「簡潔に言えば、狂った姫様のお話しさ」

山賊に言われたお城を目指して、
俺達は走りながら、山賊の話を聞いていた。

「あそこの城の姫様は、殿の初めての女の子だった。
男の子ばかりで、女の子が欲しかった殿は、彼女をとてもかわいがった。
兄たちは、年が離れた妹、可愛くないわけがない。
彼女は、周りの者から、寵愛を受けて産まれた
類まれな運のよい女の子だった。
毎度言われる賛辞は、毎度送られる貢物は、
彼女に「自分は美しい」という確固とした意思を作らせた。
簡単にいえば、彼女は、自分は何よりも美しく可愛いと思っていた。
事実、彼女は美しく、可愛らしくあった。
笑顔で頼めば、欲しい物全て、手に入った。
ワガママも可愛いでしょ?と言えば、周りは、頷くだけだった。
そんな彼女も、恋をした。
それが、全ての歯車が壊れた瞬間だった」

山賊が、眉間に皺を寄せた。
そのさまをみて、立花が答える。

「失恋したんだな」

山賊は首を、縦に振った。
そして、ここじゃないどこか遠くを見ていた。

「「私はあなたが美しくみえない」そう言って振った。
その後、奴は殺されたよ。バラバラにされて、無残だった。
そして、姫様は狂って、美しさを求め始めた。
最初は、物だった。次に、人になった。
姫様は、美しくない奴は殺し、美しいものだけを手元におき、飼殺している」

「でも、この頃は、殺されないだろう?お頭さんよ」

鉢屋が、山賊ににやりと意地の悪い笑みを投げると、
山賊は、肩をあげた。

「なんのことだか?」
「しらばっくれるな。姫様に持って行く前に、逃がしているだろう?
茶店の子が、ありがとうって言ってくれってよ」

はぁと山賊はため息を吐き、あの子かと呟いた。

「お前はなぜ、こんな馬鹿げたことの手助けをしているんだ?」

潮江が聞いた問いは、誰もが思ったことだった。
短い間しか付き合いがないが、
この山賊が、悪い人物ではないことは分かっている。
鉢屋と立花の天才二人が、山賊を信じて、案内させていることにもあるし、
自身の感でもある。
俺は顔を欲しがる色々な人達を観てきた。
いくつもの顔を作ってきた。
そのなかで知ったのは、顔に、少しは彼等の生き方が出るってことだ。
でも、山賊の顔は歪みがなかった。
俺が、山賊の目を覗き込めば、だんまりを決め込んだ彼は、
首を少し上に伸ばして、口を開いた。



「姫様が愛した奴が、俺の弟だった」



みな目を見開いた。
山賊は、そのまま話を進めた。

「馬鹿みたいに真っ直ぐで、自分を持っている奴だった。
よく俺に不実だって、小言言ってさ。俺の何百倍もいい奴だった。
俺は姫様に言い寄られている奴に、何を言われても肯けと言った。
嘘でもいいから、好きだと言っておけと。
弟には、愛した人がいた。俺は捨てろと言った。
見つかったら殺されるとか、色々言ってな。
弟は、俺の嘘を信じて、その通りにした。
だから、彼女は勘違いをした。弟が自分を好いていると。
俺は、姫様の戯れで、飽きたら終わりだと思っていたんだ。
だけれど、終りは、弟の死で、残ったのは、姫様が狂った姿だけだった。
これは、俺の償いだ。姫様を狂わせたのは、きっと俺だろう」

後悔しているのだろう。
彼の顔が少し歪んだ。
それから、俺をみて彼は言う。

「俺こそ、醜いだろう?」

俺は、彼の質問に、答えず、
それと、彼の胸元に巻き付いている包帯を指さした。

「・・・その怪我、姫様に殺されかけた奴を、かばったんだろう?
ブサイクが好きとか嘘ついてさ」

彼は俺の言葉に笑う。

「はははっは、そうだな。俺は、ブサイクは好きじゃない。
だって、あんたは、綺麗だもんな」

ははと俺も笑う。

「俺も、あんたが綺麗に見えるよ」

そういえば、彼の顔の歪みが消えた。
代わりに、違う方向に歪む。
彼はずっと何かに縛られていたのだろう。

「着いたぞ」

立花に言われて山賊から顔を離し、首をあげれば、大きな城が目に入った。

「あそこに」
「そう、あそこに」
「あそこに伊作が」

俺が言った言葉に、立花と潮江と鉢屋が目を丸くした。

「「「・・・・・・・・・」」」

「え。みんな何その顔?もしかして」
「伊作が、連れさらわれてるのか?」
「流石な不運だな」
「・・・あの人いなくなれば、色々楽になるなぁ」

立花が驚き、潮江が哀れみ、鉢屋が何かを呟いた。
俺もさっきまで忘れてたんだけど、足がぬかるみに入って、
いつもなら、ここでこけて、
底なし沼まで転がっていて死にかけるんだよなあいつで思い出した。

「伊作だし、合格だと思うんだけど」

ふっと、笑えば、三人も頷く。

「まぁ、合格するだろうな。でも、バレたらどうなるんだ?」

立花が山賊に聞けば、ああと一回言ってから、答えた。

「姫様は、家族以外の男は嫌いだ」
「・・・ってことは?」
「完全、殺される」

しーんとした空間を打ち破るように俺は、一歩前へ足を出し言った。

「さぁ、急ごうか!!」

みなが、山賊に導かれて、隠し扉へ向かう。
最後に入ろうとした俺の服を誰かが引いた。

見れば、山賊で、彼は、今までの余裕な笑みを消して、
真剣な顔をしてから、
ふっと力を抜かした笑みにもならない歪な顔を見せ


「・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう」

と、言った後、照れくさそうに、
さぁ、急がないとだな。姫さんの友人を助けなくちゃと俺の背中を押した。












2010・12・17