上から降って来たのは、立花だった。
体重が軽いはずなのに、勢い良く天井から出てきたせいだろうか、
凄い量の埃が舞った。
なんで立花が怒っているのかは分からないが、
第六感の感じたまま、すぐさま逃げようとしたのだけれど、
山賊の頭が、力をこめて俺を強く抱きしめるものだから、逃げれない。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
殺してもう一回殺す!!」

凄い台詞と殺気を撒き散らした立花が、
懐から焙烙火矢を取る前に、潮江が腕を掴んだ。

「待て、落ち着け、仙蔵。こんな狭い部屋で、懐のものを出すな。
俺達も巻き込まれる!!おい、鉢屋見てないで、ちょっと、手伝え!!」

潮江のほうが力があるものの、立花の鬼気迫る気迫に押されて、
抑えこむのが難しいようで、鉢屋に援護を頼んだ。
鉢屋もいるのかと、山賊の厚い胸の中にいてみることが出来ない俺は、
声で存在を知った。

「ああ、殺す手伝いですか。どんとこい!!」
「おまえもか!!」

まるで合いの手のようにボケに突っ込んでいる潮江に、
苦労しているなぁと思いながらも、そろそろ苦しくなってきたので、
胸を軽く叩くと、簡単に緩んだ。

「もしかして、お姫様を助けに来たの?愛されてるなぁ。俺の姫さん」
「いやいや、この場で笑えるあんたが怖いってか、俺の?」

この山賊は頭だけあって大物だ。
怪我も負っているし、6年で天才と言われている立花に、
鍛錬バカの潮江に、6年以上の天才と言われている鉢屋。
勝てるわけがない。
本人だって、ちゃんと分かっているだろう。
近くで見れば、わずかばかり頬が引きつってる。
それなのに、どうして俺をかばったりするかな。
はぁとため息が出てくる。
俺は、なんで彼等がこいつを殺そうとしているのか、
なんでこんなに怒っているのかは分からないけれど、
ここで殺されるのは居心地が悪い。
ちょっと待ってくれと、俺が懇願しようとするのと同時に立花が、
山賊から俺を離させ、俺の肩を掴み吠えた。

「俺のだと?何を言ってる、は私のだ!!」
「え?」

立花の言葉に、驚いて立花を見れば顔が真っ赤で、
手を大きくあげて、俺の肩から手を離すと。

「・・・・・・とりあえず、殺す」

立花は、砲弾からクナイに変えて、山賊の首筋に突きつけた。

「照れのためだけに、殺されるなんて、可哀想。
あ、でも俺が、姫さんのために死んだら、
姫さん、俺だけのこと思ってくれるんだろうなぁ」
「・・・俺のせいかどうかはさておき、
目の前で殺されたら、さすがに忘れられないな」
「「っ!!」」

その言葉が聞いたのかどうかは知らないが、
鉢屋も立花も獲物を構えるのをといて、飄々と笑っている山賊を睨んだ。




頭は、さっきの俺と同じように手と足を拘束されている。
立花も鉢屋も潮江も警戒していて、隠された獲物の準備は万端だ。

「で、あんたらは一体なんなの?」

こんなピリピリした空気なのに、頭は余裕のある笑みを見せる。
これが修羅場を生きた経験の差か。
俺はまじまじと頭を見ていれば、
鉢屋がずいっと前に出た。
鉢屋の顔は、いつものような不破の顔だったが、
不破自身でもあまりみたことのない真剣な顔だった。

「その前に重要なことだ」

何を言うのかとゴクリと唾を飲み込めば、
俺が前に出される。

「言っておくが、この人は男だ」

・・・・・・重要?
今、この死ぬか生きるかの空気の中で重要なのが、俺の性別か?
俺が、死んだ魚のような目をしていれば、頭は顔色も変えずに言った。

「へー、で?」
「ちっ、やっぱり両刀か」

と、鉢屋のやっぱりが、どこからの判定なのか知りたいが、
自分の性別を知ったらとる山賊の行動の答えを知った。

「・・・二番か」

「男といたすつもりはさすがになかったけど、姫さんならありだね。
どう、邪魔者がいなくなったら、俺としない?」

いつのまに、縄を取ったのだろうか。
いや、山賊だからそういうのは得意なのかも知れない。
俺の腰には手がそえられ、色気たっぷりな雄の顔をしたイケメンが迫ってくる。

「いやいや、選択外とかいらないし!!」
「その割に顔が赤いねぇ。
なに、誘ってるの?いいよ。みんなが見てる前でも」

なにがいいのか。いや、聞きたくない。
下ネタ系を俺に振らないでほしい。そういうのは得意ではないのだ。
赤い顔のまま、怒鳴っているお頭が、俺を横に動かす。
カッと音がして、見れば壁にクナイが刺さっていた。
投げた本人は、唇から血を流している。
立花が綺麗な顔だけに怖い。

「姫さんに当たったらどうするの?」

と、頭が嫌な笑みを立花に送れば、立花の背中から黒い靄が見えた。
それを、潮江が抑える。

「おい、やっとどうにか収まったのに、ぶり返すな」
「そうそう、近づかないで。私、間違えてクナイ刺しちゃうかもよ?」
「鉢屋。笑顔で怒るな怖い。
それと、、そいつに近寄るなこっちへこい」

と、潮江に引っ張られ、バランスを崩した。
女の着物に慣れていないせいだ。
胸を押しつぶし、歩く範囲も狭まれている。
こんな恰好がよく女は出来るなと思えば、温かい感触。
顔をあげれば、立花の顔が近かった。

「あ、ごめん」

どうやら助けて貰ったようだ。
立花は、俺を見て、なにか言いたそうな顔をしたが、
すぐに離される。なんなんだろう。
そんな俺達をおいて、鉢屋がお頭に詰め寄っていた。

「で、女たちはどこにいってるの?」
「俺が簡単に、話すと思うか?」

鉢屋とお頭は、狸と狐の化かし合い上等な、言葉遊びをしている。
頭がいいって凄いなぁと、は組な俺は感心していたら、
ぬっと後ろから手が伸びて。

「ほれ、どうだ」
「ちょ!ちょっとなにすんだよ潮江」

潮江が、俺の着物の帯より下・衽を横にずらした。
俺の綺麗とも汚いともどちらでもない普通の足が出てきた。
生足だ。
だが、これは綺麗な人、そう性別女がするから効果があるのであって、
正直、これでどうだもないと思う。
普段着の時は生足とか、どうでもいいのだが、
女の服を着て、足を見させるのは抵抗があり、
頬を染めて直せば、お頭が、顎に手を当てて。

「・・・・・・もうちょっと脱いだら、うっかり言うかもよ」
「色欲が強いな」
「あははは、強いってのはそうだけど、特に姫さんは極上だからね」

と、パチンとウインクされた。
普通の奴がやると痛いそれも、大人な色気がある癖に、
お茶目な所もあって素敵だとか、女だけ分かっていればいい気持ちが分かって、
これは、この恰好をしているからだと自分に言い聞かせ吠えた。

「その色気を、俺に向けないで、もっと違うところで有効活用してくれ!!」

その吠えている俺の横で、な、生足と呟きながら、
立花が鼻を抑えているのは気づいていなかった。











2010・11・12