彼、 がいなくなったあと、恐ろしいくらい保健室は静まり返った。
無言に突っ立ている仙蔵に、僕は、ようやく終わった。と思った。
僕の友人である立花 仙蔵は、去る者を追わない。
そして、僕の友人である は、
顔はあまり良くはないが、中身は最高にいい奴で、
はっきり言えば、が心身ともに衰弱していく姿は、
あまり見たくないものだった。
先に振られたということに、プライドが高い仙蔵は、少しはイラついているかもしれない。
だけれども、遊びでここまですることのほうが悪い。
今回は全面的に仙蔵が悪いと、僕は思うのだ。
どうせ、に眼をつけたのも、美的感覚が合わない。
イラつくとかそんな理由だろう。

よっこらせっと力をこめて、床にめり込んでいる文次郎を救出しているときに、
上から、水が降ってきた。
雨が降って、雨漏りでもしたかな?と思ったけれど、襖から見える、
外は青い。なんだ、もしかして不運からなる一部局地的な集中豪雨かもしれない。
前、これのせいで、薬品濡れちゃったんだよね。
文次郎なんて放っておいて、早く薬品を避難させなきゃと、立ち上がれば、
偶然、仙蔵の顔が見えた。

そうして、僕はこの不可思議な雨の行方を知るのだ。

「え?」

僕は、6年間で、初めて仙蔵の泣き顔というレアであり、
二度と見たくもないものを見ることができたのだ。
仙蔵が、文次郎をつれて、黙って保健室を出て行ったあとも、
僕はその顔を忘れることはできなかった。






【ブサメン3】






そうして、いくらか時間がたった後。
仙蔵と文次郎が、保健室に座りお茶を飲んでいる。
が徹底的に、仙蔵を避け、別れたということになっている中で、
青い顔をした仙蔵を文次郎が連れてきたのだ。
心を落ち着けるためにと、渡した湯呑を、
仙蔵は綺麗な所作で、優雅にお茶を口にしている。

「・・・・・・何がいけなかったのか」

ふと、仙蔵が口にして言葉に、そりゃ、全部だよ。と言いかけたが黙る。

「こんなにも、を愛しているというのに、なぜ、私は、だだだだだだ」

「大嫌いね」

「・・・・・・・」

仙蔵の顔が、ピシリと固まり、青くやつれて入ってきた当初よりも、なお顔を青くさせた。

「伊作、傷に塩を塗るな」

「だってさー。文次郎。は僕の友人なんだよ。
それが、仙蔵のせいでやつれて、仙蔵のせいでいじめられて、
倒れるくらいなのに、それで、本当は好きです。なんて、信じられる?」

はっきり言って、遊びじゃない、本気だと言われても信じられない。
それに、は、ようやくいじめもなくなり、普通に戻ってきているのだ。
第一、本当に好きならば、文次郎がに言ったように守るのが普通だ。
だから、遊びに思われるのだ。僕が言った言葉に、文次郎が、答えた。

「・・・・・・それには深い訳があるんだ」

「訳?」

幾分顔を青くし、ちらりと仙蔵を見やる文次郎に、小さな声で話し始めた。

「伊作。信じられないだろうが、仙蔵は、に、かれこれ、3・4年片思いをしている」

飲んでいたお茶を噴き出した。

「俺は、その3・4年、ずっとのことを話され続けられたのだが、
仙蔵は、一向に、それを好意だと気付かなかった」

なんていうか。文次郎よく耐えたな。僕なら無理だ。
それって、ノロケみたいなもんでしょう?うっさい黙れっていう。

「そして、ようやく、を好きだと気づきその気づいた日に、恋人になった」

!!なんて、早さ。さすが仙蔵だ。

「だから、そのな」

いいずらそうに、仙蔵を見る。
仙蔵は伏せっていた顔をそのままに口を開いた。

「コントロールがな、利かんのだ。そばにいると、どうしていいのか、
わからなくなり、顔が変になるし、話しかけるのも、照れて噛んで上手くいかない。
はっきりいって、私ではない。
だから、私が私らしくなれるまで、ちょっと距離を置こうかと」

・・・・・・なに、その低学年の恋みたいなの。
もしかしなくても。ちらりと文次郎を見れば。こくりとうなずかれた。
僕は、今まで培ってきた6年間の仙蔵像がもろくも崩れた。
なにが、クールで冷静沈着で天才で、恋多き男で、モテル男だ。
なんてこともない、仙蔵は本気で人を好きになったのが初めてなのだ。
あ、頭痛い。

「そ、それで、いじめられても見て見ぬ振り?」

「いいや、それは、いじめられて半泣きで息荒げで、ちょっと脱げかけの服とかに悶えていた」

うふふ、あははの甘い砂糖でできたものが、
ちょっとビターな大人の部分もある。みたいな。
ほんっとうに、知りたくもない友人の一面を知って、涙が出た。
そして、。君は本当にこのろくでもない男に好かれているようだ。
僕の仙蔵の評価が急降下していくなかで、仙蔵は真剣な顔で僕に言った。

「だから、このまま無視で、嫌われたままよりも、、
攫って監禁して、媚薬で溺れさせて、もう私しか見えないようにしようと思うのだ。
だから、伊作、強力な媚薬をくれ!!」

僕は、笑顔をたえながら、後ろで、眉間を抑えている文次郎にアイコンタクトして、
仙蔵を抑えていてもらう。何をするとジタバタあがいている、仙蔵に。

「・・・・・・うん。文次郎。仙蔵抑えてて、まずは、一発殴っとく」


普通に謝れ。それで、もう一度告白しなおして来い。この馬鹿蔵。
また付き合えるかは、かなり確率低いけど、まず謝り倒して来い。
そして、僕を犯罪に巻き込むな。












2010・2・9