アキトは、まだすることがあるらしくて、その場に残った。
俺達は、ひとまず、先ほどいたアキトのアジトに
集まるということになりその場を離れた。
ちなみに、アジトは、アキトが話し合うなら使ってもいいと貸してくれたのだ。
あの若さで山賊の長になれた理由が分かった気がする。
アジトに行く途中で、女装姿の伊作と潮江を見つけた。
伊作は、俺たちを見て、顔を輝かせ近づいてくる。

「みんな、無事だったんだね。あ、怪我はない?」
「大丈夫だよ。伊作。潮江おつかれ」
「ああ、どうにか任務達成だ」

潮江は全員の女を無事逃がしたと、
いつもの疲れ顔をもっと疲れ顔にさせていた。
女の子になにか言われ、なにかされたのだろうか。
後ろのオーラが、くたびれたほうれん草のようだ。
おつかれさんを込めて、肩を叩くと、
潮江は思い出したかのように、話し始めた。

「そういえば、仮面にあったが、噂通りのやつではなかったぞ。
変わっていたが、あいつのおかげで、すんなり上手くいった」

右に行ったから、邪魔されることなく逃せたとの
潮江の言葉で部屋が静かになった。
潮江は、なんだと、俺たちを見渡す。
にぃっと口元を弓なりにした姉さんが、潮江の近くで微笑む。

「言う事聞いてくれたの。ありがとう」
「どういたしまし・・・て・・・・・・なんでいる」

姉さんを指さす潮江の指を、思いっきり立花が、叩いて、
そのまま鳩尾あたりを殴った。

「馬鹿、指差すな」
「・・・なぜ殴る」
「とりあえず、この場所じゃなくて、もっと落ち着ける場所に行きましょう」

きつめ美人が収集つかない俺達に呆れた目をしながら、
どこかイライラしていたが、

「あれ、あなたって椿さん?どうしてここに」

伊作がそういえば、少し雰囲気が軟化した。
きつめ美人の名前は椿というらしい。そして伊作の知り合いらしい。
なんだイケメンここでもナンパしたのか?
と変なジェラシーを俺は感じていたが、2人の間に流れるのが、
ピンクというよりも出来の悪い妹を可愛がる姉のような
空気を感じたので、俺の邪な思いをしまった。
伊作を見て、椿さんは、眉毛をハの字にして。

「伊子。ごめんね。この馬鹿が馬鹿なことしなきゃ、終りだったのに」
「バカバカ言わないでよ。脳内馬鹿にするんぞ。こら」

姉さんと椿さんの掛け合いに、伊作がのんびり。

「仮面さんって、女だったんですね」

と発言した。二人は言い合うのをやめて、
姉さんは、仮面で表情が見えないけれど、呆れたふうに、伊作を見つめた。

「伊子。ずっと思ってたんだけど、
あんたって質問、間違えすぎじゃない?こう、あるでしょう。
なんで、協力してくれたんですか?とかさ」
「え、協力してくれたんですか?」

おうと、ガッツポーズをつけた姉さんを思いっきり椿さんがどついた。

「いや、伊子。協力は違う。この馬鹿仮面が暴走しただけよ」
「そういうことにしとけば、いいのに。真面目だよね。椿って」
「やかましい」

その後、2人は、アジトにつくまで押し問答を続けていた。







アジトにつくと、立花がまず最初に口を開いた。

「で、どういうことですか?お姉さま」
「・・・・・・なんで、お姉さま?」

伊作が変な顔をしたので、俺が答える。

「ああ、あの人俺の姉さんなんだ。えーと、長女?」
「多分。親父に他に隠し子がいなければね」
「・・・・えーと」

伊作は、突然の姉弟の関係に頭がついていけないようだ。
当たり前な姉の姿だけれど、考えて見れば、仮面つけてるのはおかしい。
でも、俺が初めて姉さんを見た時から、姉さんは仮面をかぶっていたので、
やっぱり、仮面=姉さんだから、仮面を取ってしまえば、
俺は姉さんかどうか分からない。いや、今はそんな話ではない。
6年間いて、話したことが一度もなかった
家族の話をとうとうしなければいけなくなった。
別に、隠していたわけではない。
説明するのが面倒だったんだ。
あーと、どうしよかなと思い口を開いていれば、
伊作は、目を見開き、丸くして、俺に説明を求めている。

「俺達の家族は特殊っていうか、今のところ、5人兄弟なんだけど、
みんな腹違いなんだよ」

そういった俺に姉さんが横から茶々入れるする。

「いやー1番目と4番目は一緒じゃなかったっけ?」
「4番目は俺だろう?妹のこと?多分、一緒だっけ?」
「「うーん」」

姉さんと俺は、あいかわらず兄妹について細かくない。
二人で悩んでいれば、横から伊作の引きつった顔が見えた。

「・・・・・凄いね」
「家族のことを把握してないのか?」

潮江の不思議そうな顔に、姉さんが答える。

「しょうがないじゃない。
私離れ住まいだったから、あいつらとは違うところにいたし」

そういった姉さんの声が、微妙に固いものになった。
あまり話したくない部類の話なのだろう。
俺もあまり話したくなかったので、話を変える。

「それはさておき、どういうこと姉さん」
「あー「ここからは私が言うわ」」

頭をかいて面倒くさそうな姉を押しのけ、椿さんが出てきた。
正直、姉さんよりも説明が上手そうだ。
椿さんのまっすぐ射ぬかれた視線に、皆が沈黙して、背筋を伸ばした。
すぅっと一回息を吸い込み、目にもっと力を入れて、椿さんは話した。

「私たちは、くのたまよ。卒業の最終テストとして、あの城の事実と、
裏で手引きされている人売買による偵察、
人質の救出がテスト内容だったの」
「ほぉ、なるほど、つまり、噂を流し、最後を他力本願というところか」
「頭が早いわね」
「そうだろう?立花すげーんだ」

あんだけの情報で、分かるなんてすごいよな。
俺なら分からないと、自慢気に言えば、
横で小さな声で立花が何か言っていた。

が褒めてくれた。死ねる」
「生きろよ」

そんな潮江と立花の二人を無視して、椿さんはそのまま話を進める。


「そう、私たちだけでは全員無事逃がすことが不可能だったから、
近くにある忍術学園に、
噂を流して、手伝ってもらおうと思ったのよ。だけど、この馬鹿が」

ぎっと姉さんを睨む椿さんは美人なのも相まって凄く怖い。
でも、姉さんはどこ吹く風で、
いつも怒らせているから慣れているのではないかと思う。

「別に、最後はどうにかなったじゃない」
「あんたは、自分の今の立場どうなってるか分かっているの?」

胸ぐらを掴みそうな勢いの椿さんの声に、

「そのとおり」

いつの間にか、一人増えていた。
ザッと6年い組の二人と鉢屋が、クナイを構えた。
小さいけれど威圧感があるおばあさんに、3人は冷や汗をかいている。
俺と、伊作は、凄いのは分かるけど、え、何?な状態だ。
これが実力差か。

「・・・・・誰?」

俺が指さすのと、椿さんが頭を下げたのが同時だった。

「長」

長と呼ばれたおばあさんは、椿さんに頭をあげるようにくいっと手をあげて、
何もしないでじっとおばあさんを見つめている姉さんの方を見た。

さん。あなた、私との約束を覚えてますか?」
「何があろうと、仮面を外して課題を行ってはならない」
「そうですか。ちゃんと覚えてくれたようで安心しました。
鳥頭かと思ってましたよ。おほほおほほほ」
「あははは」

二人は笑った。
一人は上品に、一人は下品に。
その差が、二人の仲を暗示しているようで、薄ら寒かった。

「はい、では分かっていますよね。あなたは失格です」

とても重い内容なはずなのに、凄く軽やかに言われて、
ああ、そうですかと流しそうになった。
その言葉に反応すべき本人は、じっと見ているだけで、何も言わず
代わりに椿さんが前に出た。

「ま、待ってください。長。は失敗しましたが、最悪にはならずにすんだのです。
最終的には、姫は正常になり、すべてのことが正しくなりました。
長い年月をかけて行った任務に穴はなく、は正確でした。
せめて、再試験を」
「駄目です」

そんなと落ち込んでいる椿さんを、姉さんは一回見てようやく口を開いた。

「長、椿は合格なの?」
「ええ、合格ですよ」
「じゃぁ、いいや。椿、合格おめでとう。これで、椿は前にすすめる」

姉さんは、にっと口をあげて、そんな姉さんの胸ぐらをとうとう椿さんは掴んだ。

「何、笑ってんのよ。馬鹿。
あんた、家には絶対帰りたくないって、それでここまで頑張ってきたんでしょう?
なに諦めちゃってるのよ」

最後の方は、罵声というよりも、嘆きに近くて、
姉さんはいい友人を持ったなと、自分のことのように嬉しくなった。
俺が知っている姉さんはいつでも1人だったから、
場違いだと分かっているけれど、それが凄く嬉しかった。
それと、この頃、家へ行っても姉さんの姿が見えず、
兄たちに、姉さんの行方を聞かれていたのは、
くのいちになろうとしていたからか、と納得した。
いやー、手紙は月1で来るし、長期休暇の時には、
俺が借りている工房に良く来るから、分からなかった。
でも、姉さんはくのいちにはなれないようだ。
だったら、と俺が身を乗り出す前に、煙が部屋に舞った。
ゴホゴホむせていると、

「話は聞かせてもらった」
「「「「学園長」」」」

我らが忍術学園の学園長が現れた。
長と呼ばれたおばあちゃんの前の目の前にたつ。

「ならば、そのものの身柄、我が忍術学園で預からせてもらう。
助けていただいたようだしのぉ」
「さすが、太っ腹!!学園長」

俺が、ヨイショをすると、ふぉふぉふぉふぉもっともっと褒めよと言うものだから、
よ、この男前、いい男などと掛け合いをしていると、
姉さんが、学園長に向き合った。俺は口を閉じる。

「いいんですか?私をいれて」
「なぁに、うちは、誰でも入れるで有名なんじゃぞ?」

そういってウインクした学園長に、姉さんは深く頭を下げた。
その様子を見ていた長は、にこっとさっきの姿が嘘だったように、
雰囲気を柔和にして、虫も殺せぬおばあちゃんになり。

「では、はそちらに任せます」

と言った。
で、そんなこんなで
姉さんは忍術学園で俺と同じ学年になった。


「じゃあこれからは同学だね。よろしく
「よろしく、姉さん」

そう手を握っていれば、横から、立花の手も重ねられた。

「よろしくお願いします。お姉さま」
「はい、姉弟団欒に水刺さない」

伊作が、立花に飛び蹴りを入れた。
よく分からないが、元気な奴だと笑っている俺の横で、
ふーん。相変わらず、変な奴に好かれるねぇ。こりゃ楽しそうだ。
とにやけている姉を俺は知らない。


そして。


「大川、あなた、どういうつもりで?」
「大体のことは聞き及んでおる。なぁに、あの子は良い子じゃ。
それで十分じゃろう?」


と、学園長と長が話しているのも知らない。










2011・4・11