いつも人の顔に見える天井のシミが、何もない綺麗な天井になっていた。
部屋の広さも大きい。
部屋は綺麗な一室で、お高めな宿のようだけれど、
扉が鉄格子で出来ている。足を動かすとじゃらりと、足かせが付けられている。
人の気配を感じたから、もしかして、一緒にいたかもしれないと、
名前を呼んだけれど、その人物を視覚にいれ、僕は言葉をなくした。
「起きたか」
二三秒、沈黙して、一生懸命、最後の記憶を思い出す。
たしか、女装大会で、と一緒にいたはず。
それで・・・・・・・・・・駄目だ。曖昧だ。
僕は、しょうがなく、疑問を、目の前の人物にぶつけた。
「ここどこ?」
「どこと言われれば、まぁ保管室の中だな」
目の前の人物は、よしと言うと何かを記していた手をとめ、僕の方を振り返った。
「厳密には、綺麗な女の保管室。
お前は新参者だから、今から顔見せすることになる。質問は?」
聞き方が、先生ぽくて、つい手をあげて、はいと言ってしまう。
「帰りたいな〜とか通じます?」
「・・・それは私への質問ではない。姫様に聞いてくれ」
「あなたはなんですか?」
「ここにきた女の仕分けのバイトだ。お前は上玉に入るらしい」
「らしいっていうのは?」
「そう言っていた。彼女らに直接触れるのは私だけだ。
女を逃がすとか、女にうつつをぬかすとか、多いらしくて、
私のような人物なら安心だと」
言われた言葉に、ああと納得すれば、目の前の人物は、沈黙した。
ここは納得してはいけなかったと、取り繕い、話を変えた。
「えーと、僕どうなります?」
「ようやくか、お前は、危機管理能力が欠如している。
だが、その質問の答えは今から出る。そろそろ、時間だ。行くぞ」
そう言われて、じゃらと音がなり、
目の前の男か女か分からないダボダボな服を着ている人物は、鍵の束を取り出した。
僕の足かせを外し、重そうな音をたて、扉が開かせる。
背中を向けている人物に、僕は意を決して、
最初から、一番気になっていることを尋ねた。
「最後にいいですか?」
「なんだ?」
目の前の人物は表情が分かりにくい。いや、分からない。
だって。
「なんで仮面つけてるんですか?」
そう、彼か彼女か分からない人物は、顔を、真っ白な仮面で覆っていた。
口元だけがかろうじてみえるが、目と鼻の部分に穴が空き、
無表情な人の顔をしている仮面で、正直不気味だ。
彼か彼女か分からない人物は、僕の質問に、言われ慣れているのだろう。
一文で答えた。
「つけないと不便だからだ」
と。
「はぁ?なにそれ」
鉢屋が、山賊のお頭を睨んだ。
仙蔵はさっきから、鼻血を抑えるのに余念がない。
俺は、ことの最初の首謀者だが、こんなことになるとは思っていなかった。
頭がいたい。
「君は、お子ちゃまだね。こうさせて、こうのほうがいいって!!」
「いや、間違っている。私はこっちのほうが好みだ!!」
さっきから、の服を乱しまくっている彼等に、はされるがままだ。
さすがに、可哀想になってきた俺は、二人を止める。
「そろそろが可哀想だ。やめてやれ」
そういえば、は、綺麗な目をして、微笑んだ。
「大丈夫だ。潮江。考えてみれば、
ふんどし一枚で走っていたこともあったって思い出した」
「おい、これ、無我の境地にまでいってるぞ。本当にやめてやれよ!!」
しかし、二人は白熱しているようで、状況も分かっていなければ、
まったく話も聞いていない。
山賊は、ぴらりと、足のほうの着物を捲った。
「だから、俺は、足ちらのほうがいいんだって」
鉢屋は負け時と、胸元を肌蹴させた。
「胸元はだけたほうが断然いいって」
もう、裸じゃん。と俺は思ったのだが、
帯でかろうじて着物な姿のは大きなくしゃみをした。
「はっくしょん」
そうやく、彼等は今の状況が分かったらしく。
「ああ、大丈夫かい?お姫さん。悪かったな、ほら」
そういって、山賊は羽織っていた着物を、にかけた。
「あ、どうも」
「俺に抱かれている気分が味わえるぜ。どうだ?」
ウインクした山賊を遮るように鉢屋が入り、服をむしりとった。
「はい、これは廃棄処分します」
「あ、ちょっとまって、まじで、寒いんだって」
またわいわい話し始めた彼等に、怒りの鉄槌を下そうとする前に、
「話が進まん!!お前そして、鉢屋、ことの内容はなんなのだ?」
鼻血を出し終えた仙蔵が、復活した。
綺麗な真っ赤な部屋に、扇を一つ振る美しい姫様がいた。
綺麗な赤い着物を着て、髪はまっすぐで、
綺麗な黒髪で、簪が彩り、肌は白く、唇は赤く、
僕は、ぼーっと夢の世界の住人を見ている気がした。
姫様は、僕を下から上まで見ると、にんまりと目を三日月にして、微笑んだ。
美しかった。
しかし、なぜかその笑みはとても薄ら寒いものに思えて、
さっきまでのふわふわした空間がぞっと冷めたものに思えた。
「うむ、美しい。可愛い。合格じゃ」
言われた言葉が分からず、曖昧に頷く。
「はぁ」
「だと、良かったな。じゃぁ、保管庫から、部屋与えますか?」
仮面の人物が姫様に言う。
「その前に鑑賞してからじゃ、脱げ」
「・・・え?」
そういえば、僕、女装していたの忘れてた。
脱げって、男だってバレル。やばい。
「ほら、はよう。肌のつやを見たいのじゃ」
なかなか脱がない僕にしびれが切れたようで、
姫様が、僕の着物に手を伸ばした瞬間に、
はいはいと、横からそれを遮る横から手が伸びた。
見れば、仮面だった。
「お姫様。どうやら、彼女、肌を見せたら、
結婚しなくちゃいけない一族らしいですよ。
どうします?この子と結婚したら、他の子を色々見れなくなりますよ?」
なんだそれ。そんな設定の子っていないと思うよ。
「・・・それは、いかんな。しょうがない。では、去れ。
違う子にしよう。もう一人は」
だけど、姫様は納得した。
仮面の言葉になんか暗示でも入っているのだろうか。
でも、助かったと思う安心と、なんで助けてくれたんだろうという疑問は、
今から起こる出来事で吹っ飛んだ。
僕のほかにいたもう一人の女の子は怯えた顔をしていたが、
それも気に止めずに、姫様は、女の子の顔を掴むと、右左と動かして、
「・・・だめじゃな。顔が左右対称じゃないし、目が離れておる。
肌だって、手入れを怠っておる、これは不合格じゃ。これ、もて」
横にいる女の子に命ずる。
手に持っているのは、火鉢。
女の子は、控えていた女の子に抑えられる。
「ひっ」
「え、ちょっと」
僕の止める声は、仮面の手で、塞がれる。
「お主は不合格、刻印を押さねば」
「ぎゃゃぁぁぁぁあ」
女の子の叫び声と共に、肉が燃える音がした。
額に、バツと火鉢で書かれた。
僕は、目の前で起こったことが分からなくて、
ずるずると気絶した女の子が運ばれていくのを横目で見てることしか出来なかった。
「早く、いくぞ」
そういって、仮面は、僕を無理やり立たせ、部屋から出たせた。
脳みそがくるくる動いて、事実を組み立てていく、
でも、何も分からない。
なんでこんなことになっているのかも、
なんであの子があんなことをされたのかも、姫様も仮面も全部分からない。
「あの子は」
僕が言った言葉に仮面は答えた。
「不合格。そのまんまさ。前みたく、激怒して、殺さなくなっただけマシになった」
「こんなのおかしいよ!!」
「おかしいのはもとより、誘拐されて幽閉されているとこからだ。
でも、あの子よりも、お前のほうが酷いぞ。
合格なんだから、お前は、外に出ることを許されず、
ボロボロになるまで、愛される」
「・・・なんで、こんなこと」
そういえば、仮面は歩みを止めて、振り返った。
仮面の表情は、無表情。
だけど。
「簡単な話だ。ここの姫様は、美しさに溺れてしまった。それだけだ」
僕には憂いを湛えているようにみえた。
2010・12・15