真っ赤な部屋に連れてこられた。
調度の品といい、打ち掛けられているものといいすべてが一流だ。
そして、ずらりと並べられている少女のレベルも高い。
俺の横には、山賊のアキトと、女装をした俺と仙蔵。
頭を下げて、一際派手で、着物の質も、髪の輝きも
一つ上の女人が、じっとアキトを睨んでいた。
すっと手をあげると、アキトが顔をあげた。
「ご機嫌麗しゅうお姫様」
「・・・なんのようぞ」
「おや、そんなに睨まないでくださいよ。
今回はめったに見れない上玉を手に入れたんですから、ほら」
そういって、女装した仙蔵を出す。
「ほーう。美しい。名はなんという?」
「仙子と申します」
「そんなに恐縮せんでもよい。近う寄れ。
ふむ、美しいのぉ。おぬしは、われのお気に入りにいれよう」
仙蔵もとい、仙子を気に入り機嫌をよくしたお姫様に、
アキトが、人差し指を差し出す。
「それと、もう一つ」
「なんぞ?」
「私、結婚することにしまして、そのご報告に」
「・・・・・・・」
「これです」
アキトは、後ろにいた俺を横にだす。
「は、はじめまして」
そういって下げた頭をあげれば、お姫様は目を見開ききっている。
正直怖い。
「・・・・・・」
姫様がまだ俺を睨んでいるが、その視線を邪魔するかのように、
仙子が、出てきて、アキトに抱きつく。
「酷いです。アキト様。私は、私はアキト様が好きで、
あなたが喜んでくれるからと、このような場所までついてきたのに」
ドスっと音がアキトから聞こえたような気がした。
「・・・っ仙子。悪いが、俺は美しいと歌うお前よりも、
密やかに咲く、名もなくそれでも強い花のほうが好きなんだ」
と、俺の肩にやろうとする手を、
「触れないで」
と仙蔵は、バシッとたたき落とした。
お姫様がなにも言わないので、
やはり、仙蔵捨てて俺を選ぶとか
嘘臭すぎる茶番劇にバレたかとちらりと見れば。
「こやつにしろ」
そういって、扇で仙子を指していた。顔が威圧的だ。
「お気に入りをかしてやっても良い。そやつよりこやつが主には最適じゃ」
「お心遣い感謝します、お姫様。しかし、私はこいつ以外を愛することはできません」
ぐいっと俺を抱きよせてアキトの顔が近くなると、
お姫様の音量があがった。
「なぜじゃ、アキト。仙子のどこが不服じゃ?
美しい、麗しい、全て完璧。
ならば、われのコレクションから選べ。そいつよりも断然美しい」
アキトという山賊から情報をいれていたが、少々疑っていた。
仮面をかぶっている人物がいるなどと。
だけれど。
「仮面」
本当に仮面だ。とつい心の声が漏れてしまった。
その声に、こちらを見る。どうやら、名前になっているらしい。
「なんだ本殿の奴が来ると聞いていないぞ」
「だから俺が言いに来たんじゃないか」
そういうと、一拍間が開いてから頷いた。
納得したらしい。顔が見えないから、感情が読みにくい。
大きな服は性別ですら分からない。これは難しいなと思っていれば、
仮面から声をかけられた。
「用は?」
「そろそろ疲れたんじゃないかと思ってな。差し入れだ」
「そうか」
そういって仮面は、受け取ったものの、
渡した睡眠薬入のおにぎりに手をつけようとしない。
「なんだ。ジロジロと」
見すぎていたようだ。
情報と現実で見て得るものの違いというか、
その下の化物という言葉が気になりすぎて、
仮面を凝視していただとか、忍びの卵としてふがいない。
柱に頭をぶつけたくなったが、
そんなことすれば、潜入しているのに、医務室に行かされるだろう。
疑わしそうに俺をみている仮面に、ようやく言えた言葉といえば。
「・・・い、いい仮面だな」
・・・死んだ。これはないだろう。潮江文次郎。
もうちょっと言葉があっただろう。
肩にゴミがついてるよとか。
ちょっと目が悪くて、よく見えないからとか。
くそ。俺の人生これまでか。
そもそも、俺の人生に、なにがあっただろうか?
手紙を書こうとして、墨やら紙やらで窒息しそうになって、
ようやく、二人で喋っても噛む回数が減ってき、
触ろうとするだけで手が痙攣し、
ぼーっとしてると、口からにはどんな格好が似合うだろうか?
神子とか・・・・・・・萌え。と呟いてる
末期症状な手間がかかりすぎる同室者と、ソロバン。
そう、ソロバン。俺には、ソロバンがあった。
あはは、俺、ソロバンと結婚する。
二人で、足して引いて丁度いい人生をおくって、数字を生むんだ。
数はなんだろう。6かなぁ?
と、現実逃避していたら、がっと手を掴まれた。
ひっと思わず声が出た。
白い仮面がずっと近づいてきて。
「お前見所があるな」
そっから、仮面の一人トークショウが始まった。
「私の仮面の美しさはな。
まずこのフォルム・色・艶・無表情の上をいってしまった表情。
どれをとっても素晴らしい。分かるか?」
「・・・ああ」
この任務、俺で良かったのは、
仙蔵の一人トークショウ〜に触れたい〜
を結構な頻度で聞かされているから、スルースキルが身についている点だろう。
他の奴にこれが耐えれるか。凄い俺と、
全然嬉しくない自慢をしている自分に涙が出そうになった。
急に、仮面が黙った。
どうしたのだろうと顔をあげると、
仮面で表情が見えないはずなのに、
奴は、仮面を撫でて、愛しそうに言葉を繋げた。
「だがな、この仮面が美しいのは、作り手が素晴らしいからだ」
仮面は、仮面を好きというだけでなく、仮面の作り手が好きなのだろう。
そんな思考は、バタバタとせわしない音と声で、途切れ、己のすべきことを
思いだたせた。
「仮面さま」
入ってきた女は慌てているようだ。
「どうした?」
「姫様がご乱心で、女の子全員集めろって、わめいているのです。
人を殺しそうなほどの形相で、どうぞ、お止めください」
「やれやれ、何があったのか。二つの命令が同時に来るとなると
私の体は一つなので出来るわけもないか」
しめた。鍵を得るチャンスだ。と、
俺は心配しているふうを装い声をかける。
「俺がやっとこうか?」
「・・・・・・そうか。じゃぁ、姫のほうを」
ゲッと思ったが、後ろの女がこちらに、矢羽音を飛ばす。
女は鉢屋の変装のようだ。どうにか、仮面をこちら連れていくと
何か、鉢屋が言う前に、仮面が口を開いた。
「なんてな。お前が姫に会えば、殺されてしまう。
仮面を褒めてくれた奴を殺すのはもったいない。
だから、これ、鍵だ。皆の扉を開いて、連れてきてくれ」
「あ・・・ああ」
じゃらりと重い鍵の束を渡された。
こんなに簡単にいくとは思っていなかったので、偽物では?と疑ったが、
その時は、鉢屋が仮面を倒して、鍵を盗まえばいいだけのことだ。
「仮面さん。早く」
だけれど。
「あと、そうだな。左か右か迷うときが来ると思うのだけれど、
間違いなく右を選ぶべきだ。この頃、その道に蝿がたかっているようだから」
背中を向けたままの仮面は、俺に忠告した。
「お前」
「初対面で仮面を褒めたやつはな、お前が初めてだ」
仮面は、俺がここのものじゃなく、
女を逃しにきたものだと分かっていた。
それを知って渡してきた。
鍵は本物で、仮面の言葉は罠の確率が高いけれども、
俺は、迷わず、右を選んだ。
だって、声が、あの時の声と同じで優しかったから。
2011・03・29