ってる。
そして。
「行くぞ」
「・・・・・・仙蔵、その格好は?」
なんで女装してる?
というか俺の服を着替える時間と同じってどんなミラクルだ?
相変わらず、似合いに似合いまくっている女装姿の仙蔵は、
俺の答えに答えずに、作戦を言い始めた。
「ツンデレが可愛いと思うな!な女を、お前がさらい、
いなくなって可哀想なが私と逢引きをする。
いいか、一発で落とせ。声を出させるな。気づかれるな。
こう、自然に仕上げろ」
なんだ自然って、色々突っ込みどころはあるけれど、
お前が女装している時点で不自然だ。
と思っていると、後ろから気配を感じて、振り向けば。
「何、犯罪くさいこと言ってるの?」
「げ、伊作」
仙蔵が、伊作を見た途端に心の声を漏らした。
「留さん、文次郎を押さえておいてね」
伊作の横にいた食満が俺に近寄り、
きっと目つきの悪い目を、もっと目つきを悪くさせて、叫んだ。
「俺たちは組が、お膳立てして、の恋を進めているのに、
気にくわないから邪魔するとかあんまりだ!!
なんだ、顔か?顔なのか?美的感覚が素晴らしいい組どもが!!
は、うちの組の癒しのマスコットだ!!
お前らは先があるからいいけど、の恋は、これが最後な気がする」
かなり見当違いなことを言っている食満に、伊作に近寄って尋ねる。
「伊作。説明しなかったのか?」
「勝手に妄想しはじめてウザイから、そういうことにしといた」
「・・・・・・このごろ、おまえ黒くないか?」
そういえば、伊作は、はっと嘲笑をこぼして、
「君のところの始終ウザイ仙蔵くんのおかげ。ありがたくもないけど」
それは、本当にスマン。思わず謝りかけたが、
伊作は言葉を続けた。
「と、いうわけで、6年は組は、君らの妨害を妨害するよ」
「く、強敵だな、なーんて、そんな訳があるか。
アホのは組が、優秀い組に敵うと思うなよ!」
と言うと、仙蔵特性の煙が少ないタイプの催涙弾を投げた。
仙蔵の高笑いを聞きながら、俺は。
「そのスキルは、違うところで発揮したいがな」
天才と名高いその能力の使いどころは、かなり間違っているけれど、
を手にいれるために、仙蔵の能力が上がっているのだから、
どうすればいいのやら。
街へ繰り出すと、休日のこともあって人も多い。
この中から、あの二人を見つけることは、と思っていたけれど。
「い、いた。だ。ヤバイ。私服、超格好良いし、超可愛い。
雑踏の中で咲く一輪の花が今そこに!私に飛び込んでこいと誘ってる」
「よし、ちょっと落ち着こうか、仙蔵」
本当に出ていこうとする仙蔵の裾を握ると、
小物店の前で物色していた二人に、あまり品がよくない男たちが絡んでいた。
「ねーちゃん。そんなブサイクよりも俺たちと遊ばないか?」
「な、なに、あんたら」
「うわ、すげーブサイク、初めて見たわ。
こんな奴そばにいると、あんたまでブサイクになっちまうぞ?」
周りが下品な笑い声でぎゃはははと笑う中、
は、その罵声をものともせず、笑って、すっとくノ一の女の前に出て行った。
「あははは、俺は確かに、ブサイクだ。だけど、彼女は渡せないなぁ」
「あん?」
男たちが笑い声をためてを見る。
「あんたらは、一緒にいる相手の顔見て付き合ってんの?
それって、悲しいくね?」
言われた言葉にカッとなった男が、店の小物をガシャンとぶちまけて、
に投げた。
「うっせ、このブサイクが!!」
は、怒りもしないで笑っている。
しかし、目が笑っていないで、威圧感を感じる。
じりっと男たちが一歩下がったところで、くノ一が叫んだ。
「うっさいのは、あんたらよ。
は、あんたらよりもウン万倍カッコいいんだから!!」
「何だと、俺たちのどこがこいつよりカッコ悪いっていうんだよ」
「その性格じゃないかい?そちらの兄さんのほうがよっぽど男前だよ」
野次馬の一人の女が、男にイチャモンをつけた。
「な、なんだと?」
野次馬の女にチンピラが、にじるより前に、くノ一の女が顔を真赤にさせ半泣きで、叫ぶ。
「そこの女ぁ。今の言葉訂正しなさい!がカッコいい訳ないじゃない。
そういうのは、私だけが知ってればいいんだから!!」
どっちだ?
「そうだ。お前ら。私の恋人にナニを言う。このブサイクが」
「・・・・・・あれ?なんでいるの」
あれ?いつのまにの横にいる仙蔵。
いつの間に抜け出したのだろうか。
「何を言う。最初からいたではないか。お前は私の恋人だろう?
側にいない方がおかしい」
「あ、あんた、なに言ってんの。今、恋人は私よ」
「はん?私に敵うと思っているのか?」
「う」
「いやいや、仙蔵の方が、色々敵うと思ってるの?性別とか、好感度とか。
ってか、何ナチュラルに恋人になってるの?一回、地獄巡りしてみる?
あ、あとそこの人たち。よくも、うちのに馬鹿の一つ覚えみたく
ブサイク言い続けてくれたな?オマエの顔、もっとひどくしてやろうか?ああん?」
これまたいつのまにかいる伊作が、に絡んでいた奴に絡んでいる。
そりゃもう黒い笑みで。可哀想に、彼らは震えてる。
「伊作、もはやキャラが壊れてるぞ」
と、突っ込む前に、伊作の横に食満が立ち、拳を鳴らしている。
「ま、恋路に邪魔するものは、馬に引かれて、殺されるんだぜ?」
「「覚悟はいい?」」
ずるずると、裏路地に連れていかれ、それから断末魔が聞こえた。
「・・・・・・は組パネェ」
それだけが、俺の言えたことだった。
色々なことが起こって、思考がついていかないが、
目の前で女二人がもとい、女装とツンデレくノ一が、
の腕を掴んで、いがみ合っている。
「あ、あんた離しなさいよ。私が一緒に行くんだから」
「お前が離せ。。私と行きたいよな?」
「ごめんな。ここ、こんなにしちゃって、これ大丈夫か?」
「あ、すいません。ありがとうございます」
いつのまに、あの二人から逃げれたんだろう?
は、チンピラみたいのが零した小物を拾っていた。
そんなを見て、
「「こんな状態に、そんな所まで気がいくなんて、さすが」」
二人の声が重なった。声が揃った二人は、にらみ合う。
「・・・・・・私は、女なんだから」
「だからなんだ?愛は障害があったほうが燃えるだろう?」
バチバチと線香花火が見える。
もうなにも出来ずに突っ立ていれば、妙にスッキリした顔をした伊作が帰ってきた。
「はいはい、仙蔵。そろそろ退却しようか?」
「嫌だ。今まさに、夢の逢引中を、邪魔するものは何人たりとも許さん」
キッとくノ一の女を睨むが。
「なんか、これくれた。やるよ。お前の格好によく似合う」
「!・・・・・・う、嬉しいわけじゃないのよ。ただ照れてるだけよ」
が、さっきの小物屋に貰ったものをくノ一に渡し、
もはやツンがなくなっている女との姿に、
仙蔵はショックを受けたようで、肩を落として、回れ右。
「・・・・・・やっぱり、帰る」
「仙蔵、いいのか、まだお前は、何もしてないぞ」
しょげているお前ははっきりいって面倒くさすぎる。との本音を隠して、
言えば、仙蔵は、顔をあげて。
「そ、そうだな。。私にも何かくれ!!」
直球だ!!なんの物取り?と思えるかなり間違えた言葉を言ったけれど。
「あ、これ、二個あるから一個、立花にやるよ。ん、お、さすがだ、よく似合う」
と、ナイスアシスタントをしたは、髪飾りをそのまま仙蔵につけるという
大技を繰り出し。
「ふ、ふゃあ」
仙蔵が変な声をだして顔を真赤にして、足からゆっくり崩れ落ちた。
「・・・・・・とうとうイカレタね」
「なぁ、伊作。俺はに触られて、なんだか溶けてる仙蔵が見えるのだけれど、
まさか、触られて拒否反応とかしてるのか?なんて失礼な奴」
「いや、失礼なのは、留さんだから」
額を押さえて、俺は、もはや立つことも出来ない仙蔵に近づき、
担ぎ上げる。
「ふふふふ、が似合うって、もうこれは家宝だ」
「幸せそうでなにより。じゃぁ、僕ら、帰るから」
そういって、帰ろうとする俺たちを見て、は言った。
「ん?じゃあ、俺たちも帰るか」
「え」
くノ一は驚いた顔でを見る。
「ほら、そろそろ暗くなる。暗くなったら怖いしな。それに」
「?」
「まぁ、いいや。行こうか」
そういって、たちは俺たちの後ろを歩き始めた。
くノ一は、始終むくれていて、はその姿をみて苦笑した。
「嫌な思いさせちまって悪いな」
「別に、そんなこと思ってないわ」
「そうか」
「それより、この埋め合わせ、ちゃんとしてくれるんでしょうね?」
は、言われた言葉に目を大きくして驚く。
「・・・・・・いいのか?」
「いいわけないじゃない。だけど、それ以上に、何もしないで終わる方が、
いいわけないのよ」
「・・・つくづく、おまえって、いい奴だよな」
「ば、馬鹿じゃないの。私いい奴じゃないわ。
だって、私、あんたが好「はい、ストップ。なに甘い空気出してるんだ」
・・・・・・う、うわぁぁぁぁん」
可哀想に、完全告白タイムに、邪魔された。
くノ一の女は、かなりシャイなのだろう。
見られていたことに気づき、顔を真赤にさせて、
泣きながら、そのまま忍術学園まで走っていった。
は追いかけようとするが、仙蔵が声をかける。
「」
「ん?」
「顔の善し悪しで、人の善し悪しが決まるのは、60%だ。
そこからは、中身で勝負。
お前の中身は、その60%をしのぐ。私が言うんだ。間違いない。
だから、迷惑かけたとか、もう一緒にいない方がいいとかそんなこと思うな。
あんなやつらは、だし汁にもなれない腐ったやつだ。
それにだ、あいつらはブサイクとか言っていたが、私は、の顔が嫌いではない」
「・・・ん、ありがと。
綺麗な奴に言われると、嫌味だけど、立花は別だな」
にっと仙蔵が好きな笑顔で言ったが、どうにか顔をそらすという方法で、
理性を保ったようだ。
「当たり前だ。私は嘘なんか言わないからな」
「はは、男前だな。立花は、あーなんだか、元気でた。
今日は、立花に助けられてばっかりだな、俺。
ああ、そうだ。お礼ていっちゃなんだけどな。
立花。なんかあれば、俺を呼べよ。
俺が、助けてやれそうなことは助けられるから」
宿題とか実習とかは無理だけどな、と、
ブサイクな猫のような笑みに、とうとう仙蔵は、倒れた。
「り、立花?」
「すまん、これは病気だ。気にするな」
俺はそういって、また仙蔵を運ぼうとしたが、
「俺が運ぶよ」
そう言っては仙蔵を担ぎ上げた。
仙蔵。良かったな。ちょっとだけ、好感度があがったようだ。
2010・06・25